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第136章:救難要請

バケットとサシャ達は足早に奥龙(アンロン)村 の内部へと入る。

だが、そこにあったのは凄惨な現場だった。

鼻を突く血と焦げた匂いが、一行を迎え入れた。


「こ、これは…」

サシャが驚きの表情を浮かべる。


「一体何があったんだ?」

リュウが低い声で口にする。


「ひどい…」

アリアが小さく漏らす。


「一大事ね…一体誰がこんな真似を…」

バケットが周囲を注意深く見渡しながら呟く。


村の家屋は破壊され倒壊し、地面は何かの魔法で抉られたかのようになっており、広場では商人の荷車がバラバラになり、戦いの激しさが垣間見えた。

更に、通りすがりの商人や、村人と思われる多数のエルフ族が地面にうつぶせになって倒れていた。

彼らの衣服は焼け焦げ、そこかしこに戦慄が走る。


「大丈夫ですか!?」

サシャが倒れている村人に駆け寄る。

しかし、体中に大やけどを負っており手の施しようがない状態だった。


「…こっちもダメだ」

リュウが別の村人の様子を見て首を横に振る。


「…」

倒れている商人の様子を見て、アリアが小さく首を横に振る。

その顔には深い悲しみが刻まれていた。


「非常事態ね。とりあえず本部と黎英軍に連絡を…」

バケットがポーチから伝書梟を取り出そうとした時だった。


「あ、うっ…誰か…いるのか?」

崩れた家の影から小さな声が聞こえた。


「生存者だ!!」

サシャが反射的に叫ぶ。


「どこだ?」


「僕にも聞こえたよぉ」


「あそこの家ね!」

サシャの声に全員が反応した。

そして、声が聞こえた、倒壊した家に入る。


「うっ…」

そこには巨大な柱に下半身を押しつぶされ、息も絶え絶えな瀕死のエルフ族の男性がいた。

その瞳には、まだ微かな希望の光が宿っていた。


「待ってください!今助けます!!」

サシャが懸命に呼びかける。


「一斉に持ち上げましょう!!」

バケットが指揮を執る。

そして、4人は一斉に柱を持ち上げる。


「いっせいのーで!!!」

巨大な柱は音を立てて持ち上がり、男性がはい出るだけの隙間が確保できた。


「す…すまない…」

男性は力を振り絞り、必死に這って脱出する。

それを見たサシャ達は柱から手を離す。


「ズシーン!」

柱が音をたてて地面に倒れる。


「あ、ありがとう…っぐ…」

男は壁にもたれかかる。

だが、下半身の骨が折れているのか苦しそうな表情をしていた。


「しっかりしてください!!…」

バケットが駆け寄ると男が息も絶え絶えに言う。


「二人組の…赤いマントの…男が…襲撃…された。魂をどうたら…と言って…」

男はバケットに起こったことを必死に伝える。


「わ、分かりました!まずはあなたの手当てを!」

バケットがポーチから応急薬を取り出そうとする。


「奴ら…血に染まって…ガハッ…」

男はそう言うと、血を吐く。

そして、ぐったりとして動かなくなった。


「…死んだ」

サシャはただその様子を見つめるしかできなかった。

そして、バケットは静かに口を開いた。


「サシャ、アリア。トンボ帰りになって申し訳ないけど、(ツェーン) にある、黎英軍の駐屯地へ行って、このことを伝えに行ってきてくれるかしら?リュウは私とここに残って、応援が来るまで周辺警戒と調査にあたる。いいわね?」

