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第126章:赤き海

「ギィィィィ…」

アリアとアイアンホース、リュウ、モギー達が戦っている頃、サシャは白い門をゆっくりと開けていた。


「わぁ…綺麗な場所だ」

門の先に広がっていた光景に、サシャは思わず感嘆の声を漏らす。


そこは、床一面が磨き上げられた大理石で出来ており、天井と壁は光を反射するような純白で染められていた。

まるで、この部屋だけが、外の遺跡と切り離された別世界の神殿のようだった。


「けど、何も見当たらない…入口もさっきの門だけだし、行き止まりかな?」

サシャが周囲を見渡すが、辺り一面、壁と天井のみで扉らしきものも何もなかった。


「なんじゃい。これだけ厳重な結界をしているから期待しておったのにのぉ…」

トルティヤががっかりと息を吐く。

だが、その時だった。


「やぁ」

サシャの背後に突如として人が出現した。

空間がわずかに波打ったような違和感が残る。


「誰だ!!」

サシャは咄嗟に後ろへバックステップを踏み、距離を取る。


「まぁまぁ、そう警戒しないでよ」

その人物は赤い服を着ており、金髪に色白の爽やかな笑みを浮かべた好青年だった。


「誰だって聞いてるんだ!」

サシャは、双剣の柄に手をかけ、警戒を怠らない。


「僕はブイヤ。この建物の管理者…といったところかな」

ブイヤと名乗った青年は、隠すことなく自己紹介をする。


「この建物の管理者…ということは、この奇妙な空間を作り出しているのも、僕たちを変な空間に誘ったのも君の仕業なのか!?」

サシャは、問い詰めるようにブイヤに尋ねた。


「まぁ、そんなところかな。教祖様が言ってたんだ「僕は特別な子」だって。だから、この碧天殿 (セレスティア) は僕が全てを支配している…例えば…」

ブイヤがそう言い放つと、魔法を唱える。


「空間魔法-ヘカトンケイル-!!」

次の瞬間、空間を裂くような音と共に、石造りのような巨大な二本の手が突如出現し、サシャを握りつぶそうと迫ってくる。


「いきなり何をするんだ!!」

サシャは双剣を抜き、迎撃に入る。

そして、双剣に自身の魔力を込めた。


「スパァァァン!!」

巨大な腕は横一文字に切り裂かれ、その断面から黒い靄になって消滅した。

サシャの双剣には、魔法が霧散した後の空虚な手ごたえが残る。


「(やっぱり魔法による攻撃…!それなら、魔法解除の性質を帯びた、この攻撃で対処できる!)」

サシャは、ブイヤの攻撃は魔法によって作り出されたものであると判断した。


「へぇ。すごいねぇ君!生贄のくせに、僕の攻撃を弾くなんて!」

ブイヤは、まるで面白いおもちゃを見つけたかのように嬉しそうな笑みを浮かべる。


「そんな余裕そうに笑っていていいの?」

サシャは、勢いのままブイヤに斬りかかる。


「うん。大丈夫!!…空間魔法-ヤブシラズ-」

すると、ブイヤの姿がサシャの目の前から、陽炎のように突如として消えた。


「え?」

サシャの双剣は虚しく空を切る。


「こっちだよ!!」

すると、真後ろからブイヤの声が聞こえる。


「どういう?」

サシャが振り返ると、そこにはブイヤが笑みを浮かべ、小さく手を振っていた。


「小僧、ワシらをこの変な迷宮に拉致したのは、恐らくこやつじゃ。用心するのじゃ」

トルティヤが、サシャに強く警告する。


「そうみたいだね…」

サシャは双剣を構え、ブイヤの出方を窺う。


