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第133章:殺戮者のパスタ

「さて、お前ら、そろそろお腹が空いてきただろう?」

モギーがサシャ達に尋ねる。


「そういえば、もうお昼だもんね!」

サシャが太陽を見つめると、太陽は真ん中になっていた。

空は澄み渡り、陽光が強く降り注いでいた。


「あぁ、小腹が空いた頃あいだな」

リュウが独り言を漏らす。


「僕もお腹ペコペコだよぉ」

アリアがお腹をさすり、訴える。


「私も…」

マヨも同意する。


「喜べ。モギーが美味しい飯を食わしてやるよ!」

そう言うと、一同は再び建物の中へと足を踏み入れる。


建物に足を踏み入れ、しばらく進むと木製のフードコートが目に映る。

フードコートの看板には「傭兵食堂」とシンプルな店名が掲げられていた。


「いやぁ、任務終わりの一杯は格別だ!」


「やっぱり、傭兵カレーを食べないと始まらないぜ」


「傭兵チキンライスおかわり!大盛りで!!」


「それで、その賞金稼ぎを俺の氷魔法で氷漬けにしてよぉ…」

フードコートは多くの傭兵達が食事やお酒、会話を楽しみ、英気を養っていた。

肉を焼く香ばしい匂いと、アルコールの香り、そして大声の笑い声が混ざり合い、戦場とはまた違う熱気が渦巻いていた。


「わぁ…すごい賑わい…」

アリアがその光景に目を丸くする。


「いい匂い…」

腹の虫が小さく鳴るのをマヨは感じた。


「すごい数の傭兵ですね…いつも賑わっているんですか?」

サシャがモギーに尋ねる。


「そりゃぁそうだ。フラッカーズ、約1000人の胃袋を支えてるんだ。食料やアルコールも山ほど蓄えているんだぜ!さ、空いてる席を探そうぜ!」

モギーの先導でサシャ達はフードコート内を進む。


「モギーさん、お疲れ様です!」


「お!客人ですかい!?」


「今日の日替わり定食は「アオサワラのドラゴニアワイン煮込み」ですよ!」

一部の傭兵達はモギーの姿を見るなり、次々に声をかけていく。


「モギーさんは人気者なんですね」

リュウが笑みを浮かべて口にする。


「当り前だ!これでも、フラッカーズの大看板だからな!」

モギーが勝ち誇った表情をする。

すると、前方の席が何やら騒がしく人だかりができている。

喧騒の中でも一際目立つ、甘ったるい嬌声が響いていた。


「キャー!ファントムさま!おかえりなさい!」


「私にあーんさせて!」


「後でマッサージさせてくださいよぉ!」

数人の若い女性傭兵達が一人の男に群がっていた。


「いやぁ、困ったなぁ…俺は食事に来ただけなんだがなぁ。けど、どうしてもというなら…あーんや…マッサージ…お願いしちゃおうかなー、なんて、あははは」

そこには、S級傭兵の一人ファントムがウキウキした様子でステーキを食べていた。

彼は嬉しそうな笑みを浮かべ、女性に囲まれながら、堂々と肉塊を口に運んでいた。


「…お前ら、ちょっと待ってろ」

モギーは拳を握りしめ、ファントムの方へ大股で歩き出す。


「お前ら!何をイチャイチャしてんだ!風紀が乱れるだろ!!」

モギーはフードコートに響くような一喝をする。

その怒声は、食堂の喧騒を一瞬で鎮めた。


「うわ!モギーさんだ!」


「ごめんなさい!ファントムさん!」


「ひぃ…」

若い女性傭兵達は、蜘蛛の子を散らすように去って行った。


「おい、宿舎ならまだしも、神聖なる本拠地内でイチャイチャするとはいい度胸だな」

モギーがニヤニヤしながら、両手をポキポキと鳴らす。


「あー…モギーさん、違うんです」

ファントムは慌てた表情を見せる。


「飯を食っているし、その様子は偽物ではないらしいな…」

モギーは不敵な笑みを浮かべる。


「俺は素敵なステーキを食べていただけですよ!あの子たちは、勝手に寄ってきただけで、俺から誘ったわけではないんです。けど、断ったら、いい男が廃れるじゃないですか!だから、どうしようかなと思って…その…あはははは」

