第118章:没有にて
サシャ達の姿は、カベルタウンの東門にあった。
朝の喧騒は遠ざかり、街道には穏やかな時間が流れている。
「ふぅ、なんだかんだでもう昼過ぎだね…」
サシャが、一息ついて言葉を漏らす。
シュリツァを出発したのが午前中だったので、時間はすでにお昼を過ぎていた。
「そうだな…このまま進めば、間違いなく野宿になるだろう」
リュウが地図を広げ、移動にかかる時間を計算していたが、次の目的地である没有 までは、かなりの距離があり、野宿は避けられないという結論に至った。
「野宿でも大丈夫だよ!!ご飯は僕が調達してくるし、サンドイッチもあるし!」
アリアは、野宿でも問題ないとばかりに明るい声で言う。
「(野宿…変な虫を食べさせられるのだろうか…)」
サシャは、一瞬目を丸くし、遠い目をした。
「まぁ、ここで宿泊するというのもなんだしな。俺も野宿でいいが、サシャはどうだ?」
リュウがサシャに尋ねる。
「あ、うん!野宿でいいと思うよ!!」
サシャは流れで思わず即答した。
「よーし!じゃあ出発しよう!!」
それを聞いたアリアは、意気揚々と東門から走り出す。
「あ、待ってよ!」
サシャとリュウは、アリアの後を追った。
サシャ達はカリカリの森を進む。
幸い、道は人の手によってきれいに整備されており、時折、冒険者らしき一団や、ノヴァアビスに積み荷を乗せた旅人、荷馬車で移動する商人など、意外にも多くの人が往来していた。
「結構、人通りが多いんだね」
サシャが、すれ違った旅人を見つめながら言葉をこぼす。
「主要道路なんだろう。整備されていないカリカリの森はモンスターが出るリスクも増えるだろうしな」
リュウは、冷静に状況を分析した。
「うーん!風が気持ちいいよぉ」
アリアは、森の中を漂う心地よい風を満喫していた。
こうして、サシャ達はカリカリの森を歩き続けた。
カベルタウンから約2時間後。
サシャ達の目の前に、鮮やかな赤い門が現れた。
門の前には軍服らしき毛皮のコートに身を包んだ黎英の兵士が立っている。
だが、何よりも目を奪われるのは、赤門の横に延々と続く巨大な石垣だった。
それはまるで、侵入を拒む巨人のように長大で、圧倒的な迫力に満ちていた。
「わ!すごい派手な門だよぉ。それに、これは城?」
アリアは、その門の異様さと派手さ、石垣の規模に目を丸くした。
「黎英の名物…千叛ノ長城だな。昔、魏膳やドラゴニアからの侵攻を防ぐために、当時の皇帝が建造を命じたと言われている。黎英の国境は、これに沿って定められている…と聞いたことがある」
リュウは、建物の正体について説明する。
「へぇ。そんな凄い建造物があるなんて」
サシャは、目の前の門と石垣に目を奪われつつ、三人は先に進んだ。
そして、赤い門の下をくぐる。
木製の看板には「ようこそ!黎英へ!」と書かれていた。
「わぁ!ついに黎英だね!!」
アリアは、ウキウキしている様子だった。
「黎英はどんな場所なんだろうね!楽しみだ」
サシャも、新しい冒険に胸を躍らせる。
それから、サシャ達はカリカリの森を抜け、平坦な道を歩き続け、山道の入口に到着した。
「ここが、ルネスタ山脈の入口か…」
サシャ達の目の前には、灰色の岩肌がむき出しになった、険しい断崖絶壁の山道があった。
道には転落防止の柵が設置されているものの、道幅は馬車がギリギリすれ違える程度で、舗装もされておらず、足を踏み外せば転落するリスクがありそうな場所だった。
「タタラ峠よりも険しそうだよぉ」
アリアは、思わず息をのんだ。
「だが、行くしかない…!」
サシャは意を決する。
「道が整備されているだけマシだ」
リュウは、余裕のある表情を見せた。
こうしてサシャ達は山道へと足を踏み入れた。
「結構、緩やかなんだね!」
「石がじゃりじゃりして歩きにくいよぉ」
「魏膳の山奥に比べれば造作もない…」