バケットは冷静に指揮を執る。


「わ、分かりました!行こう。アリア」

サシャは了承し、村の出口へと急ぐ。


「うん!リュウ、気を付けてね!」

アリアが声をかける。


「そっちもな」

リュウがぶっきらぼうに応じる。


そして、サシャとアリアは足早に(ツェーン) へ戻った。

相変わらず、潮風の香りと独特の涼しさが二人の頬を伝う。


「けど、黎英軍の駐屯地ってどこだろう?」

サシャが首をかしげる。


「僕も分からないや…誰かに聞くしか」

アリアがそんなことを言っていた時だった。


「これだけが俺の楽しみだよ」


「あぁ。春殿楼(しゅんでんろう)の肉まんは最高だからな」

黎英軍の軍服に身を包んだ兵士らしき二人組の男性が肉まんを手に道を歩いていた。


「あ!あの二人に尋ねようよぉ!軍人っぽいし!」

アリアが提案する。


「そうだね!他にあてもないし!」

サシャがそう言うと、足早に兵士に近づく。


「あのー、すみません!!」

サシャが兵士に話しかける。


「なんだよお前ら?俺らは休憩中だぞ」

赤髪の陽気そうな兵士は、開口一番、不機嫌そうな表情をしながらそう発した。


「そうそう。俺たちは今勤務時間外ってことだ」

黒髪のがっしりとした兵士は肉まんを頬張りながらそう付け加えた。


「あの駐屯地の場所を…奥龙(アンロン)村が大変なことになっているんです!」

サシャは食い下がることなく尋ねる。


「そうだよ!!奥龙(アンロン)村が何者かの襲撃を受けてボロボロなんだよぉ!」

アリアも必死に状況を説明しようとしている。


「は?奥龙(アンロン)村が?あんなエルフ族しかいない辺鄙な村が?」

赤髪の兵士はサシャを怪しい視線で見つめる。


「小僧、小娘。あまり大人をからかうんじゃないぞ。こっちだって暇じゃないんだぞ」

黒髪の兵士はアリアを睨みつける。


「え?さっきは勤務時間外って言ってだじゃん?それは、暇だってことだよね!?」

アリアが揚げ足を取る。


「…こ、この小娘が!!」

黒髪の兵士の顔が怒りで赤くなる。


「とにかく、一大事なんです!フラッカーズの傭兵も一緒で、その人から黎英軍の駐屯地に連絡するように言われてきているんです!だから、せめて場所だけでも」

サシャが必死に懇願する。


「…」

赤髪の兵士は困ったような表情を見せる。

そして、小さくため息を一つつくと、北側の方向を指さす。


「この中央通りの突き当りを右。右を真っすぐ進むと、太陽通りって通りがあるから、そこをひたすら左。突き当りに「黎英軍中央駐屯地」って看板が掲げられている、デカイ建物があるから、そこに行きな」

赤髪の兵士はぶっきらぼうに駐屯地の場所を案内する。


「…!!…ありがとうございます!!行こう。アリア!」

サシャは兵士に礼を言うと足早にその場を去る。


「あ、ありがとう!!」

アリアは赤髪の兵士に礼を言う。

一方で、黒髪の兵士には頬を小さく膨らませ、何かを抗議するような表情を見せて、その場を去った。


「…やれやれ、騒がしいガキ共だ」

赤髪の兵士は肉まんを頬張りながらそう漏らした。


「全くだ。せっかくの肉まんが冷めちまうぜ」

黒髪の兵士は少し冷めた肉まんにかぶりついた。


そして、サシャ達は言われたとおりの道を進み、黎英の駐屯地に到着していた。


看板には「黎英軍中央駐屯地」と書かれていた。

建物は赤いレンガ造りであり、重厚感のある雰囲気であった。

ゲートからは軍服を着こんだ兵士や、市民らしき人らが往来している様子だった。


「ここだね!」

サシャが声を上げる。


「早く行って事情を説明しないとだね!」

アリアが意気込む。

こうして、二人は建物の中へと入っていく。


駐屯地の中は様々な人がいた。

お尋ね者を引き連れた賞金稼ぎ(バウンティーハンター)や、紛失物の届け出をしにきた市民、更には、大型のモンスターの死骸を引き渡しに来たと思われる狩人(ハンター)もいた。


