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第124章:激流

アイアンホース達が激闘を繰り広げる少し前。

モギーは、古びた遺跡の通路を歩いていた。


「まったく、いい加減この通路にも飽きてきたぜ。どこまで続くってんだよ」

モギーは悪態をつきながら、単調な通路を進む。

歩けど、歩けど、先は青白いランタンが灯る、石造りの通路ばかりだった。


「畜生が!!どこかに面白い仕掛けの一つや二つでもないのかよ!!」

苛立ちを隠しきれず、モギーは怒りに任せて近くの壁を殴りつけた。


「ドコッ!!」

鈍い音を立て、壁に大きなヒビが入る。

だが、壁はうんともすんとも言わなかった。


「…ったく、つまらねぇ」

モギーは、虚しくヒビが入った壁を見つめ、吐き捨てるように呟いた。

そして、再び通路の先へ足を進める。


「眼帯や小僧共はどうしてるのやら…」

ぼそぼそと独り言をこぼしながら、モギーは先を進む。

しばらくすると、通路の先に一つの扉があった。


扉は水色であり、表面には龍魚をあしらったレリーフが丁寧に彫られていた。


「随分と凝った扉じゃねぇか…よっ!!」

モギーは、その荘厳な意匠に目をくれることもなく、扉を思いっきり蹴り飛ばした。


「ザザザ…」

扉の先は広間となっており、中央には巨大な池が広がっていた。

池には桃色の蓮が静かに浮かんでおり、今まで通ってきた殺風景な遺跡とは異なる、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「なんだここは?今までのところと、随分雰囲気が違うじゃねぇかよ」

