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第2章:遺跡の迷宮

「しかし、トルティヤ、君は一体?」

サシャはガイエンへの道を進みながら、精神世界にいるトルティヤに尋ねた。


「なんだワシの正体を知らんのか……見ての通り堕天使族じゃ」

トルティヤは、少し間を置いて、どこか遠い目をして答えた。


「堕天使族?そんな種族、聞いたことがない」

サシャが初めて聞く種族だ。


「ふむ。それもそうじゃろうな。堕天使族は、かつては地上を支配しておったが、500年前にワシの一族を除いて全員いなくなったからのぉ」


「いなくなった?」

サシャは驚き、思わず聞き返した。


「……お主にはどうでもよいじゃろ」

トルティヤは、一瞬寂しそうな影を瞳に宿し、小さく呟いた。

その声には、拭いきれない悲哀が滲んでいた。


「…」

サシャも、その様子を見て、それ以上は何も聞けず、静かに口を閉じた。


気まずい雰囲気が流れ、そのまま暫く歩く。

そして、サシャは、重い空気を振り払うように、思い切って尋ねた。


「ね!話が変わるけど、トルティヤはどんな魔法を使うの?」

サシャは、改めて興味津々といった様子で尋ねた。


「…お主が見たとおりじゃ…詳細を語る義理はない。お主はワシの力に身を委ねればよいのだ」

トルティヤは、冷たい視線をサシャに向け、突き放すように言い放った。


「…確かに。でも、俺は自分の道は自分で切り開きたい」

サシャは、トルティヤの言葉に納得しつつも、譲れない思いを込めて反論した。


「ふん。甘いのぉ」

トルティヤは、鼻で嘲笑した。


そんなやり取りをしているうちに、遠くにガイエンの街並みが見えてきた。


「お、あれがガイエンの街か」

サシャは、初めて訪れる街に期待を膨らませ、目を輝かせた。


「ふむ。なかなか賑わっているようじゃな」

トルティヤも、眼下の街の活気に、僅かに興味を示した。


ガイエンは、トリア帝国という帝国の南東に位置する小さな街だった。


荒涼とした大地の中に現れた、小さな街といった雰囲気で、風雨に晒された木製の家屋が肩を寄せ合うように立ち並び、時折、乾いた砂の混じった風が吹き抜け、肌に感じるのは、乾いた風が運んでくる、かすかな砂の粒子だった。