「うわぁ…ハイイロスザクコウモリだ。凶暴なコウモリとして知られているモンスターなんだよぉ!」

アリアがモンスターの死骸を引き渡している場面を見て指をさす。


「モンスターの引き渡しもやってるんだね…」

サシャはそう呟きつつ、二人は空いている窓口を見つける。


「あの…すみません。信じてもらえないかもしれませんが、一大事が起きてまして…」

サシャが神妙な面持ちで窓口の女性に話す。


「はい。窃盗でしょうか?殺人でしょうか?それとも、モンスターの被害でしょうか?」

窓口の女性は、まるでマニュアルを読むかの如く淡々と話す。


「あ…その…奥龙(アンロン)村が何者かの奇襲を受けて壊滅状態でして。フラッカーズの傭兵から頼まれて、黎英軍の方を連れてくるようにと」

サシャが起こったことをあるがまま話す。


「は、はぁ…奥龙(アンロン)村が…ですか?」

窓口の女性は怪訝な表情を見せる。

信じられないといった顔だ。


「本当だよぉ!!家も倒壊していて、死人もたくさん。魔法を使った跡もあったんだから…」

アリアも必死に訴える。


「はぁ…ですが、証言だけで簡単に軍を派遣しろと言われても…」

窓口の女性は対応に困っていた。

その時だった。


「俺が行ってもいいぞ」

サシャとアリアの背後に、ぬっと巨大な影が現れる。


「ジョン大尉!」

窓口の女性が声をあげる。


「あ、えっ…(で、デカイ!!?)」

サシャは思わず見上げてしまう。

その威圧感に、一瞬言葉を失った。


「わぁ!」

アリアは物珍しそうに見つめていた。


ジョンと呼ばれた黎英軍の軍服に身を包んだ男性の身長は、2メートル以上あり、鍛えられた体は軍服の上からでも分かるほどだった。

口元は古い傷が原因なのか大きく裂けており、頭部には紫色のバンダナを締めていた。


「しかし、大尉。あなたほどの身分の方がそんな好き勝手動かれては…」

窓口の女性は懸念を口にする。


「おいおい。市民が困っているなら手助けするのがプロの軍人だろうよ。身分もなにもない。それに、その言葉が嘘なら、それはそれで平和でよろし。本当なら全力であたって解決すればよろし。覚えておけ。俺たちに断るという選択肢はない」

ジョンは迷うことなく窓口の女性にそう断言する。


「わ、分かりました…ですが、せめて部下を誰か引き連れてくださいまし。一人では何かあったら大変ですので…」

窓口の女性はそう提案する。


「大丈夫だ。ちょうど暇そうなのが来た」

ジョンがそう言い、入口の方に視線を向ける。


「今度は激辛まんにしようぜ!」


「アリだな!さて、午後は書類仕事だ。だるいな」

その先には、先ほどの赤髪の兵士と黒髪の兵士が呑気そうに雑談を交わしながらこちらに向かってくるのが見えた。

それを見た、ジョンは二人の前を遮るように立つ。


「よぉ。キース、ケニー。随分と楽しそうだな。書類仕事がそんなに嫌か?」

ジョンは満面の笑みで二人に尋ねる。


「「ジョ…ジョン大尉!!お疲れ様であります!!」」

二人は慌てて敬礼する。


「あ!!さっきの!!」

アリアが反応する。


「お前はさっきの生意気な小娘!!」

それに対してケニーと呼ばれた黒髪の兵士が叫ぶ。


「お前ら…疫病神かよ…」

キースと呼ばれた赤髪の兵士はうなだれたように嘆いた。


「あの…先ほどはありがとうございました。おかげでここに辿り着けました」

サシャはニコニコしながら二人に再度礼を言った。


「なんだ?知り合いか?」

ジョンがサシャとキースの顔を交互に見て問いかける。


「ええ。さっき…」

キースは先ほど休憩時間中にサシャと出会い、そして、駐屯地までの道のりを案内したことを話した。


「なるほどな。休憩時間にも関わらず案内したとは感心だ」

ジョンは二人を褒めるように頷いた。


「いえいえ。そんな滅相もない!」

ケニーが照れたように頭をかく。


「だが、一つだけ気になった言葉があってな。『さっきの生意気な小娘』とは、どういう意味だ?」

話を整理したジョンが改めて尋ねる。

その目つきは鋭い。


「あ、いやぁ、それはですね…アハハハハハ」

ケニーは笑ってごまかそうとする。

そこに、アリアがすかさず割って入る。


「そこの兵士さんね。最初は休憩時間中だからといって道案内してくれなかったんだよ!駐屯地の場所を教えてくれるだけでよかったのに、あれだこれだと言ってさ!ケチくさいよぉ!」

アリアが抗議するようにジョンに話す。


「ア…アリア、もういいよ…結果的に道案内はしてくれたんだし」

サシャはアリアの抗議を止めようとする。


「こ、この…小娘がぁっ!!」

ケニーは怒りでプルプルと震える。


「お、俺は悪くないですよ!!最終的に道案内をしたのも俺だし!な?小僧?」

キースはサシャに助け舟を求める。


「え、まぁ…はい」

サシャはそう答える。

だが、それを見たジョンはため息を漏らす。


「ったく…お前ら。市民が困っているのに呑気に肉まんを食べてるとはな。ちなみに、その肉まん、美味しかったか?」

ジョンは顔に青筋をたてながら、ニコニコとした表情をしながら問いただす。


「あ、はい。春殿楼(しゅんでんろう)の肉まんは絶品でありますが…」

キースが困惑した表情で答える。

次の瞬間、ジョンがキースとケニーの肩をがっしりと抱えて耳元で小さく囁く。


「いいか。その肉まんを食べられるのも市民が安全に働けるからこそだ。肉まんの原料である、小麦、肉、野菜…その生産者が死んだら、肉まんは作れなくなって、食べられなくなる。休憩をするなとは言わない。だが、今度からは優先順位をよく考えて行動しろ。いいな?」

