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第111章:優しき尋問

「ブオンッ!!」

鋭い音が響き、アルタイルは議事堂の中へと空間移動した。


「はぁ…はぁ…くそっ。この私が」

胸から流れ出る血と、荒い呼吸が、彼の負った傷の深さを物語っていた。


「アルタイル国王!?」

すると、たまたま巡回をしていたドラゴニアの兵士が、アルタイルの姿に気づき、驚きの声を上げる。


「衛生兵を呼んで来い!!」

別の兵士が慌てて叫ぶ。

しかし、アルタイルはそれを片手で制した。


「だ、大丈夫だ。医務室へは一人で行く。お前達は自分の責務を全うせよ…」

アルタイルは、胸を抑えながらゆっくりと立ち上がると、ふらつく足取りで医務室へと向かっていく。


「なんて精神力だ…やはり俺たちとは器が違いすぎる…」

その様子を、巡回していた兵士たちは、ただ見送るしかなかった。


「ガチャ…」

アルタイルは、医務室の扉を開ける。

すると、そこには、先に戻っていたスピカがいた。


「アルちゃん!?」

アルタイルのひどい姿に、スピカは目を丸くする。


「少しもらってしまってな…すまないが手当てを頼む」

アルタイルは、そう言うと、近くの椅子に腰掛けた。


「ひどい怪我ね…蜜魔法-琥珀雫(こはくしずく)-」

スピカは、慣れた手つきで蜜魔法を使用し、アルタイルの傷口を治療していく。

蜜魔法に包まれた傷口は、少しずつだが、確実に塞がっていった。


「…けど、アルちゃんをここまでするなんて。あの冒険者達はそんなに強いの?」

スピカは、不安げな表情でアルタイルに尋ねる。


「あいつらはただの冒険者ではない…堕天使だった」

アルタイルは、静かにそう呟く。


「堕天使?アルちゃんも冗談を言うことがあるんだね!」

スピカは、信じられないといった様子で、くすっと笑って見せる。


「冗談ではない。正真正銘の堕天使族がいた…私以上の魔力と威圧感をもっていた。中々の強敵だぞ…」

アルタイルがそう呟くと、スピカの表情から笑みが消えた。


「本当なの?…けど、アルちゃんにそこまで言わせるなんて…」

スピカは、治療を続けながら、その言葉の重みを感じていた。


「だが、次は負けぬ。奴らはまた極天のランプを求めて我々を襲ってくるつもりだろう。その時は返り討ちにしてくれる…」

アルタイルの顔は、怒りと、強い決意に満ちていた。


「アルちゃん…」

その様子に、スピカは少し困惑しているようだった。

アルタイルの顔に、焦りのようなものが浮かんでいるように見えたからだ。


「極天のランプがあれば他国への抑止力になる。奴らに渡すわけにはいかぬ。私はドラゴニア王国のためなら何でもするつもりさ」

そう言っているうちに、アルタイルの傷口は完全に塞がった。


「終わったわ。傷は塞がったけど、しばらくは大人しくしておいた方がいいと思うわ」

スピカが、心配そうに念を押す。


「あぁ、分かった…ありがとうスピカ」

アルタイルは、そう呟くと、医務室から出て行こうとする。


「あ、アルちゃん…ちょっと!」

それを、スピカが引き留めた。


「どうした?」

アルタイルが、少し不審に思いながら振り返る。


「…いや、なんでもない」

スピカは、何かを言いかけ、しかし静かにそう呟いた。


