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第21章:パナンへ

サシャ達は、タタラ峠の山頂で、新たな目的地への道と、サージャス公国へ向かうパルス達の道とが分かれる分岐点に立っていた。

夕日が沈みかけ、辺りが薄暗くなってきた。


「なあ、パルス。サージャス公国ってどんなところなんだい?」

サシャが、パルスに尋ねた。

その声には、異国への好奇心と、少しの不安が滲んでいた。


「んー、サージャス公国か。どんなところか、俺も詳しいわけじゃないけど、砂漠に囲まれた国って感じだな。それと、2年前にできたばかりの新しい国だってことくらいかな。あ!あと、これから君たちが向かうパナンって街は、サージャス公国にとって主要都市の一つでもあるようだよ」

パルスは、顎に手を当て、考え込むように答えた。

彼の知っている情報を、サシャ達に伝えている。


「へぇ、砂漠に囲まれた国なんだ!なんか、ワクワクするね!砂漠の生き物とか、どんなのがいるんだろ!?サボテンとかも、たくさん生えてるのかな!?」

アリアが、目を輝かせた。


「それと、遺跡もたくさんあるらしいぞ。古い文明の遺跡が点在してるとか。もしかしたら、お宝ザックザクかもな!俺たち冒険者にとっては、ロマンのある場所だぜ!」

パルスが、ニヤリと笑った。

その顔には、一攫千金を狙う冒険者の欲と、遺跡探検への期待が垣間見えた。


「お前たち、あまり欲をかきすぎるなよ。欲に目が眩むと、足元を掬われるぞ」

リュウが、パルスに冷静に忠告した。


「わかってるって!リュウは心配性だなあ。まあ、俺達もプロだから、その辺はちゃんとわきまえてるさ!」

パルスは、リュウの忠告を軽く笑い飛ばした。


「さて、そろそろ行くかな。あまり遅くなると、峠道も危ないだろうし」

サシャは、パルスとの会話を終え、ゆっくりと立ち上がった。


夕日が山々の向こうに沈みかけており、辺りが急激に暗くなってきた。

フクロウの遠吠えが、夜の帳が下りた山々にこだましていた。

雨があがり空は美しく朱色から紫へと染まっていた。


「そうだな。俺達も…こんなところでうだうだしてられないな。依頼の受付は明日までだし」

パルスたちも、腰を上げ、旅支度を始めた。

彼らの表情には、新たな冒険への期待感が窺えた。


「じゃあ、俺達はこっちの道を進むよ」

サシャは、右の道に視線を向けた。

その視線は、パナンへと続く道へと吸い込まれていくようだった。


「俺達は左だな」

パルスは、左の道に視線を向けた。

その視線は、サージャス公国へと続く道を見据えていた。


互いの道が、ここで分かれた。


「お前たちには本当に助けられた。あのドラゴン相手に、まさかあそこまでやるとは思わなかった。ありがとう…!目的地に辿り着けるように祈ってる」

パルスは、サシャに右手を差し出した。


「うん!パルス達も依頼、うまくいくといいね!」

サシャは、パルスの手を力強く握り返した。

二人は、固い握手を交わし、互いの健闘を祈った。

マギノとサンファンも、サシャ達に会釈をした。


そして、サシャたちはパルスたちを見送った。

パルスたちは、大きく手を振りながら、左の道を進んでいった。

彼らの姿が、山道のカーブの向こうに消えていく。


「…さて、僕達も行こう」

サシャは、パルス達が見えなくなったのを確認し、呟いた。

それに対してリュウとアリアも頷いた。


そして、サシャたちは、右の道、サージャス共和国へと続く道を進み始めた。

山頂の冷たい風が、彼らの背中を押す。


「それにしても、遠いんだねパナンは…ここから、まだ歩くんだ…」

アリアの顔には、夕闇の中でも、疲れの色が滲んでいた。

その小さな体には、名も無き街から続く長旅と、レッドホーンドラゴンとの戦いの疲労が蓄積していた。


「地図によると、ここからパナンまでは、あと2時間ってところだな。下り道が多いだろうから、もう少し早く着けるかもしれないが」

リュウは、ランタンを手に持ち、その光で地図を照らしながら静かに呟いた。


「えー!あと2時間も!?嘘でしょぉ…」

アリアは、がっかりしたように顔を歪めた。

その小さな肩を落とし、大きくため息をついた。


「まぁ、仕方ないだろう。野宿になるよりはマシだよ。それに、パナンに着けば、暖かい食事とベッドが待ってるさ」

サシャは、アリアの様子を見て、苦笑いを浮かべながら呟いた。

その声には、アリアを励ますような優しさが滲んでいる。


こうして、サシャたちは夜の峠道を下り始めた。

夜の帳が下りた山道は、昼間とは全く異なる、静かで暗い顔を見せていた。

ランタンの灯火と、雲間から差し込む月明かりだけが頼りの道は、視界が悪く、時折現れる木の影に怯え、足元に転がる大小の石に躓きそうになりながらも、一歩ずつ慎重に進んでいった。

