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第26章:意地vs意地

トルティヤとマリとの激しい戦いが終わる少し前。

時は数十分前ほど遡る。


舞台はアルパサの裏路地にある広間の屋上。

屋上は、強い風が吹き抜け、埃が舞い上がっていた。


「こっちだって前金もらってるんだ!簡単に退けない!あんたを依頼主には近づけさせない!」

ポージャが手にした武器を構えながら呟く。

彼の目には強い意志が宿っていたが、若干の焦りがその表情には見え隠れしていた。


「ふっ…それを言うなら俺も同じだ。あいつ(ザッカー)には懸賞金がかかっている。その身柄が必要でな。邪魔するなら容赦しない」

リュウは刀を構える。低い姿勢を取り、ポージャの動きを伺う。


「それを退治するのが俺の仕事なんだよ!ザッカーさんのことは気に食わないが、任務は達成させてもらう!液体魔法-じゅえきのおおかみ-!」

ポージャは武器から漆黒の弾丸を放つ。

それは狼の形となってリュウを襲う。


漆黒の液体でできた狼は、生きているかのように、うなり声をあげ、四肢を動かし、牙を剥き出し獲物を追い詰める。


「しゅっ!」

リュウは冷静に狼を回避する。

狼が明後日の方向へ突進していくと、屋上の壁にぶつかり、コンクリートを砕く。


「甘いよ!俺の魔法は追尾するんだ!」

しかし、狼はクルッと回ると、一度リュウを通り過ぎたにも関わらず、再びリュウの方をめがけて突進していく。


狼の目は、獲物を捉えた獣のように、ギラギラと光っていた。


「(追尾性か!)」

リュウは、追尾性かと判断が一瞬遅れる。

体が反応する前に狼が迫る。

狼は、獲物に食らいつくように、リュウに迫る。


「ガブッ!!」

狼の牙がリュウの左腕に突き刺さる。

狼の牙はリュウの肌を貫いた。

直後、腕に熱い痛みが広がる。


「くっ!離せ!」

リュウは刀で狼の頭を貫く。

狼は悲鳴のような音を立て、漆色の液体となり散った。


「ふふん。どうよ。この一撃は辛いでしょ?」

ポージャは不敵な笑みを浮かべる。


「…ぬかせ。こんなもの蚊に刺されたようなものだ」

強がりな言葉とは裏腹に、リュウの左手からは血が流れている。


「その我慢…いつまでもつかな?液体魔法-あしっどぶれいく-!」

ポージャが右手に緑色の液体を纏う。

液体は、ところどころ不気味な光を放っていた。


「くらえっ!!」

そう言うとリュウの懐に飛び込もうとする。


「(何か分からんが、喰らったらマズイのは確かだな)」

何か分からんが喰らったらマズイのは確かだと、リュウは後ろに回避する。


「それくらいじゃダメだね!俺から逃げられると思うな!」

しかし、ポージャが急加速する。地面を蹴る音が響く。

ポージャの体は、まるで矢のように、一直線にリュウに向かって飛んでいく。


「ポジションはとったよ!」

ポージャがニヤリと笑う。

そして、リュウの懐に飛び込むと、緑色の液体を纏った右手を振り下ろす。


「なに!?」

リュウは咄嗟に顔を覆うように腕を交差させる。

直後、腕を刺すような痛みが襲う。


「ぐぅぅぅ!!」

リュウはそのまま吹き飛ばされ、屋上の端まで吹き飛ばされる。


「ぐっ…」

落下の前に受け身を取り、どうにか立ち上がる。

しかし、両腕を鋭い痛みが襲う。


「くっ…強酸か…」

リュウの両腕は袖が溶けて、赤く焼けただれていた。


「その腕の火傷、辛いでしょ?どうする?大人しく降参する?」

ポージャは優位に立ったことを確信し、リュウに尋ねる。


「ふんっ…これくらいの傷。あいつ(イゾウ)から受けた傷に比べれば…」

そう言うとリュウは痛みに耐え、刀を構えようとするが、両腕が震える。