サシャは、街に入ると、二階建ての宿屋を見つけた。

木製の看板には、温かみのある文字で「二丁目の宿」と書かれている。


「今回はここに泊まろう」

サシャは、宿屋の扉を開け、中へと入ることにした。


「いらっしゃいませ!」

宿屋の主人が、丸い笑顔でサシャに話しかけた。


「あの、部屋って空いてますか?」

サシャは、カウンターに立つ店主に声をかけた。


「もちろんですとも!お一人様でしたら、一泊2000ゴールドでご用意できますよ!」

店主はニコニコとした表情をしながら話す。


「では、とりあえず一泊したい」

サシャが店主に返答する。


「かしこまりました。では、こちらが201号室の鍵になります」

店主は、木製の古びた鍵をサシャに渡した。

鍵には、手書きで「201号室」と書かれた札が付けられている。


「ありがとうございます」

サシャは、階段を上がり、201号室に向かった。


扉を開けると、簡素ながらも丁寧に掃除された清潔感のある部屋だった。

窓からは、夕焼けに染まる街並みが小さく見えた。


「綺麗だな…」

サシャは窓から夕焼けを眺めると、宿屋に併設されているレストランへと向かった。


一階のレストランは、夕食時ということもあり、多くの人で賑わっていた。

熱気が立ち込め、様々な料理の匂いが食欲をそそる。


「旦那、今日は何か珍しい魚でも入ったのかい?」


「ああ、今朝はトルトン海峡で珍しい魚が獲れたぞ!身が引き締まっててな、刺身にしても、じっくり煮付けても最高だ」


「へえ、それは楽しみだ」

商人達がワインを飲みながら、仕入れた食材について会話をしていた。


「最近、何か変わった噂は聞いてるかい?」


「ああ、聞いた聞いた。街外れの古い遺跡に、眠っている財宝があるらしいぞ」


「ほう、それは本当か?一体どんな宝だろうか……」

冒険者たちは、酒を飲みながら、儲け話や宝の噂、旅の自慢話など、様々な話題で盛り上がっていた。


「お腹が空いたな…よしいつもの…!」

サシャは、テーブルに置かれたレストランのメニューを見て、鶏そばを注文しようとした。

しかし、精神世界からトルティヤの声が割って入ってくる。


「鶏そばじゃと!?ふざけるな!ワシは豚そばがよい!」

トルティヤは、まるで駄々をこねる子供のように主張した。


「…トルティヤ。食べるのは僕なんだぞ?」

サシャは、困惑した表情で心の中で言った。


「ダメじゃ!ワシは豚そばが食べたいんじゃ!」

トルティヤは、頑として譲らない。

そして、サシャの肩を叩いた。


「え?」

その瞬間、サシャの人格がトルティヤと入れ替わる。


「マスター!豚そばを一つじゃ!」

入れ替わったトルティヤはマスターに大きな声で注文する。


「へい!お待ち!」

少しして、湯気を立てる豚そばがトルティヤの前に運ばれてきた。


豚そばは、熱々のスープから香ばしい匂いが立ち上り、分厚く切られた豚肉が数枚、鮮やかな緑のネギ、そしてとろりとした半熟卵が乗っていた。


「うんうん。久々の豚そば…たまらんのぉ」

トルティヤは、箸を持つと、美味しそうに豚そばをすすり始めた。


「くぅ…」

その一方で、サシャは精神世界で悔しそうな顔をしていた。


「ごちそうさま!」

あっという間に豚そばを食べ終えると、トルティヤは満足そうに箸を置き、そのまま、その辺りの冒険者たちに魔具の情報を尋ね始めた。


「お主達、何か魔具の噂とか知らぬか?」

トルティヤは、近くのテーブルで雑談していた冒険者の肩に手を置くと、声をかけた。


「なんだよ?いきなり…魔具なら、昔じいさんから聞いたことがあるぞ。でも、俺たちは見たことないな」

冒険者は、怪訝そうな表情で首を傾げた。


「俺もだ。魔具なんて、本当に存在するのかどうか…」

別の冒険者は、腕組みをして首を横に振った。


「ふむ…」

トルティヤは、少し不満そうな表情を浮かべた。

すると、その話を聞いていたレストランのマスターが、グラスを丁寧に磨きながらこう言った。


「お客さん、魔具かどうかは分かりませんが、街外れにある古い遺跡に財宝が眠っているらしいですよ」


「ほう、それは本当か?」

トルティヤは、興味を示し、身を乗り出した。


「ええ、最近、その噂が広まっているみたいです。ただ、腕利きの冒険者の話によると、魔物が潜んでいる上に、中は複雑な迷路になっているらしいですよ」

