第122章:奇妙な放浪者
「くっ!ここも違うのか…!」
リュウは、行き止まりの通路の壁に、苛立ちをぶつけるように拳を叩きつけた。
一体何カ所目になるだろうか。
どこもかしこも行き止まりで、この迷宮の出口は一向に見えない。
「ここは一体どうなっているんだ…サシャ、アリア…そして、アイアンホースさんとモギーさん。みんな、どこに行ったんだ?」
リュウは、ため息をつき、来た通路を戻る。
その時だった。
「ダンダンダン!!!」
突如として、空間を切り裂くような乾いた銃声が通路内に響き渡る。
「今の音はピストルの音?アイアンホースさんか?」
リュウは、音の方向へ迷うことなく走り出した。
来た道を引き返し、広間に出て、音のした方向へと走る。
遺跡内部は、青白いランタンが灯り、不気味な雰囲気が漂っているが、リュウはそんなことを気にも止めず、ただひたすらに前へと進んだ。
「確かこっちの方向から…」
リュウは、通路をひたすらに駆け抜ける。
そして…
「…!!」
リュウの目の前に広がるのは、熱気を帯びたジャングルだった。
通路から一歩足を踏み出すと、ジメジメとした湿気と草木の匂いが、鼻腔をくすぐる。
部屋の中央には、苔むした大理石でできた豪華な玉座が置かれており、その様相は、まるでジャングルの中にある遺跡といった風情だ。
「…」
部屋の中央には、変わった形の武器を手にした少女が立っていた。
少女は黒髪のショートヘアをしており、灰色のポンチョを着込んでいたが、その中は見たことがない緑色の防具と、赤いリボンがついた黒い服とスカートといった奇妙な出で立ちだった。
その傍らには、赤いローブを身につけた女性が、腹部に風穴を空けられ、息絶えている。
「…これは君が?」
リュウは、警戒しながらもゆっくりと少女に近づく。
少女は、リュウの気配に気が付くと、顔を上げた。
そして…
「動かないで…」
少女は、奇妙な武器をリュウに向けた。
その外見は、アイアンホースやモギーが使用しているピストルに似ていた。
「待ってくれ。俺は敵じゃない!」
リュウは、慌てて両手を挙げる。
「…」
少女は、武器を構えたまま、リュウをじっと凝視する。
そして、彼の周りをぐるりと一周した。
「…敵じゃないようね。両手を下ろしていいわ」
少女は、警戒を解き、武器を下げて口にした。
「あ、ありがとう…」
リュウは、安堵の息を漏らす。
「あなたもレッドベリアルを追ってきたの?」
少女は、レッドベリアルの名を口にする。
「!!…どうしてその名を!?」
リュウは、驚きを隠せない。
「私、レッドベリアルを追ってたの。そしたら、この意味不明な遺跡に幽閉されたの。だけど、この遺跡のカラクリが少し分かったの…その死体の手の甲を見て」
少女は、赤いローブを着た魔導師の死体に視線を向けた。
「これは…レッドベリアルの構成員?」
リュウは、目を丸くする。
その特徴はレッドベリアルの構成員によく類似していた。
「そんなところね…そして、手の甲にⅧって刻まれているでしょ?」
少女は、構成員の手の甲を指さす。
「本当だ」
その手の甲には、Ⅷの刻印が見える
「私の情報が正しければレッドベリアルのメンバーは全部で10人。そして、ここは恐らくだけど奴らの拠点の一つ。八宝湖は奴らの縄張り…といったところかしらね」
少女は、自身の情報をリュウに話す。
「そんなに詳しく…一体君は何者なんだ?」
リュウが、改めて少女について尋ねた。
「…私はマヨ。レッドベリアルを追っている放浪者よ…また会えたらいいわね」
マヨと名乗った少女は、そう口にすると、部屋から出ようとする。
「ちょっと待ってよ!一人で行くのか?」
リュウが、慌てて引き留めた。
「そうよ?何か問題でもあるかしら?」
マヨは、淡々とした口調で問いかける。
「いや…よかったら一緒に行動しないか?はぐれた仲間を探しているんだ…俺以外に4人いる」
リュウは、同行を提案する。
「…そうね」