モギーは、遺跡の突然の変貌ぶりに驚きを隠せない。

その時だった。


「ほう。妾の部屋を訪れる者がおるとは…久方ぶりじゃのぉ…」

どこからともなく、妖艶で魅惑的な女性の声が聞こえてくる。


「あん?どこから話してんだ?顔くらい見せろよ」

モギーは、苛立ちを込めて声の主に応えた。


「ここじゃ。ほれ、こちらを向けい」

それに対して池の方から声が聞こえる。

それと同時。


「ベベン!!」

室内に、琵琶をかき鳴らす甲高い音が鳴り響く。

そして…


「ザザザザ…」

池の水が、まるで意思を持ったかのように四方向に割れていく。

そして、池の中央に、魏膳様式の立派な宮殿がゆっくりと姿を現した。


「おいおい…なんだそりゃ」

その驚くべき仕掛けに、モギーも思わず目を丸くする。


「ベベン!!」

再び、琵琶の音が響く。

そして、モギーが宮殿の中央に視線を向ける。


「ようこそ。妾の部屋へ。迷える子羊よ。汝の魂。神への生贄にしてやろうぞ」

そこには、赤い着物を着たオルカ族の女性が琵琶を携え、玉座に座っていた。

その姿は、黒髪に分厚い唇と、全てを魅了するような妖艶な容姿をしていた。


「迷える子羊?神への生贄?なんだ、謝肉祭でもやんのか!?」

モギーは、女性にそう吐き捨てると、懐から鎖分銅を取り出し、突撃を仕掛けた。


「…慌てるでない。水流魔法-霹蒼ノ従者(へきそうのじゅうしゃ)-!」

それを見た女性は、冷静に魔法を唱える。

次の瞬間、池の水の一部が、まるで命を得たかのように、侍を象った水人形となり、モギーを迎撃する。


「へ!そんな水人形程度で俺が止まるかよ!!」

モギーは、迷うことなく鎖分銅を水人形に飛ばす。


「バシャ!!」

鎖分銅は、確実に水人形の頭部に命中する。

だが、水人形の攻撃は止まるどころか、二人に分裂し、左右からモギーを挟み撃ちにした。


「ちっ!」

モギーは、左右からの挟撃を紙一重で外す。

水の刀が、彼女の頬を掠め、ひやりとした感触を残した。


「ベベン!!」

その時、女性が琵琶を奏でる音が響く。

それと同時だった。


「ウニョ…」

先ほどの水人形が、さらに分裂したのだ。

その数は、4体から8体、そして16体にまでなった。


「おいおい。随分と臆病なんだな。このモギー様にタイマンじゃ勝てないってか!?」

モギーは、女性を挑発するように言葉を浴びせる。


「可哀そうにのぉ。じゃが、案ずるな。お主の魂…大切に刈り取って神への生贄にしてやろうぞ…」

しかし、女性はモギーの挑発に応じない。

それどころか、妖艶で不気味な笑みを浮かべ、モギーを見つめる。


「(畜生…挑発に乗らねぇタイプかよ。めんどくせぇ…)お前、名前は?それくらい名乗りやがれ」

モギーは、女性に名前を尋ねた。


「妾の名は(すい)。神聖なる神「アグニファタニス」の信徒にして使徒ぞ」

女性は、自らの名を「(すい)」と名乗った。


「アグニ…なんだって?まぁ、いいや。とにかく、おめぇをぶっ飛ばせば、大司教の娘の居場所を吐いてくれる。俺はそう睨んでんだわ。合ってるか?」

モギーは、不敵な笑みを浮かべる。


「お主が何を言っているのか、皆目見当もつかぬ。じゃが、生贄であることには変わらぬ…」

吸は、そう呟くと、琵琶を構えた。

そして…


「水流魔法-蒼々葬歌(そうそうそうか)-」

吸は、琵琶を奏でつつ、魔法を唱える。


「ぐっ!!(なんだ…急に体が重くなりやがった…)」

琵琶の音を聞いた瞬間、モギーの体は鉛のように重くなった。

同時に、周囲が深海のように、深い青色に包まれる。


「(呼吸はできる。どうやら、精神干渉系の魔法のようだな)」

モギーは、冷静に状況を把握し、ゆっくりと呼吸を整え始めた。

すると、重たくなった体が少しずつ軽くなり始める。


「(とはいえ、脱するのに少し時間がかかりそうだな…)」

モギーは、冷静に呼吸を整えようと集中した。

その時だった。


「ベベン!!」

琵琶の音が、脳裏に直接響くかのように鳴り響く。

同時に、一匹の巨大な鮫が、モギー目掛けて突進してきた。


「(ちっ…冗談じゃねぇぞ!)」

モギーは、脅威を目の前にしても焦ることなく、急ぎ呼吸を整える。

そして…


「…おらぁっ!!!」

モギーは、気合いで吸の魔法を打ち破り、全身の力を解き放った。

同時に、巨大な鉈を持った鬼の水人形が目の前に迫っていた。


「ちっ!(完全にはかわせねぇか…!)」

モギーは、体に力を込め、致命傷を避けるべく体勢をずらした。


「ザシュッ!!」


「うぐっ!!」

鋭い袈裟斬りがモギーの胸部に振り下ろされる。

鮮血が宙を舞い、床を赤く染めた。