マスターは、苦笑いを浮かべながら答えた。


「なるほど…いい情報を聞けた。感謝するぞ」

トルティヤはそう言うと、すぐにサシャに人格を戻した。


「勝手な奴だな…」

サシャは、自分の体を好き勝手に使われたことに呆れつつも、夜も遅いため、遺跡の探索は翌日にすることにした。


夜、宿屋の部屋で、サシャが丁寧に双剣の手入れをしていると、精神世界からトルティヤが話しかけてきた。


「なんじゃ?曲芸の仕込みか?」

トルティヤは、からかうような口調でサシャに言った。


「曲芸かもな。でも、この剣は何度も俺の命を救ってくれた。それに、俺の恩人がくれたものだ」

サシャは、愛情を込めて双剣を磨きながら答えた。


この双剣は、叔父であるロイが遺してくれたものだった。

剣術の基礎も、ロイから簡単な手ほどきを受けている。


「ふむ…恩人とは?」

トルティヤは、興味を持ったように尋ねた。


「さぁね。トルティヤの魔法の詳細を話してくれたら、教えてやってもいいかな」

サシャは、ニヤリと笑って取引を持ちかけた。


「むぅ…」

トルティヤは、頬を膨らませ、不満そうな表情を浮かべた。


「まぁよい。ワシは寝る。お主も明日に備えてゆっくり休んでおくんじゃな」

トルティヤはそう言うと、精神世界で横になった。


「ま、言われなくてもそうさせてもらいますよ」

サシャもベッドに入り、目を閉じて休息を取った。


翌朝、サシャは、昨夜マスターから聞いた件の遺跡を目指すことにした。


「よく寝た」

サシャは、清々しい目覚めとともに起き上がり、身支度を始めた。

一方、トルティヤはまだ精神世界で静かに眠っているようだった。


「(眠っている時はこんな顔をするのか…可愛いところがあるんだな)」

サシャは、ふとそう思い、小さく笑みを浮かべた。


そして、そのまま鍵を店主に返し、宿屋を出ようとした。

すると、同じタイミングで、紫色の軽鎧を身につけた少年が宿屋から出てきた。

背中には、漆黒の刀が背負われており、自分とさほど年齢は変わらなさそうだった。


「おおっと…すまない」

少年は、軽く会釈しながらサシャに謝った。


「あぁ、気にしないで」

サシャがそう言うと、少年はもう一度軽く頭を下げ、足早に宿を出ていった。


「…冒険者かな?」

サシャは、少年のことが少し気になった。

そして宿を出た時、精神世界でトルティヤが目を覚ました。


「よく寝たのじゃ…ってもう出発か?」

トルティヤは、大きなあくびをしながら呟いた。


「そうですよ。誰かさんが気持ちよさそうに寝ている間にね」

サシャは、少し皮肉を込めてトルティヤに言った。


「仕方なかったじゃろ。ワシだって眠い時は眠いのじゃ」

そんな他愛ない会話をしている時、サシャは何かを思い出したように言った。


「そういえば、トルティヤにお願いがあってさ。魔具や財宝、使えそうな素材を見つけたら、この袋に入れてほしいんだ」

サシャは、懐から拳ほどの小さな袋を取り出した。


「ほう。もしかして、これは「亜空袋(ポータルバッグ)」か?随分と高価なものを持っておるのぉ」

トルティヤは、驚いたように言った。


「正解。これも恩人が遺してくれたものだけどね」

サシャが答える。


亜空袋(ポータルバッグ)」。

それは、特殊な魔法がかけられており、物を無限に収納できる便利な道具だ。

噂によると、遥か昔の優れた魔導師が、とある魔具の技術を応用して作り出したと言われている。

これもまた、叔父であるロイがサシャに遺していった、アイテムの一つだった。


「分かった。よかろう」

トルティヤは、あっさりと了承した。


こうしてサシャは、マスターから聞いた情報をもとに、街の外れにある遺跡へと向かった。


遺跡へと続く道は、大小の岩がゴロゴロと転がり、足場が悪く歩きにくかった。

まるで、訪れる者を拒むかのような、荒涼とした雰囲気が漂っていた。


サシャは、そんな険しい道にもめげず、懸命に足を進めた。

そして、しばらく歩くと、古びた遺跡の入り口を見つけた。


「ここだな…」

遺跡の入り口は、巨大な岩のアーチでできており、表面は長年の風雨に晒され、黒ずみ、ところどころに緑色の苔が張り付いている。

その様子は、まるで遥か昔に作られたことを物語っているかのようだった。