「ほらほら、かかっておいでよ!」

ブイヤは、サシャを挑発するように言い放つ。


「どうせ回避するんだろ?」

サシャが、あえてブイヤに斬りかかろうとする。

だが、ブイヤがそれに応じるように魔法を詠唱する。


「いいや。場所を変えようか。空間魔法-パラレル-!」

次の瞬間、部屋が閃光と共に切り替わり、周囲は冷気に満ちた洞窟へと変わる。

足元は、薄く氷が張り付いて凍り付いていた。


「うわっ!」

サシャは足を滑らせてしまい、体勢を崩しそうになる。


「からの…空間魔法-クルーツォ-!」

次の瞬間、ブイヤの手に十字架を象った剣が握られる。

そして、それをバランスを崩したサシャに向けて振り下ろした。


「ザシュッ!!」


「ぐっ!!」

その一撃は、サシャの右肩を激しく斬り裂いた。


「もう一撃行くよ!!」

ブイヤは、なおもニコニコしながら、再び剣を振りかざす。


「そうはいかない!!」

サシャは、左手に持った刀でそれを辛うじてガードする。


「バシュッ!!」

剣と刀が衝突する甲高い音が、洞窟内に響く。


「へぇ。これもダメなんだ…空間魔法-ヤブシラズ-」

ブイヤはそう零すと、魔法を詠唱し、サシャの目の前から姿を消す。


「…全く、何をしておるか」

サシャが受けた傷を見て、トルティヤが呆れたように問いかける。


「しょうがないじゃないか。いきなり、部屋が変わったんだから…そんなの対応できないよ」

サシャは、荒い息を吐きながら問い返す。


「攻撃系の空間魔法は大したことはないのぉ。じゃが、場所を変える魔法。そして、自身の居場所を変える魔法…どちらも厄介じゃ」

トルティヤは、状況を分析して告げる。


「何かいい手はないの?」

サシャが、藁にもすがる思いでトルティヤに尋ねる。


「あの手の転移魔法は短時間に何度も使えぬ。敵が攻撃に転じた時がチャンスじゃな。それと、空間が不利なら…お主の魔法で元に戻せばいいではないか」

トルティヤが、サシャの能力を指摘し、ヒントを与えた。


「…!!…そっか!!」

サシャは、閃きを得たように大きく頷いた。

その時、サシャの背後にブイヤが、殺気もなく音もなく現れる。


「背後が、がら空きだよ」

ブイヤの手には、先ほどの刀が握られていた。

だが、サシャは冷静だった。

床に素早く手をつける。


「魔法解除!!」

サシャが魔法を唱える。

次の瞬間、空間が一瞬で切り替わり、先ほどの元の白い部屋へと戻る。


「なにっ!?」

突然、部屋が変わったことによって、ブイヤの攻撃の軌道がわずかにずれる。

ブイヤの攻撃は空を切った。


「今だ!!」

サシャは、ブイヤの攻撃の振り終わりを狙い、カウンターの如き横薙ぎを放つ。


「ザシュッ!!」

サシャが放った双剣の一撃は、的確にブイヤの腹部を深く斬り裂く。


「うぐっ…」

ブイヤの腹部から、鮮血が溢れ出した。


「よし!!」

サシャは、確かな手ごたえを感じた。


「僕に…傷をつけるなんて。やるね…」

しかし、ブイヤは余裕の表情を崩さなかった。

傷口を押さえもせず、再び魔法を詠唱する。


「空間魔法-ヘカトンケイル-」

次の瞬間、先ほどよりも無数の巨大な手が、空間から現れてサシャを襲う。


「おっとっと!数が多すぎるよ!」

サシャは回避しつつ、迫りくる手を一本一本、双剣で消していく。

だが、消しても消しても手は無限に襲ってくる。

そのうち、一本がサシャを掴んだ。


「うっ!!」

サシャは、巨大な手に動きを封じられる。