ファントムは飄々とした態度で応える。

片手をひらひらと振って弁解する姿は、全く反省の色が見えない。

それに対して、モギーは笑みを浮かべる。


「遺言はそれでいいな…?」

次の瞬間、拳が振り上げられる。

モギーの腕の筋肉が盛り上がり、本気の怒りがファントムに向けられた。


「うわ!ちょっと!それは死ぬやつ!マジで許してくださいって!俺は何も悪くない!」

ファントムが両手を顔面の前に掲げる。

その時だった。


「モギーさん…ちょっと待って…」

マヨが声をかける。


「あん?なんだ?」

モギーが拳を止める。


「その人、街中で酔っ払いからマヨを助けてくれた人です!」

サシャがファントムを見つめ、そう言明する。


「ええ…この人が厄介な酔っ払いを追い払ってくれた」

マヨは淡々と語る。


「ふーん…」

モギーは信じられないといった表情をする。

そして、ファントムに尋ねる。


「おい、今の話は本当か?」


「あ、あぁ!そこのお嬢ちゃんなら昨日の会議の前に酔っ払いから助けた!間違いない!これは本当だ!信じれてくれ!」

ファントムが必死に答える。

その声には、殴られるのを心底恐れる焦りが滲んでいた。


「ふむ…」

モギーはファントムとマヨの顔を交互に見据える。

そして、拳を下ろす。


「分かった。小娘を助けたことに免じて今回は許してやる」

モギーが言い渡す。


「あ、ありがとうございます…」

ファントムが安堵のため息を漏らす。

額の汗を拭う仕草が、彼もまたモギーの怒りを恐れていることを示した。


「あの…モギーさん、この人は?」

リュウが尋ねる。


「あぁ、この胡散臭い面をした奴だろ?こいつはファントム。俺と同じ、S級傭兵の一人だ」

モギーがファントムの紹介をする。


「よろしゅくな…もぐもぐ…」

ファントムはステーキを食べながらサムズアップをする。


「(S級傭兵だったんだ…)」

サシャはその正体に目を丸くする。


「それで、モギーさん。この子らは?冒険者がここに来るなんて珍しいなと…」

ステーキを飲み込むとファントムはモギーに尋ねる。


「あぁ。ちょっとバリークに用事があってな。そのついでに本拠地のツアーといったところだ」

モギーが事の経緯を伝える。


「ほほう。冒険者ね…なるほど。俺の次くらいにいい男かもな」

ファントムは席から立ち上がるとサシャとリュウの周りをゆっくりと見て回る。


「その刀、中々の業物だな。相当腕のいい職人のものだろう?そして、そのマント。安物じゃない。俺の勘がそう言っている。そうだろう?」

なんと、ファントムはサシャとリュウの装飾品と装備の品質の良さを一目見ただけで言い当てたのだ。

彼の視線は獲物を値踏みするように鋭かった。


「どうしてそれを…!?これは貴重品だっておじさんが…」


「確かに、これはボルジア島のポルチーニさんが打ったものになりますが…」

サシャとリュウは驚くばかりだったが。


「そのマントは絶滅した風属性の魔獣「フェンラン」の繊維が使われているものだ。市場でもプレミアがつく激レア品で、冒険者なら喉から手が出るほど欲しいはずだ。そして、ポルチーニの旦那なら知っている。俺の武器も旦那に鍛えてもらったからな」

