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第28章:コボ遺跡

翌朝、サシャ達の姿はアルパサの西門にあった。

彼らは新たな目的地へ向かう準備を整えている。


朝日が昇り、砂漠をオレンジ色に染め、太陽の光がサシャ達を明るく照らしていた。


「んー、天気がいいね!風も気持ちいいよ!」

アリアは空を見上げ、気持ちよさそうに、体を伸ばした。

その顔には期待の色が浮かんでいる。


「あぁ。出発には良い天気だ。絶好の旅日和だな」

リュウは目を細め、太陽の光を浴びた。

表情にも穏やかさが戻っている。


「まずは、コボ遺跡だね!この地図によると、ここから真っ直ぐ西だ」

サシャは指で地図をなぞり、道順を確認した。


昨夜、サシャ達は宿屋の食堂で、夕食を囲みながら行先について話し合っていた。

勝利者の矛が見つかる可能性のある二つの遺跡についてだ。


『距離的にはコボ遺跡の方が近そうだけど、既に冒険者が出入りしているとなると、魔具が先に発見される可能性もあるってことだよね』

サシャは箸を置き、真剣な表情で言った。


『あぁ。だが、未開の遺跡の情報が俺達にしか伝わってないと仮定したら、優先順位は後でもいいんじゃないか?』

リュウは腕組みをし、考え込んだ。


『んー…僕はどっちでもいいかな!珍しい生き物が見れればそれで満足だよ!!』

アリアは食事に夢中で、あまり気にしていない様子だった。

どうやら、アリアの関心は別のところにあるようだ。


『ワシもコボ遺跡に一票じゃ。未開の場所は穴場。そうそう見つからんじゃろうし、後でよかろう。まずは確実性の高い方じゃ』

精神世界からトルティヤがサシャに語りかける。

トルティヤもコボ遺跡行きを推奨する。


『よし!それじゃあ明日はコボ遺跡に行こう!決定だ!』

こうしてコボ遺跡行きが決まったのだ。

全員の意見が一致した。


「それにしても、アフォガードさんがトルティヤを追っていたとはビックリだったな。まさか因縁があるとは」

リュウは前を見据え、昨夜の出来事を思い返しながらゆっくりと歩いていた。

アフォガードとトルティヤの関係性に驚いている。


「そうそう!2億ゴールドの懸賞金がかかってたんだから!すごいよね!」

アリアが思い出したように呟く。

金額の大きさに改めて驚いている。


「え?2億ゴールドの懸賞金…どういうこと?なんでトルティヤにそんな懸賞金が?」

サシャは事情が飲み込めず、首を傾げ、リュウとアリアを見た。

自分が封印されている間に何があったのか、理解できていない。


「昔の話じゃ…気にするでない」

それを聞いたトルティヤは言葉を濁すように呟く。

過去のことに触れられたくないようだ。


サシャ達はそんな会話をしながら、果てしない砂漠を進む。

遥か遠くまで砂が広がっている。


一面は砂の世界。代わり映えしない景色が続く単調な風景だ。

太陽が照りつけ、砂がキラキラと輝いていた。

それは、蜃気楼が見えそうなほどだ。


「にしても砂漠ばかりだね、この国は…もう少し緑が欲しいな」

サシャは額の汗を拭い、周囲を見渡した。

この国の大部分が砂漠であることに改めて気づく。


「だが、砂漠とは…こういうものだろう…」

リュウはため息をつきながらも我慢する。

だが、内心は単調な景色に飽き飽きしているようだ。


「そんなことないよ!あれを見て!面白いものがあるよ!」

アリアは目を輝かせ、サボテンを指差した。

何か珍しいものを見つけたようだ。


そこには、50cmほどの赤いサソリがサボテンの根元に身を潜めていた。

サソリはハサミを器用に用いて、サボテンの茎を食べているようだった。


「へぇ。大きいサソリだね!こんなサソリ、初めて見たな」

サシャは目を凝らし、サソリを観察した。


「確かに大きいな。何か珍しい種なのか?」

リュウはアリアの顔を見つめ尋ねた。


「これは「アカナビキサソリ」っていうんだ!この甲羅、とても綺麗でしょ!」

アカナビキサソリの甲羅は、まるで真紅のルビーのように太陽の光を反射し、キラキラと輝いていた。

それは、見る者を惹きつける美しさだ。


「本当だ。宝石みたいだ。こんな色のサソリがいるんだね」

