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第127章:エスケープ

「何がなんだかさっぱり分からねぇ…レッドベリアルの連中を撃破した後に、道なりにきたら、ここに着いたってわけだ」

アイアンホースが、苛立たしげに状況を説明する。


「俺もだ。この不気味な水槽を蹴ってみたが、びくりとも動きやしない」

モギーが水槽を軽くノックする。


「奥の扉には鍵がかかっていて入れない…サシャ、お前の魔法なら…」

リュウがサシャに目配せする。


「あ、そういえば、鍵を手に入れたんだ。もしかしたら、これで開くかもしれない」

サシャは亜空袋(ポータルバッグ)から、先ほど手に入れた銀製の鍵を取り出す。


「随分と素敵な鍵ね。だけど、そんな鍵一本で、あの門が開くのかしら?」

マヨは、門の巨大さに対し、鍵の小ささに首をかしげる。

確かに、門の大きさ的に鍵一本で開くとはとても思えないようにも見える。


「ま、やってみよう」

サシャはそう意気込むと、門に近づく。

そして、天使の装飾が施された錠前に、ゆっくりと鍵を差し込んだ。


「カチャリ…」

静かな部屋に、錠前が外れる澄んだ音が響く。

そして、錠前は粉雪のように霧となって消えると、青白く輝く巨大な門が、荘厳な音を立ててゆっくりと開かれた。

目映い閃光が、部屋にいた一同を包む。


「うわっ!眩しい!!」

サシャは思わず腕で顔を庇う。

それと同時に、水槽の中を遊泳していた無数の光の魚のようなものが、まるで解き放たれるように次々と門の外へと飛び出していく。


「おい!何がどうなってやがる!?」

アイアンホースが叫ぶ。


「俺に分かる訳がねぇだろう!」

モギーが目を覆いながら応じた。


「うっ…目がチカチカするよぉ」

アリアは目をつむる。


「…っ」

リュウは、その強烈な光をじっとこらえていた。


そして、数分の静寂が過ぎる。


「ザザザーッ…」

サシャの耳に、規則正しい波を打つ音が聞こえる。


「…ここは一体?」

サシャは、ゆっくりと目を開ける。


「…現実世界…なのか?」

リュウが周囲を警戒しつつ見渡す。


「…スンスン。草木の香りがする!」

アリアは、土と湿った草木の匂いを深く感じ取る。


「やっと帰ってきたか…」

モギーは、深々と安堵の息を吐く。


「…」

マヨは、じっと眼前の湖の方を見つめる。


「どうやら、現実世界に帰ってきたようだな…にしても、ここは?」

アイアンホースが辺りを見渡す。


前方には、夜霧に覆われ、水面が鈍く光る八宝湖が広がり、後方には雨風によってボロボロに朽ちた洋館がひっそりと建っていた。

サシャ達がいるのは、湿った土と草に覆われた湖畔のようだった。


「…洋館?けど、ただの廃墟のようだね」

サシャは近くの洋館を少し覗き見るが、雨風によってボロボロに朽ちた普通の洋館だった。


「波の方向から、湖の北側のようだが…」

アイアンホースが八宝湖の様子から北側にいることを察知する。


「それが分かったら、さっさと龍飯(ロウハン)行くぞ!そんなに遠くないだろう」

モギーは我先にと、近くにある朽ちた階段を登って行った。


「そうね。レッドベリアルはまだ壊滅していないはずだもの…」

マヨもそう判断するとモギーについていく。


「ふっ…やれやれ…」

リュウも二人についていく。


「わぁ、待ってよぉ!!」

アリアが慌ててついていく。


「みんな、せっかちだな…」

サシャは呆れつつ、仲間たちの後を追った。


「おいいおい。そっちが正しい道かどうか分からないだろうよ」

アイアンホースが前へ進もうとした、その時だった。


「こんばんは…」

アイアンホースの背後に、水面を滑るように音もなく人影が現れる。


「!!(誰だ?一切の気配を感じなかった!)」

アイアンホースは冷や汗をかくと、腰のピストルに手をかける。


「…魔法…」

だが、それより先に人影の手が、蛇のように素早くアイアンホースの手に触れた。


「っち、この野郎が!!」

アイアンホースは咄嗟にその人影を蹴り飛ばす。


「ドカッ!!」

人を蹴った確かな感触が伝わる。


「アイアンホースさん!?」

一瞬遅れて、騒動に気が付いたサシャがアイアンホースの元に駆け寄る。

そして、他の面々も慌てたように引き返してくる。


「おやおや。こんなに大勢いるとは」

すると、先ほど蹴られた人物が、余裕綽々といった様子でゆっくりと起き上がる。

その服装は赤いマントを羽織り、赤茶色のロングヘアを三つ編みにした中性的な容姿をした美青年だった。


「お前は…誰だ!?」

リュウが刀を向ける。


「…レッドベリアル!!」