そう明かすと腰に装備している二本の武器を見せる。


「これは…(こう)ですか?」

リュウが尋ねる。


「あぁ。フラッカーズはピストルが支給されるが、それとは別に武器を使う者だっている。俺は元々こっちが専門でな」

ファントムは笑みを浮かべてそう打ち明ける。


「ふん。おもしろくねぇやつだ…」

モギーが苛立ちを露わにする。


「そして、お嬢さんたち…」

次にファントムはアリアとマヨの方へ向かう。

そして、かがむと二人をじっと凝視する。

その顔が急接近したため、二人は身を硬くした。


「わ!そんなに見つめてどうしたの?」

アリアは驚く。


「…」

マヨはじっと見つめ返す。


「…あと5年だな」

ファントムはニヤリと笑うと背を伸ばす。


「けっ…この小娘らに手を出したら、100回殺すからな」

モギーはファントムに忠告する。


「嫌だなー!俺の対象年齢の範囲外ですから安心してくださいよ!」

ファントムはヘラヘラしながらそう軽やかに言う。


「じゃあ、俺はワンダムで「千寿龍」の討伐任務があるんで!皆さん、ゆっくりしていってくださいね!モギーさんもお達者で!」

そう言うとファントムは逃げるようにフードコートを後にした。


「ったく、道化師野郎が」

モギーがため息をつく。


「ねぇ、あと5年ってどういうこと?」

アリアが首をかしげてマヨに尋ねる。


「…あまり気にしない方がいいわよ」

マヨが静かに忠告する。


「なんか、濃い人だったね」

サシャが苦笑する。


「S級傭兵ってのはそういうものなのかもな…」

リュウが静かに頷く。


「さ、気を取り直して飯だ!あそこの空いている席に座るぞ!」

モギーは受け取り口近くの席を指さした。

そして、一同は席に着いた。


「わぁ…メニューの数がすごいよぉ…」

アリアがテーブルに置かれたメニュー表を見て目を丸くする。

分厚い羊皮紙の束には、夥しい数の料理名が記されていた。


「今まで見たレストランで一番多いな」

そのメニューの多さにはリュウも驚きを隠せなかった。


「…変なのも混じっているわね」

マヨの視線の先には「テオメロン茶漬け」や「魏膳桃とエレキエスカルゴの煮込み」と書かれていた。

その奇抜な組み合わせは、この食堂が宿屋のレストランとは異なるものだと示していた。


「そばもあるんだね!」

サシャが笑みを浮かべる。

当然のように、サシャ達がいつも宿屋で食べている、そば類のメニューも豊富だった。


「この傭兵食堂のメニューは全部で100種類メニューがあるんだ。そんじょそこらの宿屋も真っ青のレパートリーの多ささ」

モギーがにやりと笑う。

すると、遠目からアイアンホースがやってくるのが見える。


「おー!ここにいたか!」

アイアンホースが声をあげる。


「終わったか…随分と時間がかかったな」

モギーが口にする。


「いやぁ、ステューシーの奴が中々いなくてな。本拠地の中を探し回る羽目になっちまってな。ま、紋章は右手に刻んでもらったぜ」

アイアンホースがそう言い放つと席に座る


「さて、飯だな!お前ら、ここの食堂はすごいだろ!好きなもの食えよ!」

アイアンホースが笑みを浮かべてそう告げる。


「僕は何にしようかな?」

アリアはメニュー表を見て品定めをする。

すると…


「傭兵様ランチ、お待ちどう!!」

食堂の気前の良さ気な、おばちゃんが完成した料理を手渡す。


「ありがとう!!」

そして、サシャと同じくらいの年の傭兵が、色々な料理が乗ったプレートを持って自分の席に向かって歩いていくのが見えた。


「わぁ…あれいいな。なんか旗もついてるし。僕はそれにする!」

アリアが目を輝かせる。


「あぁ、あれは傭兵様ランチだな。色々なメニューが乗っているセットメニューだな」

アイアンホースが説明する。


「俺は牛そばだ…」

リュウは迷いなく、いつも食べている牛そばを注文する。


「おいおい、せっかくのフラッカーズの食堂だぞ?そばなんて、その辺の宿屋でも食べられるだろう?」

モギーが呆れたように言う。


「いや、フラッカーズの食堂だからこそです。そばも宿とかによって使っている出汁が違いますから…」

リュウは冷静に反論する。


「ふふふ…リュウらしいや」

サシャはくすっと笑う。


「意外とグルメなのね」

マヨも表情を崩す。