サシャは目を丸くし、感嘆の声を上げた。


「そうなんだよ!それに、その甲羅は服飾品の素材としても高額で取引されてるんだよ!」

そう言うとアリアは、そっとサソリに近づき、素早い動きで後ろからアカナビキソサリを捕まえる。


「ごめんね。ちょっと、その甲羅もらうよ!痛くないようにするから!」

そう言うとアリアは太ももから小型のナイフを取り出し、手慣れた様子で甲羅を剥ぎ取っていく。


「これでよしっと!はい、完了!」

そして、甲羅を剥ぎ取り終わるとアカナビキサソリをそっとサボテンに戻す。


「甲羅を剥がされても生きてるんだな。生命力が強いな」

リュウはアカナビキサソリの生命力に驚く。

普通の生物なら死んでしまうだろう。


「うん!しばらく経てば、また甲羅が生えてくるからね!大丈夫なんだよ!」

アリアは笑顔を見せ甲羅をポーチへしまった。


「…ワシは丸焼きにして食べてたがのぉ。中々美味じゃったぞ」

精神世界のトルティヤが、サシャの意識に語りかける。


「え?食べられるんだ…」

サシャは顔をしかめ、精神世界のトルティヤを見た。


サシャ達はそんなやり取りを終え、コボ遺跡を目指して、再び西へ向けて歩みを進める。

やがて、アルパサから歩き続けて1時間くらいが経過した頃。


砂漠は徐々に荒野へと変わっていき、岩肌が露わになり、ところどころに廃墟となった民家が点在し、荒涼とした風景が広がる。

カラカラに乾燥していた天気は、少しジメっとした暑さになっていた。


「この辺のはずだけどな…。地図と地形を照らし合わせると…」

サシャは地図と周囲の景色を見比べた。

目的地が近いことを確認している。


「ま、遺跡なんて、簡単に人目につくような場所にあるわけが…ん?」

リュウが腕組みをしながら歩いていると、前方の風景に違和感を覚える。

岸壁に囲まれた場所に、明らかに人工物と思われる神殿のような建物が見えた。


「…あれか?あれが遺跡か?」

リュウは言葉を止め、建物を見つめた。

予想外の場所に遺跡があることに驚いている。


「まさか?ここがコボ遺跡?こんな道に近い場所に…?」

サシャは目を丸くし、建物を見上げた。

地図で見た位置情報と、実際の風景に戸惑いを感じている。


「まさか…こんなあっさりと見つかるとはな…。拍子抜けだ」

リュウは信じられないといった表情で、建物を見た。

予想よりも簡単に見つかったことに驚いている。


「まぁまぁ、ラッキーじゃん!簡単に見つかってよかったよ!」

アリアは両手を叩き、喜んだ。


「(こんな人目につく遺跡なのに話題にならないとは…。アフォガードが言っていたように、何かがあるはずじゃ…)」

トルティヤは疑問に感じていた。この遺跡がなぜ知られていないのか、その理由を考えている。


ババグ遺跡群のように、有名になった遺跡は基本的にはその国の調査隊や冒険者達がこぞって捜索に訪れる。

そして、情報交換などを通じて、世間に広まる。というのが普通だ。


だが、コボ遺跡はトルティヤが知る限り一切の話題を聞かなかった。

まるで、その存在すら知られていないかのようだ。


トルティヤは首を傾げ、考え込んだ。

しかし、その理由が分からない。


「((アフォガード)が嘘をつくとは思えないしの。とすると、この遺跡には恐らく何かある。知られてはいけない何か、あるいは知ることができない何か…)」

トルティヤは過去の経験からこの遺跡に何かがある、つまりアフォガードの情報が正しいと確信していた。


「とにかく入ってみようよ。外から見てても始まらないし!」

アリアが探検に期待しながら言う。

こうして、サシャ達はゴボ遺跡に足を踏み入れた。


遺跡の内部は通路状になっており、ところどころが崩れて砂に埋もれていた。

その様子から、長い年月が経過していることが伺える。

また、柱が崩れているところがあり、ところどころに壁画らしきものが描かれていた。


「おぉ…まさに古代の遺跡って感じだね。すごいな」

サシャは壁や天井を見上げ、古代の技術に感心した。


「絵がたくさん!見て見て!」

アリアは壁画に近づき、絵をじっと見つめた。

壁画に描かれた絵に興味津々だ。


「おそらくは古代文明の産物じゃな。高度な文明があったようじゃ」