「分かった…」

アルタイルは、それ以上何も聞かずに医務室を出て行った。

そして、しばらくしてスピカが口を開く。


「アルちゃん…あなたは頑張りすぎよ」

その表情は、どこか悲しそうにも見えた。

彼女の孤独な戦いを、スピカは理解しているようだった。


一方、兵舎近くの森。

そこでアリアは目を覚ました。


「うっ…確か僕は…」

アリアが、自身の手足に違和感を感じていた。

彼女の手首には、固まった蜜の枷がはめられていたのだった。


「拘束されている…こういう時は…」

アリアは、冷静に状況を分析し、魔力を手首と足首に集中させる。


「鎖魔法-チェーンクラッシュ-!」

すると、手首と足首に小型の鎖が巻き付く。

そして、それを思いっきり締め上げた。


「うっ!」

アリアは、鋭い痛みをぐっとこらえた。


「ぴしっ…」

すると、固まった蜜にヒビが入り始める。

そして…


「パキン!!」

固まった蜜が、まるで飴細工のように砕け散った。


「ふぅ…なんとかなったよぉ」

アリアは、安堵から深く息を吐く。


「それよりも、みんなは!?」

アリアは、仲間たちの安否を確かめるため、慌てて中庭の方へ駆け寄る。

しかし、そこには、眠ったままのドラゴニアが横たわっているだけだった。


「いない?どこに行ったんだろう…?」

アリアは、仲間たちを探そうとする。

だが、その時、ラウ老師の言葉を思い出す。


『いいか、もしもバラバラになったら無事な者からバンカーに戻るのじゃ』


「うん…!バンカーに戻ろう…きっと皆、無事だよね…」

アリアは、自分にそう言い聞かせると、一人バンカーへと戻って行った。


そして、街の中を歩いて20分後。

アリアの姿は、バンカーの中にあった。


「おや、戻ったのかい」

そこには、ヘレンが一人で優雅に紅茶を飲んでいた。


「あれ?みんないないよぉ?」

アリアは、バンカー内をキョロキョロと見渡すが、中にいたのはヘレンだけだった。


「あんたが一番乗りだよ。それよりも、足首から血が流れているよ」

ヘレンが、アリアの足首に視線を向ける。


「あ…」

アリアは、自分の足首に目を向ける。

おそらく、枷を破壊したときに破片で切ったのだろう。


「手当てしてやるから、こっちに来な」

ヘレンは、近くの棚から小さいボトルに入った回復薬を手に取る。


「ありがとう…」

アリアは、近くの椅子に腰掛ける。


「にしても、あんたたちは、どうしてそこまで、この戦いに首を突っ込むんだい?極天のランプが欲しいなら、さっさと盗み出して逃げることだってできるはずだ。それに、これはドラゴニア族の問題だろ?」

ヘレンは、回復薬をそっと傷口にかけながら、アリアに尋ねた。

その質問に、アリアは迷うことなく答える。


「盗み出したところで、皆が困っているのに、放っておけないよ。それに、強引に物事を変えようとする龍心会のやり方…僕は好きになれないから…」

アリアがそう呟く。


「…強引に物事を変える。か。80年前もそうだった。後継戦争の時も、お互いそんなことを言い合いながら。自分たちの正義を正当化しようとして戦った。その結果、多くの血が流れた。だから、アルタイルのやり方を否定するつもりはない。だけど、あんた達のやり方も否定はしない。私はここ(バンカー)を貸しているだけ。それだけのことさ」