「ん?」

その時、遺跡の入り口に、先ほど宿屋で見かけた紫色の甲冑を着た少年が入っていくのが見えた。


「…あの少年も財宝を探しているのかな?」


「馬鹿者!それなら早く行くのじゃ!先を越されてしまうぞ!」

トルティヤに急かされ、サシャは、少し警戒しながらも、後を追うようにして遺跡の中へと足を踏み入れた。


遺跡の中は、ひんやりとした空気が漂う石造りの空間だった。

崩れかけた高い天井からは、数ヶ所、日の光が細く差し込んでいる。


足元には、小さな川が流れ、苔むした石造りの橋が架けられ、

周囲には、静寂が広がり、時折、どこからか水の滴る音が聞こえてくる。


「うわっ…なんだこれ」

そして、遺跡の奥へと続く道は、複雑に入り組んだ網目状の迷路へと姿を変えていた。

左右には、冷たく湿った石壁がそびえ立ち、頭上からは時折、崩れた天井の隙間から頼りない光が差し込むだけだ。


「ほうほう。これは厄介な…」

トルティヤが、面白がるような口調で呟いた。


「とにかく先に進もう」

サシャは、迷路の入り口に立ち止まることなく、遺跡の奥へと足を踏み入れた。


「…えーっと、こっちかな」

サシャは、複雑な道を見渡し、自分の直感を頼りに進むべき道を選んだ。

しかし、どの道を進んでもすぐに壁に突き当たり、早くも迷ってしまった。


「うーん…どこに繋がってるんだろう?」

焦燥感と悔しさが、サシャの心に募っていく。


「ここも違うか…」

来た道を引き返そうとしたその時、行き止まりの壁に、奇妙な形のスイッチがあるのをトルティヤが見つけた。


「待つのじゃ。あそこにスイッチがあるぞ」

トルティヤが、冷静な声で言った。


「あっ…本当だ。ひし形をしてる…押してみるか?」

サシャは、迷わずそのスイッチに手を伸ばした。

罠かもしれないという考えも頭をよぎったが、他に道はない。


「ゴゴゴゴゴ……」

サシャがスイッチを押し込むと、鈍い感触が手に伝わった。

直後、遺跡の内部で低い振動音が響き渡り、行き止まりだった壁の一部がゆっくりと動き出し、新たな道が開かれた。


「おお!道が開けた!」

サシャは、驚きと喜びの声を上げた。


「ふふん」

トルティヤは、得意げに胸を張った。


こうして、サシャは開かれた道を進み、古びた石造りの橋を渡った。

橋の表面は、長年の風雨に晒され、所々ひび割れ、苔がこびり付いている。


橋の下には、轟音を立てながら巨大な滝が流れ落ちているのが見え、水しぶきが霧のように立ち込め、周囲の岩肌を濡らしている。


「すごいな…」

サシャは、その壮大な光景に息を呑んだ。


「古代人は、貯水のために人工的に滝を作ったと言われておるの。もしかしたら、それもこの一つなのかもしれんな」

トルティヤが、まるで知識をひけらかすように解説した。


「なるほど…」

サシャは、トルティヤの豊富な知識に感心した。


「これくらい常識じゃろ」

トルティヤは、したり顔で呟いた。


そして、さらに道なりに進んでいく。


「にしても広いな…」

複雑な道のりに、サシャは再び迷いかけていた。

その時、突然、目の前の地面が盛り上がった。


「なんだ?」

サシャが不思議そうな顔をしていると、盛り上がった地面を突き破り、腐敗した体を持つ、まるで死体のようなモンスターが5体、姿を現した。


「うわっ!何だこいつら!」

サシャは、即座に腰に差した双剣を抜き、臨戦態勢を取った。


「こいつはアンデッドじゃな」

トルティヤが、冷静な声で呟いた。


アンデッド。

早い話が、死体が魔力によって蘇り、モンスターとなったものだ。

その肉体は腐り落ち、体からは腐敗臭が漂い、見るからに不気味な風貌をしていた。


「気持ち悪いし…臭い…」

アンデッドたちは、腐敗した肉を引きずるようにしてよろめきながら、口元から緑色の液体を垂らし、うなり声を上げながらサシャに襲い掛かってきた。


「けど、こんな奴らに、やられてなるものか!」

サシャは、研ぎ澄まされた双剣を器用に操り、襲い来るアンデッドの腕や足を次々と切り落とした。


「…」

しかし、切り落とされたはずのアンデッドは、ピクリとも動かない。

それどころか、切断された箇所から、黒ずんだ肉が蠢き出し、みるみるうちに再生していく。


「再生する?なんて厄介な…」