幸い、大きなトラブルには見舞われず、サシャたちは無事に麓に下りてきた。


「んー…長かったぁ!やっと山から下りてきたよ!」

アリアは、両手を上げ、大きく背伸びをした。

その小さな体には、安堵と疲労が入り混じっていた。


「色々あったけど、どうにか峠を超えれてよかったよ。まさか、あんなドラゴンがいるとはな…」

サシャは、安堵の笑みを浮かべ、夜の空を見上げる。


すると、遠方に、橋の向こうに、多くの篝火が灯っているのが見えた。

どうやら、タタラトンネルの方向らしい。


「うわぁ…これは大変そうだ…まだ作業してるんだ…」

サシャたちが様子を見ると、タタラトンネルの近くで、王国軍が復旧作業に勤しんでいた。

そこからは人の声や、道具の音が僅かに聞こえてくる。


タタラトンネルは、噂で聞いていた以上に大きく崩落しており、多数の岩石や土砂がトンネルを完全に塞いでいた。

兵士たちは、汗を流しながら作業に勤しみ、小さなゴーレムたちが、重い岩石を軽々と持ち上げ、次々と運び出していた。

兵長らしき男が、部下たちに指示を出し、復旧作業は夜通し行われているようだった。


「復旧までに相当時間がかかりそうだな。あれだけの崩落じゃ、簡単には進まないだろう」

リュウが、復旧作業の様子を見て呟いた。彼の顔は真剣だ。


「そうだね…早く復旧するといいんだけどね…」

サシャたちは、トンネルが早く復旧することを願いながら、タタラトンネルから離れるように南へと向かった。


しばらく歩いた頃だったろうか。

夜の闇の中に、巨大な門と兵士の詰め所らしき建物が見えた。

門には、腰に剣を携えた兵士が二人、静かに立っていた。


「あれが、サージャス共和国の入口みたいだね!やったあ!」

サシャは、喜びの声を上げ、笑顔を見せた。

その表情は、旅の目的地に近づいた喜びで輝いていた。


「あぁ。間違いないな。ようやく辿り着いたか」

リュウも、その様子を見て、サージャス共和国の入口だと確信した。


「やっと着いたんだぁ!疲れたよぉ…」

疲れの色を見せていたアリアも、元気を取り戻したかのような声色で呟いた。


サシャたちは、門をくぐり抜けた。

門の脇には、木製の看板が立てられており、ランタンの光で照らしてみる。

看板には、『砂漠と遺跡と友愛の国 サージャス共和国にようこそ』と書かれていた。


「あ!!」

アリアが、木製の看板の横に、小さな案内板を見つけた。

その案内板には、『パナン あと5km』と書かれている。

そして、荒野の遠目に、夜の闇の中に、パナンと思われる街の灯りが星のように瞬いているのが見えた。


「もう少しだ!頑張ろう!パナンの街が見えてきたよ!」

その様子を見たサシャたちは、パナンを目指し、もうひと踏ん張り歩き始めた。


荒野は、夜の闇に包まれ、昼間の熱気が嘘のように、風は肌を刺すように冷たかった。

辺りには、枯れた木々が点在し、その脇には、小さなサソリがゆっくりと砂の上を歩いているのが見えた。


「…思ったより冷えるな。昼間は暑いと聞いていたが、夜は随分と冷え込むようだ」

リュウが、思わず呟いた。

その寒さに腕をさすっている。


「私はこれ着てるから平気だよ!」

アリアは、リュウの言葉を聞き、自分が着ているポンチョを見せるように、得意げに歩いた。


「そういえば、アリアが着てるそのポンチョって、すごく暖かそうだけど、何かのモンスターの毛皮だったりするの?」