マヨは、一考する。
そして、少し間を置いて口を開いた。
「いいわよ。その代わり、あなたとあなたの仲間の素性。そして現在持っている情報を全て話してもらうわ。それが条件」
マヨは、等価交換として情報の提供を求めてきた。
「あぁ、構わない」
リュウは、その提案に応じた。
「決まりね…」
マヨは、静かに頷く。
そして、二人はリュウが来た通路とは逆の方向から部屋を出た。
一方、遺跡内の別の通路では。
「はぁ…ちょっと休憩だよぉ…」
アリアは、開けた広間の柱の陰に座り込み、ポーチから竹筒を取り出して水を飲んだ。
「ふぅ…みんなどこにいったんだろう?」
アリアは、不安と寂しさから、大きなため息をつく。
その時だった。
「コツコツ…」
誰かが歩いてくる足音が聞こえる。
「…誰!?」
アリアは、慌てて柱の陰に身を隠す。
「コツコツ…」
足音は、北側の通路から近づいているようだった。
「…」
アリアは、じっと息を潜め、弓を構える。
だが、その人影は…
「ふぅ…ようやく開けたところに出たか」
帽子を脱ぎ、汗を拭うアイアンホースの姿だった。
「あ!アイアンホースさんだ!!」
アリアは、満面の笑みを浮かべ、アイアンホースに駆け寄る。
「おお!アリアじゃねぇか!!無事だったか!」
アイアンホースは、その姿を見て、安堵の表情を見せる。
「うん!一人で不安だったから心強いよぉ!」
アリアは、心からそう口にした。
「ま、このアイアンホース様がいれば百人力さ!ワハハハハ!」
アイアンホースは、豪快に笑い飛ばす。
「アイアンホースさんって面白いねっ!」
アリアは、思わずクスリと笑った。
「嬉しいが、今はサシャやリュウ…モギーと合流することを考えないとな…アリアはどっちの方向から来た?」
アイアンホースは、先ほどの陽気な表情から一変、真剣な眼差しで問いかける。
「あ、うん。あっちの方向から来たよぉ。一通り探索したけど何もなかったよぉ」
アリアは、南側の通路を指さす。
「なるほどな…こっちの方もハズレだった…そうなると…」
アイアンホースは、二つの方向に視線を向けた。
一つは、螺旋階段の先に続く通路。
もう一つは、東側の通路。
どちらが正解なのかは、誰にも分からない。
もしくは、どちらも不正解かもしれない。
「道は二つだね…どっちに行こうか?」
アリアが、首をかしげる。
だが、アイアンホースは、少し考え込むと、すぐに決断を下した。
「んー…こっちだな!俺の髭がそう言っている!」
アイアンホースは、東側の通路を指さす。
「髭が言葉を話すの?」
アリアは、純粋な視線をアイアンホースに向ける。
「まぁ、そういうことにしといてくれ。ほら、行くぞ」
こうして、二人は東側の通路を進み始めた。
東側の通路は、他の通路と同様に、青白いランタンが灯っていた。
石造りの通路は、永遠に続いているかと思うほど長く、二人の足音だけが静かに響く。
「そういえば、シャルロッテは元気にしていたか?」
アイアンホースが、アリアに尋ねる。
「うん!オババ様は今も元気だよ!アイアンホースさんは知り合いなんだもんね?」
アリアは、嬉しそうに口にする。
「あぁ…本当にすごい人だった。今も元気そうなら、そのうち会いに行こうかな」
アイアンホースは、遠い目をしながら言葉をこぼす。
「うん!おいでよ!オババ様もきっと喜ぶよぉ!」
アリアは、アイアンホースの言葉に、満面の笑みを浮かべた。
そんな会話をしている二人の目の前に、石造りの重厚な扉が姿を現す。
「…おいおい。随分と怪しそうな扉じゃねぇか」
アイアンホースは、顎に手を当て、扉をじっと見つめる。
「奥に何かありそうだよぉ」
アリアも、好奇心に満ちた目で頷く。
「よし…開けるぞ」
アイアンホースは、扉の取っ手に手をかけると、ゆっくりと押した。
「ゴゴゴゴゴゴ…」
石扉は、鈍い音を立て、少しずつ開かれていく。
「わぁ…」
アリアは、思わず息をのんだ。
