第104章:大爆撃
「ミモザ様を狙う者は…」
「排除する」
斧と槍を構えた龍心会のメンバーが、唸り声を上げてサシャたちに向かって突進してきた。
「ふん…」
リュウは冷徹な視線を向け、素早い動きで二人に肉薄する。
「ガキィィン!」
振り下ろされた斧を、リュウは己の刀で受け止める。
甲高い金属音が乾いた空に響き渡った。
「隙だらけだ!」
そこを狙ったかのように、鋭い槍がリュウの側頭部めがけて飛んでくる。
だが、それと同時。
「ヒュン!!」
風を切る音と共に、一本の矢が正確に槍を持った龍心会のメンバーの顔面へと飛んできた。
「ちっ!」
龍心会のメンバーは、顔を横に逸らしながら槍を払い、矢を辛うじて弾いた。
「僕が相手だよぉ!」
アリアが弓を引き絞り、次の矢を構えながら、元気いっぱいに叫んだ。
「小娘!なら貴様から屠ってくれよう!」
槍を持った龍心会のメンバーは、怒りに燃える目をアリアに向け、迷うことなく駆け出した。
その頃、道の真ん中では、トルティヤとミモザが互いに一歩も引かずに対峙していた。
張り詰めた空気が、二人を包み込む。
「お主がボコボコにされる前に一つ聞いてもよいか?」
トルティヤは余裕綽々といった態度で、ミモザに問いかけた。
「なんで私がボコボコにされる前提で話しているんですか?」
ミモザの表情は、その挑発にも全く動じず、あくまで余裕に満ちている。
「質問に対して質問で返すでないわい」
トルティヤはミモザをじっと見つめ、その反応を探る。
「ふん…賊に語ることなど…」
ミモザはそう呟くと、独特の、流れるような構えを取った。
そして、次の瞬間には、目にも止まらぬ素早い動きでトルティヤの眼前に迫っていた。
「む!!」
トルティヤは危険を察知し、素早く後方にバックステップを踏んで回避する。
「何もありませんよ!!」
次の瞬間、先ほどまでトルティヤがいた空間を、ミモザの鋭い手刀が風を裂いて走り抜けた。
それは触れただけで切り裂かれそうな、恐ろしい威力を秘めている。
「あなた方は一体なんなんですか?私たちの崇高な目的の邪魔をしないでくれますか?」
ミモザは息を切らすこともなく、次々と手刀を振るう。
突き、薙ぎ払い、そして、時々足技を織り交ぜながら、トルティヤを追い詰めていく。
その体術は、蝶のように美しく、しかし、毒蜂のように殺意に満ちていた。
「ふん。お主らの目的なんざどうでもいいのじゃ。ワシはただお主らが持っている魔具が欲しいだけじゃ」
トルティヤは、ミモザの怒涛の攻撃を次々と紙一重で回避しながら、自身の目的を淡々と語った。
「あなた…!なぜ極天のランプのことを…!」
その言葉を聞いた瞬間、ミモザの冷徹だった表情に、微かな動揺が走った。
「ほう。その様子じゃと何か知っているようじゃな」
トルティヤは不敵な笑みを見せると、ミモザの攻撃を回避しつつ、次の魔法を唱え始めた。
「雷魔法-聖者の鉄槌-!!」
トルティヤの側面には、青白い光を放つ拳状の雷が形成される。
そして、それをミモザに向かって勢いよく放った。
「なに!?」
ミモザは、その予想外の魔法攻撃に驚き、体勢を崩しながら際どいところで回避する。
雷は彼女の髪をかすめ、じゅっと焦げ付く匂いが漂った。
「今のを避けるとはのぉ」
トルティヤはミモザとの距離を取り、その反応を評価した。
「複数魔法使用者ですか…器用ですね」
ミモザは、トルティヤが複数の系統の魔法を使うことに気づき、警戒の色をさらに強める。
「何とでも言うといいわい。それよりも、極天のランプについて何か知っているようじゃな。話してもらうかのぉ」
トルティヤは、再び本題へと切り込んだ。
「お断りします」
ミモザはきっぱりと言い放つと、懐から炸裂弾を2つ取り出し、躊躇なくトルティヤに向けて投げつけた。
「芸がないのぉ」
トルティヤは冷静にそう呟くと、次の魔法を唱えた。
「土石魔法-土の硬球体- !」
地面が轟音を立てて隆起し、トルティヤの周りを分厚い土の球体が瞬く間に覆い隠した。
「チュドーン!!」
次の瞬間、炸裂弾が土の球体に直撃し、大きな爆発音が周囲に響き渡る。
土煙が舞い上がり、あたりを覆い隠した。
「トルティヤ!?」
その激しい爆音に、リュウは思わずトルティヤの方を振り向いてしまう。
「よそ見をしているとは随分と余裕だな」
だが、その一瞬の隙を逃さず、斧を持った龍心会のメンバーがリュウに向かって渾身の一閃を走らせた。
「はっ!」
リュウは咄嗟に身をひねり回避するも、その鋭い刃は胸を浅く斬り裂いた。
「ちっ…」
リュウは舌打ちし、少し距離を取ると、再び刀を構え直した。
一方で、アリアもまた、槍を持った龍心会のメンバーと激しい近接戦を繰り広げていた。
槍の鋭い突きと払いが、アリアの小さな体を狙う。
「ふんっ!ふんっ!!」
男は雄叫びを上げながら、槍を激しく振るう。
「その攻撃、見えてるよ!」