「けっ…やっぱ、お前らは面白いぜ」

モギーは口角を釣り上げる。


「じゃあ、僕は…」

サシャが注文しようとした時、精神世界で誰かがサシャの肩に手を乗せる感じがした。

その存在感は無視できないほど強烈だった。


「ほう。フラッカーズの食堂はワシも来たことがないからのぉ。…交代じゃ」

サシャが振り返ると、そこにはトルティヤがにやりと笑みを浮かべて立っていた。


「…え、えーっ…そりゃないよー」

サシャは落ち込んだ表情をする。


「いいから、さっさと変わるのじゃ!」

だが、無情にもトルティヤはサシャの肩を叩き、サシャの肉体はトルティヤと入れ替わった。


「…ふぅ、久々の登場じゃ」

トルティヤが目を開ける。


「お!食いしん坊がおいでなすったか」

モギーがトルティヤの姿を見て呟く。


「ほうほう、中々の品ぞろえじゃな…」

トルティヤはメニューを凝視する。


「…私はこの『傭兵バーガー』にするわ」

マヨはメニューを指さす。


「いいセンスだ!じゃあ、俺は…」

こうして、各々メニューが注文し終わる。

そして、テーブルに置いてある羊皮紙に羽ペンでオーダーを書き、受付に持っていく、そして、引換券を貰い、おばちゃんが番号札を呼ぶという仕組みだ。


「本当にフードコートのシステムね」

席に着くとマヨがどこか懐かしそうにつぶやく。


「その『フードコート』ってのはなんなのじゃ?」

トルティヤが尋ねる。


「フードコートってのはね…」

マヨは自身が住んでいた世界にあったフードコートについて語る。


「へーっ!マヨのいた世界はそんなのがあったんだ!」

アリアが関心を寄せて頷く。


「ふむ…興味深いな」

リュウが静かに述べる。


「随分と近未来的なんだな」

アイアンホースが顎に手を当て頷く。


そんな会話をしていると…


「1203番、1204番、1205番、1206番、1207番、1208番」

食堂に響くような高らかな声で番号が呼ばれた。


「ワシらじゃな」

トルティヤはテーブルの上に並べられた引換券の番号を見つめる。

そして、一同は受け取り口に足を運ぶ。


「お!アイアンホースにモギーじゃないか!この子らは社会科見学かい?」

食堂のおばちゃんが陽気に話しかける。


「トメさん、こいつらは俺たちの任務の助っ人さ。一流の冒険者なんだぜ」

アイアンホースは食事とビールが乗ったトレイを器用に片手で持つ。


「あぁ。ついでに、ここに用事があってな。そのついでに昼めしというわけだ」

モギーが親し気に話しながらトレイを受け取る。


「そうかい!少し多めにしといたから、たーんとお食べ!」

トメと呼ばれた食堂のおばちゃんはサシャ達に食事が乗ったトレイを手渡す。


「ありがとうございます!」

リュウは礼を言うとそれを受け取る。


「わぁ、美味しそう!」

アリアは口から少しよだれが出ていた。


「いい香りね…」

マヨが感想を漏らす。


「して、そこのアンタ…これを頼むなんて、中々のチャレンジャーだね」

メがニコニコしながら問いかけるも、その目は笑っていなかった。

背後には、楽しそうな笑い声と共に、好奇の視線が集まっていた。


「た、楽しみじゃのぉ。フラッカーズの食堂にあると噂に聞いた問題児メニュー…殺戮者のパスタ!」

トルティヤの目の前には鉄板に乗ったパスタがジュージューと音をたてていた。

だが、普通のパスタと異なる点がある。


まずは、ひき肉とトマトソースがたっぷり入った溶岩のように赤いソース。

鉄板で、それが熱されているのか、ソースはぐつぐつと煮だっている。

さらに、注目すべきは周囲に漂う、独特の刺激臭である。

その湯気は、まるで防護服なしで立ち入ることを拒むように、目に痛い刺激を放っていた。


「うわ…誰かが殺戮者のパスタを頼みやがった」


「俺、前チャレンジしたけど無理だったぞ」


「あれはこの世の食い物じゃねぇぞ」

フードコートにいた傭兵達は口をそろえて口にする。

その刺激臭は強烈な唐辛子や香辛料のソースに近いものがあった。


「グッドラック、冒険者!」

トメはサムズアップをすると、トルティヤを見送る。


「ふっ…こ、これくらい…たいらげてくれるわい…」

トルティヤは震える手でと礼を持ち席に戻る。

だが、反応は散々だった。


「ト…トルティヤ…それ…うっ」

その刺激臭にリュウは思わず鼻をつまんだ。


