第24章:閃光の傭兵
ドミノホテルの最上階、1010号室。
サシャ達とザッカー、そして護衛たちの間に緊張が走る中、女の護衛が動いた。
「閃光魔法-旋回円刃-!」
次の瞬間、女の手から、眩いばかりの光でできた無数のチャクラムが放たれた。
光の刃が、甲高い金属音を立てながら、サシャ達を襲い来る。
チャクラムは、鋭い光を放ち、サシャたちを狙い、複雑な弧を描きながら高速で飛んでくる。
「くっ…!数が多い!避けきれないか!?」
リュウは、その数に圧倒され、思わず声を上げる。
それは、無限に続く光の壁が、あらゆる方向から迫ってくるかのようだった。
「うわぁぁ!来るー!」
アリアは、迫りくる光のチャクラムに、恐怖に顔を歪める。
「風魔法-風雲月露-!」
その時、トルティヤが、冷静に魔法を唱えた。
すると、サシャ達の前に巨大な風のバリアが張り巡らされ、高速で飛来した光のチャクラムを弾き飛ばした。
「た、助かった…トルティヤ、ありがとう…!」
アリアは、間一髪で助かり、安堵の息を漏らす。
その体は、糸が切れた人形のように、力が抜けかけていた。
「へぇ。今のを防ぐとは…中々やるじゃんね。大した魔法使いだ」
女は、自身の魔法が防がれたことにも動じず、不敵な笑みを浮かべる。
そして、部下の護衛たちに指示を出す。
「おい、こいつを外へ避難させろ」
少年を含めた護衛たちは、女の言葉に素早く反応する。
「姉御!任せてください!必ず安全な場所へお連れします!」
ポンチョを着た少年が、女に力強く答える。
「任せるじゃんね。アタイはこいつらと少し遊ぶからさ」
女がそう呟くと、鋭い視線をトルティヤに向ける。
「行くよ!こっちだ!早く来い!」
少年と他の護衛たちが、慌てるザッカーを囲い、部屋を出ていく。
ザッカーは太った体を揺らし、悲鳴に近い声を上げている。
「ザッカーを逃がすわけにはいかん!無限魔法…!」
トルティヤがザッカーに魔法を使おうとするが、再び女の魔法の前に阻止される。
「閃光魔法-無法者の弾丸!-」
女の人差し指から放たれた光の弾丸が、トルティヤの詠唱を妨害する。
「ちっ…小癪な…!」
トルティヤは悔しそうに舌打ちをした。
ザッカーを取り逃がしたことへの苛立ちが滲む。
「やっぱりこの人…強い…!」
精神世界から様子を見ているサシャが、目の前の光景に思わず息をのむ。
「お前らの相手はアタイだ。たっぷりと楽しもうじゃんね」
女は、余裕の表情を浮かべる。その顔は心が踊っているようにも見えた。
「(この女…やりおる。閃光魔法だからか、詠唱が早い。しかも、練度もかなり高い…)」
トルティヤは、冷静に状況を分析し、女の魔法の特性と実力を見抜いている。
「小僧!小娘!良いか!あいつらを追うのじゃ!!こいつはワシがなんとかする!お前たちは気にせず追え!」
トルティヤは、リュウとアリアに命令する。
その声には、一切の迷いがない。
「けど、トルティヤ一人で大丈夫なの!?」
アリアは、トルティヤ一人を残すことに、心配そうな顔を浮かべる。
「ワシの心配はせんで良い!それよりもザッカーを逃したら、この広大なアルパサの街でどこへ逃げるか分からんからのぉ」
トルティヤは、強い口調でアリアに告げる。
その命令には、逆らうことのできない重みがある。
「分かった。アリア。トルティヤならきっと大丈夫だ。俺たちはザッカーを追おう」
リュウは、アリアに冷静に話しかけた。
トルティヤの言葉を信じ、行動を起こすことを促す。
「分かった…!けど、トルティヤ、気をつけてね!」