マヨの表情が怒りに満ちる。

それと同時、散弾銃の銃口を男に向け、間髪入れずに引き金を引く。


「ズドーン!!」


「わぁ!!なにこの武器!?」

アリアはマヨの武器に目を丸くしていた。


「(こいつはピストル…いや、違うな)」

モギーがマヨの武器に首をかしげる。


「毒魔法-破那盾(はなたて)-」

だが、男は魔法を詠唱し、自身の目の前に薄紫色の小さな結界を張った。


「バシュッ!!」

その結界に、マヨが放った銃弾は受け止められると、瞬く間に溶岩のように溶けて消えてなくなった。


「っ!!(防がれた!?)」

マヨは自身の攻撃が防がれたことに驚きを隠せない。


「まずは、人の話を聞きましょうよ。それと気づいていると思いますが…」

男はアイアンホースの腕を指さす。


「ちっ…はったりだと願いたかったが…」

アイアンホースが舌打ちをする。


「お前…その腕!!」

モギーが目を丸くする。


「アイアンホースさん!!?」

サシャがその様子に言葉を失う。


「これは…毒か!?」

トルティヤは、その異様な様子を精神世界から見つめる。


「このままだと、全身に毒が回って死にますよ?」

男は、ねっとりとした笑みを浮かべ、楽しげにそう宣言する。


「へっ…それがどうした。そうなる前にお前を仕留めてやるよ」

アイアンホースの左手には、禍々しい刻印が刻まれ、その毒々しい紫色は肘の辺りまで急速に広がり始めていた。


「眼帯。下がっていろ。俺がやる…!」

すると、その様子を見ていたモギーがアイアンホースにそう指示する。

そして一歩前に出る。


「おいガキ!こっちは6人。そっちは1人…勝ち目があると踏んでいるなら、随分と余裕じゃねぇかよ!」

モギーは背中のピストルを構えると、男に狙いを定める。


「そうだ…僕らだってやれる!!」

サシャは双剣を抜く。


「うん!!」

アリアは弓を構える。


「いつでも斬り捨てられるぞ」

リュウは既に刀を抜刀していた。


「…次は防がせない」

マヨは、持っていた散弾銃に特殊な弾丸らしきものを詰めていた。


「んー…確かにそうだね。ま、フラッカーズのS級傭兵の腕をもっていっただけ、上出来ということにしよう。今日は挨拶代わりだ」

そう(うそぶ)くと、男は魔法を詠唱する。


「逃がすか!!火魔法-雄羅雄羅蛮火(おらおらばんか)-!!」

モギーは、炎を纏った鎖付きの杭を電光石火の速さで飛ばす。

しかし、男の魔法の方が僅かに早かった。


「毒魔法-枯霧葬(こむそう)-」

次の瞬間、男の周囲に地を這うような紫色の霧が立ち込める。

それは、男の姿を完全に消すかのよう不気味に漂う。


「バフッ!」

モギーの杭は霧を突き抜ける。

攻撃が当たった感触はなかった。


「ちっ…!」

モギーはリールを巻き、鎖を回収する。


「待て!!」

リュウが追おうとする。

しかし…


「待ちな小僧!!あの霧は毒性の霧だ!突っ込んだら、眼帯と同じ目に遭うぞ!?」

モギーが大きな声で警告する。


「…くそっ」

モギーの警告を聞くと、リュウは足を止め、鞘に刀を収める。


そして、しばらくすると毒霧が晴れる。

だが、男はもうそこにはいなかった。


「…アイアンホースさん!!」

サシャは、ハッとしたような表情を見せアイアンホースに近づく。


「…へっ。下手うっちまった…な」

アイアンホースの額には大粒の脂汗が浮かんでいた。

そして、先ほどの毒の影響は、既に左腕全体に及んでいた。


「急いで医者に…!」

サシャが焦燥と共に口にする。

しかし、モギーが静かに首を横に振る。


「八宝湖の北側に医者はいねぇ。没有(メイヨー)に小さな診療所があるが、そこまでは距離がありすぎて、先に眼帯が死んじまう…そうなると…やれることは一つだな」

すると、モギーは太ももから鋭利な刃を持つ大型のナイフを抜く。


「え?モギー…さん?」

アリアは、事態の深刻さに、心配そうな表情でそれを見つめる。


「まさか…」

マヨは息を呑む。


「へっ、ひと思いに…やってくれ。モギー」

アイアンホースはモギーにそうとだけ頼み込むと、近くの切り株に左腕を平らに置いた。


「おう…恨むんじゃ…ねぇよ!!!」

モギーはナイフを頭上高く振り上げる。

その手は心なしか、僅かに震えていた。


「ち、ちょっと待って!!他に方法が…」

サシャは止めようとした。

しかし、精神世界でトルティヤがそれを強い口調で制止する。


「…小僧。傭兵には傭兵のやり方がある。ワシらが口出しをするのは野暮というものじゃ。それに、あの毒は見たところ特殊なものじゃ。今のワシでも治せるか分からぬ。それほど危険で強力なものじゃ」