サシャ達はひたすらに山道を進んだ。
そして、2時間ほど歩き、近くを滝が流れる平たい場所で、サシャ達は休憩していた。
辺りはすっかり日が暮れ、山道を行き交う人の影もなくなっていた。
「ふぅ…さすがに疲れたや。日が暮れてきたし、今日はこの辺で野宿にしよう」
サシャは、野宿の提案をする。
「あぁ。夜の山道は危険だしな」
リュウも野宿に賛成した。
「じゃあ、ご飯にしようよ!!」
アリアも賛同する。
こうして、サシャ達は滝の近くの平たい道の外れで野宿をすることになった。
三人は近くの枝を拾い、薪をくべ、焚火を用意した。
炎がパチパチと音を立て、あたりを暖かく照らし出す。
そして、ポーチから干肉や野草を用意し、簡素な食事も用意した。
「あ!ヒュウナちゃんから貰ったサンドイッチも食べようよ!」
サシャは亜空袋から、紙袋を取り出す。
そして、紙袋の中からサンドイッチをリュウとアリアに手渡した。
「これ美味しかったんだよぉ」
アリアは、嬉しそうな表情を見せる。
「ありがたいな」
リュウは、サンドイッチを受け取った。
「じゃあ、いただこう!」
こうしてサシャ達は、楽しい食事のひと時を楽しみ、一夜を明かした。
一方で、同時刻。
八宝湖の近くの街 没有 の酒場にて。
「ゴクッゴクッ…っぷはー!!調査終わりのビールは格別だぁ!!」
テンガロンハットをかぶり、眼帯をした一人の男が、美味しそうにビールを飲み干した。
「いい飲みっぷりじゃねぇか!さすがは、ホルモの戦士だ!!」
男の隣には、オールバックにしたソフトモヒカンに、青い口紅、そして顔に複数のピアスを開けた厳つい風貌の女性がいた。
「ふん。まさか、おめぇと共同で任務をすることになるとは、世の中、何があるか分からねぇな」
男は、女性に対して、怖い顔をしながらそう言った。
「そんな怖い顔するなよ。もう昔のことだろ?今は仲間なんだから、仲よくやろうぜ!!アイアンホース…!」
女性は、男の名を呼んだ。
「ま、ベルクートの旦那の命令じゃ仕方ねぇな。今回だけ付き合ってやるぜ、モギー!」
アイアンホースは、女性の名前を呼んだ。
デス・モギー。
フラッカーズのS級傭兵の一人であり、アイアンホースの幼馴染で同郷でもあった女性だ。
その性格は苛烈にして大胆。
戦場では多くの命を刈り取ってきたことから「狂犬」の異名を誇っていた。
「して、レッドベリアルの居場所は目星ついてんのか?というか、なんで人探し如きに俺たちが駆り出されにゃならないんだい?」
モギーが、話題を本題に戻し、アイアンホースに尋ねる。
「まだ目星はついてない。ただ、この前ここで魔具が発見されて大騒ぎになって、その時に大司教の娘が視察に来ただろ?で、視察の後、大司教の娘は馬車を残して突如行方不明になった。そして、レッドベリアルから、ご丁寧に大司教の元へ犯行声明が届いたというわけだ。『娘と引き換えに、八宝湖で見つかった「黄昏の指輪」を渡せ』ってな。それを受けて黎英の大司教がベルクートの旦那に直接依頼したというわけだ」
アイアンホースは、八宝湖近辺で起きた事件について語る。
「黎英軍は動かないのか?」
モギーが尋ねる。
「一応、軍も動いてはいるが、手掛かりはなしだ…捕まえても末端構成員だけで、情報はゼロ。で、俺たちにもお鉢が回ってきたというわけだ」
アイアンホースが状況を説明する。
「なるほどな。それで、腕利きの傭兵である俺たちにご指名が入ったというわけか。だが、他に暇な奴はいなかったのか?」
モギーが、アイアンホースに尋ねる。
「マリはトリア帝国で貴族様の護衛任務。ファントムは、いつも通り連絡に応じず、ダストは東の大陸で起きている紛争地帯で小遣い稼ぎ…S級で暇だったのは俺たちくらいだったって訳だ」
アイアンホースは、ビールを飲みながら説明した。
「全く、どいつもこいつも多忙なこったな」
