第134章:お使い
「ごちそうさま…」
傭兵バーガーを食べ終えたマヨが、ナプキンで口元を拭く。
食器を置く音が静かに響いた。
「ふぁぁ、お腹いっぱいだよぉ…」
アリアの顔には満足感が滲んでいた。
「美味しかった」
リュウが感想を漏らす。
一方でトルティヤは魂が抜けたかのようにダウンしていた。
「…か、完食じゃ」
トルティヤは殺戮者のパスタを気合いで完食した。
しかし、唇がまるでタラコのように、ぷっくらと腫れていた。
「おう!大した気合いだな!それを食べきるとはな…!」
モギーはつまようじで歯をいじりながら感嘆する。
「ほれ、トルカ高原のミルクだ」
アイアンホースがトルティヤにジョッキに入ったミルクを持ってくる。
「うむ…」
トルティヤはそれを受け取ると、喉を鳴らしながら一気に飲み干す。
ジョッキを持つ手の震えは、パスタの辛さがいかに強烈だったかを物語っていた。
「っぷはー!」
トルティヤは一気に飲み干すとジョッキをテーブルに置く。
「助かったわい!ワシは帰るぞ!!」
トルティヤの唇が元の形に戻った。
それと同時にトルティヤはサシャの肩を叩き、人格を入れ変えた。
「まったく…忙しいなぁ…」
サシャはため息をつき、人格を入れ替わった。
「して、1週間どうすんだ?まさか、ボーッとしているわけにはいかんだろ?」
アイアンホースがサシャ達に問いかける。
「そうですね…この辺に何か、遺跡やダンジョンとかあるって話、聞いてませんか?」
サシャがアイアンホースに尋ねる。
「いやぁ、この辺の遺跡やダンジョンはフラッカーズが調べつくしちまったなぁ。どこかいい場所があればいいんだが…」
アイアンホースが首をかしげる。
その時、一人の傭兵がやってくる。
「あら、アイアンホースさんにモギーさん!お久しぶりです!」
短い金髪に青いフード付きのポンチョを被った、幼さが残る顔立ちの女性傭兵が話しかけてきた。
顔の左側には火傷の跡が残り、背中には得物と思われる、包帯に巻かれた刀系の武器を背負っていた。
「お!バケットじゃねぇか!!」
モギーが親し気に応じる。
「あら、こちらはお客さん?」
バケットと呼ばれた女傭兵がサシャ達を見つめる。
「あぁ、こいつらは冒険者だ。俺たちの仕事を手伝ってもらってんだ」
アイアンホースが説明する。
「サシャです!」
サシャはバケットに挨拶する。
そして、各々が軽く挨拶をする。
「あらあら、冒険者なのね。私はバケット。見ての通り傭兵をしているの」
バケットが笑みを見せて挨拶をする。
「こいつは若いがガッツがあるんだ!」
アイアンホースがニヤリとほほ笑む。
「あらあら。アイアンホースさんは相変わらず、お上手ね。して、冒険者達と、どんなお話をしていたのかしら?」
バケットは近くの椅子に座り、会話に混じる。
「あぁ、実はな…」
アイアンホースはバケットに相談する。
マヨの武器をバリークに預けており、その調整に1週間ほどかかること。
レッドベリアルの任務中であるが、情報が行き詰まり、情報収集に時間がかかること。
このことから、サシャ達が暇を持て余していることを話した。
「なるほどね。だったら、ちょっといい話があるんだけど…」
その話を聞いて、バケットが一つ提案した。
「いい話…と言いますと?」
サシャが身を乗り出す。
「聞いて驚きなさい!黎英の首都の肫の近くにあるエルフ族の村近辺で巨大なダンジョンが見つかったの。で、さっき、肫 に住んでいる考古学者から依頼を受けてさ、そのダンジョンの調査をすることになったの。それで、味方がいたら心強いし、財宝とかは好きにもらってもいいって依頼者からは許可を得ているから…よかったら一緒にどうかなって?」
バケットがダンジョンへの同行を提案する。
「おぉ!渡りに船じゃのぉ!小僧、行くのじゃ!」
その話を聞いて、精神世界にいるトルティヤは張り切る。
「…もちろん!そのつもりだよ!」
トルティヤの言葉にサシャは頷く。
そして…
「はい!是非、同行させてください!」
サシャはバケットの提案に頷く。
