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第27章:報酬

アリアが街の門に着く。

すると、そこに二人の人影があった。

見慣れた人物たちだ。


「リュウ!それと…アフォガードさん!?」

アリアはキョトンとした顔を見せる。

予想外の光景に、アリアは目を丸くした。


「よう。ザッカーは無事に確保してくれたようだな」

アフォガードがアリアの後ろにいるザッカーを見つめる。

ザッカーは鎖にぐるぐる巻きにされ、鎖でできた荷台に積まれていた。


「うん!彼で間違いないですか?」

アリアはザッカーに確認を取る。


アフォガードはザッカーの顔を覗き込み、目を合わせた。

ザッカーの顔は恐怖に歪んでいた。


「間違いない。よくやってくれた。流石だな」

アフォガードはニヤリと笑う。


「げ!アフォガード!…お前の差し金だったのか…」

ザッカーの顔から一気に血の気が引く。

アフォガードの姿を見て、自身の運命を悟ったようだ。


「ようやく見つけたぞ。お前のせいで泣いている連中がごまんといる。胸糞悪い野郎だ!!…後日、憲兵隊に突き出すから、覚悟しておけ…」

アフォガードはザッカーに厳しい言葉を浴びせる。


「いや…憲兵隊だけは勘弁…!金ならいくらでも出す!」

ザッカーは首を横に振る。

必死に抵抗し、憲兵隊に引き渡されることを強く恐れている。


「ダメだ。お前の罪はそれだけでは償えない。闇魔法-魔人の揺り籠-」

アフォガードが魔法を唱えると、ザッカーの周りを赤黒い金属の檻が覆った。


「えっ!?ちょっ!なにこれ!助け…!」

ザッカーが叫び声を上げる間もなく、檻ごとそのまま亜空間へ引きずり込まれていった。

そして、空間が閉じた。


「これでよしと…二人ともご苦労だった。素晴らしい働きぶりだった」

アフォガードは落ち着いた口調で呟く。


「アリア…よくやってくれた。無事でよかった」

リュウはアリアの無事と活躍を心から喜んでいるようだった。


「えへへ…なんてことないよ。リュウも無事でよかった!」

それに対してアリアは少し照れた表情をする。


「てか、なんだそのモンスターは?」

リュウが興味深そうにノヴァアビスを見つめる。


「あぁ、これはね…ノヴァアビスっていうんだ。レンタルしたんだよ。ザッカーに追いつくために」

アリアがノヴァアビスについて詳細に話す。


「なるほど…そういう騎乗生物がいるんだな」

リュウが納得した顔をし、ノヴァアビスの存在理由を理解した。


「そうなんだ。すっかり仲良しだよ!すごく速いんだよ!」

アリアはノヴァアビスの首筋を撫でる。

ノヴァアビスはアリアに懐いているようだった。


「にしても、あの魔法陣は?街の方の空に浮かんでるやつだ」

リュウは空を見上げ、巨大な魔法陣を指差した。


「あの魔力…間違いない。トルティヤのものだ。しかも、以前会ったときよりも更に増大してやがる。相変わらずスケールの大きい魔法を使いやがる…一体何をやってるんだ…」

アフォガードは腕組みをし、顎に手を当てて考え込んだ。

トルティヤの力の増大に驚きを感じているようだった。


「トルティヤ…サシャ…無事なのか…?」

リュウの目は、遠くを見つめるように、宙を彷徨っていた。

トルティヤとサシャの安否を案じている。


「ま、トルティヤなら大丈夫だろう。あいつはしぶとい。それより、こっちが心配だ」

アフォガードはリュウの腕に視線を向ける。

彼の火傷を見て心配する。


「俺は大丈夫…かすり傷です。それよりも、サシャの下へ…ぐっ…」

リュウは先程の戦闘によるダメージがまだ残っていたためか、眉をひそめ、苦しそうな表情を見せた。


「無理したらダメだよ!!」

アリアはリュウに駆け寄ると心配そうな表情を見せる。


「なに、これくらいかすり傷だ。大したことはない」