その言葉は冷たく響き、二人の背筋を凍らせた。

彼らは、ジョンの本気の怒りを感じ取っていた。


「了解しました…」

二人は怯えた表情をしながら大きく頷いた。


「ふむ…さて、少年よ。詳しい話を聞こう」

ジョンがサシャに詳しい話を求めた。


「はい。実は…」

サシャが状況について詳細を話した。

フラッカーズの依頼の手伝いで奥龙(アンロン)村近くの遺跡に行こうとしていたこと。

通りかかった奥龙(アンロン)村が何者かに襲撃され壊滅状態になっていたこと、一人の生存者がいたことを話した。

ジョンはサシャの話を真摯に聞いた。

そして、判断を下した。


「…今すぐ奥龙(アンロン)村に行くぞ。キース。お前の魔法なら一瞬で行けるだろう。それと、ケニー。お前も来い」

ジョンが二人に命じる。


「あ、ですが、俺は書類仕事が…」

ケニーが他の仕事のことを心配する。


「ん?さっき、書類仕事を嫌そうにしていたようだったが?この任務に同行するなら、事務方に代行してもらってもいいぞ」

ジョンがそう告げる。


「あ、え?はい。じゃぁ、行きます!」

ケニーが嬉しそうに首を縦に振ると同行の意を示す。


「決まりだな。というわけだ。ケニーとキースがやるはずだった書類仕事を代わりに頼めるか?」

ジョンは窓口の女性にそう尋ねる。


「は、はい。まったく、ジョン大尉には敵いませんね」

窓口の女性は少し呆れたようにそうこぼす。


「まぁ、これも市民のためと理解してくれ。じゃあ、少年…いや、名前を聞こう」

ジョンはサシャに名前を尋ねる。


「サシャと言います!冒険者をしています!」

サシャが自己紹介をする。


「僕はアリア!!この子はフリュネモモンガのアブル!!」


「キュイッ!!」

アリアとアブルは元気に自己紹介をする。


「サシャとアリア、アブル…ふむ。元気そうな若者。結構だ」

ジョンは大きく頷く。

そして、キースに視線を向ける。


「キース。奥龙(アンロン)村に行けるか?」

ジョンがキースに尋ねる。


「余裕ですよ。皆さん。俺の肩か腕に手を握ってください」

キースがそう指示を出す。


「あ、はい」

サシャがキースの手首を掴む。


「なんなんだろう?」

アリアはキースの手を握る。


「キュイッ?」

アルブはアリアの肩に背負うようにしがみついている。


「キース…いいぞ」


「頼むぜ、相棒!」

ジョンとケニーもそれぞれキースの肩に捕まる。


「了解!!…では」

キースが全員掴まっていることを確認をする。

そして魔法を詠唱する。


「転送魔法-韋駄天の大穴(いだてんのおおあな)-」

次の瞬間、キースの足元に大きな穴がぽっかりと開く。

そして、一同はそのまま穴の中へと落ちていく。


「わぁ!!」

突然のことにサシャは目を見開いて驚く。


「(ワシと同じ「韋駄天」系統の転送魔法か)」

トルティヤは精神世界から、この状況を興味深そうに観察していた。


そして、暗い穴を数秒通過した後。


「ストン」

サシャは地面に着地した。


「あれ?ここはどこだ!?」

サシャが周囲を見渡す。

近くには、ジョンやキース、ケニー、アリアとアルブも一緒だった。


「どこって、お前、決まってんだろ?奥龙(アンロン)村だよ」

キースが近くの看板に視線を向ける。

そこには、奥龙(アンロン)村と書かれていた。


奥龙(アンロン)村!?…転送魔法を使ったんですか?」

サシャがキースに尋ねる。


「ふふーん!どんなもんよ!俺はな、貴重な貴重な転送魔法の使い手なんだぞ」

キースは勝ち誇ったようにどや顔をする。


「だけど、お前の転送魔法は、移動先が地面かつ、自分が一度行ったことがある場所かつ、自身から半径3キロ以内しか移動できないだろうが。制約が多すぎだっての」

ケニーがツッコミを入れる。


「な!それは言わないお約束だろう!」

キースが顔を赤くしながら反論する。


「…!!お前ら、騒いでる場合ではないぞ。サシャやアリアの言うことは本当のようだ。急ぐぞ」