アリアがそう言うと、リュウと共にザッカー達を追いかけ、部屋を出ていった。
その顔には、まだ不安の色が残っている。
「待ちな!そう簡単には行かせないよ!閃光魔法-無法者の荒縄-!」
女の手から、縄のようにねじれたロープ状の光が、高速で飛んでくる。
それは、逃げるリュウとアリアを確実に狙う。
獲物を捕らえるかのように、光の縄は二人に迫った。
「風魔法-風雲月露-!」
トルティヤが再び風のバリアを張り、リュウとアリアを守る。
バリアは、光の縄が到達するよりも早く展開され、光の縄を防ぎ、それを霧散させた。
「ありがとう!!」
リュウとアリアは、トルティヤが時間を稼いでくれた隙に、ザッカー達を追いかけ、部屋を出ていった。
「ちっ…まぁ仕方ない。ザッカーは他の護衛に任せるか。だが、これで邪魔者は消えたじゃんね」
女はニヤリと笑う。
興味は完全にトルティヤに向いているようだった。
「ワシ相手に随分と余裕そうじゃの。その笑みがいつまで保つか見ものじゃわい」
トルティヤは、余裕綽々といった様子で、女に鋭い視線を送る。
「その言葉…そっくりそのまま返すじゃんね!」
そう言うと、女は再び右手を構える。
その指先に、金色の魔力が集まり始める。
「閃光魔法-黄金の暴れ牛-!」
すると、マリの右手から金色の雄牛が現れ、猛烈な勢いでトルティヤに向けて突進してくる。
雄牛は、まるで生きた金塊が暴れ回るかのようだ。
「無限魔法-海竜の慟哭-」
トルティヤは、迫りくる黄金の暴れ牛に対し、冷静に魔法を唱えた。
右手から、巨大な青い海竜が姿を現し、雄牛に向かって飛んでいく。
海竜は、黄金の雄牛を頭から丸ごと飲み込むと、そのまま勢いを保ったまま、女めがけて飛んでいく。
「へぇ…面白い魔法を使うじゃんね」
女は、迫りくる海竜に対し、感心したような声を漏らす。
そして、しなやかに身を翻すと、紙一重で海竜による攻撃を避けた。
「ガシャァァン!!」
女を避けた海竜は、部屋のガラス窓に激突した。
巨大なガラスが、衝撃と共に粉々に砕け散る。
海竜はそのまま、砕け散った窓枠を抜けて空へと飛んでいった。
「あんた。ただの魔法使いじゃないな。複数魔法使用者なのかい?」
女は、トルティヤの見せた魔法に興味を持ち、落ち着いた口調でトルティヤに尋ねる。
「ちょっと違うが…まぁ、そんな感じじゃな。だがワシの魔法は、お前たちが知っているものとは少し違うわい」
トルティヤは、余裕のある態度で答える。
「へぇ…ま、あんな魔法見たことがなくてね。アンタ…本当に何者なんだい?名乗ったらどうだい?」
女がトルティヤをなめるように見渡す。
彼女の目は、トルティヤの正体を見抜こうとしている。
そして、彼女は突然、懐から投げナイフを数本取り出した。
「はっ!!」
女は、手にした投げナイフを数本、一気にトルティヤに向けて投げる。
その軌道は正確にトルティヤに向けて投げられていた。
「不意打ちのつもりか?そんな曲芸、ワシには掠りもせぬわ」
しかし、トルティヤは涼しい顔をして投げナイフを避ける。
投げナイフは、トルティヤを避けて、床や壁に深々と突き刺さる。
木製の壁に、金属が突き刺さる乾いた音が響く。
「それを待っていた!閃光魔法-探針の光縛-!」
女が魔法を唱えると、床や壁に刺さった投げナイフ柄の部分から、無数の光の針が、意思を持っているかのように飛んでくる。
「っ!」
トルティヤは咄嗟に回避する。
無数の光の針は、トルティヤの周囲を埋め尽くす。