精神世界からトルティヤがその様子を眺める。

壁画の内容を分析しているようだ。


「古代文明か…一体どんな世界だったんだろうな。想像もつかないな」

サシャは壁画から目を離し、遠くを見つめた。


「俺達には想像がつかない世界だな。ただ、以前に行ったガイエンの遺跡のように巨大な貯水湖を建造するだけの文明はあったんだろう」

リュウは腕組みをし、過去の経験と知識から考え込んだ。


「ふむ…魔具も古代文明が栄えていた時に誕生したと仮説を唱える学者もおったからのぉ。魔具の起源は古代文明にあるのかもしれんな」

トルティヤは過去の文献を思い出し、魔具と古代文明の関係性を示唆する。


そして、サシャ達は更に遺跡の奥深くへと進む。

遺跡は奥に進むにつれて、通路は薄暗くなり、砂埃が宙に舞っていた。

空気は重く、湿っぽいく、辺りは神秘的な雰囲気が増す。


「そろそろ何か出てきてもおかしくないな。皆、気をつけて行こう!何があるか分からない」

サシャがリュウとアリアに警戒を促す。


「うん!」


「あぁ…」

リュウとアリアもそれに頷き、気を引き締める。


サシャ達は慎重にボロボロになった遺跡内を進む。

入口辺りと違って遺跡の奥は石畳の道から草木が伸び、朽ちて倒れた石柱には苔が生えていた。


「この道で合ってるはずだけど…」

サシャ達が進んでいると、前方から鈍い足音が聞こえる。


「!!…なにかいる!!足音だ!」

サシャが小さな声で呟く。すぐに双剣を抜く。

そして、音のする方向へ慎重に歩みを進める。


そして、広々とした広場のような空間に出た。


「何かいると思うけど…姿が見えないな…」

サシャ達が広場の入口で様子を見ていると、奥から巨大な熊のようなモンスターがふらふらと現れた。


熊のようなモンスターは、まだら模様が入った青い体毛を揺らし、唸り声を上げ、サシャ達に近づいてきた。


「モンスターだ!」

サシャが双剣を抜き構える。


「厄介そうだ…普通の熊ではないな」

リュウは刀の柄に手をかけ、戦闘態勢に入る。


「あ!ちょっと待って!何か様子が変だよ!」

アリアはモンスターの様子を観察し呟く。

どうやらモンスターの状態に違和感を覚えたようだった。


「グガァァ…」

すると、熊のようなモンスターは悲鳴を上げ、大きな音を立てて地面に倒れ伏した。


「…なんだったんだ?急に倒れたぞ」

サシャは双剣を鞘に納め、モンスターに近づき、様子を見る。


「これを見ろ!傷がある!」

リュウがモンスターの背中に気がつき、しゃがみ込んで観察する。


背中には大きな傷口があった。

それは、新しくも綺麗な刀傷だった。


「この斬り方…相当な腕前の剣士の仕業だ。ただの冒険者ではないな…」

リュウは傷口をじっと見つめ呟く。


「ということは先客がいるってことかな?それも、かなりの実力者が…」

サシャはリュウの顔を見つめ尋ねる。


「可能性は高いな。このモンスターを一撃で倒すほどの実力者だ。とにかく警戒して先に進むしかないな」

リュウが立ち上がった。

警戒を強め、先へ進むことを決断する。


「うん!気をつけながら先に進もう。何が待ち構えているか分からないけど…」

サシャ達は広場を抜け、更に遺跡の奥へと進んでいった。


「うわ…なんだこれ…ひどいな」

奥へと進むと、先程と同じモンスターの死骸が無数に転がっていた。


死骸は、通路を埋め尽くすように、折り重なっており、サシャはそれに思わず足を止め、目の前の光景に息を呑んだ。


中には、バラバラに切り刻まれたものや、黒く焼け焦げているものがあり、壁には戦闘でついたと思われる斬り傷や血痕が見える。

そして、床にはモンスターの血液と砂埃が混ざり合ったものか、黒ずんだシミが広がっていた。

痕跡が激しい戦闘の様子を語っていた。


「ひどい臭いだ…血と焦げの臭いが混ざってる。一体誰がこんなことを…」

リュウは顔をしかめ、周囲を見渡した。

空気は、血と焦げの臭いが混ざり合い、鼻をつくほどだった。


「このモンスターは確か「アオマダラグマ」っていうんだ。性格は獰猛だし、並の冒険者じゃ歯が立たないってオババ様から聞いたことがあるよ。危険なモンスターのはず…なんだけど」