石扉の先には、白い柱と白い床が特徴的な、神々しい神殿が広がっていた。 そして、神殿の中央には、赤い玉座があり、そこに一人の偉丈夫が座っている。
「…むっ。生贄えが来たか」
椅子に座っていた偉丈夫は、ゆっくりと立ち上がった。
「おめぇは…この前、没有で会った…!」
アイアンホースは、その男の姿に目を見開いた。
「アイアンホース。お前が来るとはな…それに、お嬢ちゃんも一緒か」
男は、そう口にすると、玉座の近くに立てかけていた西洋刀を抜いた。
「あ!!あの時、僕に攻撃したおじさんだ!!」
アリアは、男を睨みつけ、弓を構える。
そして、先手必勝とばかりに、矢を3本放った。
「お嬢ちゃん。あの時はすまなかった…手荒な真似をしたこと、許してくれ…」
男は、そう言いながら、西洋刀でアリアが放った矢を、軽々と弾き飛ばす。
「むぅ…」
アリアは、悔しそうに次の矢を装填する。
だが、アイアンホースがそれを制した。
「待て。相手のペースに乗せられるな…お前、レッドベリアルだな?」
アイアンホースは、男に問いかける。
「いかにも。私の名はガンボ…レッドベリアルの「Ⅵの烈」だ」
男は、西洋刀の切っ先を、アイアンホースに向けた。
「なるほどな。俺はちょっと人探しをしててな。大司教の娘を攫ったのはお前達だろ?どこにいるか知らねぇか?」
アイアンホースは、ガンボに尋ねる。
「大司教の娘?我らは手を出した覚えはないが?」
ガンボは、淡々と答える。
「嘘をつけ。この辺で大司教の娘が消えてんだ。お前ら以外に考えられねぇんだよ」
アイアンホースは、凄まじい剣幕でガンボを睨みつける。
「そう言われても覚えのないものは覚えが…!!」
ガンボは否定を続ける。
だが、その瞬間に何かを思い出したかのような表情を見せた。
アイアンホースはそれを見逃さなかった。
「お前…何か知っているな?答えろ!!」
アイアンホースが凄まじい剣幕で叫ぶ。
「…教えてもよかろう。だが、我々にも目的がある。単刀直入に言うと、貴様ら。ひいては、この碧天殿 に迷い込んだ者は神への生贄えとなる運命になるのだ…」
ガンボは、堂々と宣言した。
「神への生贄えだと?何を言ってやがるんだ?」
アイアンホースは、首をかしげる。
「だから、私に打ち勝ってみせろ。それがお前達に与えられた試練だ。そして、試練を乗り越えたのであれば望む物を与えよう。ただし、敗れたのならば、お前らを神への生贄えとさせてもらう…」
ガンボは、そう口にすると、西洋剣を構えた。
「…アリア。お前は後方から援護しろ。前線は俺がやる」
アイアンホースは、太もものホルスターから、相棒であるピストル「クエルヴォ」を取り出す。
「うん!任せて!!」
アリアは、大きく頷く。
「では…参る!!!!」
すると、ガンボが西洋剣を構え、アイアンホースに向かって突進してくる。
「(こいつ。デカイくせに早えぇ…)」
アイアンホースは、迫りくるガンボを前に、ピストルを構え迎撃の体勢に入る。
「弾丸魔法-連射散弾- !!」
そして、ピストルの銃口から、白い弾丸を6発放つ。
乾いた発射音が響き、空気を切り裂いた弾丸が、ガンボを襲う。
「風魔法-風雲竹光-」
だが、ガンボは魔法を唱えると、もう片方の手に風で形成された刀を出現させる。
そして、二刀流の要領で、アイアンホースが放った弾丸を次々と弾き飛ばしていく。
「ほう。随分と器用じゃねぇか!だが、まだおかわりはあるぜ!」
アイアンホースは、ピストルから間髪入れずに次々と弾丸を放ち続ける。
「他愛もない…風魔法-神速翼脚-」
ガンボが魔法を唱えると、彼の足に風を纏ったブーツが装備される。
すると、先ほどよりもさらに動きが早くなった。
「なにっ!?」
アイアンホースは、その驚異的な速度に目を見開く。
「遅いな…」
ガンボは、一瞬にしてアイアンホースの目の前に迫り、西洋刀を振り上げる。
だが…
「ヒュンッ!!」
鋭い風切り音が響く。
「ふんっ…」