「うわっ!なんか目がしみるよぉ…」

アリアが声を上げる。


「まるで催涙ガスね…」

マヨが鼻を抑える。


「おいおい。どえらいもん頼みやがって」

モギーが鼻を抑える。


「せっかくのビールが…台無しじゃねぇか!…けどな、俺はチャレンジ精神がある奴は好きだぜ!」

アイアンホースが笑みを浮かべる。


このまま、気まずい状態になると思われた。

しかし、幸いにも、すぐに独特の刺激臭は収まってきた。


「よかった…なんか収まってきたようだ」

リュウが胸をなでおろす。


「今回は当たり個体だな」

モギーがため息をつく。


「そうだな…俺が以前、酔っ払って注文した時の奴は匂いがきつくて1週間、ポンチョから唐辛子の匂いがしてたっけな」

アイアンホースが思い出すように話す。


「目が沁みたよぉ…」

アリアが涙を流す。


「まったく、鼻が死んだかと思ったわ」

マヨがトルティヤを一睨する。


「ワ、ワシは悪くないぞ!」

トルティヤがそっぽを向く。


「まぁまぁ、いいじゃねぇか!さ、冷めないうちに食べようぜ!!」

アイアンホースが気を取り直して音頭を取る。

こうして、賑やかな昼食が始まった。


周囲の傭兵たちも、パスタの匂いが消えたことに安堵し、再びそれぞれの食事に戻っていった。


「美味しい…さすが傭兵の本拠地だけあって出汁が効いている。香りも…いい感じだ」

リュウが目をつぶり牛そばの風味を堪能する。


「わぁ…この旗がついているご飯はなんだろう?」

アリアがフラッカーズの小さな旗を外し、オレンジ色のご飯をスプーンですくう。

その横には、目玉焼きに、茶色いソースがかかった何かのフライや、俵状の肉団子、新鮮なフルーツが乗っていた。


「それは『チキンライス』だな。トマトソースとご飯、チキンをあえた料理だな」

アイアンホースが説明する。


「…美味しいわね」

マヨは傭兵バーガーを美味しそうに頬張ると感想を漏らした。

ふっくらと焼きあがったバンズからは巨大なパテが溢れ、そこからは肉汁が迸る。

トロトロのチーズと真っ赤な新鮮なトマトも良いアクセントを醸し出している。


「やっぱ、これだよな!」

モギーはサクサクに揚げた魚のフライに白いソースををつけて食べていた。

そのフライの横には、ガーリックの香りが漂うパスタが添えられていた。


「また、『フィッシュチップスパスタ』かよ…」

アイアンホースが呆れたように指摘する。


「うるせぇ。これが一番しっくりくんだよ。そういうおめぇだって、いつものアレじゃねぇかよ」

モギーがアイアンホースの皿を見つめる。


「そういえば、アイアンホースさんのそれは?」

リュウが尋ねる。


「こいつは『皇帝豚(エンペラーポーク)のかつ丼』だ。こいつとビールの組み合わせがたまらねぇんだ!」

アイアンホースはビールを一口飲むと、かつを口に入れ、堪能する。


「むむむ…」

一方で、トルティヤは、パスタを絡めとったフォークを口の手前で停止させた状態で固まっていた。

その額には脂汗がにじんでいた。


「おい!まさか、ここに来て臆してるのか!?」

その様子を見て、モギーがにやりと口角をつりあげる。


「お、臆してなどおらぬわ!」

そう言うと、トルティヤは意を決してパスタを口に含む。

だが、次の瞬間…


「ぐぎゃぶぉぎゃあぎぃ!!!」

次の瞬間、トルティヤの顔面は火山のように真っ赤に染まった。


殺戮者のパスタの味は、とにかく辛かった。

厳密には辛さの中に酸味があり、独特の味わいだった。

火を吹くような辛さがトルティヤを襲う。


「…み、水!!」

トルティヤは近くに置いてあった水を一気に飲み干す。


「ダッハッハッハッハ!!こりゃ傑作だ!!」

アイアンホースはトルティヤの慌てようを見て大爆笑する。


「違いないな!ガハハハハハハ!!」

モギーも大笑いする。


「トルティヤが真っ赤だよぉ」


「ふふふ…」


「かっこつけるからよ…」

それを見た、リュウ、マヨ、アリアも笑いに包まれる。


「普通に美味しそうなもの食べればよかったのに…」

精神世界からサシャが呆れた様子でトルティヤを見つめていた。


こうして、賑やかな昼食の時間は過ぎ去って行った。

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