サシャは、ポンチョの質感に興味を持ち、アリアに尋ねた。


「これはね「スザクギツネ」っていうモンスターの毛皮から作ったんだって!すごく軽くて暖かいんだよ!おばば様が、旅のお供にって、特別に作ってくれたんだ!」

アリアは、ポンチョを見せるように、くるりと回ると嬉しそうに話した。


「へぇ。すごく暖かそうだし、丈夫そうだね!」

サシャが、ポンチョをまじまじと見つめ、呟いた。


「そうなんだよ!作り方も、おばば様から教わったから、もしスザクギツネの毛皮が手に入ったら、サシャとリュウの分も作ってあげるよ!」

アリアは、自信満々そうな表情を浮かべた。


そんな会話をしながら、サシャたちはパナンの街を目指して歩き続けた。

やがて、石造りの建物が見えてきた。

パナンの街は、夜の闇に浮かび上がる灯りが、まるで荒野に散りばめられた星空のようだった。


「…着いた…あれが、パナンの街だ…」

サシャ達は、目前に迫ったパナンの街を見上げた。

石造りの建物が立ち並ぶ街並みが、ランタンの明かりに照らされている。


荒野の中に突如として現れたパナンの街は、石造りの建物が多く、土壁やアーチ型の窓など、どこか異国情緒を感じさせる雰囲気だった。

昼間は暑いのだろうか、屋根は平らなものが多い。

未舗装の道は所々、馬車や荷台の轍が深く刻まれ、風が吹くと砂埃が宙に舞う。砂の匂いがする。


街のところどころには、酒場から漏れる賑やかな灯りが、楽しそうに酒を飲んでいる男たちの影を壁に揺らしていた。

そこからは、笑い声や歌声が僅かに聞こえてくる。

道を行き交う人々は、砂漠地帯の民族衣装に身を包んだ者や、刀を腰に携えた傭兵らしき者など、様々な身なりの者が見えた。活気に満ちているようだ。


「さて、まずは宿屋に…この時間だし、開いてるかな…」

サシャは、パナンの街の雰囲気に圧倒されつつ、宿屋を探そうとした。その時だった。


「おお!こりゃまた、可愛い姉ちゃんじゃねぇか!一杯どうだい?」

どうやら酔っ払いが通りすがりの、背が高い女に絡んでいる様子だった。

酔っ払いは三人組で、酒の匂いを漂わせている。


酔っ払いは、赤ら顔でヨダレを垂らしながら女をジロジロと見つめていた。

その目は下品だ。


「おいおい。おっさんたち。少し飲み過ぎじゃないか?酒の臭いがぷんぷん漂ってるぜ?」

女は鼻をつまみながら、酔っ払いの手を払いのける。

その声は低く、落ち着いている。


カウボーイハットを被った女は、金髪を一本に束ね、黒いポンチョを羽織っているが、その下に着ているシャツの胸元は大きく広げられ、セクシーな容姿をしていた。


「いい体してるじゃねぇか。俺たちと遊んでくれよ?なあ、嬢ちゃん」

男はさらに図に乗って、女の体に触れようとする。

他の二人の酔っ払いも、ニヤニヤしながら近づいてくる。

だが、女は男の手首を掴むと、勢い良くひっくり返した。


「あれ?」

男はクルッと宙を舞う。一瞬の出来事だ。

そして、アスファルトではなく、砂埃の舞う地面に叩きつけられる。


「へぶっ…」

男は白目を向いて気絶した。

他の酔っ払いも、驚きに目を見開いている。


「弱っ。そんなんじゃアタイと遊ぶなんて夢物語だな。二度と絡んでくるんじゃないよ」

女がポンチョを整えると、懐からタバコを取り出す。

そして、タバコの先にマッチで火をつけ、煙をゆっくりと吐き出し、優雅に吸い始める。

その姿は、酔っ払いを軽くいなした後の余裕を感じさせる。