しかし、そのうちの一本がトルティヤの右足に当たってしまう。
「ちっ…小癪な真似を…!」
トルティヤは、舌打ちをしながら、右足に刺さった光の針を抜こうとするが、魔法の効果か、抜けずにいた。
「なんだよ。口ほどにもないじゃんね」
そう言うとマリは再び左の人差し指と親指を構える。
「これで終了じゃんね…閃光魔法-無法者の強弾丸-!」
女が魔法を唱えると、先程よりも眩い光が指に集約する。
その光は、太陽の光を凝縮したかのように、強烈な輝きを放っていた。
「…!!」
「トルティヤ!危ない!!」
精神世界からサシャが懸命に叫ぶ。
だが、その声が届く前に、部屋中を眩い閃光が包んだ。
光は、部屋の全てを白く染め上げる。
その光は、瞬時に視界を奪い、耳をつんざくような爆音を響かせた。
部屋全体が、激しい衝撃波に揺れる。
「ドーン!!!!」
最上階の部屋で、時限爆弾が爆発したかのような、凄まじい爆発が起こる。
その衝撃は部屋の窓ガラスを吹き飛ばし、壁をボロボロに崩壊させた。
爆風が、部屋中の調度品を吹き飛ばす。
「すごい爆発だ!!」
「ドミノホテルの方からだ!何があったんだ!?」
「公国軍の襲撃か!?」
階下にいた宿泊客や、ドミノホテルの近くにいた人々が、爆発音と衝撃にざわめく。
人々は不安と恐怖に包まれ、パニックになり始めている。
「くっ!なんだ今の爆発は!?」
ちょうどエレベーターで一階に降りていたリュウとアリアにも、最上階からの爆破音が聞こえてきた。
「今の、トルティヤの魔法かな?すごい音だったね!」
アリアがリュウに尋ねる。
その声は、爆音にかき消されそうになるほど小さかった。
「かもな。あの規模の魔法を平気で使えるのは、トルティヤくらいだろう。無事だと良いんだが…」
そうしているうちに、エレベーターは一階に辿り着く。
「チーン」
エレベーターの鉄製の扉が開く。
ロビーは騒然としており、宿泊客らが先程の爆発について、不安げな表情で話し合っているようだった。
パニックは起きていないが、混乱している。
「ザッカーは!?」
リュウはロビーに降り立ち、辺りを見渡す。
依頼のターゲットであるザッカーの姿を探す。
「あ!いた!!リュウ!あそこ!」
しかし、アリアの目が、ホテルの玄関の方でザッカーを見つける。
ホテルの玄関には、荷物を抱えて逃げようとしているザッカーと、彼を囲む護衛たちの姿があった。
護衛たちは、周囲を警戒しながら、ザッカーを守るように取り囲んでいた。ザッカーは太った体を揺らし、必死な顔をしている。
そして、ホテルを出て大通りの方へ向かった。
「よし、追うぞアリア!!」
リュウとアリアはザッカーを追うようにホテルを出た。
その頃、ドミノホテルの最上階、1010号室。
部屋の調度品は爆発によって壊滅し、壁はボロボロに崩れていた。
その影響か、部屋内には砂煙が舞っていた。
「さすがに終わったじゃんね」
女が、爆発の煙を見ながら、ひと息ついたかのように呟く。
彼女の顔には、勝利を確信した余裕が浮かんでいる。
そして、ポケットからタバコを取り出す。
「さすがに、ヤツもくたばったはずだ…」
彼女は、タバコの先にマッチで火をつけようとした時だった。
「…闇魔法-堕落者の刻印-」
背後から、低く、しかし部屋中に響き渡る魔法の詠唱の声が聞こえてきた。
次の瞬間、瓦礫の中から闇魔法で形成された黒い手が現れる。
「なにっ!?」
女はタバコを口から離し、驚愕に目を見開く。
そして、咄嗟に背後に回避しようとする。
「くっ!」
