第131章:通達
一方、大陸各地にいる、一部の傭兵達の元へ、風を切り裂き伝書梟を通じて連絡が飛んでくる。
「…!!」
「どうしたんですか、兄貴?」
「…すまない。残りの任務頼めるか?急いで淘气 に戻らねばならない理由ができた」
「ええーっ!?何があったんですか?」
ある傭兵はその知らせを読んで顔色を変え、任務を部下に任せる。
「へぇ。面白いじゃない…私も参加しようかしらね」
ある傭兵はその知らせを読んで不敵な笑みを浮かべ、闘志を燃やす。
「こんなのやるしかねぇだろう!!野郎ども!淘气 に行くぞ!」
「兄貴がS級に!」
「そしたら、俺たちもウハウハだ!!」
ある傭兵は自身の名誉のために挑戦しようとしていた。
そして、朝陽が登った淘气 の風景を、ベルクートは執務室からじっと眺めていた。
茶褐色の街並みから立ち上る白い蒸気が、朝の光にキラキラと反射している。
「(さて、この1週間で何人集まるだろうか?)」
ベルクートは昨日の会議のことを思い出す。
昨日のS級傭兵が一堂に会した会議にて。
『参加資格はA級傭兵のみ。参加するかどうかは本人の自由…どうだ?』
アイアンホースがきっぱりと口にする。
『ふむ…確かにA級傭兵なら全体でも80名ほど。選出にも時間はかかりませんし、実力も申し分ありませんね』
ダストが納得したように頷く。
『けっ、眼帯のくせにいいアイデア出すじぇねぇかよ』
モギーはにやりと笑う。
その顔には賛同の色が浮かんでいた。
『あぁ…美男美女の件は…?』
ファントムは恐る恐る尋ねる。
『はいはい。それはもういいじゃんね』
マリは冷静にツッコミを入れる。
『ふむ。では決まりだな。ざっくりとまとめると…』
ベルクートはそう言いながら、会議室内にある黒板にチョークで内容をまとめる。
『まず、S級昇格試験への参加資格はA級傭兵全員とする』
ベルクートはカツンという音を響かせながら、チョークで力強く書く。
『続いて、エントリー期間に1週間の猶予を設ける』
ベルクートは続けてチョークで書く。
『ま、遠くに行っている奴でも1週間もあれば帰ってこれんだろ』
アイアンホースが呑気に言い放つ。
『隣の大陸に行っている奴の話は聞かないじゃんね。どこかの誰かさんと違ってさ』
マリがダストを鋭く見つめる。
『ふん』
それに対してダストが鼻を鳴らした。
『予選は、第六演習場にて行う…と』
ベルクートは続けてチョークで書く。
『懐かしいな。俺は二度…いや、三度か?殺されかけたっけかな』
モギーが遠い目をして回想する。
『ほざけ、俺は十回は死にかけたぜ』
アイアンホースが笑いながら異論を唱える。
『あー質問いいですか?…死人が出る可能性は?』
ファントムは恐る恐る尋ねる。
『ありえる』
それに対してベルクートはあっけらかんと答えた。
彼の声には一切の迷いがなかった。
『ですよねー!!けど、いいんですか?曲がりなりにもA級傭兵ですよ?損失は組織にとっても痛いと思いますが…?』
ファントムが懸念を表明する。
『第六演習場に入る前に同意書を書かせる。入る前のリタイアも認める。それでも、入るというのならば、彼らの覚悟を見届けねばならない…むしろ、S級ならば、第六演習場の試練程度は乗り越えてもらわねば困る』
ベルクートは鋭い眼光を輝かせて断言する。
『筆頭の言う通りです。この予選で死ぬようであれば、それまでの人材。強者とは試練を乗り越えた先に生まれるものです』
ダストは淡々と同意した。
『ま、まぁ、お二方がそういうなら…』
ファントムはため息をつくと口を閉じる。
『そして、対象の宝箱を時間内に持っていた8名が決勝トーナメントで対決。優勝者と準優勝者が新たなS級傭兵…といった感じだな』
ベルクートが黒板からチョークを離す。
まとめると…
・参加資格は全てのA級傭兵
・エントリー期間として1週間を設ける
・予選は第六演習場にて宝箱争奪サバイバルとし、制限時間まで対象の宝箱を持っていた8名が決勝進出
