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第21章:パナンへ

サシャたちとパルスたちは、サージャス公国と共和国の分岐点 に立っていた。


「皆。本当にありがとう。すごく感謝」

マギノが小さな声で呟く。


「マギノの言うとおりだ。お前たちがいなかったら俺達は全滅だった」

サンファンがマギノの言葉に同意するように頷いた。


「気にするな。俺達だけじゃ、あのドラゴンは倒せなかったしな」

リュウは、焼け焦げた赤角龍の死体に視線を向ける。


「うんうん!皆のおかげだよぉ!」

アリアが微笑む。


夕日が山々の向こうに沈みかけており、辺りが急激に暗くなってきた。

モンスターの鳴き声が、夜の帳が下りた山々にこだまし始めていた。


「じゃあ、俺達は行くよ。依頼の期限、明日までだしな」

パルスたちは左の道へと視線を向ける。


「うん!依頼、うまくいくといいね!」

サシャがパルスに手を差し伸べる。


「あぁ。サシャたちも無事に目的地に着くように祈っているよ」

パルスは、サシャの手を力強く握り返した。


二人は、固い握手を交わし、互いの健闘を祈る。


「また会えたらいいな!!」

そして、パルスたちは、手を振りながら左の道を進んでいった。

彼らの姿が、山道のカーブの向こうに消えていく。


「…僕達も行こう!」

パルスたちが見えなくなり、サシャは口を開く。


「あぁ。もうすぐ夜になりそうだしな」

リュウが空を眺め、頷いた。


「うん!夜になるとモンスターが凶暴になるって、オババ様も言ってたし!」

アリアは、夜間におけるモンスターの危険性を説いた。


こうして、サシャたちはサージャス共和国へ向かうために、右の道へと進んだ。


三人は黙々と山道を進む。

道は相変わらず荒れていたが、坂道ということもあり、気持ちは楽だった。

それでも、今日は長時間歩いているためか、三人の顔には疲労の色が浮かんでいた。


「山道、まだ続くのかなぁ…」

アリアが額の汗を拭いながら、呟く。


「距離的に、もうすぐ(ふもと)だと思うんだけどね…」

サシャは、ランタンを手に持ち、地図を照らしながら静かに呟いた。


「えー!まだ歩くのぉ!?」

アリアは、がっかりしたように顔を歪めた。


「野宿になるよりはマシだろう」

リュウは、アリアの表情に苦笑いを浮かべる。


そして、山頂の神殿から歩いて1時間。

大きなトラブルには見舞われず、サシャたちは無事に麓に下りてきた。


「やっと、地上だよぉ!!」

アリアは、両手を上げ、大きく背伸びをした。


「色々あったけど、どうにか峠を超えられてよかった…」

サシャは、安堵の笑みを浮かべ、夜の空を見上げる。


「まさかドラゴンがいるとは思わなかったけどな」

リュウは、微かに顔を緩め呟く。


三人は道なりに歩き続ける。

前方に巨大な門と、詰所らしき建物が見えた。


「あれがサージャス共和国の入口じゃないかな!?」

サシャは門の方を指さす。


「恐らくそうだろうな」

リュウが小さく頷く。


「行ってみようよぉ!」

アリアは、山道を歩いていた時とはうってかわり、軽い足取りで門へ向かった。


門には、腰に剣を携えた兵士が二人、静かに立っていた。

だが、レスタ王国のように、厳格な検問を行っている気配はなかった。


「いよいよ…」

サシャの胸の鼓動が高鳴る。

そして、門をくぐり、サージャス共和国へと足を踏み入れた。


「着いた!」

アリアが嬉しそうに、その場で小さくジャンプする。


「(この国に魔具が…)」

サシャは息を呑む。


そして、意気揚々と三人は道を進む。


しばらく歩くと、一つの看板があった。

そこには『この先、パナン 歩いて20分』と書かれている。


「もう少しで街に着くようだな」

リュウが安堵の表情を浮かべる。


「ね!野宿は回避できそうだ」

サシャの顔に笑みがこぼれる。


「もう、お腹ペコペコだよぉ」

アリアがお腹をさする。


夜の平原は闇に包まれ、風は肌を刺すように冷たかった。


「…思ったより冷える」