トルティヤがサシャを説得する。


「くっ…」

サシャは悔しそうに、その残酷な光景を見つめるしかなかった。

そして、その瞬間が訪れる。


「ザシュッ!!」

ナイフが振り下ろされると同時に、アイアンホースの左腕が鈍い音を立てて宙を舞った。


「ぐぅぅぅぅ…!!」

アイアンホースは、顔を真っ赤にして歯を食いしばる。

その表情は極度の苦痛に満ちていた。


「堪えろ!!気合いだ!気合い!!」

モギーはポーチから回復薬を取り出すと、躊躇なくそれを豪快にアイアンホースの左腕の断面に浴びせかける。


「…壮絶だ」

リュウは、その光景に思わず言葉を失い息を呑んだ。


「アイアンホースさん…」

サシャは、仲間の命がけの処置をただ眺めていることしかできなかった。

そして、モギーは手際よく止血帯を巻き、しっかりと縛り上げていく。


「これでいい…毒の部分は斬った。死にはしないだろうよ」

モギーは安堵を滲ませてそう告げた。


「あ、ありがとうよ…おかげで…死なずに済んだぜ」

アイアンホースは、肩で息をしながらそう応じる。

次の瞬間、地面に転がったアイアンホースの左腕が、激しく泡立ちながら液状に溶け始めた。


「わっ!腕が溶けちゃったよぉ!」

アリアは、毒の強さに目を丸くする。


「相当、強い毒だったみたいだね…」

サシャは、毒の威力に背筋に寒気を感じた。


「…この世界の魔法ってなんでもアリなのね」

マヨが、少し引きつった表情でそれを見つめる。


「俺は平気だ…行くぞ…また、襲撃があるかもしれんしな」

アイアンホースは、残った右手で切断面を軽く抑えながら、ゆっくりと立ち上がる。


「無理しないでください!」

サシャがアイアンホースの身を案じる。


「ありがとうな。だが、大丈夫だ。この状態でもビール樽1個分は飲めるぜ」

アイアンホースは苦痛を隠すように笑みを浮かべ、親指をサムズアップして見せた。

その様子に、サシャ達は張り詰めていた糸が緩むように安堵の表情を浮かべた。


そして、サシャ達は古びた階段を登る。

登った先には、道があり、東側は、目的地の龍飯(ロウハン) に続いているようだった。


龍飯(ロウハン) は、こっちだな…」

モギーが先頭を進む。


「あぁ。とりあえず、龍飯(ロウハン) に行けば…報告ができるからな」

アイアンホースは右手で切断面を抑えながら歩く。

まだ、痛みがあるのか、その表情は時折苦痛に引きつっていた。


「ねぇ」

その時、マヨが唐突に口を開く。


「どうしたの?」

サシャが驚いて答える。


「これからどうするの?」

マヨがサシャ達に尋ねる。


龍飯(ロウハン) で、一旦俺たちのギルドに報告をする。それがどうかしたのか?」

アイアンホースが不思議そうな顔でマヨを見つめる。


「そう。それなら、私はここで失礼させてもらうわ。レッドベリアルを追っているから、追わないのなら、あなた方に用はないわ…」