・決勝はトーナメントにて決闘とし、準優勝者と優勝者が新S級傭兵となる
これが最終的な結論だった。
『ま、これが落としどころだな』
アイアンホースは案に納得する。
『適切ですね』
ダストが静かに同意する。
『まぁ、いいでないの?』
モギーがニヤリと笑みを浮かべる。
『アタイも賛成だ』
マリが賛同の意を示す。
『では、明日にでも該当団員に通達。ならびに本部にて通達を交付するとする。皆、協力感謝する。引き続き、各自任務にあたってくれ』
ベルクートは笑みを浮かべ、5人に感謝の意を伝えた。
そして、今。
ベルクートは室内に視線を戻すと執務室のテーブルに立てられた写真を手に取る。
写真には若き日のベルクートと、銀髪の凛々しい男性、赤髪が美しい女性が無邪気な笑みで映っていた。
三人の間には深い絆と、若さゆえの荒々しいエネルギーが感じられる。
「お前ら。S級選抜試験が始まるぞ。50年前、お前らと共にS級傭兵に昇格した日が懐かしいな。俺がそっちに行ったら、また三人で飲もう」
ベルクートはどこか寂しそうに、懐かしそうにそっと語りかけた。
こうして、淘气 に騒乱が巻き起ころうとしていた。
その頃、サシャ達はアイアンホースとモギーの案内でフラッカーズの本拠地の近くにある建物の屋上に来ていた。
「じゃじゃーん!!あれが俺たちの城だ!!大きいだろ?」
アイアンホースは自慢するように声を弾ませる。
「あれがフラッカーズの本拠地…」
サシャはその広さと大きさに目を丸くする。
「あの土地が…全部か!?」
リュウは開いた口が塞がらない。
「わぁ…まるでひとつの国みたいだよぉ」
アリアは目を輝かせている。
「規模がすごいわね」
マヨも思わず目を丸くする。
それは街の一角に突然現れた巨大な要塞だった。
周囲は底が見えない深い堀が巡らされ、周囲は高い塀が覆っていた。
いくつもの建物が立ち並び、遠目には訓練用の中庭やアスレチック、ランニング用のトラックまで見えた。
さらに、その奥には深い森が広がっており、何故か厳重に金網で仕切られていた。
「ま、鉄壁の城塞だな!!淘气 自体も強固な城壁で覆われているが、フラッカーズの本拠地は更に強固な城壁と深い堀で囲まれてるからな!!トリア帝国の軍隊でも簡単には落とせねぇぜ!!」
アイアンホースが胸を張る。
「ま、実際に見た方が早いな。おめぇらついてこい」
そう言うとモギーは屋上の階段を下っていく。
そして、一同はモギーの後をついていく。
「しかし、いいんですか?部外者は立ち入り禁止じゃ?」
サシャは気になっていることをモギーに問いかける。
「本来はな。だが、今回は俺様が旦那から直々に許可をもらってきたから大丈夫だ。そこの嬢ちゃんの武器の件があるからな」
モギーはマヨの背負っている散弾銃に視線を向ける。
「まぁ、そのついでに色々と見せてやるよ!普通の冒険者が本拠地の中を見れるなんて滅多にないんだぜ!!」
アイアンホースがにやりと笑う。
こうして、一同は階段を降りて、フラッカーズの本拠地があるゲート前に辿り着く。
「アイアンホースさん、モギーさん、ご苦労様です!!」
守衛の傭兵達が敬礼する。
「おう!ご苦労ご苦労!!客人を連れてきた。通してもいいな?」
モギーはそう尋ねると、懐から通行許可書を取り出す。
「はい!確かに!お通りください!」
衛兵が道を開ける。
「ありがとさん」
モギーは礼を言うと門を進む。
サシャ達もモギーの後に続く。
「これから任務だ」
「俺はトリア帝国で貴族の護衛だぜ…」
「ワイは浮気の探偵代行…戦いじゃねぇのかよ…」
門の中では様々な傭兵達が行きかっていた。
会話の内容から任務の多様さが伺える。
そのほとんどが、テンガロンハットにポンチョという特徴的な恰好をしていた。
「そういえば、気になっていたのですが、テンガロンハットとポンチョというのはフラッカーズの制服…か何かなんですか?」
リュウがアイアンホースに質問を投げかける。
「まぁ、制服というかトレードマークというか…支給される装備だからなぁ」