サシャは、額に冷たい汗が滲むのを感じた。

アンデッドの予想外の再生能力に、苦戦を強いられていた。


「やれやれ…代わるのじゃ」

その様子を見て、トルティヤは呆れたように溜息をつき、サシャの肩を叩いた。

そして、人格がトルティヤへと入れ替わる。


「…お主は本当に使えん奴じゃな」

トルティヤは、腕を組み、やれやれといった表情で右手を掲げた。

その手のひらには、赤い魔力が集約していく。


「こういう輩には…」

トルティヤの右手に、さらに強い魔力が集まっていく。

そして、周囲の空気が僅かに震え始めた。


「火魔法-神聖なる煌鳥セイントスパーキングバード-」

トルティヤの言葉と同時に、複数の鮮やかなオレンジ色の鳥型の炎が、彼女の周囲に現れた。

炎は、まるで生きているかのように、空中で優雅に羽ばたいていた。


「行くのじゃ!」

トルティヤが鋭く号令すると、鳥の形をした炎は、一斉にアンデッドに向かって一直線に飛んで行った。


そして炎は、アンデッドの腐敗した体に命中すると、激しい爆発を起こした。

爆発は、凄まじい熱量と衝撃波を放ち、アンデッドを跡形もなく消し飛ばした。


「ふむ。ざっと、こんなものか」

トルティヤは、涼しい顔でそう言った。


彼女の魔法は、まさに圧倒的だった。

一撃で、先ほどまで苦戦していたアンデッドを完全に消滅させたのだ。


しかし、炎の熱気に反応したのか、周囲の地面や柱の影から、先ほどよりも遥かに多い数のアンデッドが、ワラワラと湧き出てきた。

その数に、精神世界から見ていたサシャは絶望的な気持ちになった。


「おいおい…いすぎだろ」

あっという間に、トルティヤの周囲は無数のアンデッドに取り囲まれてしまった。


「ちっ、面倒な」

トルティヤは、苛立ちを隠せないように舌打ちをした。


「だが、これくらいでワシを止められると思うなよ」

トルティヤは、両手を大きく広げると手のひらに黒いオーラを纏う。


「無限魔法-羅刹の炎(らせつのほのお)-」

トルティヤの言葉と同時に、漆黒の炎が、まるで生き物のようにうねりながらアンデッドたちを飲み込んでいった。

アンデッドたちは、悲鳴を上げる間もなく、瞬く間に灰となり、消滅していった。


「…これで終わりじゃ」

トルティヤは、息を切らすことなく、静かに言った。

その魔法の威力は、まさに規格外だった。


「すごい」

サシャは、トルティヤの強大な力に、ただただ感嘆するしかなかった。


「身の程を知ったなら、もっとワシを称えよ」

トルティヤは、傲慢な笑みを浮かべ、そう言った。


「はいはい」

サシャは、素直にその言葉を受け流した。


「こら!受け流すな!…まぁよい。先に進むのじゃ」

トルティヤはそう言うと、サシャの肩に手を置くと、元の人格へ戻した。


遺跡の中は、さらに暗さを増していく。

遠くで滝の音が響き、足元には湿った空気がまとわりつく。

柱には、見たことのない奇妙な植物が、まるで蛇のように巻き付いていた。


「ここで…行き止まり?」

サシャは、巨大な岩壁の前に立ち尽くしていた。

方角が間違っていなければ、ここが遺跡の最奥のはずだ。


「そんなわけなかろう…足元をよく見るのじゃ」

トルティヤの言葉に促され、サシャは足元に視線を落とした。

すると、巨大な柱の陰に、ひっそりと隠れるようにして下へと続く階段があった。

階段の先は、暗闇に包まれ、底が見えない。


「あ、地下があるのか…」

サシャは、階段を覗き込み、その先の暗黒に身を竦ませた。


「…この先に、もしかしたら魔具が」

サシャは、期待と不安が入り混じった表情で、階段を見下ろした。


「油断するでないぞ、ここから先は、何が待ち受けているか分からんぞ」

トルティヤが、警告を発した。


「ああ、分かってるよ。いざとなったら頼んだよ」

サシャは、少し緊張した面持ちで、しかし軽く笑って答えた。


「まったく…危機感がないのか、お主は」

トルティヤは、呆れたように小さく呟いた。


サシャは、覚悟を決めたように、階段に足をかけた。

冷たく湿った石の感触が、足の裏に伝わってくる。

一段、また一段と、彼は暗闇の広がる地下へと降りていった。

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