ガンボは、振り上げた手を引く。
彼の顔のすぐそばを、一本の螺旋状の矢が空を裂いて飛んでいった。
「惜しい!!」
ガンボが矢が飛んできた方向に視線を向けると、そこには弓を構えたアリアがいた。
「お嬢ちゃん。邪魔をしないでもらいたい…風魔法-風凱砂刃-」
すると、ガンボが風の刃を放つ。
それは砂を含んでおり、普通の風の刃よりも強力な切れ味を誇る、強力な魔法だった。
「(範囲が広い!かわせない…)鎖魔法-チェーンメイル-!!」
アリアは、咄嗟に魔法を唱えると、全身を鎖の鎧が包み込む。
「ガキンガキンガキン!!」
次の瞬間、風の刃がアリアに降り注ぐ。
「うっ!!」
鋭い衝撃がアリアを襲う。
鎖の鎧のところどころが剥がれ、アリアの肉を削る。
「…いたた」
だが、鎖の鎧のおかげでダメージは最小限で抑えられた。
「ほう…防ぐか」
ガンボは、感心したようにアリアを見つめる。
その隙を逃さず、アイアンホースはチャンスとばかりに距離を詰める。
「よそ見とは随分と余裕じゃねぇか!」
アイアンホースの手にはピストル。
そして、その銃口の先には、膨大な魔力の塊が発射の時を待っていた。
「むっ…」
ガンボは、アイアンホースの様子に目を丸くする。
「とっておきだ!弾丸魔法-破壊弾丸-!!!」
アイアンホースが、渾身の力を込めてピストルのトリガーを引く。
「チュドーン!!!!」
轟音をたてて、一発の巨大な弾丸が放たれる。
その一撃は、さながら大砲のようであり、先ほどまでガンボが立っていた場所には、白煙が立ち上っていた。
「わぁ…すごい一撃…」
その威力を目の前にして、アリアは言葉を失った。
しかし、アイアンホースの表情は険しいままだった。
「…ちっ。なんで生きてんだ、この野郎」
「風魔法-武人玄甲-…私の肉体はまだ滅んではおらぬ」
ガンボの体は、ところどころ出血しているものの、風でできた鎧を纏っていたおかげか、致命傷を避けることに成功したようだった。
「くそ…」
アイアンホースは、再びピストルを構える。
「今度はこちらの番だ…お前が私に放った魔力。そのまま使わせてもらう」
次の瞬間、視界から急にガンボの姿が消える。
その速度は、まるで光のようだった。
「なにっ…(さっきよりも早い!?)」
アイアンホースは、驚愕に目を丸くする。
「え?」
アリアは、弓を構え、その動きを追おうとするが、速すぎて目で追うことができなかった。
そして…
「まずはアイアンホース…お前からだ…」
アイアンホースの側面には、既にガンボが立っていた。
風のブーツは、先ほどよりも風の勢いを増しており、手に持った風の刀は、一回り大きく、鋭さを増していた。
「くそ…仕方ねぇな」
アイアンホースは、歯を食いしばる。
「ザシュッ…!!」
刃が肉を切り裂く、嫌な音が響く。
「ぐっ!!!!」
アイアンホースの胸が裂け、血が噴き出す。
「ほう。急所をずらしたか」
ガンボは、咄嗟にアイアンホースと距離を取る。
魔力を消費したためか、手に持った風の刀は元の大きさに戻り、その身に纏っていた鎧も消えていた。
「アイアンホースさん!」
アリアは、悲鳴を上げ、アイアンホースの元に駆け寄る。
「平気だ…これくらい掠り傷だ!」
アイアンホースは、苦痛に顔を歪めながらも、アリアに余裕の笑みを浮かべる。
「けど、手当てしないと…!」
アリアは、ポーチから回復薬を取り出す。
「俺のことはいい…それよりも戦いに集中しろ…!」
アイアンホースは、痛みを堪え、ピストルを構える。
「あ、うん…(この気迫。とても断れないよぉ)」
アリアは、アイアンホースの気迫に押され、覚悟を決めた。
「その状態で戦うというのか。そこのお嬢ちゃんの言う通り手当くらいはしたらどうだ?時間くらい設けてやってもいいぞ?」
ガンボは、余裕の表情で問いかける。
「うるせぇ!敵に情けをかけられて、フラッカーズの看板をやってられるかってんだ…よ!!」
アイアンホースは、再びピストルに魔力を込める。