アイアンホースはリュウの質問に頭を悩ませる。
「俺は自慢の髪形が崩れるから、帽子はその辺のサボテンに被せてやった。つまり、特に決まった制服はない。代わりに… 」
モギーがそう打ち明けると、右手を突き出す。
すると、フラッカーズの赤い紋章がジワリと浮かび上がってくる。
「フラッカーズに入団するとき、手に、この紋章を刻まれることになる。これがフラッカーズの証だ」
モギーがそう説明すると右手を下げる。
「それに、階級によって紋章の色も変わる。俺たちS級は赤色だ。カッコいいだろ!?」
アイアンホースが自慢げに付け加える。
「そういえば、眼帯。お前、新しい刻印は刻んでもらったのか!?」
モギーがアイアンホースに尋ねる。
「…」
アイアンホースが一瞬フリーズする。
「あ!!やっべ、忘れてた!!!」
そして、アイアンホースは思い出したかのように大げさに叫ぶ。
彼の紋章は左手に刻んでいたが、その左手はレッドベリアルの不意打ちで失ってしまったのだった。
「ったく…小僧共の面倒は俺が見ておくから、ステューシーのところに行ってきやがれ。紋章がないと色々と厄介だぞ?」
モギーは悪態をつきながらも、気遣いの言葉をかける。
「わるいな、今度、ビール奢るぜ!お前ら、モギーの言うことを聞くんだぞ!!」
アイアンホースはそう声を残すと、足早にどこかへ行った。
「慌ただしいなぁ…」
サシャはその様子を遠目に眺めた。
「いつものことだ。さ、フラッカーズ本拠地の見学ツアーの始まりだ。お前ら、しっかりとついて来いよ」
モギーはそう宣言すると歩き始める。
「はい!!」
サシャ達はモギーの後を慌ててついていく。
「えいや!とおっ!」
「的に狙いを定めて…」
「お前、実践だったら、あの世行きだぞ?」
中庭ではサシャ達と同じくらいの年齢の子達が自主トレーニングをしたり、先輩の傭兵から指導を受けている様子が見えた。
砂利の擦れる音、剣が木人を叩く音、そして指導の怒声が、訓練場の熱気を物語っている。
「おうおう、ひよっこ共は今日も元気だな」
モギーはその様子に満足するように頷く。
「あの子たちもみんな傭兵なの?」
マヨがモギーに尋ねる。
「あぁ。フラッカーズは16歳から入団を受け付けている。未経験者歓迎!出身や前科の有無は不問!やる気と根性さえあれば誰でもウエルカム!それがフラッカーズなのさ」
モギーが説明する。
その時だった。
「あっ!!なんでお前がここにいるんだ!!」
一人の少年傭兵がサシャ達の目の前に現れる。
「…!!」
リュウはその姿に目を丸くする。
「おう、おめぇは確かマリんとこの小僧じゃねぇか」
モギーが声をかける。
「ポージャです!!モギーさん!」
ポージャはそう言いながらモギーに深くおじぎする。
「…君は確かドミノホテルにいた」
サシャはサージャスのドミノホテルでの出来事を思い出す。
彼は、マリと共に悪徳商人であるザッカーの護衛をしていたのだ。
「そうだ。あの時は世話になったな!おかげでこっちは大変だったんだぞ!」
ポージャは悔しさを滲ませる鋭い視線をサシャ達に向ける。
「…あの時の恨みを晴らしに来たとでもいうのか?」
リュウがポージャに尋ねる。
「傭兵にとって任務失敗は恥だ!!だから…せめてお前を倒して失敗を挽回する!!」
そう言い放つとポージャはピストルを取り出す。
「ちょっと…僕たちは今、用事でここに来ていて…」
アリアが事情を話そうとするが、モギーが面白そうに反応する。
「いいじゃねぇか!リュウ!この小僧の喧嘩相手になってやれよ!」
モギーは何故か乗り気だった。
「よし!!」
その言葉を聞いてポージャは小さくガッツポーズをする。
「どうしてこうなる…俺はいいとは言ってないぞ…」
リュウはため息をつく。
「なんだよ?逃げるのか?」
ポージャはリュウに挑発的な言葉を投げかける。
だが、それに対してリュウは刀を抜く。
「ふん、馬鹿を言え…受けないとも言っていない」
リュウは不敵な笑みを浮かべる。
「決まりだな。そこの演習場に来いよ」