ヘレンは、そう言って回復薬をかけた足首に包帯を巻き終える。


「よし…これでいい。今日のところは休んでおきな」

ヘレンが、アリアに優しく告げる。


「けど、サシャとリュウがいないから探しに行かないと…!」

アリアは、心配そうな表情を見せる 。


「いや、その必要はないよ」

ヘレンが、意味ありげな笑みを見せる。

すると、誰かが階段を下りてくる音がする。


「疲れた…」


「お、アリアも無事に戻っておったか」

階段から、へとへとになったサシャと、ラウ老師が降りてきた。


「みんな…!無事でよかったよぉ!」

アリアの顔に、心からの安堵の笑みが浮かぶ。

だが、あることに気が付く。


「あれ?リュウは?」

アリアが尋ねる。


「心配するでない。ワシの知り合いがやっている病院に入院しておるわい。命に別状はないぞ」

アリアの心配を払拭するように、ラウ老師が話す。


「…よかった」

アリアは、安堵のため息を漏らす。


「僕、クタクタだ…」

サシャは、近くにあったソファに倒れ込むように体を預けた。


「して、どうなんだい?アルタイルは倒せたのかい?」

ヘレンがラウとサシャに尋ねる。


「アルタイルは逃がしました。けど、幹部のベガを…撃破しました」

サシャは、どこか悲しげに呟いた。


「ワシはカーンを葬った。奴なりへの手向けといったところじゃ」

ラウ老師は、静かにそう呟いた。


「あ!僕、森の中でスピカという幹部と戦ったよぉ!」

アリアは、思い出したかのように呟いた。


「なんだって!?」

その発言に、サシャは目を丸くする。


「すごく強くて。僕じゃ敵わなかった。そして、気が付いたら両手足を拘束されて動けなくなってたんだ。けど、何故か僕を殺さなかった…」

アリアは、自身に起こったことを話した。


「そうか…けど、無事でよかったよ…」

サシャは、安堵の表情を見せる。


「じゃが、不思議じゃな。ワシらはアルタイルにとって都合の悪い連中のはず。アリアを殺す気になれば殺せたはずじゃ…」

ラウ老師の頭の中に、疑問が浮かんだ。


「ま、連中も一枚岩ではないということかもしれんね」

ヘレンが、そう呟いた。


「あとはラジアンじゃな…無事に事が進めばよいが…」

ラウ老師は、レグルスを追うラジアンの身を案じていた。


アルタイルの襲撃から2日後。

サシャ達は休息を取りつつ、バンカーに身を潜めていた。

そんな中、トルティヤはミモザの護衛だった龍心会のメンバーに尋問をしていた。


「さて、お主の知っていることを話してもらおうかの」

トルティヤは護衛にじりじりと詰め寄る。


「お、お前達に話すことなんてない!!」

護衛は、体に巻き付いた茨の拘束に苦しみながらも、必死に抵抗する。


「話した方がいいぞ…この人は起こると怖いからな」

隣には、幸いにも命に別状はなく、病院から退院してきたリュウの姿があった。


「そうだよ!話した方が色々と楽になるよぉ!」

アリアは、純粋な口調で護衛に話すように促す。


「断る!!俺だって龍心会の一員だ!情けをかけられるくらいなら死んだ方がマシだ!」

護衛は、自らの信念を貫くかのように、頑なに拒絶する。

しかし、その声は微かに震えていた。


「それならば仕方ないのぉ…幻惑魔法…」

トルティヤは、迷うことなく魔法を発動し、無理矢理にでも情報を聞き出そうとした。


「待つのじゃ」

しかし、その前にラウ老師が静かに待ったをかけた。


「ラウ老師?」

その様子にリュウは首をかしげる。


「なにをするのじゃ?魔法で口を割った方が早かろう?」

トルティヤが、わずかに不機嫌そうな声でラウ老師に呟く。


「ラウ老師?かつて軍神と呼ばれた将軍のことか?」

護衛は、思わぬ人物の名を聞き、驚きに目を丸くする。


「そうじゃ。それで、お主。どうして龍心会に入ろうとしたのじゃ?」

ラウ老師は、護衛の心を解きほぐすかのように、優しい口調で尋ねる。


「それは…アルタイル様がカッコイイと思ったから。それに、ドラゴニアは税金とかも安くしてくれるって言っていたから」

護衛は、迷いながらも正直に答える。


「なるほどな。だったら、お主はアルタイルのために命をかけることはできるか?」

ラウ老師は、その言葉の奥底にある真意を探るように、真剣な眼差しで護衛に尋ねる。


「命をかける?」

護衛は、その言葉の重みに戸惑う。


「そうじゃ。アルタイルはこの国を支配した後、他国へ侵略を行うやもしれん。そのために、飛行船を製造し、徴兵を行っているのも確認できた。もしそうなったら、お主は命をかけて国のため、アルタイルのために戦えるのか?…と聞いておるのじゃ」