リュウが痛みに堪え、強がる。


「しかし、とんでもない魔法だ。あんな広範囲に影響を及ぼすなんてな。俺はあんな化物を相手にしてたのか…とんでもない女と戦ったものだ」

アフォガードは過去を思い出すかのように呟く。

トルティヤの力の片鱗を改めて感じている。


その時、魔法陣が浮いている方向から、爆発音と瓦礫が崩れる音、建物の一部が崩壊する様子が見えた。

爆発の衝撃で、地面が振動し、砂埃が舞い上がった。

遠くで人々が騒然としているのがわかる。


「おーおー、やっぱえげつないな」

アフォガードは葉巻を取り出し、咥えた。

事態の大きさに感心しているようだ。


「あの…アフォガードさん。トルティヤと昔に何かあったんですか?」

アリアはアフォガードの顔を見上げ、質問した。

トルティヤについて詳しく知っている理由が気になる。


「あぁ。話せば長くなる。移動しながら話そう。トルティヤたちのところへ行くぞ」

アフォガードは葉巻に火をつけ、歩き出した。

三人は崩壊した建物のある方向へ向かう。


街中の人々は大騒ぎしていた。

広場や通りで人々が右往左往している。

人々は空を見上げたり、崩壊した建物を見たり、互いに話し合ったりしていた。


「なんなんだ一体!空の魔法陣はなんだ!?」


「誰がこんなことを…!?」

まさかあの場所で大魔法合戦が行われているだなんて誰も想像がつかないだろう。

人々は不安そうな顔で、声を荒げていた。


「昔、俺はバリバリの賞金稼ぎ(バウンティハンター)だった。それは前にトルティヤが話したと思う」

アフォガードは葉巻を吸い込み、煙を吐き出した。

葉巻の煙が風に流れる。


「トルティヤにも莫大な懸賞金がかかっててな。いくらだと思う?」

アフォガードは葉巻を指に挟み、クイズ形式で二人に尋ねた。


「お尋ね者の相場が大体10万ゴールドから100万ゴールド…俺が見た中では最高額が500万ゴールド。…そして、トルティヤほどの懸賞金なら高く見積もって、2000万ゴールドくらいですかね?」

リュウは腕組みをし、自身の経験から予想する。


「んー…もう少し高いんじゃない?桁が違うとか!?4000万ゴールドとか!!」

アリアは人差し指を立て、自信満々に答えた。

リュウの予想を上回る金額を提示する。


「二人とも不正解だ。正解は2億ゴールドだ」

アフォガードが答える。

その金額は二人の想像を遥かに超えていた。


「に、2億!!!!?」

その途方もない金額にリュウとアリアが同時に声を上げる。

そして、リュウとアリアは顔を見合わせ、驚愕した。

信じられないといった表情をしている。


「あぁ。それだけ昔、トルティヤが大暴れしてたってことだ。人々の常識を超えた存在だった。なんでも国一つを相手に喧嘩をしたり、戦闘で黎英の半分を凍土にしたり、他の冒険者に茶々を入れたり…とにかく魔具を巡るために手段を選ばない、規格外のヤバイ奴だったんだ」

アフォガードは過去を思い返すかのように話す。


「それでな。俺は2億ゴールドにつられて、トルティヤに何度も戦いを挑んだ。2億ゴールドだぜ?一生遊んで暮らせる金額なんだから、賞金稼ぎとして心が踊るよな。それに、俺はエルフ族の中でも武術も魔法にも自信があったからな。負けるはずがないと思ってた。だが、結果は惨敗。挑んではボコボコにされて、何度か殺されかけた。文字通りの化け物だった」

アフォガードは苦笑いしながら自身の敗北経験を語る。

トルティヤの圧倒的な実力を改めて認めているようだった。


「ま、そうこうしているうちに腐れ縁的なものになってな。倒せねぇなら利用するしかねぇってな。俺が賞金稼ぎ(バウンティハンター)を引退して情報屋になったあとは、魔具についての情報をよく提供していた。トルティヤが欲しがるような情報だ。俺の依頼や金銭と引き換えにな。互いに利害が一致してたんだ」