モギーも、ビールを勢いよく飲み干す。
「ま、本格的な調査は明日からにして…ビールの飲み比べと行こうぜ!負けたやつが奢り。どうだ?」
アイアンホースが、モギーに勝負を持ちかけた。
「へっ、いいぜ。受けてやる!」
モギーは、ニヤリと笑って勝負に応じる。
そして、二人は二杯目のビールジョッキに手をかけた。
翌日、サシャ達はルネスタ山脈の山道を下っていた。
幸いにも天気は、空一つない快晴であり、ポカポカとした柔らかな陽光が、彼らの体を優しく包み込む 。
「いい天気だ」
サシャは、背伸びをしながら歩く。
「この調子なら没有には昼過ぎにつきそうだな」
リュウが、地図を見ながら口にする。
「ポカポカしてて暖かいよぉ」
アリアは、まだ眠いのか、小さな欠伸をこぼした。
山道には、まばらに人が通行していた。
冒険者らしき一行や、黎英の軍服を着た兵士。
そして、賞金稼ぎが、お尋ね者を縄にかけて連行している姿もあった。
それから約2時間ほど歩き続けると、ようやく山道の出口が見えてきた。
「よし、出口だ…」
サシャが、安堵のため息を漏らす。
「やっぱ山道は歩きなれないよぉ…」
アリアは、疲れたように言葉をこぼした。
「この道を真っすぐ進めば没有のはずだ」
リュウは、前方を指差して言った。
サシャ達は道を真っすぐ進む。
すると、どこからともなく濃い霧が立ち込めてきた。
「わ!霧が出てきたよぉ…」
アリアが、周囲をキョロキョロと見渡す。
「本当だ!結構濃いね…」
サシャは、立ち止まってその様子を見つめる。
やがて、霧は次第に濃くなり、すぐ先の道すら見えなくなるほどだった。
「だが、整備された道を進めば迷うことはないだろう。それに、人の往来もある」
リュウは、冷静に状況を判断した。
こうして、サシャ達は慎重に整備された道を進む。
そして、歩き続けて約1時間。
「ついた…ここが没有だ」
リュウが、目の前の景色を見て言葉を漏らす。
「なんだか、独特の雰囲気だね…」
サシャは、濃い霧に覆われた街の雰囲気に目を丸くした。
「なんか怖いかも…」
アリアは、不安げにサシャの服の裾を掴んだ。
没有の街は濃い霧に覆われ、外にはほとんど人通りがなかった。
荷車を引いている商人や冒険者らしき一団の影がわずかに見えるだけで、その様子はまるでゴーストタウンのようだった。
湿った空気が肌を冷やし、遠くから聞こえるはずの喧騒も、この街には存在しないかのようだった。
「店もやってるのかな…」
サシャ達は、街の通りに足を踏み入れる。
街全体が暗く、ひっそりとしているが 、街の建物に明かりが灯っている気配はなかった。
「とりあえず、宿屋に行ってみようよぉ」
アリアが、明るく提案した。
「そうだね!何かしら情報があるかもしれないからね」
サシャは、アリアの考えに頷いた。
そして、サシャ達が宿屋を探している時だった。
「誰か!!た、助けてー!!」
街の奥から、悲鳴が聞こえてきた。
「こっちの方向からだ!!」
リュウが、声の方向へ走り出す。
彼を追って、サシャとアリアも走り出した。
そして、建物の間を抜け、薄暗く不気味な路地裏に辿り着く。
そこには、ゴミの山から発する腐敗した匂いが立ち込め、湿った空気が肌にまとわりついた。
「この辺のはずだが…」
リュウが、周囲を見渡す。
「あ!あれ!!」
アリアが、路地の奥を指差した。
その方向には、四人の男性に襲われそうになっている、白いドレスを着た女性がいた。
「へっへっへ…お嬢さん。高く売れそうだな…」
「俺たちに見つかって運が悪かったな」
男たちは、下卑た笑みを浮かべ、女性に言葉を投げかける。
「や、やめて!!」
女性が、悲痛な声を上げた。
「リュウ、アリア…」
サシャは、双剣を取り出し、構える。
リュウとアリアも、互いに頷き、それぞれの得物を構えた。