アリアは死骸を観察し、モンスターの特徴を説明した。


「それほどのモンスターを、これだけの数倒すってことは、相当な実力者なんだね…一体誰が…」

サシャはモンスターの死骸を見つめ、呟いた。

驚きと同時に警戒心を強める。


「ま、ワシレベルになるとあんな熊如き、一撃じゃがのぉ」

精神世界のトルティヤが自慢気に呟く。


「とにかく、先に進もう…」

サシャは警戒しながら、通路を進んだ。


そして、しばらく遺跡内を歩くと、あるものを見つける。

それは、通路の壁に仕掛けられた罠だった。


「これは…罠か?作動したようだな?」

リュウは壁に手を伸ばし、罠の構造を確認した。

壁からは無数の槍が飛び出しているが、刃は全て床に落ち、柄だけが壁から突き出ている状態だった。


床には、槍の刃が散乱し、砂に埋もれていた。

槍の断面は、鋭利な刃物で切られたように、滑らかだった。


「罠を破壊したってことか。これも先客の仕業だな」

サシャは壁に近づき、罠の跡を観察した。

どうやら、先客は罠を破壊して進んでいるようだった。


「罠をも破壊して行くとは…一体どんな奴なのじゃ。並の力ではないな」

トルティヤもこの状況に驚きを隠せずにいた。

その時、アリアが何かを見つける。


「ねぇねぇ!何か飛んでる!鳥…かな?」

アリアが指を指す方向を見つめる。

すると、天井を巨大な鳥が、翼を大きく広げ、奥の通路へと飛び去って行くのが見えた。


「鳥?こんな遺跡の奥に鳥がいるのか?」

サシャは目を凝らし、鳥の姿を追った。

その様子を不思議に思う。


「なんの鳥だろう?見たことないよぉ」

アリアは鳥が飛んでいった方向を見つめ、考え込んだ。

鳥の種類が気になるようだ。


「とりあえず、鳥が飛んだ方向に行ってみようか!何かヒントがあるかもしれない!」

サシャ達は鳥が飛んだ方向へと進む。


長い通路を抜けていくと、そこは大きな石造り橋と、両端に巨大な建造物の残骸が残るエリアだった。

それは、古代都市の残骸にも思えるものだった。


橋は、ひび割れ、ところどころ崩れかけ、危険な状態だ。

建造物の残骸は、朽ち果て、苔が生えていた。

天井は崩落しており、陽の光が地面まで届き、薄暗い遺跡に光が差し込む。


その風景は光と影のコントラストが美しく、どこか幻想的にも感じられた。

そんな突如現れた光景に、サシャ達は息を呑んだ。


「うわ…すごいや…こんな場所があるんなんて。本当に遺跡なのか?」

サシャは目を丸くし、感嘆の声を上げた。

予想以上の光景に驚いている。


「…(もしかしてあいつ(イゾウ)が?いや、こんなところに来るはずが。だが、あの斬り傷…似ている…まさか…)」

リュウは先程のモンスターの切り傷のことを考えていた。

もしかしたら、仇のイゾウがつけたものなのかもしれないとも思っていたのだ。


「わぁ!綺麗な蝶々だ!遺跡の中に蝶々がいる!」