ラウ老師の低い声が、護衛の心に重く響く。


「そ、それは…」

護衛は、言葉に詰まる。

それを見たラウ老師が、静かに手を挙げる。


「バシッ!」

乾いた音が響き、護衛の頬に平手打ちが叩き込まれた。


「迷いがあるくせに、軽々しく「死んだ方がマシ」などと口にするな」

ラウ老師は、護衛の頬を赤く腫らしながらも、厳しい口調でそう呟いた。


「…」

護衛は、ただ黙り込むしかなかった。

彼の心は、ラウ老師の平手打ちと、その言葉の重みで揺さぶられていた。


「じゃが、迷いがあるということは、お主はまだ引き返せる。じゃから、ワシらに知っている情報を教えてはくれぬか?」

ラウ老師は、再び優しい口調に戻る。


「…分かりました」

護衛は、観念したような表情をし、静かに口を開く。


「その代わり、話したら俺を解放してください。もちろん、龍心会には戻りませんから…」


「ふむ。よかろう」

ラウ老師は、護衛の言葉に迷うことなく快諾した。


「ラウ老師!そんな約束をしてもいいのか!?こやつが解放されて、万が一、龍心会にバンカーの場所を報告でもされたら…」

トルティヤは、ラウ老師の行動に疑問を呈する。

彼女は、護衛の言葉を簡単には信じられなかった。


「そうだよ。せめて、争いが終わるまでここに拘束させておくべきだよ」

ヘレンもまた、トルティヤの意見に賛同する。

しかし、ラウ老師は首を横に振った。


「いや、ワシはこの若者を信じる。万が一のことがあれば、ワシが全て責任を負う」

ラウ老師は、サシャ達とヘレンにそう呟いた。


「わかった。じゃが、ワシはどうしても納得できん。そこでじゃ…」

トルティヤは、不満そうな表情を浮かべながらも、ラウ老師の言葉を受け入れる。

そして、護衛の額に手を触れた。


「な、なにをするつもりだ?」

護衛の顔に、恐怖の色が宿る。


「無限魔法-仮初の契り-」

トルティヤが魔法を唱えると、護衛の額に赤い紋章が浮かび上がる。


「トルティヤ、一体何をした?」

ラウ老師が、その紋章を見てトルティヤに問う。


「こやつに呪術魔法をかけたのじゃ。もしも、龍心会のメンバーと接触しバンカーのことを吐き出そうとした場合、刻印が反応し、体中が火だるまになるという呪術をのぉ」

トルティヤは、低い声でそう呟く。


「(えげつない魔法だな…)」

その効果を聞いて、リュウは思わず唾をのんだ。


「信頼されてないんだな…ま、無理もないか」

護衛は、諦めたようにため息をつく。


「ま、安心するといい。バンカーのことを一切話さなければお主に害は及ばん。では、質問するぞ。正直に答えるのじゃ」

トルティヤが、急かすように護衛に呟く。


「分かった…」

護衛は、静かに頷く。


「まずは、アルタイルの真の目的を話すのじゃ」

トルティヤはアルタイルの目的を問う。


「…アルタイル国王の最終的な目的はドラゴニア王国を大陸一の軍事国家にすること。そして、近隣諸国への侵攻で、手始めにサージャス公国への侵攻を企てているようです。そのために、極天のランプ?という魔具を手に入れた…なんて語っていました」


「…やはりか。恐らく、極天のランプを破壊兵器代わりに使用するといった魂胆じゃろう」

トルティヤは、護衛の言葉からアルタイルが極天のランプに固執している理由を推測する。


「サージャス公国と戦争になったら、その同盟国であるレスタ王国。さらには、近隣のトリア帝国やマクレンを巻き込んだ大戦争に発展しかねん…」

ラウ老師が、最悪の事態を懸念し、深く眉間にしわを寄せる。


「ふむ…そうなる前に極天のランプを取り戻して、アルタイルを無力化せねばな。戦争になったら旅をするのも面倒になるからのぉ…」

トルティヤが、あくまで自分たちの目的のために動くことを再確認する。


「ちなみに、極天のランプの保管場所は知らないのか?」

リュウが、最後の望みをかけるように護衛に尋ねる。


「すみません…保管場所までは分からないです」

護衛が、申し訳なさそうに呟く。


「そうか…他に知っていることはないか?」

ラウ老師が、護衛の目を見て尋ねる。


「そうですね…あとはレグルス様がメイラ神聖国と同盟を結ぶため、近々、同国に向かうということと、議事堂を本拠地にしているということくらいです。それ以外は、分かりません」