ジョンが早足で奥龙(アンロン)村の内部へと急ぐ。


「はーい」


「大尉はせっかちですな」

キースとケニーが後を追う。

サシャとアリアもその後を追った。


奥龙(アンロン)村の内部は相変わらず凄惨だった。

先ほどよりもさらに重苦しい沈黙が辺りを支配している。

村の中央には、回収された死体が並べられており、一人一人に毛布が被せられていた。

そして、死体を見つめるバケットと、周辺を警戒しているリュウの姿があった。


「…なんてことだ」

ジョンがその光景に言葉を失う。


「おいおい嘘だろ…」


「まさか…一体誰がこんな真似を」

キースとケニーが顔を見合わせ言葉を失う。


「バケットさん!黎英の兵士を連れてきました!」

サシャがバケットに駆け寄る。


「あら、早かったわね!」

バケットが立ち上がる。


「リュウ、ただいま!そっちはどうだった?」

サシャがリュウに状況の確認を求める。


「あぁ。見ての通り生存者はゼロ。死体だけだ…俺たちじゃ、どうしようもできなかった」

リュウが悲しそうな表情を浮かべる。


「そっか。にしても一体だれがこんなひどいことを…」

サシャは悲しみと同時にやるせない怒りを覚えた。

一方で、バケットとジョンは状況を確認し合っていた。


「お忙しいところありがとうございます。私、フラッカーズ所属のバケットと申します。近くのダンジョン探索の途中で奥龙(アンロン)村に立ち寄ったのですが、見ての通り、何者かに襲撃されて壊滅状態でして。急ぎ、報告をさせてもらった次第でした」

バケットは手際よく状況をジョンに伝える。


「いえいえ。丁寧にご報告いただきありがとうございます。にしても、我々、黎英の兵が気が付かない程の襲撃とは…」

ジョンはため息をつき、自責の念からか頭を抱える。


「状況が状況なので、フラッカーズにも応援を飛ばしました。5時間程で到着すると思いますので、それまで私たちで現場の管理と周辺警戒を行いましょう」

バケットが提案する。


「だが、貴殿らは依頼があるのだろう?そちらは大丈夫なのか?」

ジョンが気に掛ける。


「依頼主からは期限は特に言われてません。数日程度の遅れならば誤差の範囲ですので」

バケットは大きく頷く。


「それならいいが…協力に感謝する」

ジョンがバケットに深く頭を下げ、その誠実な人柄を示した。

そして、キースとケニーに視線を向ける。


「キースは応援を呼びに戻れ。ケニーは生存者の捜索を」

ジョンが二人に指示を出す。


「えーまたトンボ帰りですか…?…けど、仕方ないっすね」


「ま、こうなりゃ、やってやりますよ」

キースとケニーは何だかんだで、やる気に満ちた表情を見せた。


「サシャ君、リュウ君、アリアちゃん。3人は村の調査と周囲の警戒をしてくれるかしら?夕方頃にはフラッカーズからも応援が来ると思うから」

バケットがサシャ達に指示を出す。


「分かりました!」


「はい」


「うん!分かったよぉ!」

こうして、サシャ達も村の調査と警戒にあたった。


それから約3時間後。

太陽は依然として大地を明るく照らしている。

事件の凄惨さに反して、空は快晴だった。


その合間に、キースは黎英軍の応援を呼んできた。

その数はざっと30人程度。

彼らも一斉に捜査と村の警備に参加した。


そして、サシャ達が、魔法の痕跡を調べていた時だった。


「おーい!!お前ら!!」

大きな声が奥龙(アンロン)村に響く。


「あっ!!あれ!」

サシャが指をさす。


「予定よりも早いぞ?」

リュウが目を丸くする。


「随分な災難に巻き込まれてるな!!死神にでも愛されているのか?」


「検死が必要と聞いてね」


「義足の調子は絶好調だぜ!!」

そこには、人力車に乗ったモギーとシェイ。

そして、人力車を引っ張るタピオンの姿があった。


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