サシャは、その寒さに腕をさすっている。


「そうか?魏膳は年中このくらいの気温だから普通だ」

リュウは、平気そうに道を歩いている。


「僕はこれ着てるから平気だよ!」

アリアは、自分が着ているポンチョを広げて見せた。


「そういえば、そのポンチョって、なんのモンスターの毛皮を使っているの?」

サシャは、ポンチョの質感に興味を持ち、アリアに尋ねた。


「これはね『スザクギツネ』っていうモンスターの毛皮から作ったんだよぉ!」

アリアがその場で、くるっと回ってみせた。


「すごく軽くて暖かいんだよぉ!オババ様が、旅のお供にって!」

そして、嬉しそうに話した。


「へぇ。すごく暖かそう!」

サシャが、ポンチョをまじまじと見つめ、呟いた。


そんな会話をしていると、三人は石造りの建物が並ぶ街へ入った。


「ここがパナン…」

サシャは足を止め、街並みを見渡した。


パナンは、石造りの建物が多く、土壁やアーチ型の窓など、どこか異国情緒を感じさせる雰囲気だった。

未舗装の道は所々、馬車や荷台の轍が深く刻まれていた。


「なんか、賑やかな街だね!」

アリアは、明かりが灯いている建物に視線を向ける。


酒場から漏れる灯りが、酒を飲む男たちの影を壁に揺らしていた。

笑い声や歌声が、夜の街に滲む。


「どうやら、主要な街のようだな」

街の大きさや雰囲気から、リュウはパナンがサージャス共和国でも主要な街だと推測した。


「宿屋自体はたくさんありそうだけど、空いているかな?」

サシャが、宿屋を探そうとした。

その時だった。


「おお!こりゃまた、可愛い姉ちゃんじゃねぇか!」


「俺達にお酌してくれよ!!」


「一杯だけでいいから。なぁ?」

酔っ払った傭兵らしき男たちが、通りすがりの女性に絡んでいる様子だった。


「おいおい。アンタら、少し飲み過ぎじゃないか?」

女性は背が高く、茶色のテンガロンハットを被っていた。

黒色のポンチョを羽織り、白いシャツの胸元は大胆に開いており、抜群のスタイルであることがひと目で分かる。


「うわっ。酒の臭いがぷんぷん漂ってるぜ?」

女性は鼻をつまみながら、酔っ払いの手を払いのける。

その声は低く、落ち着いている。


「にしても、いい体してるじゃねぇか」


「胸元を大胆に見せやがって。誘っているんだよな?」


「ちょっと触らせてくれよ」

男たちは、女性の体に触れようとする。

他の二人も、ニヤニヤしながら近づいてくる。


「アタイはね」

すると、女性は男の手首を掴む。


「お!その気になって…」

男が下品な笑みを浮かべた次の瞬間、男の視界が逆さまになった。


「下品な男は好みじゃないんだよ」

なんと、女性は男性を勢い良くひっくり返していた。


「あがっ」

男は宙を一回転すると、地面に叩きつけられ、気を失う。


「な!このアマ!!調子に乗りやがって!」


「こうなったら実力行使だ!!」

残りの二人の男は、得物である剣とナイフを手にする。


「おーお。それを抜いたら手加減できねぇぞ?」

女性に低い声で忠告する。


「上等だ!!」


「こっちは二人だぞ!」

男たちは女性の忠告を無視して襲いかかる。


「馬鹿な連中だね…」

だが、女性は男たちの攻撃を悠々と回避する。


「この野郎!」

男の一人がナイフを手に突進してくる。


「よっと」

だが、女性は冷静に男の頭部を片手で受け止める。

すると、男の突進がピタリと止まった。


「なっ!(動けねぇ)」

男の背筋に悪寒が走る。


「お前。パワーないねぇ」

女性は小さくため息をつく。


「本当に男なのかい?金玉ついてる?」

次の瞬間、女性の足が男の股間目掛けて跳ね上がる。


「ごわっ!!」

女性の蹴りが男の股間に直撃する。

その威力に男は苦悶の表情を浮かべ、その場にうずくまる。


「ふぅん。金玉はついているようだね」

男の様子を見た女性は、静かにタバコに火を点けた。


「てめぇ!!もう許さねぇ!!」

もう一人の男は剣を振り上げ、背後から女性に斬りかかる。

だが、女性はバックステップで回避する。


「勢いがある男は嫌いじゃない」