護衛は、知っていることを全て話した。


「…嘘をついている目ではないな。トルティヤ、この者を解放してやるのじゃ」

ラウ老師は、護衛の真実の瞳を読み取り、トルティヤに拘束を解くように命じる。


「やれやれ…仕方ないのぉ」

トルティヤは、不満を漏らしながらも、茨の拘束を解除した。


「た、助かった…」

護衛の表情に、心からの安堵が見える。


「勘違いするでないぞ。もしも、言いつけを破ったらどうなるか分かるの?」

トルティヤは、念を押すかのように護衛に警告する。


「わ、分かりました!誰にも話しません!!」

護衛は、トルティヤの恐ろしさを思い出し、怯えたように答える。


「では、ワシが外に送ってやろう」

ラウ老師は、そう呟くと、解放した護衛をバンカーの外に送って行った。


「けど、目的は分かったとして、肝心の極天のランプの場所が分からないんじゃどうしようもないな」

リュウが、頭を抱えてため息を漏らす。


「ふむ…もう一度、その辺を調査するべきかのぉ」

トルティヤは、次の行動方針について頭を悩ませていた。


-同時刻 ドラゴニア王国内 緑鳳道-

左側は鬱蒼と茂る広大な森で、右側は、遥か下方へと続く断崖絶壁。

空はどこまでも澄み切った晴天で、鳥や小型のドラゴンが、のんびりと優雅に空を飛行している。

そんな中、ラジアンの姿は、森の奥深くに身を潜めていた。


「…(メイラ神聖国に行くならば、必ずここを通るはずだ)」

彼は三日三晩、単身で寝ることもなく、レグルスが通るのを待ち続けていた。

眠気で霞む目を、冷たい風で覚ましながら、ひたすら待った。


「(もう三日経っている。近々と言っていたから、そろそろ来るはずだが…)」

ラジアンは、神経を研ぎ澄まし、目を凝らして道の方を見つめる。

すると、遠くから、微かな砂埃とともに、一団が近づいてくるのが見えた。


「…(来た!!)」

ラジアンの目に映ったのは、二人の護衛を引き連れたレグルスの姿だった。


「レグルス様。メイラ神聖国ってどんなところなんですか?」

護衛の一人が、緊張感のない声でレグルスに尋ねる。


「メイラはエルフ族が統治する鎖国国家だ。アルタイルの母上の故郷でもある」

レグルスは、淡々と答える。


「そういえば、アルタイル国王はエルフ族とのハーフでしたね。だから、あんな強力な魔法を…」

もう一人の護衛が、納得したように呟く。


「あぁ…それに、アルタイルの母は上級貴族の出身だ。向こうも話くらいは聞いてくれると踏んで同盟を画策したんだろうな」

レグルスがそう答えた時だった。


「ヒュンヒュン!!!」

側面から、風を切り裂くような鋭い音を立てて、三枚のクピンガが飛んでくる。


「む!!」

突然のことに、レグルスは反応が遅れ、護衛たちも、何が起こったのか理解できなかった。


「ザシュ!!」

クピンガの一つが、レグルスの右肩に深く突き刺さる。


「レグルス様!!」

護衛の一人が、驚愕の声を上げ、刀を構える。


「敵しゅ…!!」

もう一人の護衛が、刀を抜いたと同時、視界が真っ赤になった。

巨大な拳が、その顔面にめり込んでいたのだった。


「ごはっ!!」

護衛は、そのまま木の葉のように宙を舞い、来た道の方へと吹き飛ばされていった。


「すまんが、少し眠っていてくれ…」


「ラジアン…貴様…」

レグルスは、右肩の激痛に耐えながら、襲撃者の正体に視線を向ける。


「安心しな。手加減はしてやった」

そこには、三日間の疲労など微塵も感じさせない、威風堂々としたラジアンの姿があった。


「今度こそ、死にたいらしいな…ならば、その望みを叶えてやろう」

レグルスは、激しい怒りを込めて、得物である大鎌をゆっくりと取り出す。


こうして、二人の因縁の戦いが始まろうとしていた。

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