アリアは遺跡の神秘に心惹かれていた。

そして、飛んでいる蝶を追いかけ、手を伸ばそうとした。

その時…


「ビュン!!」

鋭い風を切る音を立てて何かが飛んできた。


「危ない!!避けろ!」

サシャは双剣で、リュウは刀で、咄嗟に飛んできたものを弾き飛ばした。


「なになに!?何が飛んできたの!?」

突然のことにアリアが焦りの表情を見せる。

何が起きたのか分からず戸惑っている。


「敵だ!警戒しろ!」

リュウは刀を構え、周囲を警戒した。

それが、何者かの襲撃だと判断する。


そして、リュウは足元に落ちている、先ほど弾き飛ばした物を見つめる。

それは、金属で作られた十文字型の暗器だった。

暗器は、太陽光を反射し、キラリと光った。


「こいつは…シュリケン?魏膳の武器か?」

リュウが刀を構えながら呟く。

その形から暗器の名前を推測する。


「シュリケンってなに?リュウ知ってるの?」

サシャがリュウに尋ねる。見たことのない武器に興味を持つ。


「魏膳に伝わる暗器の一つだ。使い手は限られる。魏膳の忍びか…?」

リュウはそうだけ言うと周囲を見渡す。


すると、古びた建物の物陰から声が響く。


「今のを見抜くとは…やりおるな」

そう呟くと、建物の物陰から三人組の人影が姿を現す。


「ノドンが何が見つけたかと思っだら、蟻が忍び込んでいたべさ。けど、こいつら弱そうだべ。俺だづの相手じゃねぇな」

赤い髪をし、赤いローブを羽織った男が呟く。


「…邪魔者は排除してもよいと命令は受けている。こいつらを始末するぞ。手加減は不要だ」

黒い長髪がトレードマークの、黒色の服装をした男が言う。

その背中には漆黒の鞘に収められた大太刀が見えた。


「えー、めんどくさい!!私は見学してるから二人で頑張って。どうせすぐに終わるでしょ」

黄色のドレスを着た、義手の女が腕を組み、退屈そうに言った。

どうやら、戦う気がないようだ。


「あの太刀…恐らく奴らの仕業だ。モンスターの傷は…」

リュウは先程のモンスターの傷や罠の破壊のされ方からして、奴らの仕業だと判断した。

そして、彼らがこの遺跡を荒らした犯人だと確信する。


「となると…俺達も邪魔者になるってことだよね」

サシャは覚悟を決め、双剣を構えた。


「よく分からないけど、僕に攻撃した分は仕返しさせてもらうね!」

アリアは怒りの表情を浮かべ、弓を構えた。


「すまないが、貴殿らにはここで消えてもらう…!任務の邪魔をされるわけにはいかない」

大太刀の男は軽やかな身のこなしで、地面に着地する。


そして、大太刀を鞘から抜く。

その刀身は、鏡のように光を反射している。


「サシャ!アリア!下がれ!危ない!」

リュウは二人を庇うように、前に出た。


「ふんっ!!」

男の大太刀は、風を切る音を立てて振り下ろされた。


「ガキンッ!!」

金属と金属がぶつかる音が響き、火花が散る。