女は身をそらし、闇魔法によって形成された黒い手かわそうとする。
だが、体勢と視界が悪く、黒い手はマリの体を強くはたく。
「ぐぅっ…」
女は両腕でガードするが、黒い手の衝撃によって、壁に激しく叩きつけられる。
背中を強く打ち、肺の中の空気が押し出される。
すると、まだ舞っている砂煙の中から、傷一つないトルティヤが姿を現す。
「危なかったのぉ。お主の最後の魔法は、確かに強力じゃった。魔法でガードしておらんかったら、ワシも今頃吹き飛んでおったわい」
トルティヤは身に纏っていた風のバリアを解く。
「ふっ…やるじゃんね。大したやつだよ。あの魔法を食らって、ガードで済ませるとはね」
女は、壁からよろよろとしつつ立ち上がる。
そして、地面に落ちていたテンガロンハットを拾いあげ、砂埃を払い、再び被る。
「アンタ…名前は?そろそろ名乗ったらどうだい?」
女は、トルティヤに鋭い視線を向け、名前を尋ねる。
「答えてやる義理はないのぉ」
トルティヤは冷たい口調で返した。
「おいおい。ツレないじゃんね。アンタに敬意を払って聞いているというのに」
女はニヤリと笑う。
トルティヤの言葉を面白がっているようだ。
「…トルティヤじゃ」
トルティヤは、少し間を置いて、自分の名前をポツリと言った。
「へぇ、トルティヤか…いい名前じゃんね。アタイはマリだ」
マリと呼ばれた女性はそう自己紹介すると、ポンチョの中から、これまでの武器とは異なる、変わった金属の武器を取り出した。
それは、折りたたまれた状態だった。
「まさか!それはピストル!?ということは…」
それを見たトルティヤが、驚きに目を見開き、警戒を強める。
「よく知っているじゃんね。これでもフラッカーズの看板を張らせてもらってるのさ」
マリは折りたたまれたピストルを、カチャリという金属音と共に展開していく。
「だから、アンタに最大限の敬意を払って…とっておきを見せてやるよ。そして、全力でぶちのめしたるじゃんね。さぁ、第二ラウンドだ」
マリのその表情は、強敵との戦闘を楽しんでいるようだった。
「(…この女…まだこんな隠し玉を…これは…少し本気を出さねばなるまい…ザッカーを小僧と小娘には、任せて正解じゃったな…)」
トルティヤはマリのピストルを見て、警戒を強めた。
一方、市街地では、ザッカーを追うリュウとアリアの姿があった。
「待て!!ザッカー!止まるんだ!」
リュウの声が、アルパサの通りに響き渡る。
「へっ。そう言われて待つ馬鹿がどこにいるんだよ。俺は大物なんだ。忙しいんだよ!」
ザッカーは護衛に囲まれながら、必死に走っていた。
そして、人気の少ない裏路地へ逃げ込んだ。
裏路地は、建物に囲まれているためか、日が当たっていないのか薄暗く、じめじめとした空気が漂っていた。
壁には落書きがされ、ところどころにゴミが散乱している。
路上には、餌を漁る大きいネズミが徘徊していた。
「待ってよぉ!!」
リュウとアリアがザッカーを追いかける。
「くっ!しつこい奴らだ!お前ら!あいつらを返り討ちにしろ!」
ザッカーが、逃走を妨害するリュウとアリアに苛立ち、護衛二人に命じる。
「あいよ、任せておけ」
「あんなガキ如き、返り討ちにしてやるさ」
護衛二人は、ザッカーの命令を受け、リュウとアリアの行く手を阻む。
一人は片手に剣を、もう一人はナイフを持っていた。
彼らの顔には、悪党らしい獰猛な笑みが浮かんでいる。
「邪魔をするな。荒覇吐流奥義・蒼月!!!」
リュウは冷静に刀を抜くと、高速で鋭い袈裟斬りを男に放つ。