ポージャの案内で一同は中庭にある演習場に向かう。
中庭にある演習場。
地面は丁寧に整備され、隅っこには木人や整備用具が整理整頓されて置かれている。
演習場の周囲には、砂が撒かれた赤茶けた土が広がり、摩擦に強いことが伺える。
その中央にリュウとポージャが向かい合う。
「いいか小僧共。どっちかが降参するか気絶した時点で終わりだ。間違っても殺すんじゃねぇぞ」
モギーが二人の戦いを監督する。
「分かってますよ。モギーさんじゃないんだから…」
ポージャは最後に小声でぼそっとこぼす。
「あん?なんか言ったか?」
モギーがポージャを睨みつける。
「なんでもないですよ。リュウ、準備はいいか?」
ポージャはリュウに視線を向ける。
「いつでもいいぞ」
リュウは荒覇吐流の構えを取る。
「まさかこんなことになるなんて…」
サシャは演習場にある観客席で戦いを見守る。
「けど、こんな広いところで決闘なんて…なんかドキドキするよぉ」
アリアはどこかワクワクしている様子だった。
「まるで中世の決闘ね。二人のお手並み、見せてもらおうかしらね」
マヨは腕を組み、じっと二人を見つめる。
すると、演習場に新人傭兵達が数人入ってくる。
訓練の手を止め、興味津々な様子で集まってきたのだ。
「お!決闘だ!!」
「冒険者が相手か!これはいい勉強になるぞ!」
「ポージャ先輩と…剣士さんかな?」
傭兵の卵達は戦いの始まりを今か今かとワクワクしていたようだった。
演習場に一陣の風が吹く。
それが、決闘を告げる合図だった。
「はじめっ!!」
モギーが戦いの合図を出す。
「先手必勝!!液体魔法-せめんとすぱいだー-」
ポージャが魔法を唱えると、セメントでできた蜘蛛がリュウに近づく。
蜘蛛は巨体だが素早い動きで這ってくる。
「それくらい!!」
リュウは動じることなく、その蜘蛛を刀で真っ二つにする。
「べちゃ!!」
しかし、蜘蛛が真っ二つになった途端、灰色の液体がリュウの体にかかる。
「へっ!引っかかったな!」
ポージャは勝ち誇った顔をする。
「この液体がなんだというのだ…」
リュウは意にも介さず、刀を構えてポージャに突撃する。
「荒覇吐流奥義・剛鬼!!」
白いオーラがリュウの刀身にまとわりつく。
そして、落雷のような斬撃がポージャを襲う。
「もう当たらないよ!!」
ポージャはすんでのところで回避した。
と思った。
「スパン!」
ポージャのポンチョが縦に斬れる。
そして、ポンチョがはらりと地面に落ちる。
「なっ!」
ポージャは顔を赤くする。
「以前もポンチョを斬られてたな」
リュウはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「くっ…!!一度ならず二度までも…もう怒ったぞ!」
ポージャは激高すると、魔法を唱える。
「液体魔法-うぉーたーれいぶん-」
次の瞬間、ピストルの銃口からカラスを模した無数の水塊がリュウに向かって放たれる。
「(回避できる)」
リュウは冷静に回避を試みる。
しかし…
「なにっ!?」
先ほど、灰色の液体がかかった部位が固まり、思うように動かせない。
そのせいで、回避が遅れてしまった。
「ばしっ!!」
水塊がリュウの左腕を穿つ。
「くっ!」
リュウは苦痛に顔を歪ませる。
「効いてきたようだな…」
ポージャはニヤリと口角を釣り上げる。
「さっきの液体…時間経過で固まるのか」
リュウは冷静に固まった部位を刀の柄で砕く。
砕けたセメントの破片が砂利の上に散らばる。
「その通り!!俺の液体魔法はあらゆる効果を付与する液体を操る魔法…なめない方がいいぜ!」
ポージャが自信を持って宣言する。
「ふん…よく分かった。ならば、今度はこっちから行くぞ」
次の瞬間、リュウが素早い踏み込みを見せる。
地面の砂利がわずかに舞い上がった。
「(え?はやっ)」
ポージャの反応が一瞬遅れる。
「はぁぁぁぁっ!!」
リュウは素早い斬撃を繰り出す。
「危ないよ!!」