「ほう…(芯を外しおったか)」

その様子を、吸は動じることなくじっと見つめていた。


「へ…少しはやるじゃねぇかよ!」

吸の読み通り、モギーは体幹をずらし、致命傷を避けていたのだ。


「妾の魔法を打ち破る精神力を持つとは…実に見事ぞ」

吸は、余裕の表情を浮かべ、モギーを見つめる。


「おうおう。褒められるとは光栄だなぁ。じゃあ、お礼はたっぷりとさせてもらうぜ…!!」

モギーは、口角を歪め、背負っていたピストルを素早く手に取る。


「(何か来る…!)水鬼!!」

吸は、不穏な気配を感じ取り、大鉈を持っていた鬼の水人形に命じ、自身の目の前に陣取らせた。

次の瞬間だった。


「火魔法-怒螺怒螺威夫(どらどらいおっと)-!!」

モギーは、ためらうことなくピストルのトリガーを引く。


「ズドーン!!ズドーン!!」

複数の銃声が部屋に轟く。


「バシャッ!!」

水人形は、水音をたてて、水風船のように破裂した。


「べべん!!」

吸は、焦るように琵琶を鳴らす。

しかし、水人形は再生することも、分裂することもなかった。


「おやぁ?再生も分裂もしないことに焦っているのかなぁ?」

モギーは、不敵な笑みを見せて尋ねる。


「くっ…」

吸の表情から、一気に余裕が消え去った。


「中途半端な攻撃なら分裂するかもしれねぇが、粉々になるくらいにしてしまえば再生も分裂もしない…俺はそう踏んだんだよ!」

そう口にすると、モギーは再びピストルを構えた。


「ええい!それなら数で押し切るまでよ!!」

吸は、再び琵琶を鳴らす。

すると、侍を模した水人形は無数に分裂した。

やがてその数は、部屋の半分を埋め尽くすほどの数になった。


「これだけの数なら、いくらお主であっても太刀打ちできまい!!」

そして、吸は琵琶を鳴らす。

それを合図として、侍たちは一斉にモギーに向かって突撃していく。


「へっ…所詮、烏合の衆。俺の敵じゃあ…ねぇな!!」

モギーは、ピストルに魔力を込める。

そして、魔法を唱える。


「火魔法- 牙々々機関砲(ガガガガトリング)-!!」

次の瞬間、モギーのピストルから、無数の火柱が立ち上った。


「ズバババババババババババババン!!!」

それは、次々と水人形を、再生や分裂を許さないほどに粉微塵にしていく。

その数は、少しずつ確実に減っていった。


「まだじゃ!!…水流魔法-潮甲鳴奏 (ちょうこうめいそう)-!!」

吸は、琵琶を鳴らすと同時に魔法を唱える。

次の瞬間、彼女の目の前に、亀の甲羅を模した結界が現れた。


「(この結界は水属性を帯びておる。奴の魔法は火魔法。確実に防げるのじゃ!)」

吸は、自身の魔法に絶対的な自信を抱いていた。

だが…


「お前。そんなバリア如きで俺の魔法を止められると思っていないか?」

モギーがピストルを放ちながら、口角をニヤリと釣り上げる。

そして、ピストルへ更に魔力を込める。


「これが…俺の全身全霊だ!!火魔法-雌我屯爛茶(めがとんらんちゃ)-!!」

モギーが、魔法名を詠唱する。


「ズドーン!!」

先ほどの魔弾よりも、ひときわ大きい弾丸が放たれる。

それは確実に吸の目の前の結界に近づき、そして直撃する。


「バキィ!!」

結界にヒビが入る。

だが、完全に貫通はしていなかった。


「…ほほほ。お主の属性が違っておれば、突破できておったやも知れぬな…残念じゃのぉ…」

その様子を見て、吸は勝ち誇ったように言葉を漏らす。

だが、モギーの目は死んでいなかった。


「馬鹿野郎…属性相性なんてのはなぁ…」


「ピシッ…」

次の瞬間、結界に細かいヒビが入っていく。


「な、なんじゃと…」

吸が、驚愕に顔を歪める。

そして…


「バリーン!!」

モギーが放った弾丸が結界を打ち破る。

そして、そのまま吸の元へ飛んでいく。


「気合いで覆るんだよ!!」

モギーは吸に向けて中指を立てた。


「おのれぇぇぇぇ!!!!なんたる屈辱!なんたる…!!」

吸が絶叫する。


「チュドーン!!!!!」

そして、吸の足元で激しい大爆発が起こる。

周囲は業炎と白煙に包まれる。


「…色々と聞きたかったが、殺しちまったかもな」

モギーがため息をつくと、懐からスキットルを取り出し酒を飲む。


「ちっ…酒が切れちまったぜ」

少し飲むと酒がなくなり、モギーが舌打ちをする。

そうしているうちに、白煙が徐々に晴れてくる。


「おのれ…おのれ…よくも…よくも!」

白煙が晴れた先には、ボロボロになった吸の姿があった。

先ほどの攻撃の影響なのか、右半身の一部が大きく吹き飛んでおり、誰がどう見ても致命傷を負っていた。