「そうはいかないよ!!」

ポージャは素早い早撃ちでリュウの刀を弾き飛ばす。


「しまった!」

リュウの刀は弾き飛ばされ、屋上から落ちていく。


「さ、どうする?」

ポージャはリュウに視線を向ける。


「(くっ…追い詰められた。とはいえ蒼血を使うのはリスクがある)」

追い詰められた状況だが、蒼血を使うのはリスクがある。


蒼血は、リュウの身体能力を大幅に向上させるが、同時にリュウの精神を蝕む可能性を孕む、危険な力だった。


その時、リュウの頭に一つのきらめきが生まれる。


「(もしかしてアレなら!)」

もしかしてアレならと、リュウはかすかな可能性に賭けることを決意する。

すると、リュウはそっと目をつぶり精神を集中させる。


「痩せ我慢はもういいから…これでおしまい!」

ポージャが武器を構えると、水の弾丸がリュウを襲う。


水の弾丸は、無数にリュウに向かって飛んでいく。


「(できるか分からないが…やるしかない!)」

できるか分からないがやるしかないと、リュウは目を開き静かに魔法を唱える。

すると、リュウの周囲に水色の魔力が集まる。


「…水魔法-蒼神ノ御太刀(ソウジンノオンタチ)-!」

リュウの右手から、水でできた巨大な太刀が出現する。

刀身は青く輝き、大荒れの海の如く水が波立っていた。


「それがどうした!もう何をしても無駄だよ!」

水の弾丸はリュウの近くにまで迫っていた。

ポージャは勝利を確信していた。


「はっ!!!!」

リュウは痛みにこらえて水でできた太刀を振るう。

両腕の火傷が激しく痛むが、それに構わず剣を振る。


太刀は、落雷のように、鋭い横なぎを放つ。

次の瞬間、巨大な水の斬撃が水の弾丸を切り裂いた。

それは飛沫となり、キラキラと輝きながら地面に落ちた。


「(まさか…そんな…!)」

まさかそんなとポージャは驚愕する。

ポージャは咄嗟に攻撃に備えようとする。


「これで…終いだ!」

その前に水の太刀をもったリュウが、目にも止まらぬ速度でポージャの近くに移動する。


「(はやいっ!?)」

早いとポージャは驚愕する。

制空圏に入られた彼には打つ手がなかった。


「|荒覇吐流奥義・波濤ノあらはばぎりゅうおうぎ・はとうのつるぎ

次の瞬間、水の太刀から放たれた鋭い袈裟斬りがポージャを斬り裂く。


「ぐぁぁぁっ!!」

ポージャはその衝撃に吹き飛ばされる。

そして、壁に叩きつけられる。


「ハァ…ハァ…くっ」

技を放ち終えたリュウは膝から崩れ落ちる。

左手に持った水の太刀は飛沫となり消えた。


「…」

壁に叩きつけられたポージャは動かない。


リュウはゆっくりとポージャに近づく。そして、様子をうかがう。


「よかった…気を失っているだけだな」

リュウはホッと息をなでおろす。

その顔には安堵の表情が浮かんでいた。


「さて、アリアを追うか…」

さてアリアを追うかとリュウは思ったが、腕の痛みが想像以上だった


「ぐっ…!休めってことか…」

休めってことかとリュウはため息をつくと、壁に寄りかかりその場に座り込んだ。


すると、リュウのところに一人の人影が現れる。

その人影は、ゆっくりとリュウに近づいてくる。


「あなたは…なぜここに?」

その姿を見て、リュウは不思議そうな顔をする。

予想外の人物の登場に驚きを隠せない。


一方アリアは…

「待ってよー!!」

アリアは街中でザッカーを追っていた。


「しつこいガキだ!」

ザッカーがひたすらに街を走る。


「(人通りが多すぎて、ここじゃ弓矢は使えない…なんとか開けたところに逃げてくれればいいんだけど)」

人通りが多い場所では無関係の人に矢が当たる可能性をアリアは考えた。