リュウは刀を構え、男の太刀を受け止めた。

衝撃が腕に伝わり、腕が痺れるような感覚を覚える。


「じゃ、おでも戦うぞ!!」

続いて赤いローブを羽織った魔導師は軽やかに建物の縁に立ち、サシャ達を見下ろした。


「…そんな場所にいたら良い的だよ!!」

アリアが建物の淵に立っている魔導師をめがけて矢を放つ。


矢は魔導師を捉えたかのようにまっすぐ飛ぶ。

しかし、魔導師は余裕そうな口調で、魔法を唱えた。


「復元魔法-ノドンの翼-!」

すると、魔導師の前に魔法陣が展開され、そこから一羽の巨大な鳥が現れる。

鳥は、翼を広げ、アリアの矢を迎え撃った。


「あ!さっきの!!やっぱりあれはモンスターじゃなかったんだ!」

その鳥は先程、天井を飛んでいた巨大な鳥だったことにアリアは気が付く。


「ギェェェ!!」

鳥は矢が当たると、悲鳴を上げ、光の粒子となって消えていった。


「よっと。あぶねぇあぶねぇ」

魔導師は軽やかに地面に着地し、サシャ達に向き直った。


「お前らの相手は、おでがやるんだぞ!」

こうして、魔導師とサシャ、アリアが向かい合う。


「…復元魔法。絶滅した生物を使役する魔法か。これまた珍しい魔法を使ってくるのぉ」

精神世界のトルティヤが魔法の種類を特定する。


「珍しい魔法なの?」

サシャは警戒しながら、トルティヤに問いかけた。


「うむ。絶滅した生物を一時的に使役する魔法じゃ。呼び出す生物の危険度が高いほど魔力を消費するのじゃ。ワシが知っている限り使い手は、この大陸に数人程度じゃ」

トルティヤが魔法の特性をサシャに説明する。

その希少性と危険性について説明する。


「…復元魔法-ヴァルカンザウルス-!おでの一番のお気に入りだべ!」

魔導師が魔法を唱える。

すると、魔導師の前に巨大な魔法陣が展開され、そこから一頭の巨大な恐竜が魔法陣から召喚される。


恐竜は赤と黒の体色をしており、頭部には無数の牙が剣山のように生えていた。

それは鋭く光り、獲物を求めているようにも見える。

そして、恐竜の目は赤く光り、サシャ達を睨みつけた。


「大きい…こんな生物見たことない。本物の恐竜!?」

アリアが恐竜を見上げ、その大きさに圧巻される。


「おでの十八番だべ。面倒だし…さっさと終わらすだよ!」

魔導師が恐竜に命令すると、地面を蹴り上げ、サシャ達に向かって突進した。


「うわっ!」

サシャとアリアは横に飛び、恐竜の攻撃をかわした。


「ズゴォォン!」

恐竜の巨大な体躯で橋の一部が砕け、砂埃が舞い上がった。

見るからに凄まじい破壊力だった。


「あんなの食らったらひとたまりもない…一撃でやられる…」

サシャは恐竜の大きさに、冷や汗をかき、その脅威を感じている。


「(あんな恐竜如き、ワシの氷魔法で一発じゃが…まだ魔力が回復しとらん。あの傭兵との戦いで使いすぎたか…。やはり、肉体を無理矢理に憑依させた代償は大きすぎたかの)」