「弾丸魔法-音速弾- !!」
高速の弾丸が、ガンボに向けて放たれる。
「お前の弾丸魔法は見切っている!」
だが、ガンボは冷静に、西洋刀と風の刀で弾丸を弾いていく。
しかし、そこに矢が飛んできた。
「無駄な…いや、火薬の臭い…」
ガンボは、矢を弾き飛ばそうとする。
だが、その矢の異質さに危機を察知し、瞬時にバックステップを取った。
「チュドーン!!」
矢が着弾した場所で、空間が大爆発を起こす。
「むっ!(かわされた!)」
アリアは、悔しそうな表情を見せつつ、次の矢を装填する。
「お嬢ちゃん…君も危険だな…」
アリアを脅威と感じたガンボが、彼女に向けて突進してくる。
「おいでよ!!返り討ちにするよぉ!!」
アリアは、弓を格納し、魔法を唱える。
「鎖魔法-チェーンナックル-」
アリアの両手足に、鎖が巻かれる。
「ふんっ!」
ガンボは、西洋刀を振り下ろす。
「はっ!!」
アリアは、鋭い蹴りで刀を受け止めた。
「ガキン!!」
金属がぶつかる甲高い音が響く。
「無駄だ!もう一太刀あるぞ!!」
ガンボは、もう片方の西洋刀をアリアに振り下ろそうとする。
だが…
「バキュン!!」
西洋刀が、弾丸によって弾かれる。
「むっ!?」
ガンボが視線を向けると、そこには、ピストルを構えるアイアンホースがいた。
「ようやく喰らってくれたな、この野郎…」
アイアンホースは、不敵な笑みを浮かべる。
「ふん…やってくれる」
ガンボが、アリアから距離を取ろうとするが、既に遅かった。
「逃がさないよ!!」
アリアは、追撃とばかりに、拳をかざす。
その拳は、的確にガンボの顔面を捉えていた。
「(両手でガードを…)」
ガンボは、顔面の前で両手をクロスさせ、ガードを固める。
しかし、アリアはそれをも読んでいたかのように魔法を唱える。
「鎖魔法-チェーンスパイク-!!」
アリアの鎖が巻かれた拳に、鎖でできた鋭い棘が形成される。
「なにっ…」
ガンボは、その様相に目を丸くする。
「ドカッ!!」
鋭い一撃が、ガンボのガードを貫き、顔面に突き刺さる。
「がはっ!!」
ガンボは、激しく出血しながら吹き飛ばされた。
「まだ終わらないよぉ!」
アリアは、急いで魔法を解き、弓を再度展開し、矢を装填する。
その一連の動作は、ものの数秒のことだった。
「喰らえ!!!」
アリアの弓から、先端に爆薬が仕込まれた矢が放たれる。
「ヒュン!!」
その矢は、吹き飛ばされたガンボを追うように飛んでいく。
「くっ!!」
そして、矢がガンボの腕に突き刺さる。
「チュドーン!!!」
激しい爆発音が響き渡り、矢が爆発を起こした。
「ふぅ…これで…」
アリアは、安堵のため息をつく。
「おぉ…すげぇなアリア!大したもんだぜ!!」
アイアンホースも、アリアの快進撃に目を見張る。
そして、白煙が晴れていく。
「…」
広間の中央には、大の字に倒れているガンボの姿があった。
左腕は爆発矢を受けた影響か、吹き飛んでおり、体中に熱傷を負い、明らかに瀕死の状態だった。
「へっ…ざまぁないな…この野郎」
アイアンホースは、ゆっくりとガンボに近づく。
「さ、ここから出る方法を教えてもらうよぉ!」
アリアも、ガンボに近づく。
「ふっ…勝った…つもりか?」
だが、ガンボは、ゆっくりと口を開いた。
「なんだと?」
アイアンホースは、その言葉に眉をひそめる。
それに呼応するように、ガンボが魔法名を口にする。
「蝗・風魔法-蝗禍蟲嵐-」
次の瞬間、ガンボの肉体が、無数の虫に分裂した。
虫は手のひらほどの大きさであり、不快な羽音を響かせ部屋内を飛んでいる。
「わぁ!?虫!?」
アリアは、その光景に驚き、目を丸くする。
「なんだこの魔法は!?見たことがねぇ…」
アイアンホースは、困惑の声を漏らす。
「さぁ、ここからが真の試練だ。神が与えた災い…乗り越えることができるか?」
そして、どこからともなく、ガンボの声が部屋内に響き渡った。