「…魔法解除」

それでも、サシャは震える手で巨大な手に触れる。


「バシュッ!!」

巨大な手が霧のように消える。


「まだだよ!!」

しかし、巨大な手による猛攻は止まらない。


「…うぉぉぉぉぉぉ!!!」

サシャは、双剣に魔力を込めて、迫りくる手を次々と斬り裂いていく。

そして、少しずつだが、前進し、ブイヤの方へと歩みを進めていった。


「ほら、頑張って!!」

その様子をブイヤは、楽しそうに見つめていた。


「うっ!(しまった…魔力が…!)」

サシャの動きが、わずかに鈍ってくる。

先ほどから絶え間なく魔力を放出し続けたためである。


「ほらほら!!」

しかし、ブイヤは攻撃の手を止めない。

無数の手がサシャを握りつぶし、押しつぶそうと迫る。


「(一気に決めるしかないか…)」

サシャは、両手に意識を集中させる。

そして、過去にトルティヤが自身の肉体に憑依していた際に使用した魔力の残滓を、双剣に集め始めた。


「(小僧め…以前もそうじゃったが、ワシが憑依した際に残した魔力の残滓を、双剣に集約しておる。ラウめ、随分と高度な技術を小僧に教えおったのぉ)」

トルティヤは、サシャのその技の取得に対して、内心で目を見張った。


1か月前 ドラゴニア王国 ラウ老師の道場にて。


「サシャ。お主の魔力は不思議じゃ。本来持っている魔力以外にも、様々な魔力が少しずつ入り乱れておる」

ラウ老師は、サシャの不思議な魔力の気質について指摘する。


「あ…僕はちょっと訳ありで、その…様々な属性の魔力を体内に貯めこめるというか…(トルティヤが憑依した時になにかやったな!!)」

サシャは、焦った表情を見せる。


「…(ワシが小僧に憑依した時に、ワシの魔力が「忘れ物」という形で残ってしまったようじゃな。それに勘づくとは。さすが、ラウじゃな)」

その様子を、トルティヤは精神世界から興味深そうに覗いていた。


「よいよい。気にするでない。それについては何も言及せぬ。じゃが、その魔力を引き出して自身の技として活用できる方法があるとしたら?」

ラウ老師が、一つの提案をする。


「そんな方法があるんですか?」

サシャが、前のめりになってラウ老師に尋ねる。


「あぁ。饒速日流(にぎはやみりゅう)双剣術。自身の魔力を引き出しつつ、流れるように相手を攻撃する双剣の流派じゃ…どうだ?覚える気はあるか?」

ラウ老師が、サシャに教えを乞うた。


「…もちろんです!是非教えてください!!」

サシャが、大きな声で力強く頷く。


「ほっほっほ。そうこなくてはな…では、まず基本からじゃが…」

こうして、ラウ老師はサシャに双剣の流派の一つ 「饒速日流(にぎはやみりゅう) 双剣術」を伝授したのだった。


そして、現在。


「ボボッ!!」

サシャの双剣に、集約された風属性、そして氷属性のオーラが激しく纏わりつく。


「えっ!?(魔力が急激に増幅された!?)」

ブイヤは、初めて警戒の色を浮かべる。


「これで…決める!!!」

サシャは、疲労を感じさせない一気の踏み込みを見せる。


饒速日流(にぎはやみりゅう)奥義・阿頼耶(あらや)!!」

そして、怒涛の勢いで迫りくる手を、サシャは迷いなく斬り裂いていく。

その勢いは、まるで巨大な竜巻のように、ブイヤの目の前まで迫った。


「これは…すごいや!!」

ブイヤは、その一撃に目を見開き、感嘆の声を漏らした。

そして…


「ズババババン!!」

風属性と氷属性による、魔力を帯びた斬撃が、ブイヤを躊躇なく縦横無尽に斬り裂いた。