その直後、女のもとにカウボーイハットを被り、ポンチョを着た少年が走ってくる。

彼の顔には、焦りの色が浮かんでいる。


「姉御!なにしてんるんすか!?」

少年は慌てた様子だった。その声は上ずっている。


「なにって見りゃ分かんだろ?タバコ吸ってんだよ」

女はあっけらかんとした態度で少年に呟く。

タバコの煙が夜空に消えていく。


「そうじゃなくてですね…!あーもう、早く宿に戻りますよ!明日の朝、早いんですから!」

少年がさらに急かすように話す。

女の行動に慣れているようだが、呆れているようだ。


「はいはい。わかったよ。そう急かさんでも分かってるって」

そう呟くと女はタバコを吸い続け、少年と共にどこかへ去っていった。


「なんだったんだろう?すごい強い人だったな…」

サシャは、目の前で繰り広げられた出来事に、不思議そうな顔をする。


「ま、おおかた商人の護衛か、どこかのトレジャーハンターだろうな」

リュウが冷静に呟く。


そんな街の様相をみたあと、サシャ達は宿屋を探して歩く。

石畳の道には、水路が流れているのが見える。


「酒場とかが多いんだな。賑やかな街だ」

サシャが辺りを見渡すと、酒場が多いことに気がつく。

石造りの酒場から、楽しげな声や歌声が漏れ聞こえてくる。


「ワハハハハ!次行くぞ!!」

ところどころから笑い声が聞こえ、酒場からは酔っ払った男たちが鼻歌を唄いながら出てきた。

彼らは酒瓶を片手に千鳥足で歩いていた。


「そうだな…宿屋は…お。あれじゃないか?あの建物、宿屋の看板が出てるぞ」

リュウが指差す方向に、少し大きめの石造りの三階建ての建物があった。


建物には、宿屋を表す木製の看板がぶら下がっており、「金木犀(きんもくせい)」と書かれているようだ。


「あれみたいだね!行こう行こう!お腹空いたよぉ!」

アリアが待ちきれないと行った感じで、リュウが指差した宿屋に向かって駆け出した。


「あ、アリア!待ってよ!」

サシャとリュウも後に続く。

アリアの小さな背中を追いかける。


「カランカラン」

宿屋の木製の扉を開けると、扉の上についたベルが軽快な音を立てた。

そこは一階がレストランになっており、何人かの客が食事をしたり酒を飲んでいたりした。


「へい。らっしゃい。泊まりかい?」

カウンターには片目に大きな斬り傷がある店主らしき男がグラスを磨いていた。


「あの。三人なんですが…部屋って空いてますか?」

サシャは店主に尋ねる。


「あぁ。空いてるぜ。三人なら、一部屋で良いか?一人3000ゴールドだ。前払い制になる」

店主は無愛想な口調で呟く。


「わかりました。一部屋で大丈夫です。お願いします」

そう言うとサシャは店主に金貨を1枚渡す。


「あいよ。確かに。釣り銭だ」

そう言うと店主は金貨を受け取り、お釣りの銅貨1枚と、真鍮製の部屋の鍵を渡す。

鍵には「103号」と記されていた。


「ありがとうございます。部屋はどちらですか?」

サシャは鍵を受け取り尋ねる。


「地下だ。階段を降りて右に103号室がある。行けば分かる」

店主はそう言い残すと、再びグラスを磨き始めた。


「へぇー、地下なんだね!ちょっと探検みたい!」

サシャ達が泊まる103号室は地下にあるようだった。

地下の部屋は初めてで、アリアは少し興奮している。


そして、サシャ達は店主の指差した階段を降り、地下へ向かう。

地下への階段は石造りで、少しジメジメしており、空気が重い。