「おっ、こりゃいいね。まだ生きていたか」

モギーは不敵な笑みを浮かべると、吸にゆっくりと歩み寄る。


「ちょっと話を聞かせてもらいたくてな」

モギーは、探るように言葉を漏らした。

だが、それに対して吸が応える。


「お主…妾に勝ったつもりでいるのか?…おめでたい奴…じゃ」


「あん?どう見ても俺の勝ちだろ?おめぇ、その体で戦えるわけが…」

モギーが鋭い視線を向けて言い返す。

だが、吸はモギーの言葉を意にも介さず、魔法を唱えた。


「まだ…終わらぬ…魚・水流魔法-魚鱗堕效(ぎょりんだこう)-!!」

次の瞬間、吸の体が青白い光を放ち、広間を眩く照らす。


「ちっ!まだそんな余力が…!」

モギーはその眩しさに、反射的に手で目を覆った。


「ザブン!!」

その間に、何かが池に落ちる音が響く。


「…いない?(くそ、さっきの音からして、池の中に逃げやがったのか?)」

モギーがゆっくりと目を開けると、先ほどまで目の前にいた吸の姿はどこにもなかった。

それを認識したと同時だった。


「ザバーン!!!」

池の水が、止めどなく溢れ出し、部屋内を浸水し始める。


「おいおい。こりゃどういうことだよ」

水は少しずつだが確実に水位を増していっている。

そして、モギーの問いに答えるかのように、吸が水の中から姿を現した。


「お主は妾の逆鱗に触れおった。躊躇なく…無慈悲に…滅してこれようぞ」

吸の姿は、おぞましい異形へと変貌していた。

上半身は鱗に覆われた龍のようになり、下半身は鋭い尾びれを持つ魚の尾になっていた。

手には鋭い鍵爪がついており、その姿は、水色の扉に彫られていた龍魚そのものだった。


「バケモンがよぉ…」

モギーは、改めてピストルを構える。

そして、魔法を詠唱する。


「火魔法-怒螺怒螺威夫(どらどらいおっと)- !!」

次の瞬間、銃口から炎の弾丸が放たれる。

それは一直線に吸へと向かって飛んでいく。


「…魚・水流魔法-海神ノ魁演・凪わだつみのかいえん・なぎ-!!」

だが、吸の目の前に琵琶を持った天女の水人形が現れる。


「ベベン!!」

天女が持つ琵琶が静かに奏でられた瞬間、モギーが放った弾丸は、まるで時が止まったかのように動きを止め、跡形もなく霧散した。


「ちぃ…」

モギーは舌打ちをする。

それを見た吸は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、水面からモギーを見下ろす。


「魚・水流魔法-雹鱗砕爾(ひょうりんさいじ)-」

吸が魔法を放つと、上半身の鱗が無数の雹となり、モギーを襲う。


「ぐぅぅぅぅ!!!」

雹は、モギーの体に次々と命中していく。

まるで、硬い石で全身を殴りつけられているような激しい痛みをモギーは味わう。


「このまま、押し切ってくれようぞ!!」

モギーが怯んでいる隙を見逃さず、吸が水面を蹴って突撃してくる。

そして、一気に近づくと、右手の鍵爪を振り下ろした。


「ザシュッ!!」


「うぐっ!!」

モギーは、その鋭い攻撃を受けて後方へ吹き飛ばされる。

鮮血が飛び散り、徐々に水位を増す水面を赤く染めた。


「ザバン!!」

モギーは背中から水面に叩きつけられる。


「(ちくしょう…血を出しすぎたな)」

胸部の痛みに加え、出血量の多さで、モギーの意識が朦朧としてくる。


彼女は既に胸に二発、攻撃を受けている。

出血量は、本来ならば既に戦線離脱していてもおかしくないほどだった。


「(残り魔力もそう多くはない…どうするモギー…考えろ)」

肉体は限界でも、モギーの精神は諦めず、勝利の可能性を模索する。


「これで終わりぞ!!魚・水流魔法雹鱗滅日砕爾ひょうりんめつじつさいじ- !!」

吸はとどめといわんばかりに、先ほどより巨大な雹をモギーに向けて放った。

その大きさは、まるで巨岩のようだった。


「(へっ…考えても何も浮かばねぇか。それなら最後はやっぱり…)」

モギーの目が、カッと見開かれる。


「気合いだよなぁ!!!!!」

モギーは、激痛に耐え、全身の残る魔力を拳に集めながら立ち上がった。

そして…


「火魔法-雌螺雌螺洲九龍(めらめらすくりゅう)-!!」

渾身のストレートが、巨大な氷塊に直撃する。


「パリィィン!!」

氷塊は、轟音と共に、音を立てて真っ二つに砕け散った。


「なっ!?」

その光景に、吸は驚愕に目を丸くする。


「随分と驚いているようだな。クソ野郎…!」

そして、拳に集中していた魔力が、モギーの肉体全体にいきわたる。

それは遠くから見ると、赤い闘気を纏っているようにも見える。


「お主は…人間なのか?あの出血量で動けるはずが…」