街中はアリアの武器を使うのに向いていなかった。

そのため、ひたすらに追いかける以外、他なかった。


「おっ!あれは!」

ザッカーが指を指した方向には、酒場に繋がれている馬が一頭いた。

馬たちは、いななきながら、落ち着きなく蹄を鳴らしていた。


「悪いがちょっと借りるぞ」

ザッカーはその馬に跨る。


「あーー!!馬泥棒!」

人々がその様子を見て騒ぎ立てる。


「ちょっと!!それはずるいよ!!」

アリアは頬を膨らませる。


「じゃあな!小娘!お前ごときじゃ俺は止められないぜ!」

そう言うとザッカーは街の門に向けて馬を走らせた。


「こんなところで…」

こんなところでどうしようと、アリアは周囲を見渡す。


すると、緑色の毛並みをした生物が数匹、縄につながれていた。

そこの旗には「ノヴァアビス貸し出しサービス」と書かれていた。


「あれだ!」

アリアはそこへ駆け寄る。


ノヴァアビス。

頭部と毛並みは鶏で足と体の部分は馬という小型の騎乗生物。

走る速度は馬より速く、砂漠では有用な移動手段としても認知されている。

一方で羽が完全に退化しているため、空を飛ぶことができない。


「おじさん!ノヴァアビスを一頭貸して!!」

アリアがノヴァアビスの毛並みを整えている男に話しかける。


「あいよ!1時間2000ゴールドだよ!」

男は愛想のよい笑顔でアリアに話しかける。


「はい!銀貨1枚!これで2時間でいいよね?お釣りはいらないよ!」

アリアは急かすように男に銀貨を1枚渡すと、颯爽とノヴァアビスに乗り込む。


「キュィィイ!」

ノヴァアビスは、アリアの体重を感じると、嬉しそうにいなないた。

そして、アリアはノヴァアビスの手綱を握るとザッカーの後を追う。


「あ…あぁ…まいど…」

男は走り去るアリアを見て茫然としていた。


「よーし!いけ!!!」

アリアが手綱を握るとノヴァアビスは一気に門まで駆ける。


「(やっぱり速い!!)」

やっぱり速いと、アリアの髪が風で大きくなびくほど、ノヴァアビスは速かった。


風が、アリアの頬を撫でる。

そして、ノヴァアビスは砂漠を駆ける。


砂煙を巻き上げながら、ノヴァアビスは一直線に駆けていく。


砂漠を少し駆けると前方に馬を走らせるザッカーがいた。

ザッカーは、砂漠の向こうに小さく見えていた。


「(あ!見えた!)」

見えたと、アリアは速度をさらにあげる。

ヴァアビスの速度がさらに増す。


「…へへへ。ここまで来れば安心だろう。逃げ切ったも同然だな!」

ザッカーは不気味な笑みを見せる。


だが、その後ろをノヴァアビスに乗ったアリアがものすごいスピードで追いついていた。


「見つけた…」

見つけた、もう逃がさないと、アリアの目は、獲物を捉えた狩人のように、ザッカーを捉えていた。


「おい!嘘だろう!?」

ザッカーが振り向き、アリアの登場に狼狽する。


「…」

アリアは弓を構える。弓には矢がセットされていた。

アリアは息を整え、その手は微かにだが震えていた。


「ヒュン!」

矢はまっすぐザッカーに向けて飛んでいく。


「ザシュ!!」

矢は、ザッカーの右腕に突き刺さる。


「ぐぁっ…」

ザッカーはその痛さに手綱を離して落馬する。


「ぐっ…いてて…」

砂がクッションとなりザッカーを優しく受け止める。


「さてと!追い詰めたよ!」

そう言うとアリアはザッカーの目の前でノヴァアビスを降りる。


「ひいいっ…」

それを見たザッカーの顔が青ざめる。


「悪いんだけど、あなたのせいで多くの人が迷惑してるって聞いたからさ。大人しく捕まってほしいんだ!」

アリアはニコニコとしながらザッカーを見つめる。


「金ならある!見逃してくれ!」

そう言うとザッカーはアタッシューケースの中を見せる。