アフォガードは懐かしむように呟く。

トルティヤとの奇妙な関係性が伺える。


「なるほど。そんなことが…それで、トルティヤのことをよく知っているんですね」

リュウが話に納得したかのように頷く。

アフォガードとトルティヤの関係性を理解した。


「へぇ!トルティヤとそんなことが!2億ゴールドかぁ…すごいなぁ…」

アリアは目を丸くし、アフォガードを見上げた。

トルティヤの過去と、アフォガードの話に興味津々だ。


「さて、昔話はこの辺にしてだ…もうすぐ着きそうだ。問題の場所にな」

三人は件の建物の近くにいた。

ドミノホテルの横にある崩壊した建物だ。


「こりゃひどいな…上の部分がボロボロだ」


「巻き込まれた人はいないのか?大丈夫か!?」


「巻き込まれた方の確認中ですので、今しばらくお待ちください!」

建物の壁は崩れ落ち、瓦礫が散乱していた。

現場には憲兵隊もおり、状況の把握と安全確保に追われている。


一方、トルティヤとマリは崩落した建物の屋上にいた。

屋上は半分ほどが崩落しており、今にも崩れそうだった。


「そうじゃな。終わりじゃ」

トルティヤは砂鉄の剣を持ち、茨に捕らわれているマリにゆっくりと近づく。


「(ったく、最後にこんな強い奴と戦えたんだ。悔いは…いや、全然あるな。そういや…アイアンホースから酒代を返してもらってなかったな…)」

マリの頭に走馬灯が過る。

数多の任務での戦いや、仲間との飲み比べ。

そして、アイアンホースにお金を貸したこと。色々なことが頭をよぎった。


「…」

そして、トルティヤの剣は、死神の鎌のように、マリに向かって振り下ろされた。


「…!」

マリは覚悟を決め目をつぶり、死を受け入れようとした。


しかし…


「ドサッ」

マリは砂埃を上げ、地面に倒れ込んだ。

剣が振り下ろされたにも関わらず、痛みはない。


「え?」

状況に戸惑うマリ。何が起きたのか理解できない。

マリは目を開け、周囲を見渡した。


すると、すぐ横にマリを拘束していた茨の蔦が落ちていた。

そして、茨の蔦は、まるで枯れた木の枝のように、ボロボロになっていた。


「…」

そのすぐ近くでトルティヤはマリを見下ろしていた。


トルティヤが斬ったのはマリではなく、マリを捕らえている茨の蔦だったのだ。


「なんだよ…アタイに情けをかけたというのか?殺さないとは…」

マリはトルティヤを鋭く睨みつける。

情けをかけられたことに憤りを感じる。


「情けではない…哀れみじゃ。そして、ワシの気まぐれじゃ」

トルティヤの視線は絶対零度のように冷たいものだった。

まったく感情が読み取れない。


「確かに人生は裏か表かの連続かもしれん。じゃが、その結果に全て身を委ねる生き方…ワシは気に入らんのぉ」

トルティヤが低い声で呟き、マリの価値観を否定する。


「…」

マリはジッと黙り込み、トルティヤの言葉を理解しようと、頭を巡らせていた。


「だから、お主の「裏」を「表」に無理矢理変えてやろうと思っての。生かすことにした…それに…」

トルティヤが何かを言いかけるが、言葉を続ける寸前で止まる。


「いや…もうよかろう。言う必要はない」

しかし、トルティヤは視線を外し、何かを諦めたようにつぶやいた。


「なんだよそれ。締りが悪いじゃないかよ。最後まで言いなよ…」

それに対してマリは肩をすくめ、冗談めかして言った。

トルティヤの態度を面白がっているようだった。


「やかましいわい。やはり斬るぞ?」

トルティヤが殺気を放ち、再び砂鉄の剣を向ける。


「冗談だって…!ま、形はどうあれ、アタイはお前に生かされたんだ。敗者に選択の余地はない。ここは大人しく退くよ」

マリはポンチョをはたき、砂埃を払うと、潔く敗北を認める。


「ならば行け。ワシの気が変わらぬうちにな」

トルティヤの声は、まるで氷のように冷たかった。


「あぁ、言われなくてもそうするさ」