吸は、モギーの常軌を逸した生命力に驚愕すると同時に、明らかに恐怖を抱き始めていた。


「動けんだよ!人間、気合いと命があれば…どうにでもなんだよ!!」

モギーはそう断言すると、水面を蹴った。

その動きは、傷つく前よりもさらに速い。


「くっ!!魚・水流魔法-海神ノ魁演・狂瀾わだつみのかいえん・きょうらん- !」

だが、吸の目の前に、再び琵琶を持った天女の水人形が現れる。

そして、琵琶が激しく奏でられた。


「ベベベベベベベン!!」

激しい琵琶の音色は、空気を震わせ、衝撃波となってモギーを襲う。


「うぅぅぅぅぅぅ!!」

モギーの動きが一瞬硬直する。

体のあちこちが衝撃波で裂け、新たな血が噴き出る。

それでも、彼は歯を食いしばり、一歩も引かなかった。


「こんな音楽程度で…」

モギーの魔力が、更なる熱を帯びて燃え上がる。


「モギー様が立ち止まる訳がねぇだろうが!!」

モギーは、水面を猛然と再び走り出す。

そして、吸の目の前で思い切り跳躍した。


「馬鹿な…お主は一体…一体!?」

吸は、その圧倒的な生命力の前に、完全に狼狽した表情を見せる。


「これで終わりだ!!火魔法-蘇羅蘇羅裏圧刀(そらそらりあっとう)-!!」

モギーは、全魔力を右腕に集中させ、吸の首を目掛けてラリアットを放つ。

それは、彼女の全身全霊を込めた渾身の一撃だった。


「…がはっ」

吸の首の骨は折れ、力なくうなだれる。

そして、異形の体はそのまま崩れ落ち、水面に倒れた。


「…はぁ…はぁ…どうだクソ野郎が…」

モギーは、水面に着地をする。

背後では、吸の体が波紋を立てて沈んでいく。


「さて、今度こそ話を聞かせてもら…うっ」

モギーが吸に近づこうとしたところで、視界が激しく揺らぎ、膝をついた。


「ちっ…魔力を使いすぎたか…」

モギーは、呼吸をゆっくりと整え、ポーチから回復薬を取り出すと、傷口に豪快にかけた。


「とりあえず、応急措置だ…」

そして、空になった回復薬の瓶を水面に放り投げると、モギーは吸の元へ近づく。


「もしもーし、生きてるかー?…いや、ダメだ。死んでんな」

モギーが、倒れている吸に話しかけるが、応えはなかった。

呼吸もしていないことから、既に息絶えているようだった。


「にしても、この姿は一体なんだったんだ?訳がわかんねぇ…」

モギーが、吸の異形の姿に対して困惑の言葉を漏らした時だった。


「あん?なんだ?」

吸の体が突如光り出すと粒子となって消える。

そして、彼女の死体があった水面に「Ⅶ」の紋章が刻まれた簪が現れる。


「…なんかの手がかりかもしれんな。一応、持っておくか」

そう口にすると、モギーは出現した簪を手にし、ポーチに仕舞い込んだ。


「にしても、ここからどうやって出るんだよ…」

モギーが、辺りを見渡す。

だが、辺り一面水浸しで、出口の兆候はなさそうに見えた。


「…いや、待てよ。こいつが現れた時、池の水が割けたよな?ということは…」

モギーは、池の中央にある宮殿に目をつける。


「あそこの宮殿に何かしらの仕掛けがあっても不思議じゃあねぇよな」

モギーは、まるで宝物を発見した冒険者のような笑みを浮かべる。

そして、宮殿の中へと足を踏み入れた。


宮殿の内部は簡素な造りであり、赤い玉座と小さな机が置いてあるだけだった。


「随分と質素だな。だが、どこかに仕掛けがあるはずだが…」

モギーが、宮殿内を鋭い目つきで調べる。

すると…


「なんだ?この紐は?怪しいな…」

宮殿の隅に垂れていた、一本の紐を引っ張った。


「ゴゴゴゴゴゴゴ!!」

次の瞬間、轟音と共に池の水が割け、地下へと水が勢いよく流れていく。

それと同時に、宮殿が、まるでエレベーターのようにゆっくりと下へと降下していく。


「おいおい!随分と面白いしかけじゃねぇか!!」

モギーは、この仕掛けに思わず豪快な笑みをこぼした。

そして、モギーを乗せた宮殿は、ゆっくりと地下へと降りて行った。


「ガタン!!」

そして、最下層に辿り着く。


「ははは、こりゃあ壮大な風景だな」

最下層は通路になっており、通路の両壁は、先ほどの池の水が滝のように激しく流れていた。

水が壁を打ちつける轟音が響き渡り、湿った空気がモギーの頬を濡らす。

そして、通路の先には、一つの扉があった。


「どう考えても、あの先に何かがあるな…」

モギーは、扉に向かってゆっくりと歩を進める。

そして、扉に手をかけ、力強く開けた。


「…おいおい。なんだこれは?」

扉の先で、モギーは目を疑う光景を目にした。

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