中には金貨がぎっしりと詰まっていた。

金貨は、太陽の光を反射するように、キラキラと輝いていた。


「ざっと50万ゴールドだ!悪くない話だろ?な!?」

ザッカーはヘラヘラと笑いながら、アリアに話しかける。


「本当にくれるの?」

本当にくれるのと、アリアは金貨を見つめて呟く。


「あ、あぁ。俺を見逃してくれたならばな」

ザッカーはニコニコしながら呟く。


「オッケー!その話、乗った!!」

アリアはザッカーにゆっくりと近づく。


「ありがたい…」

ザッカーは安堵をしていた。

しかし、目の色は死んではいないようだった。


「って、んな訳あるか!火魔法-火龙(ホーロン)-!!」

すると、ザッカーの目の前から魔法陣が現れて火の龍がアリアめがけて突進してくる。


火の龍は、まるで生きているかのように、アリアに向かって咆哮を上げる。


「なんて…そんな話、乗るわけないよ!」

アリアはザッカーの攻撃を予知していたかのように素早く魔法を唱える。


「鎖魔法-チェーンウォール-!」

地面から太い鎖が何本も現れ、

火の龍の攻撃を弾く。


鎖は火の龍の炎を遮断する。

火の龍は、鎖に阻まれ、咆哮を上げながら消えていった。


「なにぃ!?」

ザッカーは動揺する。


「からの…鎖魔法-チェーンバインド-!」

鎖がザッカーの方へ伸びていく。

鎖は蔦のようにザッカーに絡みつく。


「うわぁぁぁぁ!!!」

ザッカーは為す術がなく、そのまま鎖にきつく拘束される。


「ぐっ!離せ!!」

ザッカーはじたばたするが鎖が外れる様子は全くない。


「ふぅ…終わった…」

終わったとアリアは胸をなでおろす。

その顔には安堵の表情が浮かんでいた。

そして、ふと空を見上げる。


「うわぁ…なんだろう?あれ」

街の方に浮かぶ巨大な魔法陣を見て、アリアは思わず呟いた。

魔法陣は、赤黒く不気味な光を放ちながら、ゆっくりと回転していた。

その異様な光景に、アリアは思わず息を呑んだ。


「とりあえず、こいつ(ザッカー)を…運ばないと!」

とりあえずこいつを運ばないとと、アリアは口笛でノヴァアビスを呼び出す。


ノヴァアビスは、アリアの呼びかけに応え、駆け寄ってきた。


「よいっしょ…っと」

そして、ノヴァアビスに跨ると、後方についていたフックに鎖を結びつける。

ザッカーをぐるぐる巻にした鎖は、台車のように車輪が付いていた。


「頼む!見逃してくれ!なんでもする!」

ザッカーの目は必死だった。


「ダメー!!じゃあ、少し揺れるけど我慢してね!」

そう言うとアリアはノヴァアビスの手綱を握る。


ノヴァアビスは砂漠を駆ける。

砂煙を巻き上げながら、ノヴァアビスは一直線に駆けていく。


街までの距離は長くはないが、

荷台で横になっているザッカーにとっては地獄だった。

ザッカーの体は、砂埃で汚れ、あちこちが痛んだ。


「げほげほ…砂が…目にも喉にも入って」

げほげほ砂が目にも喉にも入ってと、ザッカーは、砂埃にむせながら、苦しそうに呟いた。


「もう少しだから我慢してね!!」

アリアはザッカーに呟く。


そうして、アリアは街の門に着く。

ノヴァアビスは、街の門の前で止まりいななく。


「ふぅ…着いたのはいいけど、どこに行けばいいかな?」

ふぅ着いたのはいいけどどこに行けばいいかなと、アリアはキョロキョロしている。


すると、二人の人影がアリアの間前に現れる。

そして、二人の人影は、アリアの目の前に立ち止まった。


「あ!!」

あっと、アリアの顔には、驚きと喜びが入り混じった表情が浮かんでいた。

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