「ふっ…このまま何もしないのも退屈だしな」
リュウも頷く。
「僕も行く!あ、けど、フリュネモモンガのことが…」
アリアは一つ気がかりなことがあった。
それは、獣舎で触れ合った「フリュネモモンガ」のことだった。
「小娘。黎英の今の季節は冷え込んでいる。フリュネモモンガは暑さは弱いんだろ?暑さには…」
モギーがアリアに尋ねる。
「暑さには弱いけど?……あっ!」
アリアは閃いたように声をあげる。
「別にモンスター使いじゃなくても、ペットとして連れて行けばいいんだよぉ!黎英国内だけなら、多分大丈夫なはず!!」
アリアが嬉しそうな表情を見せる。
「だったら、出発前に連れてこなきゃだね」
サシャが笑みを浮かべて頷く。
「私は申し訳ないけど、ここに残るわ。私、魔法は使えないし、武器もないんじゃ足手まといだからね」
マヨが静かに述べる。
「まぁ…今回ばかりは、無理に来いとは言えないし。これはマヨの選択を尊重するよ」
サシャが静かに頷く。
「だったら、小娘。俺たちと一緒にレッドベリアルの情報収集にあたってもらう。働かざる者、食うべからずというしな。ついでに、この世界についても少し教えてやる」
モギーがにやりと口角を釣り上げる。
「あぁ。俺としても、そうしてくれると助かるしな」
アイアンホースもモギーの言葉に同意を示す。
「…分かったわ。私にも利があるし」
マヨはモギーとアイアンホースの提案に同意した。
「決まりね!!」
バケットは大きく頷く。
こうして、サシャ、リュウ、アリアはバケットと一緒に肫 の近くにあるダンジョンへ。
アイアンホース、モギー、マヨは淘气に残って情報収集に専念することになった。
そして、1時間後。
一同はフラッカーズ本拠地の正門前にいた。
午後の日差しが、彼らの背中に長く影を落としていた。
「じゃあ、モギーさん、アイアンホースさん、マヨ。レッドベリアルの情報の方をお願いします!」
サシャは3人に呼びかける。
「おう!任せておけ!そっちもしっかり働いて来いよ!」
モギーが激励を送る。
「帰ってきたら、また宴会するぞ!」
アイアンホースはいつもの調子だった。
「…気を付けてね」
マヨは静かにそう伝える。
「いってくるよぉ!」
アリアはフリュネモモンガを引き連れ、3人に手を振る。
こうして、サシャ達は目的地に向けて出立した。
「にしも、冒険者かぁ…懐かしいな」
淘气 の街中を歩きながらバケットが漏らす。
「昔、冒険とかしていたんですか?」
サシャがバケットに尋ねる。
「ええ。フラッカーズに入る前はね。だけど、色々あって辞めて、今は傭兵!だから、たまにこうやって冒険したくなるの!ダンジョンってのはロマンがあるのよね!」
バケットはそう笑って答えた。
だが、目の奥にはどこか悲しさを孕んでいるようにも見えた。
「分かります!僕は魔具を集めて冒険しているんです」
サシャは自身の旅の目的を話した。
「俺は剣の道を極めるために…」
リュウは自身の本当の目的を隠しつつ、そう告げた。
「僕はダルサラーム一族の儀式の途中で旅をしているんだ!」
「キュイッ!」
アリアの答えに呼応するかのように、フリュネモモンガが可愛らしく鳴き声をあげた。
「魔具集めに、剣の道に、儀式…うん!どれもいいわね!素敵よ!」
バケットは笑みを見せる。
そんな感じの会話を交えながら、サシャ達は淘气 を後にし、大風渓谷を進む。
「相変わらず、ここの景色は綺麗だな…」
リュウが大風渓谷の景色に目を奪われる。
穏やかな川が流れ、雄大な緑が生い茂り、特徴的な石柱は堂々と天までそびえ立つかのような大きさだった。
上空には僅かに霧がかかり、大風渓谷 を尚、幻想的な雰囲気に仕立てていた。
空気が澄み、遠くの山々までくっきりと見えた。
「君はここで救われたって聞いたけど本当なの?」
アリアがフリュネモモンガに語りかける。
「キュウッ」
フリュネモモンガは静かに答える。
「空気が美味しいわね。何回もここは通っているけども、飽きないわね」
バケットが空気を肺に思いっきり吸い込んだ時だった。
「ウォォォォォン!!!!」