地面は石畳だが、少し砂まみれになっており、地下特有の匂いがする。


「よし。ここだ」

階段を降りて右に進むと、真鍮製のプレートに103と書かれた扉があった。

サシャは鍵穴に鍵を差し込み、扉を開ける。


「ふむ…思っていたよりは、割と整っているな。清潔そうだ」

リュウが部屋を見渡す。


部屋は石造りで、シンプルな木のベッドが3つ、等間隔に並べられ、窓はなかった。

壁には店主の趣味なのか、巨大な猪らしき首の剥製が飾られていた。

そして、簡素な木製のテーブルと椅子が2つあった。


部屋の隅には、使い込まれた木の棚が置かれ、そこには、埃を被った古い本や、錆びついた剣の模型、青銅の壺などが雑然と並んでいた。


「疲れたぁ…」

そう言うとアリアは、荷物を放り出し、ベッドに飛び込んだ。

ベッドがきしむ音がする。


「まぁ、今日は色々あったし、結構歩いたしな。疲れるのも無理はない」

サシャも、アリアの隣のベッドに腰を下ろす。


「そうだな。今日のところは食事を取って、ゆっくり休もう」

リュウが提案し、サシャとアリアもそれに頷く。


こうして、荷物を部屋に置いたサシャ達は、再び階段を上り、レストランに向かう。

地下の湿った空気から、一階の賑やかな空気へと変わる。


レストランは相変わらず賑わっていた。

テーブルでは、冒険者や傭兵らしき男女がお酒を楽しんだり、雑談を交わしている様子だった。


「まだまだ飲むぞ!今日は稼いだんだから!」


「タタラトンネル…まだ復旧してないらしいな。参ったぜ」


「聞いたか?郊外の遺跡で、黄金の大剣が見つかったらしいぞ!こりゃあ一攫千金も夢じゃないかもな!」

彼らの会話から、パナン周辺の状況が聞こえてくる。


「(さて…何か食べようか。トルティヤは寝ているようだし、今度こそ、鶏そばを…!)」

サシャは、心の中で呟き、カウンターに置かれたメニューを確認する。

メニューには、肉料理や魚料理など、様々な料理が並んでいる。

しかし、残念なことに、探している鶏そばの文字はどこにもなかった。


「(ええーっ…どうして…!こういう時に限って…!)」

サシャが、メニューに鶏そばがないことに落胆していると、隣にいたアリアが既に店員を呼び、早速注文を始めた。


「すみませーん!ワイルドボアのステーキ一つと!あ、お米を大盛りでお願いします!」

アリアは、メニューを指差し、笑顔で注文する。


「俺は…どうしようかな…」

リュウは、メニューを見ながら、少し迷っている様子だった。

見た感じ、肉料理が多いようだ。


「ねぇ!リュウ!これとか、すごく美味しいと思うよ!」

アリアは、自分の注文を終えると、リュウの持つメニューを覗き込み、とあるメニューを指差す。


「なになに…コウヤザメのヒレ茶漬け…?サメ…を茶漬けに…?」

リュウが、珍しいメニュー名に、怪訝な顔をする。

あまり聞いたことがない組み合わせだ。


「そうだよ!コウヤザメは、この辺りの荒野に住んでるサメの仲間で、すごく美味しんだよ!特にヒレなんかは、新鮮ならお刺身で食べられるくらいプリップリッなんだよ!」

アリアが、コウヤザメについて詳しい知識を披露した。


「なるほど。サメと言っても、魚に近いものなのか。新鮮なものは刺身でもいける…では、興味がある。俺はこれにしよう。コウヤザメのヒレ茶漬けを一つ頼む」

リュウは、アリアの説明を聞き、納得したようだ。