次の瞬間、タバコの先端を男の掌に押し付ける。


「あっち!!」

その熱さに、男は思わず剣を手放す。


「けど、せっかちな男は嫌いだ」

次の瞬間、女性の拳が男性の腹部に突き刺さる。

それは鳩尾を確実に捉えた。


「ゴワッ!!」

男は痛みのあまり、その場にうずくまる。


「話にならないな。二度と絡んでくるんじゃないよ」

女性は冷たい視線を男たちに向ける。


「ひっ!す、すみませんでした!!」

男たちは顔をひきつりながら、気絶した男を肩で抱え逃げていった。


「ったく…最近は変な奴が増えて困るじゃんね」

女性はポンチョを整えると、タバコを取り出し、吸い始める。


「あ!姉御!」

その直後、女性のもとに、テンガロンハットを被り、ポンチョを着た少年が走ってくる。


「探しましたよ!こんなところで何しているんですか?」

少年は慌てて走ってきたのか、その場で大きく息を切らしていた。


「なにって…見りゃ分かんだろ?タバコを吸ってんだよ」

女性はあっけらかんとした態度で少年に呟く。


「それより、早く宿に戻りますよ!明日の朝、早いんですから!」

少年がさらに急かすように話す。

女性の行動に、どこか呆れているようだ。


「はいはい。そう急かさんでも分かってるって」

女性は吸い終わったタバコを地面に捨てると、軽く踏みつける。

そして、少年と共にどこかへ去っていった。


「つ、強い…」

サシャは、目の前で繰り広げられた出来事に、思わず息を飲む。


「あの一撃…喰らいたくないな」

リュウは、女性が仕掛けた金的を思い出し、ゾッとする。


「なんか、かっこよかったよぉ!」

アリアは、女性の活躍を見て目を輝かせていた。


そんな騒動を目撃しつつ、サシャたちは街を歩く。


すると、道の左側に巨大な建物が視界に入った。

建物の看板には『宿屋・金木犀(きんもくせい)』と書かれていた。


「ふむ…こことかよさそうじゃないか?」

リュウが建物を眺め呟く。


「これだけ大きいと部屋も取れそうだし!いいんじゃないかな?」

サシャも賛同し、頷く。


「行こう行こう!僕、お腹空いたよぉ!」

アリアは待ちきれないと行った感じで、宿屋に向かって歩き始める。


「あ、アリア!待ってよ!」

サシャとリュウも後に続く。


「カランカラン」

宿屋の扉を開けると、ベルが軽快な音を立てた。

その音を聞いた宿屋の店主が、入口に頭を向けた。


「へい。らっしゃい」

片目に大きな斬り傷がある店主が出迎えた。


「あの。三人なんですが…部屋って空いてますか?」

サシャは店主に尋ねる。


「あぁ。空いてるぜ。一人3000ゴールドだ。前払い制になる」

店主は無愛想な口調で呟く。


「お願いします」

そう言うとサシャは店主に金貨を1枚渡す。


「あいよ。確かに。部屋の鍵とお釣りだ」

そう言うと店主は金貨を受け取り、お釣りの銅貨1枚。

そして、『103号』と刻まれた真鍮製の鍵を渡す。


「部屋はどちらですか?」

サシャは鍵を受け取ると、店主に尋ねる。


「地下だ。行けば分かる」

店主はそう言い残すと、再びグラスを磨き始めた。


そして、サシャたちは地下へ向かった。


地下への階段は石造りで、少しジメジメしており、空気が重い。

地面は石畳だが、少し砂まみれになっており、地下特有の匂いがする。


「ちょっと探検みたい!」

地下の部屋は初めてらしく、アリアは少し興奮している。


「よし。ここだ」

103号室を見つけると、サシャは鍵穴に鍵を差し込み扉を開ける。


部屋は石造りで、木のベッドが3つ。

そして、簡素な木製のテーブルと椅子が2つだけという、シンプルな部屋だった。


「シンプルだな。けど、しっかりと清掃はされているようだな」

リュウが部屋を見渡す。


「ふぅ…疲れたよぉ…」

そう言うとアリアは、荷物を放り出し、ベッドに飛び込んだ。


「今日のところは食事を取って、ゆっくり休もう」

サシャが提案し、リュウとアリアも小さく頷いた。


三人は荷物を置くとレストランへと向かう。

そして、空いている席に座りメニュー表を眺める。