「…はぁ、はぁ」

サシャは、疲労で動きを止め、全身に力を込めて後ろを振り向く。


「…うっ。まさか…これほどとは…」

そこには、サシャの奥義によって全身を風魔法で切り裂かれ、氷魔法の影響で皮膚の所々が凍り付いて地面に身を折っている、ブイヤの姿があった。

彼の赤い衣装は血と氷で汚れ、その余裕の笑みは消えていた。


「…僕の勝ちだ。」

サシャは、痛みで震える手に力を込め、ゆっくりとブイヤに近づく。


「小僧。よくやった。じゃが、油断するでないぞ」

トルティヤは、厳しく忠告するようにサシャに語りかけた。


「さて、この遺跡から出る方法を…教えてほしい。それと、大司教の娘の行方も…」

サシャは、ゆっくりと震える手でブイヤに剣を向ける。


「ふふ…ここから出る方法かい?」 

ブイヤは、傷を負いながらも不気味な笑みを浮かべ、嘲笑うように口角を上げた。


「そうだ!それに、生贄えってどういうことだ?」

サシャは、真実を求めてブイヤに問い詰める。


「質問が多すぎるよ。そんなに知りたいなら…試練を乗り越えてみてよ」

ブイヤはそう言い放つ。

次の瞬間、彼の魔力が体内から制御不能のように一気に膨れ上がった。


「小僧!!何か来る!下がるのじゃ!!」

トルティヤが強い危険を察知し、サシャに叫んだ。


「分かって…うっ!」

サシャはバックステップで距離を取ろうとする。

だが、魔力を極限まで放出しすぎたせいで、体が悲鳴を上げていた。


「(小僧は限界じゃな…)あとはワシがやる。お主は少し休んでおれ」

トルティヤはそう告げると、サシャの肩を叩き、肉体の主導権を交代する。

それと同時だった。


「空間魔法-パラレル-!!」

次の瞬間、空間が液体のように激しく歪み、一気に変わる。


「ザザザーッ!!」

そこは赤い水が、地平線の先まで流れる異様な空間だった。


「…なんじゃ、また場所が変わったのぉ」

サシャと入れ替わったトルティヤは、その異世界のような周囲に警戒の視線を向けた。

空はどこまでも朱色に染まり、足元はまるで大海のような赤い水がどこまでも広がっていた。


「…奴の魔力を感じぬ。一体どこに?」

トルティヤが意識を集中させるが、ブイヤの魔力は感じられない。

だが、わずかにトルティヤの背後の水面が揺れる。


「そこじゃな!!水魔法-断罪の礫(だんざいのつぶて)- !!」

トルティヤは、水面に向けて水の弾丸を放つ。


「バシャッ!!」

次の瞬間、水中から音をたてて何かが現れる。

それは、凄まじい水しぶきをあげて姿を見せる。


「…魔獣じゃと?」

トルティヤは、その醜悪な姿に目を丸くする。


「この姿になった以上、君はもう終わりだよ。さぁ、戦いの続きをしよう…」

そこには、分厚い緑色の鱗に覆われ、血のように赤い鋭い牙を持った鰐のような魔獣の姿があった。

その声は、先ほどまで戦っていたブイヤのものと異様に低く響いた。


「あれはブイヤ…なのか?トルティヤ、これは一体どういうこと?」

精神世界からその様子を見ていたサシャが、驚きと困惑を込めてトルティヤに問いかける。


「ワシにも分からんわい。何かしらの魔法じゃと思うが…」

トルティヤは、状況を冷静に分析する。

その時、ブイヤが再び魔法を詠唱する。


「朱・空間魔法-ロンギヌス-」

次の瞬間、トルティヤの頭上から空間の穴が開き、そこから赤く鋭い槍が落ちてくる。


「っ!!」

トルティヤは、魔力の動きを瞬時に探知し、回避する。