そう言うと、マリはフックショットを使いドミノホテルの方へ戻る。


「あぁ、そうだ。最後に一つだけ。何かあればうち(フラッカーズ)を頼ってくれよ。安くしとくからさ…」

マリはトルティヤにそう呟くと、部屋の奥へと消えていった。

トルティヤは動かず、その様子を見届ける。


「(これでいいのじゃな。サシャ…)」

そんなことを考えていると、すぐ近くで強大な魔力を感知する。


「あいつがここにいるとはのぉ…」

トルティヤは驚きに目を見開く。


「じゃあ、行くとするか…」

そして、漆黒の翼を広げ、空へと舞い上がった。


「お。暴れん坊のご帰還だ」

その頃、地上にいる、アフォガードが空を眺める。


すると、空から黒い翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ一つの影があった。

それはトルティヤだった。


「トルティヤ!!サシャ!」

リュウがその姿に気がつくと、目を凝らし、空を見上げた。

探し求めていた二人の姿を見つける。


「あれ?なんかいつもと様子が違うよ?」

アリアはいつもと姿が違うトルティヤに首をかしげる。


そして、トルティヤは三人の前に静かに地面に着地する。

漆黒の翼が風を切る音が響く。


「トルティヤ、その姿何!?かっこいい!どうなってるの!?」

アリアは目をキラキラと輝かせ、トルティヤを見上げた。


「見ればわかるじゃろ。これがワシの本来の姿じゃ。堕天使の姿じゃ」

トルティヤは翼をたたみ、アリアを見下ろした。


「これが本来の姿…ってことは、じゃあサシャの肉体を乗っ取ったってことか!?」

リュウは眉をひそめ、トルティヤを睨みつけた。

サシャの身を案じている。


「安心せい。一時的な封印をかけて小僧の肉体に、本来のワシの肉体を憑依させておるだけじゃ。乗っ取ったわけではない」

トルティヤは腕組みをし、サシャの安全を保証している旨を説明した。


「それはそうと…アフォガードよ。お主、なぜここにおる?パナンにいるはずでは?」

トルティヤがアフォガードに視線を向ける。


「おい…あれ」


「なにかしら?天使の羽?」


「けど、空から飛んできたような…人間じゃないのか?」

しかし、周囲にいた人々がトルティヤに気が付き騒ぎ始める。人だかりができる。


人々はトルティヤの姿に驚き、ざわめき始めた。

幸いにも堕天使族のことを誰も知らないが、その異様な姿に人目が一気に集まる。

人々はトルティヤを指差し、ひそひそと話していた。


「おい!貴様!このビルの倒壊となにか関係があるな!怪しい奴だ!話を聞かせてもらおう!」

憲兵隊が遠くから数人こちらに向かってくるのが見えた。事態を把握しようと近づいてくる。


「ここでは人が多すぎる。俺がひいきにしている宿がある。そこでゆっくり話そう」

アフォガードは周囲を見渡し、提案した。


こうして、サシャ達は群衆をかき分けて街の南側へ向かう。

人々はトルティヤたちを避け、道を空けた。

皆、恐れを感じているようだ。


「なにかしらあの羽根…不気味ね」


「不気味だな…まるで死神みてぇだ…悪魔か?」

行き交う人々は、トルティヤの容姿や崩壊した建物について話していた。


「うむ…さすがに目立ちすぎたの…」

トルティヤは小さくした翼を背中に隠し呟く。


「その翼って小さくできるんだ!面白いね!どうなってるの!?」

アリアはトルティヤの背中を覗き込む。


「今はそんなこと気にしてる場合じゃないわい!早く人目のないところへ行くぞ!」

トルティヤはアリアを軽く睨み呟く。


「まったく…凸凹チームだな。面白い組み合わせだ」

それをアフォガードがにこやかな表情で見つめる。


そうこう話しているうちに南の路地裏にある、小さな宿屋に到着する。

宿屋は、街の喧騒から離れ、静かに佇んでいた。隠れ家のような雰囲気だ。