ポージャはかろうじでよける。
そして、後転し距離を取りピストルを構える。
「液体魔法-あしっどおおかみ・むれ-」
次の瞬間、ドロドロとした液体を纏った三匹の狼がリュウを囲む。
「(これは確か、酸性の液体をまとっている。うかつに近づくのは危ないな)」
リュウは以前、この魔法の攻撃を受けて腕に火傷を負ったことがあるのだ。
その経験から警戒を強める。
「どうだ!これで近づけないだろう!!」
ポージャは勝ち誇った表情をする。
「ガウ!!」
次の瞬間、三匹の狼はうなり声をあげてリュウに襲い掛かる。
「意外とすばしっこいな…」
リュウは襲い掛かる狼を回避する。
「今だ!!」
そして、ポージャはリュウに向けてピストルの標準を向ける。
「ダダダダダン!!」
無数の水の塊が放たれる。
「相変わらず厄介だな…」
リュウは素早い動きで攻撃を回避する。
地面には大きな穴が空く。
「こっちだって修行したんだ!今度は負けないぞ!」
ポージャが気合を入れる。
「ちょっと…リュウ、押されているじゃない」
マヨが低い声で状況を評する。
「大丈夫。リュウはこんなものじゃないよ」
サシャの目にはリュウに対する絶対的な信頼が浮かんでいた。
「ガルルルル!!」
そして、三匹の狼はリュウを囲む。
「囲まれたか…」
リュウが周囲を見渡す。
「どうやら、ここまでのようだね!さ、終わりだ!」
ポージャが合図を出す。
三匹の狼は一斉にリュウに飛び掛かる。
「…終わり?いや、これを待っていたんだ」
リュウはいつの間にか居合いの体勢になっていた。
彼の全身から、張り詰めた集中力が放射されている。
「(あの小僧…居合術を使う気か?)」
モギーはリュウの体勢に目を丸くする。
「はぁぁぁぁ…」
リュウは深く息を吐く。
そして…
「スパァァァン」
まるで空間を斬り裂くような一閃が三匹の狼を真っ二つに斬り裂く。
三匹の狼は断末魔をあげる間もなく、気体となり消えて行った。
「なっ…」
その技を見たポージャは驚き口をあんぐりとする。
「…もういいだろう。終わりにするぞ」
リュウはそのままポージャに走っていく。
「くっ…液体魔法-ぐつぐついのしし-」
ポージャは慌てて魔法を唱える。
「ブルルル…」
ピストルの銃口から紅蓮に染まったイノシシがリュウに向かって突進してくる。
その体はマグマで、ぐつぐつと煮えたぎり、熱した鉄のような蒸気が立ち上っている。
「荒覇吐流奥義・蒼月 !」
リュウの凄まじい袈裟斬りが炸裂する。
「スパァァァン!」
マグマでできたイノシシは斜めに両断され消滅する。
「なっ!次の魔法を…」
ポージャは慌てて次の魔法を発動しようとする。
だが、もう遅かった。
「うっ…」
ポージャの喉元にリュウの刀の切っ先が向けられていた。
微かな風切り音が、決着を告げる。
「…俺の勝ちだ」
リュウが勝利を宣言する。
「ふん、リュウの勝ちだな。文句はないな?ポージャ」
モギーがリュウの勝利を告げる。
「…はい」
ポージャは渋々承諾する。
「…前よりも強くなっていたな」
リュウはニヤリと笑みを浮かべ、ポージャに賛辞を送る。
「うるさい!また、俺のポンチョを切り裂きやがって!」
ポージャはムキになり反論する。
「どっちもすごかった!!」
「荒覇吐流…おじいちゃんから話を聞いたことがあったけど、こんなにすごいなんて!」
「ポージャ先輩もあんな強力な魔法を連発するなんて!」
見学していた新人傭兵は立ち上がり一斉に二人を称える拍手をする。
「リュウ…さすがだよ!」
サシャが拍手を送る。
「リュウが勝ったよぉ!」
アリアが嬉しそうに声を上げる。
「強いわね」
マヨは静かに拍手をする。
「…(騒がしいと思って様子を見てみたら、小僧め、とんだ茶番をしおって。じゃが、着実に強くなっておる。ヒルコを越える日も遠くはないかもしれぬのぉ)」
トルティヤはサシャの精神世界から決闘の様子をそっと覗いていたのであった。
こうして、リュウとポージャの唐突な決闘はリュウの勝利で幕を閉じた。