マヨが、何の迷いもなくその場から去ろうとする。


「え!?ちょっと待ってよ!そんないきなり…」

サシャは慌てて引き留めようとする。


「そうだよぉ。せっかく仲良くなったんだから」

アリアがしょんぼりとした表情を見せる。


「私は…別に慣れ合うつもりなんてないから…」

マヨはそのまま歩みを進める。

だが、モギーが鋭い視線を向け口を開く。


「おいおい、お嬢ちゃん。まさか、俺たちがこのまま引き下がるとでも思っているのか?」

モギーが不敵な笑みを浮かべる。


「どういうことかしら?」

マヨが足を止める。


「俺たちもな、レッドベリアルに用事があるんだよ。まぁ、目的を言ってしまえば、雇い主の娘がレッドベリアルに攫われていてな。その子を奪還するために、捜索をしているんだ。だが、今回は何の成果もなかった。つまり、レッドベリアルについては引き続き調査をすることになる」

モギーが状況を説明する。


「…」

マヨはモギーの言葉を静かに聞く。


「つまり、俺たちといれば、レッドベリアルの情報が手に入る可能性は高くなる。それに、お前は見たところ、この辺の人間じゃないだろ?それなら、一人で探索するよりも、俺たちと行動していた方が近道になると思うぜ?」

モギーがマヨを冷静に説得する。


「…確かに一理あるわね」

マヨが納得したように口にする。


「だろ?それと、お前が背負っている武器!」

モギーがマヨが背負っている散弾銃を指さす。


「そういえば、それ気になっていた!」

サシャが大きく頷く。


「なんか、すごい音だったよぉ!」

アリアが好奇心を露わにして尋ねる。


「なんで、フラッカーズでもないのに、ピストルを持ってやがるんだ?」

モギーが核心を突く。


「なんでって言われても…これが私の武器だから」

マヨが静かに答える。


「それに、ピストルじゃない。散弾銃っていうのよ。他にも…」

すると、マヨが懐の防具らしきベストから別のピストルを2丁取り出す。


「おいおい…こいつは一体どうなってやがるんだ!?」

アイアンホースが目を丸くする。


「これは一体…?」

リュウはマヨの武器に興味津々のようだった。


「これは、小型拳銃。引き金を引くと鉛弾が放たれる武器よ」

マヨが淡々と説明する。

それに対して、モギーとアイアンホースは目を丸くしていた。

そして、モギーが口を開く。


「ほう!面白い武器だな。よし、それなら龍飯(ロウハン) に寄った後に、俺たちの拠点がある淘气(タオチー)に連れて行ってやる!そこに、俺たちが使っているピストルの職人がいる。その武器のメンテナンスもできるかもしれないからな!それに、俺たちの本拠地だから、レッドベリアルの情報も流れてきてるかもしれねぇ」

モギーは二かっと笑みを見せる。


「(確かに。弾丸も残り少なくなってきた。その職人とやらに会えば、弾丸を生成してもらえるかもしれない。情報も手に入る可能性もある…それなら)分かったわ。ついていくことにするわ…」