近くの森の中から雄たけびが響く。
その声は、空気を振動させ、彼らの鼓膜を激しく揺らした。
「なんだ!?」
リュウが警戒する。
「この声はまさか…」
アリアの表情が変わる。
その次の瞬間だった。
「危ない!!」
サシャが大きな声で警告を発する。
同時に、一同は左右に身を投げるように飛び込む。
「ズドーン!!」
次の瞬間、地面に叩きつけられる衝撃が走った。
何かが、先ほどサシャ達がいたところに勢いよく突撃してきた。
土砂と岩石が舞い上がり、激しい衝突音が周囲に響き渡った。
「モンスター!?」
バケットが背中に背負っていた、刀状の武器を手に取り構える。
「ガルルルルル…」
そのモンスターが砂煙から姿を現す。
大きさは2.5メートルほどで、猿のような見た目をしており、白と青色の縞模様が特徴的な体毛と、銀色の鬣に、巨大な牙。
そして、巨木の根みたいな尻尾と、巨岩のような腕が特徴的だった。
「「白斑猿」か!?」
リュウがアリアに尋ねる。
「ううん…あれは違うよぉ。白斑猿の親玉にあたる個体の…」
アリアが冷や汗をかきながら口を開く。
「ガウウウウウウウ!!!!」
モンスターが咆哮をあげる。
その巨体から発せられる唸り声は、威圧感に満ちていた。
「銀鬣猿だよぉ!」
アリアはモンスターの名前を口にすると、弓を構える。
「ガウウウウウガァァァァ!!!」
銀鬣猿 は雄たけびを上げると、サシャ達に向かって、風属性のブレスを放つ。
その範囲は広く、まるで暴風のような規模であり、渓谷の砂塵と葉を巻き込み、視界を奪う程の猛威を振るった。
「ぐっ!!すごい風量だ!!」
サシャは必死に風圧に耐え、体勢を維持する。
「風のせいで弓の狙いが定まらないよぉ」
アリアの髪と服が激しく煽られる。
弓を構えるが、風のせいで狙いが定まらない。
「たかが、風ごとき…!!」
だが、リュウは風ブレスをものともせず刀を構えて前に出る。
そして、銀鬣猿 の腕に向けて刀を振るう。
「荒覇吐流奥義・剛鬼!!!」
リュウの鋭い一撃が炸裂した…かのように思えた。
「ガキィィン!!」
刀が硬質な皮膚に弾かれ、高音が響いた。
銀鬣猿 の岩石のような腕はリュウの斬撃を通さなかった。
「なんだと!?」
リュウは慌てて距離を取ろうとする。
「ガウ!!!」
だが、銀鬣猿 が、腕を横薙ぐ。
「ぐあっ!!!」
その一撃がリュウの腹部に炸裂する。
それにより、リュウは川の方へ強く打ち飛ばされる。
「リュウ!!」
サシャはリュウの方に視線を走らせる。
「大丈夫だ…」
リュウは、ずぶ濡れになりながらもゆっくりと立ち上がる。
彼の濡れた服からは水が滴り落ちていた。
「ガウウウウウウウ!!」
その直後、風ブレスが収まったと思いきや、ものすごい勢いでサシャ達に向かって突進してきた。
「(早い!?)」
サシャは双剣を構えて迎撃の姿勢を整える。
だが、サシャとアリアの脇を一つの影が通り抜ける。
「はぁっ!!!」
「ガキン!!」
その影は、青い雷を纏い、変わった形の刀を構えたバケットだった。
刀は刀身がギザギザした形をしており、まるで雷を形どったデザインだった。
「バケットさん!?」
サシャはその姿に目を凝らす。
「援護遅れてごめん!!けど、もう大丈夫!!」
バケットは変わった形の刀を両手で持ち銀鬣猿 の剛腕を受け止めている。
そして…
「雷魔法-亜祇都-!!!」
青い雷を纏った刀を勢いよく振るう。
「ズバァァァンン!!」
次の刹那、銀鬣猿 の、強固な拳は、斜めに両断されていた。
断面からは青白い火花が散り、肉が焼ける匂いが漂っている。
「グォォォォォ!!」
銀鬣猿 は、痛みに悶える。
「青い雷魔法!?」
リュウがその特異な魔法に目を見張る。
「ほう。あの小娘、面白い芸当を見せつけてくれるではないか」
精神世界からトルティヤが腕組みをしながら、バケットの様子を見定める。
「これなら狙えるよぉ!!」
アリアが弓を構える。
そして、銀鬣猿 の頭を目掛けて矢を放つ。
「ガウ!!」
だが、銀鬣猿 は本能で危険を察知したのか、もう片方の腕でアリアが放った矢をガードした。