しかし…


「グニャ」

なんと、赤い槍は、まるで意思をもつかのように軌道を曲げ、トルティヤへと向かって突進してきた。


「なんじゃと!!」

トルティヤは咄嗟に身をひねる。


「ザシュッ!!」

だが、その一撃がトルティヤの脇腹を浅く掠めた。


「ちっ…まさか追尾機能がついておるとはのぉ」

トルティヤが、わずかな痛みに顔を歪ませる。

だが、槍は止まることなく、折り返してトルティヤへと向かってくる。

さらに、槍は細かく枝分かれし、無数の棘となってトルティヤへ襲い掛かった。


「分裂もするのか!!」

トルティヤは、驚きつつも素早く魔法を詠唱する。


「風魔法-風雲月露(ふううんげつろ) !」

次の瞬間、トルティヤを圧縮された風によるバリアが包む。


「バキバキバキバキ!!」

バリアに当たった槍は、まるで脆いガラスのように次々と折れていく。


「へぇ、それを防ぐんだ。けど…」

それを見たブイヤは、更に魔法を詠唱する。


「朱・空間魔法-ヨモツイクサ-!」

次の瞬間、トルティヤの足元の赤い水面から、腐敗したような臭いと共に何かがはい出てくる。


「アウゥゥゥゥ…」

それは、無数のアンデッドだった。


「ええい!邪魔な奴らじゃ!!無限魔法-羅刹の炎-!!」

トルティヤは、風のバリアを展開しつつ、同時に別の魔法を詠唱する。


「ボワッ!!」

黒い炎が、アンデッドを一瞬で焼き尽くしていく。


「ギャァァァァァ!!」

まるで、地獄の底から聞こえてきたような悲鳴が、朱色の空間に響き渡った。


「そろそろ、反撃じゃ…無限魔法-海竜の慟哭(かいりゅうのどうこく)- !!」

トルティヤは、続けて強力な水魔法を放つ。


海竜を象った水魔法が、残りの槍の群れに向かって突進していく。


「ドガガガガガガガ!!!」

水魔法は、槍を次々と破壊しながら、ブイヤへと迫る。


「(魔力を吸収されたようだね…ならば!)」

ブイヤは、魔法による攻撃は、効果が薄いと判断し、巨体を動かしてトルティヤに迫った。

水面が、その巨大な質量によって大きく波打つ。


「ほう。魔法での攻撃が無意味と理解して肉弾戦で来たようじゃ」

だが、トルティヤは不敵な笑みを浮かべ、冷静に魔法を唱える。


「水生生物には雷魔法…常識じゃ。雷鳴魔法-雷光千鳥(らいこうちどり)- !!」

次の瞬間、巨鳥を模した雷が生成され、ブイヤに向かって鋭く放たれる。


「(雷属性か。だが、教祖様からもらった、この力があれば耐えられる…!)」

ブイヤは、強靭な肉体への過信から、耐え忍ぶことを選択する。

そして…


「バリバリバリバリ!!」

雷は、ブイヤに容赦なく直撃する。


「グゥゥゥゥゥゥ!!(馬鹿な…!想像上の威力だ…)」

ブイヤは、全身を貫く激痛に表情を歪ませた。


「…む?(なんじゃ。やけにあっさりじゃ)」

トルティヤは、妙な手ごたえのなさを感じつつ、魔法を放ち続ける。

そして、数秒後、ブイヤは黒焦げになり、水面に沈んだ。


「そ、そんな馬鹿な。体が…動かない…こんなに弱いはずが…強力な力だったはずなのに…」

黒焦げになったブイヤが、力を失った声でそう呻いた。


「強力な力?どういうことじゃ?」

トルティヤは、真実を聞き出すべくブイヤに問いかける。


「…教祖様は、僕らに力を与えてくださった。人外の存在となることと引き換えに、強力な魔法が使えるようになる力を。その力は、強力だって…。どんな奴にも負けないって教祖様は言っていた…なのに」