そして、サシャが一歩踏み出す。
「お前達!!何をしているんだ!!」
サシャが、男たちに声を張り上げた。
「なんだ?」
「ガキはすっこんでろよ!!」
「そんな玩具の剣で俺たちとやろうってのか?」
男たちは、ナイフ、斧、剣、棍棒をそれぞれ手にサシャの方を睨む。
だが、その視線の先で、リュウがもの凄い速さで男たちの前を通り抜ける。
「荒覇吐流奥義…」
剣を持った男の前には、既にリュウが立っていた。
「え?ちょ…」
男は、慌てて剣を構えようとするが、すでに遅かった。
「剛鬼!!」
リュウの激しい横薙ぎが、男の体を一閃する。
「ぐへぇぇ!!」
男は、衝撃に耐え切れず地面に倒れ伏す。
「やりやがったな!!」
斧を持った男はサシャに、棍棒を持った男はアリアに、ナイフを持った男がリュウに、それぞれ襲いかかった。
「死ね!!」
斧を持った男が、サシャに向かって斧を振りかざす。
「こんなの当たらないよ!」
サシャは、斧をギリギリまで引き付けてから、素早く身を捻って回避する。
そして、カウンターとばかりに、双剣を男の胴体に叩きこんだ。
「あべっ!!」
男は、衝撃に耐えられず地面にうずくまり、気絶した。
「お前も高く売れそうだな!!」
棍棒を持った男が、アリアに向かってくる。
しかし、それはアリアにとって、ただの的に過ぎなかった。
「えいっ!!」
アリアは、三本の矢を間髪入れずに放つ。
「がっ!!」
矢は、男の棍棒を持つ手、膝、そして肩に正確に命中した。
男は、激痛のあまり地面に膝をついた。
「…おりゃああ!!」
ナイフを持った男が、リュウに刺突を仕掛ける。
「ふんっ!」
だが、リュウは、それを容易く剣で弾き飛ばす。
「え?嘘?」
男の顔は、驚きで真っ白になる。
そのまま、リュウの流れるような峰打ちが炸裂した。
「がへっ!!」
男は、衝撃を受けて意識を失った。
「くっ…おのれ…ガキ風情がよくも!」
アリアが攻撃した男が、悔しそうにサシャ達を睨む。
「その女性に何をするつもりだったんだ?」
サシャが、男に静かに尋ねる。
だが、男は不敵な笑みを浮かべた。
「へっ…ちょっとした小遣い稼ぎさ。今、人身売買が熱いんでな!」
「そっか…ならば、少し眠っているといい」
男の答えを聞いた瞬間、リュウの峰打ちが男に炸裂した。
「げぼっ…」
男は、白目を剥いて気絶した。
「これでよしっと…」
サシャが、双剣を鞘に収める。
そして、路地の隅で怯える女性に近づいた。
「ひ、ひっ…やめて…」
女性は、まだ怯えているようだった。
また、特徴的な尖った耳から、彼女がエルフ族であることも確かだった。
「大丈夫。何もしないから…君を助けに来たんだ」
サシャは、女性に優しく笑みを浮かべる。
「う…うわぁぁぁぁん!」
次の瞬間、女性は、まるで糸が切れたかのように大声で泣き叫んだ。
「お、落ち着いて!!大丈夫…大丈夫だから」
サシャは、慌てて女性を宥めようとする。
その時だった。
リュウが峰打ちで倒した男の首の紋章が青白く光り出す。
「なになに!?」
アリアが突然の輝きに驚く。
「一体なんだ?」
サシャが女性を落ち着かせ、臨戦態勢に入る。
「…使えない奴らだ」
「所詮は、その辺の盗賊では、なんの役にもたちませんね…」
次の瞬間、路地裏に青い魔法陣が浮かび上がり、その中から二人の男性がゆっくりと姿を現した。
「なっ…!?(こいつら、どこから?)」
リュウが、驚きと警戒から慌てて剣を構える。
「え?人!?」
アリアは、慌てて背後を振り向く。
だが、片方の男の影は、すでにアリアの背後にあった。
「お嬢ちゃん。すまないが少し眠っていてくれ」
男は、鋭い手刀をアリアの首筋にかます。
「うっ!」
アリアは、手刀を受けて気を失った。
「アリア!」
サシャが、慌ててアリアの方に駆け寄ろうとした、その男が立ちふさがる。
「そう慌てるな…」