同時に、バケットから距離を取るべく、バックステップで後ろに下がった。
その動作には無駄がなく、なおかつ素早く、知性すら感じさせるものだった。
「防がれた!?」
サシャが声を上げる。
「そういえば、銀鬣猿 は賢いモンスターだって、おばば様が言っていたよぉ…けど、ここまでなんて」
アリアが次の矢を弓にセットする。
「中々に厄介な相手ね…」
バケットが静かに警戒する。
「くっ…体が濡れて動きにくい」
リュウは刀を構えるが、体が濡れており、コンディションに影響している状態だった。
「ガウウゥゥゥ!!」
しかし、銀鬣猿 も黙っていなかった。
咆哮をあげると、サシャ達の頭上に緑色の魔法陣が浮かび上がる。
「魔法攻撃よ!!気を付けて!!」
バケットが警告する。
「!!」
サシャは魔法陣を注視する。
その次の瞬間…
「ドドドドドドドドド!!!」
魔法陣から雷を纏った風の槍が無数に降り注ぐ。
辺りに凄まじい轟音が響き渡り、大地を叩いた。
「わあっ!」
「キュイッ!」
アリアとフリュネモモンガは必死にそれを回避する。
地面に槍が当たる度、地面が大きく抉れ、電流が迸る。
「魔法解除・斬!!」
サシャは双剣に魔法解除の効果を付与して槍を弾いていく。
「荒覇吐流…いや!!」
リュウは槍を斬り裂こうとしたが寸前で動きを止めた。
「(体が濡れている今、雷を纏った槍に触れたら感電するリスクがある)」
リュウは冷静に戦況を分析していた。
「はぁぁぁっ!!!」
だが、バケットは違った。
無数の槍をかいくぐり、なんと銀鬣猿 の足元に迫っていた。
それも、青い残像を残すほどのスピードでだ。
「グオッ!?」
突然の急接近に銀鬣猿 も驚きを隠せない。
「突然ごめんね!」
バケット、そして手にした刀には青い雷が纏っている状態だった。
「ガウ!!」
銀鬣猿 は拳を振り上げ叩きつける。
「ドコーン!!」
地面が砂煙をたてて粉砕される。
「バケットさ…おっと!!」
その様子を見たサシャは、バケットに呼び掛けるが空から降り注ぐ槍を避けるので精一杯だった。
しかし、その心配は杞憂に終わることになる。
「雷魔法…」
次の瞬間、銀鬣猿 の頭上に青い光が迸る。
なんと、バケットは一瞬で上空へと跳び上がっていたのだ。
「バケットさんか!?」
リュウがその光に視線を向ける。
その青い光は本当に一瞬だった。
「蒼輝爛 」
銀鬣猿 が一刀両断される。
その斬撃は、夜空の稲妻のように鮮烈だった。
「グォォォォォ…」
銀鬣猿 の体から血が噴き出る。
足元がふらふらとおぼつき後ろに後ずさる。
同時に、サシャ達の頭上にあった魔法陣が消えた。
「魔法陣が消えた!」
サシャ達は安堵の息を漏らした。
「よし…反撃だ」
リュウは刀を構える。
「よぉし!」
アリアが頷く。
「グルルル…」
だが、銀鬣猿 は、まだ完全に絶命していないようだった。
「あら、しぶといわね…」
バケットは刀を構える。
だが、先ほどの体と刀に纏っていた青い雷は消えていた。
「バケットさん!」
サシャ達はバケットの元に駆け寄る。
「さすが冒険者ね!よく持ちこたえたわね!あともう一押し!」
バケットが銀鬣猿 を見つめる。
「ガウウウウウウウ!!」
銀鬣猿 は最後の力を振り絞る。
そして、両腕に風を纏い、雄叫びをあげながら、爪を振り下ろしてくる。
「危ないわ!!」
バケットが叫ぶ。
「くっ!」
リュウはそれを回避する。
「スパァァン!!」
近くにあった木がバターのように両断される。
「当たったら危ないよぉ!」
アリアが注意を呼びかける。
そして、同時に弓に爆破矢をつがえると、それを銀鬣猿 に放つ。
「チュドーン!!」
銀鬣猿 の腕に命中し、破裂音と共に片腕が宙を舞った。
「ガオォォォォン!!」
それでも、攻撃は止まることなく残りの手で、今度はサシャに攻撃をしてくる。
「サシャ!!」
アリアが叫ぶ。
「大丈夫…饒速日流奥義・阿頼耶!!」
だが、サシャは双剣に水属性と火属性の属性を付与し反撃する。
「スパァァン!!」