「(トルティヤは…)」

サシャは精神世界にいるトルティヤを見つめる。


「すやすや」

トルティヤは赤角龍との戦いで疲弊したのか、熟睡していた。


「(よし!久々にご飯が食べられる!!)」

サシャは小さくガッツポーズをすると、目的である鶏そばを探す。

しかし…


「(ええーっ…こういう時に限って…!)」

なんと、メニュー表には鶏そばの文字はどこにもなかった。


「(トホホ…)」

サシャが、メニューに鶏そばがないことに落胆している。


「僕は、ワイルドボアのステーキにしよっと!」

アリアは頼む料理を決めたようだった。


「俺は…どうしようかな…」

リュウは、メニューを見ながら、少し迷っている様子だった。


「ねぇ!リュウ!これとか、すごく美味しいと思うよ!」

アリアは、自分の注文を終えると、リュウの持つメニューを覗き込み、とあるメニューを指差す。


「なになに…」

リュウは、アリアの指先に視線を向ける。


「コウヤザメのヒレ茶漬け…?サメ?」

リュウが、珍しいメニュー名に、怪訝な顔をする。


「そうだよ!『コウヤザメ』は、荒野のオアシスに住んでるサメの仲間で、すごく美味しいんだよぉ!」

アリアが、コウヤザメについて説明する。


「特にヒレなんかは、お刺身で食べられるくらいプリップリッなんだよぉ!」


「なるほど。サメと言っても、魚に近いものなのか…」

リュウは思案する。


「じゃあ、それにしてみよう」


「鶏そばがないようだし、僕もそれにしよう…」

リュウとサシャは、コウヤザメのヒレ茶漬けを注文することにした。


ほどなくして料理が運ばれてくる。


「はいよ。お待ちどうさま!火傷しないように気を付けてね!」

店の店員が、サシャ達のテーブルに注文した料理を運んできた。


「わぁ…美味しそう!」

アリアは、目の前に置かれた、巨大な骨付き肉のステーキをフォークで刺すと、豪快にかぶりついた。


「ふぁぁ…この脂と赤身のバランス…たまらないよぉ」

アリアは肉の美味しさに、思わず頬が落ちる。


「これは…随分な大きさだな。見た目も豪快だ」


「これがコウヤザメのヒレ…」

一方でリュウとサシャは、お茶漬けの椀と急須に目を移す。


椀には、透き通るような白い身をしたコウヤザメのヒレが贅沢に乗せられ、海苔とあられが彩りを添えていた。


「このポットみたいなのはなんだろう?」

サシャは急須を見つめ、首を傾げる。


「これは急須といって、お茶や出汁を入れる道具だ」

すると、リュウは手本を見せるように急須を手に取る。


そして、お茶漬けに向かって、出汁をかける。


お茶がジュワァッと音を立て、白い湯気が立ち上る。

優しい出汁の香りが、二人の食欲をくすぐる。


「へぇ…僕もやってみよう」

サシャは見様見真似で急須へ出汁をそそぐ。


そして、二人はお茶漬けを口に運ぶ。


「うん。これは…いける。食感が面白い」

リュウがヒレを一口食べると、プリプリとした食感と、強い旨味が口の中に広がった。


「確かに美味しい!クセがあると思ったけど全然だ!」

サシャはヒレの美味しさに、思わず箸が進む。


珍しいコウヤザメのヒレ茶漬けと、豪快なワイルドボアのステーキ。

どちらも旅の疲れを癒してくれる味だった。


そして、食事を終え、部屋に戻ってきた。


「ふぅ…お腹いっぱいになったら、眠くなってきたよぉ…」

アリアは、ベッドで満足そうな顔をしながら寝転がっていた。


「コウヤザメ。初めて食べたが、美味だった」

リュウは、料理の味に満足している様子だった。


「ね!お腹も満たしたし、今日はゆっくり休もう」

サシャはそう呟くとベッドに横たわる。


「あぁ。明日から忙しくなりそうだしな」

リュウもベッドに横になると、目をつぶった。


「僕は…もう…むにゃむにゃ…おやすみぃ…」

アリアはそれを聞くと、静かに瞼を閉じた。


こうしてサシャたちは、ゆっくりと眠りについた。

同時に、サージャス共和国での、新たな冒険が始まろうとしていた。

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