男は、赤い甲冑と深紅のマントを羽織っていた。
その容姿は、銀髪のオールバックで、目は細く、その視線は氷のような冷たさを感じる。
そして、その手には、得物と思われる西洋剣が握られていた。
「そこをどけっ!!」
サシャが、双剣を振るう。
「ガキン!!」
「浅いな…力もない」
男は、涼しい顔でサシャの剣戟を防ぐ。
「くっ!(なんて力だ!)」
サシャが力を込めるが、男はまるで巨岩のようにびくともしない。
「そのまま寝ているといい…風魔法-仙手掌底-!」
男は、もう片方の手に風を纏い、強烈な掌底をサシャにお見舞いする。
「がっ!」
その衝撃に、サシャは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「サシャ!!…よくも!!」
リュウが、怒りに燃える瞳で背後から男に斬りかかろうとする。
しかし…
「なっ!?(体が動かない?)」
リュウの動きが急に止まる。
彼がゆっくりと振り向くと、もう一人の男がリュウの肩に触れていた。
「聖痕魔法-法王の勅命-」
男は、赤いローブを着込み、不健康そうに瘦せこけた頬に、分厚い眼鏡をかけ、青色のもじゃもじゃしたロングヘアといった容姿だった。
「動け…ない」
リュウは、体を動かそうとしたが、全く動かなかった。
「私の聖痕魔法は触れた相手に様々な魔法特性を付与できるのです。今、あなたには「拘束魔法」の特性を付与したので、もう動けませんね」
男が、不気味な笑みを見せながら言った。
「くそっ…」
リュウは、なんとか体を動かそうとするが、ピクリとも動かなかった。
「じゃあ、お嬢さんは、おじさん達と一緒に来てもらおうか。大丈夫だ。怖くない」
その隙に、銀髪の男の手が、怯える女性に伸びる。
「や、やめろ…」
サシャが、立ち上がろうとするが、まだ体が痛んでおり、動けない。
「ひっ…」
女性が、観念したように目をつぶった。
その時だった。
「弾丸魔法-魔法散弾- !!」
一発の白い弾丸が、銀髪の男に向かって飛んできた。
「おっとっと!」
銀髪男は、慌てて攻撃を回避する。
それと同時だった。
「火魔法-雄羅雄羅蛮火-」
炎を纏った太い釘が、青髪男に飛んでくる。
「おっと…危ないですね」
青髪男は、紙一重で回避した。
「…お前たちは」
銀髪男が、攻撃を仕掛けてきた者の正体を睨みつける。
「!!」
「え?どうしてここに」
リュウと、壁にもたれかかっているサシャが、驚きの声を上げた。
「悲鳴が聞こえたので来てみれば、サシャ、リュウ!久々だなぁ!!」
そこにいたのは、満面の笑みを浮かべたアイアンホースだった。
「あん?知り合いか?」
隣にいた女性が、アイアンホースに尋ねる。
「昔、ある依頼で世話になってな…それよりも…」
アイアンホースは、男二人を鋭い視線で睨む。
「お前ら、レッドベリアルだな?」
アイアンホースが、口を開く。
「その特徴的な容姿と手にした武器…フラッカーズだな?それも、S級傭兵のアイアンホースに…デス・モギー…これは随分と厄介な相手だ」
銀髪男は、低い声で言った。
「これは予想外ですね…ガンボ。一旦、帰りましょう。これ以上は割に合いません」
青髪男は、銀髪男にそう口にした。
「…ふむ。そうするか」
銀髪男は、即座に決断する。
そして、二人が青い魔法陣に包まれた。
「なっ!逃げるのか!?」
モギーが、再び太い釘が付いた武器を向け、それを放つ。
「今は、お前達とやる予定はない。また会おう…」
男二人は、青白い光に包まれると、その場から姿を消した。
太い釘は宙を貫き、路地裏にあった空っぽの酒樽に深々と突き刺さった。
「ちっ…逃したか」
モギーが、悔しそうに舌打ちをする。
「まぁ、それは一旦いい。それよりも…お前達大丈夫か?」
アイアンホースが、女性とサシャ達へ足早に駆け寄った。