トルティヤは先日の戦いで消費した魔力が完全に回復しきっていなかったのだ。


「いや、待てよ!魔法で召喚されたものならば…!何か弱点があるはずだ!」

サシャは恐竜を見つめ、何かを思いついたような表情をする。


「何をしたって無駄だべ。おでのヴァルカンザウルスは最強だべ!」

魔導師が強気に呟く。

それは、サシャの考えを見透かしているかのようだった。


「これならどう?」

アリアが恐竜の首筋に向けて矢をニ本放つ。

矢は、風を切る音を立てて飛んでいく。


「ドシュ!」

矢は恐竜の皮膚を貫通し、首筋に深く突き刺さった。


「ギャォォォン!」

恐竜は首を振り、痛みを堪えた。叫び声を上げる。


「ナイス!アリア!」

サシャはそのスキを見逃さず、素早い動きで、恐竜に近づいた。


「魔法解除!!」

そして、両手を突き出して、恐竜の足に手を当てた。


「ギャァァァオン!」

恐竜は悲鳴を上げ、光の粒子となって消えていった。

サシャの魔法が効き、巨大な体躯が光となって消える。


「ほう…なんどまぁ珍しい魔法だべ」

魔導師は驚きの声を上げ、サシャを見つめた。


「これで、お前の打つ手はなくなった!さぁ、どうする?」

そう言うとサシャは双剣を構え、赤いローブの魔導師に向けて走り出す。

チャンスだと判断する。


「んだけどもなぁ。そうは問屋が卸さねぇだべ」

魔導師の声が一段と低くなる。

そして、再び魔法を唱える。


「影魔法-影の軍勢-」

すると地面の影から、無数の影が蠢き、武器を持った兵士達がわらわらと現れる。

黒い影でできた兵士達は武器を構えている。


「何!?複数魔法使用者(マルチマジカリスト)じゃと!?」

精神世界のトルティヤが驚きの表情を見せる。

この世界で複数の属性魔法を使う魔法使いは珍しい存在なのだ。


「くっ…数の暴力か!」

サシャは影の軍勢の前で足を止める。


「おめぇの魔法は確かに強いべ。んだだども、数の暴力には敵わねぇべ。おでの影の軍勢で押しつぶしてやるだよ」

魔導師はサシャを見下ろし、嘲笑した。

影の軍勢に絶対の自信を持っているようだった。


「はっ!はっ!」

一方で大太刀の男とリュウは斬り合いをしていた。

二人の刀がぶつかり合い、激しい火花が散っていた。


「その動き…さてはお前、荒覇吐流(あらはばぎりゅう)だな?見覚えがある」

大太刀の男は巨大な太刀を操りながらリュウに問いかけた。

リュウの剣術を見て流派を判断する。


「それがどうした?知っているのか?」

リュウは男の太刀を受け止め、反撃した。


「…ふっ。荒覇吐流(あらはばぎりゅう)の剣術は…ぬるい!!!」

すると男の太刀筋に突然、凄まじい力が入ると、圧倒的な剛力でリュウの刀を押し込んだ。


「ぐっ!」

リュウは歯を食いしばり、刀を支えた。


「俺の剣術の方が優れている…お前は未熟だ」

男が再び大太刀を振るい、リュウの体を狙った。


「黙れ!!俺の剣術を舐めるな!」

リュウが挑発に乗り、怒り満ちた表情をしながら大太刀の男に斬りかかる。


「そんな感情任せの技が…俺に通用するわけないだろう」

大太刀の男は冷静な表情で、いとも容易くリュウの剣を受け流した。


刃と刃が重なり合い、金属音が響く。

男の動きには、一切の無駄がなく洗練されていた。


「(しまっ…)」

リュウは男の捌きによりバランスを崩してしまう。

それでも、体勢を立て直そうとした。


「当たると思うな!終わりだ!」

そして、大太刀は、鋭い風を切る音を立てて振り下ろされた。

男の太刀筋はリュウの腹部を確実に狙っていた。


「ちっ…!」

リュウは懐から咄嗟に六角手裏剣を取り出す。

それを男の手の甲に投げる。


「む…小癪な…!」

六角手裏剣が男の手に深々と刺さり、男の太刀筋が無意識にずれる。

それにより僅かに太刀の軌道が変わる。


「ぐっ!!」

だが、完璧には避けきれず、リュウは鋭い一撃を受ける。

腹部に激しい痛みが走る。


リュウは腹部を抑え、苦痛に顔を歪める。

命には届いていないが、深い傷だ。

リュウの腹部からは、赤い血が流れ出ていた。


「(六角手裏剣を投げなければ危なかった。ハギスの武器屋で買っておいて正解だった…)」

リュウは傷口を抑え、痛みを堪えた。


「…その傷、深かろう。案ずるな。次の一撃で楽にしてやる」

そう言うと男は再び大太刀を構えた。

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