刀身が空気を切り裂き、鋭い風が巻き起こる。
「ぐはっ!」
リュウの刀が、男の首筋に峰打ちで正確に当たり、男の意識は一瞬で刈り取られる。
「…峰打ちだ。殺しはしない。安心するといい」
リュウがそう呟くと、男は糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
「これ、当たったら痛いよ!」
一方、アリアはもう一人の護衛に対し、弓を構え狙いを定め、矢を放つ。
矢は、獲物を射抜く矢のように、正確に男の足を捉えた。
「ぐっ!くそっ!」
矢は男の足に深々と刺さる。
男はあまりの痛さに悶絶し倒れる。
「悪いが急いでるんだ。ザッカーを逃がすわけにはいかない」
「ごめんねー!すぐ終わると思うから!」
リュウとアリアは、倒れた護衛の脇を駆け抜け、ザッカーの迎撃をなんなく突破する。
「この先にいるはずだ」
リュウは、裏路地を走る。
すると、裏路地が開け、広場のような場所に辿り着く。
「くそっ…使えん奴らだ。たった二人相手に…!おい!お前が足止めをしろ!少し時間を稼げ!」
広場にいたザッカーは、リュウとアリアが追いついてきたのを見て、舌打ちをしながら、残りの護衛である少年に命令する。
ザッカーの顔には、焦りの色が浮かんでいる。
「はぁ…人使いが荒い爺さんだ…」
ザッカーに聞こえないように、少年は小声でボソリと言った。
「はいはい、お仕事なんでね」
続けざまにそう呟くと、少年は懐から、鉄で作られた小さな武器を取り出した。
「(あれは!アイアンホースさんが持っていた武器に似ている…!まさか、フラッカーズの人間か!?)」
リュウは少年の手にした武器を見て、驚きを隠せない。
「お前…フラッカーズか?」
リュウは少年に思わず尋ねた。
「だったらなんだよ。俺がフラッカーズの人間なら、何か問題でもあるのか?」
少年は警戒しながら答えた。
その目はリュウとアリアを鋭く睨みつけている。
「いや、前にアイアンホースという傭兵に会ってな。似たような武器を使っていたんだ。何か関係があるのかと思ってな」
リュウは少年に続けた。
「関係あるもなにも、アイアンホースさんは俺達の間では英雄だよ。ま、姉御の方が…強いけどね!」
すると少年の手にした武器から、圧縮された水で作られた弾丸が、高速で放たれる。
「ふんっ」
リュウは冷静にそれを避ける。
「バシャーン!」
弾丸はリュウを避けて、後ろにある民家の壁にぶつかると、激しく炸裂した。
壁は粉々に砕け、砂煙が舞っていた。
その威力は、魔法使いのそれと遜色ない。
「わぁ…まるでトルティヤの魔法みたいだよぉ!」
アリアは少年の魔法を眺め、目を丸くする。
「今のうちに…」
そうこうしているうちに、ザッカーが再び逃げようとする。
「あ!待ってよ!!逃げないでー!」
アリアがそれを追おうとする。
だが、それに反応して少年が魔法を唱える。
「お前が待てよ。液体魔法-ねばねばはんど-」
少年は、ザッカーを追いかけるアリアの足を、ネバネバした液体で作られた手に掴ませた。
液体は、獲物を捕らえる罠のように、アリアの足を捉え、地面に縫い付ける。
「うわっ!」
液体の手に掴まれた勢いでアリアは地面に転ぶ。
「大丈夫か?アリア!」
リュウはアリアに声をかける。
「うん、平気。ちょっと転んだだけだから!」
アリアは笑顔で答える。
立ち上がろうとするが、液体が絡みついて動けない。
「行け…アリア。ザッカーを追え。あいつは、俺が引き受ける」
リュウはアリアに告げる。