マヨはモギーの提案に同意する。


「(やった!!)」

サシャはその言葉に内心、嬉しさを噛みしめた。


「決まりだな。したらば、まずは龍飯(ロウハン)に行くぞ!着いたら酒だ!」

アイアンホースは負傷を感じさせないほどのテンションで先に進む。


「そうだな!俺も喉がカラカラだぜ!」

そして、モギーがその後に続く。


「アイアンホースさん、無理しないで!」

サシャが慌てて駆け寄る。

その後ろを、リュウとアリアがついていく。


「…これが最適解だって信じているわ」

マヨはボソリと小さく独り言を漏らすと、一同の後についていく。


こうして、サシャ達は龍飯(ロウハン) を目指して歩き始めた。


一方、黎英にある館にて。

深紅のベルベットのカーテンが引かれ、赤いランプが妖しく揺れる部屋に、一人の少女がいた。

暖炉の炎が床に不気味な影を落とし、室内は独特の熱気に満ちていた。


少女は黒紫色のドレスを着こみ、金髪のツインテールをなびかせていた。

その瞳は、青色をしており、まるでアンティークドールのように無機質に美しかった。


「もぐもぐ…」

そして、その少女は光る魚のようなものを食べていた。


「うーん、まぁまぁね」

少女は咀嚼していた何かを飲み込むと、口を拭いながら評価するように口にする。

その時、部屋がノックされる。


「入っていいわよ」

少女が冷ややかな声で告げる。


「お食事中に失礼します。パンドラ様…」

扉を開けて入ってきたのは、赤いローブを着た壮年の男性だった。

頭部には複雑怪奇な冠を被り、手には木製の杖が握られていた。

その表情はどこか怯えているようにも見えた。


「あ、教祖様!どうしたの?」

パンドラと呼ばれた少女が、一転してニコニコしながら男性に話しかける。


「あの…お耳に入れておきたいことが…」

教祖と呼ばれた男が、恐怖に声が上ずり、そう口にした。


「なになに?聞かせて!」

パンドラは無垢な声で教祖に尋ねる。


「実は先ほど、ラクサから連絡がありまして…」

教祖が言葉を詰まらせる。


「うんうん」

パンドラは真顔で教祖をじっと見つめる。


「…」

だが、教祖は言葉を詰まらせ続きを話さない。

その目は、キョロキョロと泳いでいた。


「連絡がありまして…?どうしたの?」

パンドラは空気を凍らせるような低い声で教祖に問う。


「ひ、ひぃっ!その…碧天殿 (セレスティア) が、冒険者とフラッカーズの傭兵の手によって破壊されたと…さらに、パンドラ様の命で生かしておいた教義派の連中は全滅しました」

教祖は怯えた声で、そう告げた。


「へぇ。全滅したんだ。それどころか、碧天殿 (セレスティア) も崩壊…へぇ」

その言葉を聞くと、パンドラの表情が一気に硬直する。

そして…


「どいつもこいつも使えないわね!!」

次の瞬間、パンドラが怒りのままにテーブルを勢いよくひっくり返す。


「ガシャァァァン!!」

机がひっくり返り、机の上の皿が落ちて割れる。

割れた皿の破片が、赤いランプの光を反射して煌めいた。


「ひっ!お、お許しください!パンドラ様!」

教祖は尻餅をつき命乞いする。


碧天殿 (セレスティア) を守備していた連中はいいわよ。奴らは私の気まぐれで生かしてあげた存在…だけど、肝心の碧天殿 (セレスティア) を管理していた…ブイヤ?だっけ?あの子まで死んじゃうのは、誤算よ!!あの能力があるから、生かしてやったというのに…」

パンドラは、もの凄い剣幕で教祖をしかりつける。


「も、申し訳ございません!」

教祖は頭を下げ続ける。


「して、碧天殿 (セレスティア) がなくなっちゃた今、私の食料はどうなるの!?」

パンドラが静かに尋ねる。

その瞳は、先ほどの青色から血のような赤色に変わり、瞳孔は爬虫類のように縦長になっていた。


「ご、ご安心を…!当面の分のストックは用意しておりますので!!」

教祖は怯えた声でそう必死に口にする。


「…どのくらい?」

パンドラが静かに問う。


「あと、30人分…ですので、お食事15回分になります…」

教祖が静かに告げる。


「15回…わかった」

パンドラが静かにそう受け入れる。

次の瞬間、目の色が元の青色に戻る。


「それまでは、あなた達に力を貸してあげる。だけど、もしも生贄がなくなった時は…」

パンドラは教祖に近づき、無邪気な笑顔のまま耳元で告げる。


「教祖の命を真っ先にいただくからね」

パンドラは静かな声で、そう呟いた。


「は、はい!生贄え…いいえ、食事のストックも在庫から補充しますので!パンドラ様は今まで通り、安心してお過ごしください!」

教祖は慌てた口調でそう返答する。

それを聞いたパンドラは再びニコニコとした表情を見せる。


「うんうん!それならいいんだよ。昨日も話したけど、私との契約を違えないでね!」

パンドラは大きく頷く。


「承知しております…なので、引き続き、我々レッドベリアルにお力をお貸しください…」

教祖はそう懇願すると、地面に膝をつき深々と土下座をした。


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