銀鬣猿 の腕が両断され、宙を舞う。
「ガウウウウウウウ!!」
そして、最後の足掻きといわんばかりに、巨大な尻尾をリュウに叩きつけようとする。
「荒覇吐流奥義・ 蒼月 !」
だが、リュウは強烈な袈裟斬りで尻尾を両断する。
「ガルルルル…」
そこで、ようやく銀鬣猿 が怯み、地面に膝をつく。
「お別れね…」
すると、バケットが腰のポーチから小型のピストルを取り出す。
それは手のひらサイズの小さなピストルだった。
それを、銀鬣猿 の頭に向ける。
「雷魔法-玉蜻-」
そして、魔法を詠唱すると同時に引き金を引く。
「パーン!」
一発の命を奪う音が渓谷内に響いた。
「グ…オ…」
銀鬣猿 は断末魔をあげると、地面に力なく倒れ込み絶命した。
「…終わったわね」
バケットはピストルをポーチに収める。
「手ごわかった…」
サシャが胸をなでおろす。
「さすがは親玉だよぉ…」
アリアが額の汗をぬぐう。
「あぁ。強力なモンスターだった」
リュウは背中の鞘に刀を戻す。
「どうする?素材とか回収していく?」
バケットは倒れている銀鬣猿 に視線を落としてサシャ達に問いかける。
「どうしようか。アリア、どう思う?」
サシャはアリアに尋ねる。
「うーん、銀鬣猿 の毛皮は絨毯や服の素材としての価値があるって話は聞くけど、他は加工が難しいから価値があまりないってオババ様から聞いたことがあるよぉ。けど、剥ぎ取るなら剝ぎ取るよ?」
アリアが首をかしげる。
「じゃあ、毛皮だけ少し剥ぎ取って行こう!」
サシャが提案する。
「うん!じゃあ任せて!」
アリアはナイフを取り出すと手際よく銀鬣猿 の毛皮を剥ぎ取る。
「アリアちゃん、手際いいわね」
バケットはアリアの解体技術に驚きを見せる。
「アリアはダルサラーム一族の出身なんで、こういうのに詳しんです」
リュウが説明する。
こうして、少ししてアリアが銀鬣猿 の毛皮を剥ぎ取り終わると、一同は再び先へ進むべく出発した。
そして、大風渓谷を抜けて、平野へ辿り着く。
ここはアイアンホースやモギーと通った道だった。
ここをまっすぐ進むと龍飯に到着する。
「さて、もうすぐで龍飯ね。今日は、龍飯の更に東にある王甜まで行くわよ!」
バケットは今日の目的地を告げる。
「王甜 ですか?」
サシャが問い返す。
「地図によれば、龍飯 から歩いて2時間くらいのところにあるようだな」
リュウが地図を広げて確認する。
「うん!今日はそこで宿を取るわよ!私の師匠が宿をやってるの」
バケットが説明する。
「師匠?」
アリアが聞き返す。
「私に傭兵のイロハを教えてくれた人よ。今は引退してそこで宿屋をしているの」
バケットはそう説明する。
こうして、サシャ達は王甜 へ向かう。
道を歩き龍飯 へ。
途中でバケットと他愛のない雑談や、過去の冒険談を挟みながら、歩き続けた。
そして、約2時間、辺りがすっかり暗くなり、空気が冷え切った頃、サシャ達は王甜 に到着した。
「ここが王甜 か…」
街中に入ると、サシャは辺りを見渡す。
王甜 には数多くの宿が立ち並び、宿の窓から漏れる灯りが、暖かなコントラストを作っていた。
「だから、宿が多いんだな」
リュウはバケットの説明に納得する。
そんな会話をしていると、サシャ達は一つの宿に到着する。
「さ、ここよ」
バケットが足を止める。
黄色い外観の木造の宿屋だった。
そして、看板には「ノクターン亭」と書かれている。
「ガチャ」
バケットが扉を開ける。
「ガハハハハ!俺様の盾魔法にかかれば、余裕だぜ!!」
「ったく、焼き鳥と、そばうめぇな!!」
「やれやれ、今日の任務のあそこの場面だが…戦い方が青い。青すぎる…私なら…」
宿屋の中では多くの冒険者やフラッカーズの傭兵らが食事をしたり団欒をしたりしていた。
宿特有の喧騒と、香ばしい肉の匂いが一気に流れ込んできた。
「いらっしゃいま…!って、バケットか!」
すると、料理を運んでいた大柄で髭を蓄えた大男がサシャ達に気が付く。
「バッカス師匠!こんばんは!」
バケットは満面の笑みで大男に語り掛けた。