「じゃあ、俺も…鶏そばはないみたいだし、リュウと同じのでお願いします」

結局、サシャもリュウと同じものを注文した。


それから少しして、料理が運ばれてくる。

店内には、美味しそうな匂いが漂っている。


「はいよ。お待ちどうさま!熱々だよ!火傷しないように気を付けてね!」

店の店員らしき女性が、サシャ達のテーブルに、注文した料理を運んできた。

全部で3皿、大きな骨付き肉のステーキと、お椀が二つ。


「わぁ…美味しそう!いただきます!」

アリアは、目の前に置かれた巨大な骨付き肉のステーキを見て、つばを飲む。

香ばしい匂いを漂わせ、アリアの食欲を刺激した。


巨大な骨付き肉のステーキは、表面はカリッと香ばしく焼き上げられ、ナイフを入れると、ジュワッと肉汁が溢れ出した。

切り分けた肉は、中はほんのりピンク色だ。


「うわぁ…美味しい!お肉、柔らかい!」

一口食べると、口の中に肉の旨味が広がり、思わず笑みがこぼれた。

噛むほどに肉汁が溢れる。


「これは…随分な大きさだな。見た目も豪快だ」

リュウは、アリアの巨大なステーキを見て、そのインパクトに驚く。

そして、自分の茶漬けのお椀に目を移す。


お椀には、透き通るような白い身のコウヤザメのヒレが贅沢に乗せられ、海苔とあられが彩りを添えていた。

ヒレは湯気で僅かに白くなっている。


「こうやって食べるんだな」

サシャが、店員が置いていった急須から、熱々のお茶を椀にかける。

お茶がジュワァッと音を立て、白い湯気が立ち上る。


熱々のお茶をかけると、ヒレの上品な香りが立ち上り、食欲をそそった。


「うん。これは…いけるな。食感が面白い」

リュウがヒレを一口食べると、プリプリとした食感と、強い旨味が口の中に広がった。

魚の刺身に近いが、独特の食感だった。


「なんだ、普通に美味しいじゃん!全然サメっぽくないな!」

サシャは、珍しさに少し身構えていたが、美味しそうにお茶漬けを食べる。

温かいお茶とヒレの相性が良い。


こうしてサシャ達は、パナンでの最初の食事を楽しんだ。

珍しいコウヤザメのヒレ茶漬けと、豪快なワイルドボアのステーキ。

どちらも旅の疲れを癒してくれる味だった。


そして、食事を終え、部屋に戻ってきた。

地下の部屋は、一階の賑やかさとは打って変わり、静かだ。


「ふぅ…お腹いっぱいになったら、眠くなってきたよぉ…」

アリアはベッドで満足そうな顔をしながら寝転がっていた。


「意外と悪くなかったな。コウヤザメ。初めて食べたが、美味だった」

リュウも料理の味に満足している様子だった。


「そうだね。明日から魔具探しと情報収集だ。今日はゆっくり休もう」

サシャはリュウとアリアに呟く。


「あぁ…何があるか分からないからな。しっかりと…体力を回復させて…休んでおこう」

そう言うとリュウはベッドに腰を下ろす。

目を閉じ、呼吸を整えている。


「僕は…もう…むにゃむにゃ…おやすみぃ…」

アリアは、既に半分眠りかけていた。瞼が重そうだ。


「すやすや…」

サシャの精神世界にいるトルティヤは相変わらず眠り続けていた。

相当消耗したのか、深い眠りについているようだ。


こうしてサシャ達は、パナンの街で、眠りについた。

レッドホーンドラゴンとの激戦、そして新たな土地への到着と、怒涛の1日が終わった。

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