ブイヤは、虚ろな眼差しで答えた。


「…その教祖とやらは何者なのじゃ?」

トルティヤが、鋭く尋ねる。


「永劫の環…いや、今はレッドベリアルというのかな。教祖は、僕たちに…生贄を用意することを命じた…神への供物だって。けど、実際は…あの人の…」

ブイヤが核心に触れようとした、その時だった。

彼の体が、風船のように急激に膨れ上がる。


「一体どうなっているんだ!?」

精神世界から様子を見ていたサシャが、目を丸くする。


「(恐らく、特定のワードを話すと発動する呪詛魔法の一種じゃな)」

トルティヤが、異様な魔力を察知し、警戒を強める。


「あぁ…僕もこうなる運命なんだね…僕も生贄になるのかな。嫌だな…嫌だな…」

膨らんでいくブイヤの目には、諦めと恐怖の涙が浮かんでいた。


「…最後に聞く。この場所からどうやって出るのじゃ?」

トルティヤが、一番聞きたいことを問う。


「…僕が死んだら…落ちていいるものを拾って…碧の門へ…うっ」

ブイヤの体が限界まで膨らむ。


「糸魔法-信奉者の聖域- 」

トルティヤは、自爆を察知し、身を守る魔法を詠唱する。

次の瞬間…


「バーン!!!!」

ブイヤの体が、空間を震わせる轟音をたてて爆発する。

そして、それと同時に、赤い水が流れる異様な部屋から、最初の白い部屋へと空間が戻ってくる。


「…ふむ」

トルティヤは、ブイヤの消滅を察し、魔法を解く。

ブイヤの姿は跡形もなく消えていたが、彼がいた場所に何かが、二つ落ちていた。


「トルティヤ!何か落ちているよ!」

精神世界からサシャは、興奮した様子でトルティヤに話しかける。


「見ればわかるわい…」

トルティヤはそう軽くいなしつつ、落ちているものに近づく。


「鍵…じゃのぉ」

トルティヤは、そのうち一つを拾う。

拾ったのは、天使の装飾が綺麗な銀製の鍵だった。


「さっき、碧の門がどうこうって話していたから、そこのかもね!」

サシャは、ブイヤの言葉から、会話内にあった「碧の門」のものだと推測した。


「もう一つは…角笛…?」

そして、もう片方のアイテムに視線を向けると、それは鰐の鱗で作られた奇妙な角笛だった。

トルティヤはそれを手に取る。


「これが教祖から与えられた力…なのかな?」

サシャがトルティヤに尋ねる。


「さてのぉ。じゃが、何も魔力を感じぬ。少なくても魔具ではなさそうじゃ」

トルティヤは、不可解そうに首をかしげる。

その時、目の前に突然、淡い光を放つ白い門が現れる。


「…どうやら、出口のようじゃな。ほれ、あとは任せるぞ」

トルティヤは亜空袋(ポータルバッグ)に、先ほどの角笛をしまう。

そして、サシャと入れ替わる。


「はいはい。ゆっくり休んでくださいよっと」

サシャは、そう軽く言いながら、目の前の門に手をかけて、ゆっくりと開ける。


「ギィィィィ…」

そして、門が開かれ、その先には…


「わ!サシャだ!!」


「お!!やっと来たか!」


「無事だったか…よかった」


「これで全員だな!悪運が強いこった!」

アリア、アイアンホース、リュウ、モギーがいた。


「みな、無事のようじゃな…」

トルティヤは、安堵の色を滲ませた声でそう告げる。

すると、一人の見慣れない少女がサシャの前に出てくる。


「君は、誰だい?」

サシャが、警戒しつつ尋ねる。


「あぁ…その子は…」

リュウが話そうとする前にマヨが口を開く。


「私はマヨ。貴方が、サシャね。よろしく」

マヨは、軽く自己紹介をする。


「あ、うん。よろしく…それにしても、ここは?」

サシャが、辺りに視線を送る。


全員がいる部屋の中央には、透明な壁に囲まれた水槽のようなものがあり、そこには無数の小さな光の魚のような何かが遊泳していた。

そして、部屋の奥には、天使の装飾が施された錠前がかかった、青白く輝く巨大な門がそびえ立っていた。

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