「ここだな。俺のいきつけだ」

錆びた看板には「ゴロゴロ亭」と書かれていた。

その文字は風雨にさらされ、文字がかすれていた。


「とりあえず入ろう。外にいると目立つ」

四人は宿屋に入る。

ノヴァアビスは宿の前に止めた。


宿屋の扉を開けると、木の香りが漂ってきた。中は温かい雰囲気だ。

中では冒険者が数人と賞金稼ぎ(バウンティーハンター)らしき男がたむろしていた。


「それで!俺が財宝を見つけてさ!」

冒険者たちは、酒を飲みながら、旅の話をしていた。


「今回のターゲットはこいつだな…」

賞金稼ぎ(バウンティーハンター)らしき男は、手配書を広げ、何かを話していた。


どうやら建物の崩壊やトルティヤの容姿については話題になっておらず、宿屋の中は、穏やかな雰囲気に包まれていた。

外部の騒動はここには届いていないようだ。


「よし。全員揃ったし話そう…今回の依頼についてだ。その前に」

アフォガードはトルティヤを何か言いたげにジッと見つめる。


「お前が肉体を借りている少年も同席してもらう」

アフォガードの声は、宿内に静かに響いた。


「…分かっておる。少し待て」

そう言うとトルティヤは目を閉じ、精神を集中させた。サシャの意識を呼び戻そうとする。


「天を言祝ぎて地を讃えよ。廻り廻りてその魂を…呼び戻せ」

トルティヤが呪文を唱えると、トルティヤの体から、光が溢れ出した。

柔らかな光が体を包む。


「…!」

三人は息を呑み見つめる。トルティヤの体から放たれる光を凝視する。

すると、トルティヤの姿がサシャのものへと変わる。


「ん…ここはどこ?」

サシャはゆっくりと目を開け呟く。

まだ意識は朦朧としており、ここがドミノホテルの最上階ではないことに戸惑っている。


「サシャ!!よかった…無事だったか!」

リュウが安堵の表情を見せる。


「サシャ!戻ってきたんだね!心配したんだよ!」

アリアはサシャの顔を覗き込み、笑顔を見せた。


「…みんな!リュウ…アリア…!」

サシャは目を擦り、三人を見た。

懸命に状況を把握しようとする。


「あれ?アフォガードさん?なんでここに?パナンにいるはずじゃ…」

サシャはアフォガードがいることに気づき、首を傾げた。

封印されていたため、状況が全く理解できていない。


「まぁ、それも含めてこれから話す。トルティヤ?まだその少年の中にいるんだろ?」

アフォガードはサシャの頭を指差し、精神世界にいるトルティヤに尋ねる。


「聞いておるわい。いちいち聞かんでよい」

アフォガードの問に対してトルティヤは不機嫌そうな口調で返す。


「ったく…まぁ、まずはザッカーの捕縛。協力感謝する。君たちの働きのおかげだ」

アフォガードはサシャたちに向かって、軽く頭を下げた。


「で、まず俺がここに来た理由だが、単純にサービスだ。わざわざ砂漠を渡ってパナンまで戻るのも時間がかかるだろう?だから、俺が直々に赴いたってわけだ。おかけでザッカーも早く確保できた」

アフォガードが来た理由について説明する。


「なるほど…お主ほどの男が優しくなったのぉ。昔からは考えられんな」

トルティヤの声は、皮肉っぽく響いた。


「ふん。言ってろ。別に優しくなったわけじゃない」

アフォガードは肩をすくめ、苦笑いをし、トルティヤの皮肉を受け流す。


「そして、約束通り、魔具についての情報だが…」

アフォガードは周囲を見渡し、声を潜めた。


「ここから西にある「コボ遺跡」、もしくは南の森にある遺跡にあると耳に入ってる。コボ遺跡は、何人かの冒険者が入った形跡があるが、何故か奥に踏み入れていないらしい。何かに阻まれているようだ。で、後者は前人未到の遺跡だ。俺の部下が最近遺跡を見つけたものの、強大な結界が張られているとのことだ。簡単には入れそうにない。俺の長年の経験から言うと、この二ヶ所のどちらかに勝利者の矛(ウィナーズスピア)が眠っている可能性が高い」