「うん…分かった。リュウ、気をつけてね!危ないと思ったら、すぐに逃げてよ!」
アリアはリュウの覚悟を感じ、頷く。
そして、絡みついた液体を無理やり引き剥がし、ゆっくりと立ち上がり、ザッカーを追って走り出した。
「学習能力がないな。液体魔法…」
少年が魔法を唱える。
しかし、その前にリュウが高速で少年に刀で斬りかかる。
「お前の相手は俺だ」
リュウの動きは、閃光の如く、鋭く、そして速かった。
「くっ!」
少年が慌てて手にした武器で剣戟を受け止める。
「ガキィィン!」
金属と金属がぶつかり、甲高い音と共に火花が散る。
その衝撃で、少年の腕が痺れる。
「ふむ。伊達にフラッカーズではないようだな」
それを見てリュウは一度バックステップで下がる。
少年の実力を認めつつも、その目は、冷静に状況を分析していた。
「偉そうにペラペラと!液体魔法-ぐつぐついのしし-!」
少年が魔法を唱えると、右手から1メートルほどの溶岩でできたイノシシが現れる。
溶岩のイノシシは、まるで生きた獣のように、牙をむき出し、真っ赤に光り、こちらに勢いよく突進してくる。
「…荒覇吐流奥義・剛鬼!」
リュウは剣に意識を向けると、刀身に青白い鬼のオーラが纏った。
刀から凄まじいプレッシャーが放たれる。
「はぁっ!!!」
そして、イノシシに向かって、全力で刀を振り下ろす。
「ぶひっ」
イノシシは悲鳴のような鳴き声をあげると、リュウの刀によって真っ二つに斬られ、溶けて消滅した。
「すまないが、のんびりしている暇はない…」
リュウは立て続けに少年に向かって剣を振るう。
その動きは、疾風のように速く、そして正確だった。
「おわっと!危ないだろ!少し手加減しろよ!」
少年がバックステップで回避する。
しかし、リュウの刀は彼のポンチョを綺麗に斬り裂いていた。
「むっ…」
リュウが再び距離を取り、少年の動きを警戒する。
「あーあ。これ支給品なのに。また本部に支給依頼しないとならないじゃないか!」
そう言うと少年は、斬り裂かれたポンチョを脱ぎ捨てた。
少年の体は、見た目には華奢だが、服の下にはしっかりと筋肉がついており、明らかに同年代の子と比べると鍛えられている印象だった。
「そんなこと、俺には知らん」
リュウは再び剣を構える。
「本部はこのアルパサから遠いんだぞ!わざわざ支給品を取りに行くなんて面倒じゃないか!」
少年が怒りながら手にした武器から、再び水の弾丸を放つ。
それは、まるで砲弾の雨のように放たれ、辺りに砂埃が舞う。
「しっ…!」
だがリュウはその攻撃を、紙一重で掻い潜る。
水の弾丸が彼の体を掠める。
そのまま壁を伝い、建物の屋上に着地する。
「(少しもらったか…)」
リュウの着ている服のところどころが破れ、微かながら傷ができていた。
服に血が滲んでいる。
「へぇ。今の弾幕を避けるなんて。中々やるんだね」
リュウを追って少年も壁を伝って屋上に登ってきた。
「ま、造作もないことだ。お前ごときに遅れは取らん」
リュウはニヤリと笑う。
そして、再び剣を構える。
「冥土の土産に教えといてやるよ。俺の名前はポージャ。フラッカーズの傭兵だ。そして、いずれ最強の傭兵になる男だ!アンタは俺の踏み台になってもらうぜ!」
ポージャと名乗った少年は、手にした武器を構える。
「ふん…俺はリュウだ。俺にも、依頼を退けない理由がある。だから、お前には、ここで倒れてもらう」
リュウも、静かに自身の名前と目的を告げる。
こうして、アルパサの路地裏で、二人の少年の戦いが始まった。