アフォガードは真剣な表情で、情報を伝える。

その目は、真実を語るように、力強かった。


「コボ遺跡と謎の遺跡か…どちらに勝利者の矛が…」

サシャは目を閉じ、情報を整理した。


「どっちを探索するかは好きにするといい。君たちに任せる。ま、せいぜい頑張れよ。骨の折れる仕事になるだろうがな」

そう言うとアフォガードは席から立ち上がる。


「え?もう行っちゃうんですか?せっかく会えたのに」

サシャはアフォガードの背中を見つめ、言った。


「他にやることがあるんでな。それに約束は果たした。ザッカーも確保できたし、ここにいる理由がないからな。ま、用があればいつでも俺のアジトに来るといい。ミルクくらいは出してやろう」

そう言うとアフォガードは手を振り、宿屋の出口へと向かった。


「(まったく…ドライなところは変わらんのぉ。昔からそうだ)」

トルティヤはアフォガードの背中を見送り、つぶやいた。


「行っちゃったよ…本当に掴みどころがない人だ」

リュウが宿の出口の方を見て呟く。

アフォガードの突然の登場と退場に戸惑っている。


「…とりあえず、今日はこの宿で休もう。疲れたし、お腹も空いた」

サシャは二人に顔を向け言った。


「賛成!お腹空いたなぁ!美味しいもの食べたい!」

アリアは両手を上げ、お腹をさすった。


「そうだな。まずは腹ごしらえだな」

リュウは頷くとテーブルに置いてあったメニューを手に取る。


「じゃあ、今回こそ鶏そばを…」

サシャたちはメニューを眺める。


「あ!その前に、僕はノヴァアビスを返してくるね!レンタルしてたから…」

アリアは思い出したかのように呟くと宿を出た。

ノヴァアビスのレンタル時間を気にしていた。


「うん!分かった!」

アリアの様子をサシャは見つめて頷く。


こうして、サシャ達はザッカーの確保に成功し、勝利者の矛(ウィナーズスピア)の情報を手に入れたのだった。


一方、サージャス公国 ガク城 公爵の間


「お呼びですか?公爵殿」

灰色の戦闘服と黒いマントを羽織った男が、赤い椅子に座った白い鎧を着た男の前に跪く。


「サージャス共和国のコボ遺跡で勝利者の矛(ウィナーズスピア)を見つけたという情報が耳に入った。真偽のほどは定かではないがな…」

公爵と呼ばれた、白い鎧を着た男が呟く。


「それはそれは…公爵殿が探していた魔具の一つではないですか。貴重な情報ですね」

黒いマントの男は淡々と呟く。

その感情は読み取れない。


「うむ…そこで、お前たちに任務を命ずる」

公爵と呼ばれた男が厳かな雰囲気で口を開く。


「なんなりと…公爵殿の命じるままに」

黒いマントの男は呟く。

その瞳からは絶対的な忠誠心を感じさせる。


「コボ遺跡に急行し、勝利者の矛(ウィナーズスピア)の有無を調査し、あった場合はそれの確保をせよ」

公爵は高らかに命令する。

どうやら、彼の目的は魔具の回収のようだった。


「はい…お任せください。必ずや成し遂げてみせます」

黒いマントの男は頭を下げ、任務を受諾する。


「では、早急に準備に取り掛かれ」

公爵はそう呟くと奥の部屋へと去って行った。


そして、黒いマントの男は部屋を出た。

石造りの廊下には足音だけが響く。


勝利者の矛(ウィナーズスピア)か…」

そう呟くと、とある部屋の一室の扉に手をかける。

そこには彼の部下たちがいた。


「あ!リーダー!おかえり!」

部屋の中から、両腕を義手にした少女が明るい声で呟く。


部屋の中では6人の男女が思い思いに過ごしていた。


「新たな任務だ…急ぎの内容だ。全員、すぐに集まれ」

男が呟くと、部屋にいた者らが男の方を振り向く。

その顔は影になって見えなかったが、一人一人が一騎当千の猛者である雰囲気を漂わせていた。


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