アリアは軽やかな身のこなしで攻撃を避けながら、両手に巻き付けた鎖を巧みに操り、敵の攻撃を迎撃している。
「小娘が…人間にしてはやるではないか」
その時、槍を持った龍心会のメンバーが、一旦後ろに下がり、不意に構えを変えた。
「だが、これならどうだ!!」
そして、体をのけぞらせると、大きく開いた口から灼熱の火炎を勢いよく吹き出した。
「(範囲が広い!)鎖魔法-チェーンウォール-!」
アリアは咄嗟に魔法を唱えると、地面から無数の鎖が蛇のように這い上がり、目の前に分厚い壁となって火炎を遮った。
「ゴォォォォォ!!」
炎は鎖の壁を溶かさんばかりの勢いで猛烈に放たれる。
灼熱の熱波がアリアを包み込み、鎖が赤く熱を帯びる。
「うっ!」
だが、鎖の原材料は鋼だ。
鋼は火に弱く、壁はみるみるうちに溶け始め、灼熱の熱がアリアの肌を襲う。
「負けない!」
アリアは食いしばり、壁にさらに魔力を送り込んだ。
すると、溶けた鎖はみるみるうちに修復され、壁の強度を取り戻していく。
「ちっ…」
しばらくすると、火炎の放射が収まった。
男の顔には、苛立ちの色が濃く浮かんでいる。
「さ、ここからだよ!」
アリアは息を整えると、鎖の壁を解除した。
そして、再び二人は向かい合った。
「バラバラバラ…」
トルティヤを囲っていた土の硬球体が、音を立てて崩れていく。
無事な姿を現したトルティヤに、ミモザはわずかに目を見張った。
「あなたはいくつ魔法を使うんですか?」
ミモザは少し驚いた表情を隠さずに尋ねた。
「ワシに極天のランプの情報を教えてくれたら、教えてやらんでもないぞ」
トルティヤは、口元に笑みを浮かべながらミモザに語りかけた。
「何度も言いますが、それはお断りします」
ミモザはきっぱりと拒絶し、再びトルティヤに猛然と接近する。
「避けられますか?ドラゴニア流体術奥義・一指鋼刃!」
次の瞬間、ミモザの指先が一本の鋭い刃と化し、トルティヤの鳩尾めがけて電光石火の速さで突き出された。
「その技は見えておる」
だが、トルティヤはそれをのけぞるようにして回避した。
と、誰もがそう思った。
「甘いですよ!伸縮魔法-蛇潜腕-!」
次の瞬間、ミモザの腕がまるでゴムのように不自然に伸び、その鋭い貫手が、トルティヤの脇腹を正確に捉えた。
「なんじゃと…(まずいのぉ)」
トルティヤは驚愕に目を見開く。
ミモザの指が、脇腹へと深々と突き刺さった。
激しい痛みが走り、微かに血がにじみ出る。
「今度こそ…!終わりです!ドラゴニア流体術奥義-一指鋼刃-! 」
そして、ミモザは刺さった指に力を込め、勢いよく切り上げた。
「ぐぅぅぅぅ…!」
トルティヤの肉体が、まるで布のように切り裂かれる。
辺りに鮮血が派手に飛び散った。
「…どうやら万能というわけではなかったようですね」
ミモザは血に染まった伸びた腕を元に戻すと、クイッと眼鏡を持ち上げ、冷徹な笑みを浮かべた。
「…ふん。こんなものかすり傷じゃ」
トルティヤは口から血を流しながらも、強気に呟いた。
「その強がりがいつまで続くか見ものですね!」
再びミモザが、勝ち誇ったようにトルティヤに向かって突撃する。
「極天のランプは我々にとって大事な魔具。簡単には渡しません」
ミモザは冷徹な眼差しでそう言い放つと、鋭い手刀でトルティヤを素早く斬りつけた。
「ぬかせ。その魔具はお主ら如きが使いこなせるものではないわい!」
トルティヤは血まみれになりながらも、ミモザの怒涛の攻撃を紙一重で回避していく。
だが、脇腹に負った傷が深く、先ほどよりも明らかに動きが鈍っていた。
「どうしました!?先ほどより動きが鈍っていますよ」
ミモザの連撃の嵐は止まることを知らない。
「ふん(この小娘。距離の取り方がうまいのぉ。魔法を発動する隙すらないわい)」
トルティヤの体が次々と削られ、鮮血が飛び散り、全身が赤く染まっていく。
「余裕ぶっているのも、ここまでですよ。ドラゴニア流体術奥義・龍反脚!」
次の瞬間、ミモザの鋭い回し蹴りが、風を切り裂くような音を立ててトルティヤの側頭部めがけて飛んできた。
「(しょうがないのぉ。ここは…)」
トルティヤは、回避が間に合わないと判断し、咄嗟に受けの態勢に入った。
「ドカッ!!」
鋭い回し蹴りがトルティヤの側頭部に炸裂する。
「ぐっ!」
鈍い音が響き渡り、トルティヤの体が地面を滑るように後方に吹き飛ばされた。
そして、力をなくしたかのように、その場にうずくまる。
「もう終わりですか?」
ミモザはゆっくりと、倒れ伏したトルティヤに向かって歩み寄る。
「…」
トルティヤは、うずくまったまま微動だにしない。
「そろそろ、とどめをくれてやりますかね…」
ミモザがそう呟き、とどめを刺そうとさらに近づいた、その時だった。
トルティヤの口元に、不敵な笑みが浮かんだ。
「かかったのぉ…無限魔法-爆電機雷-」
トルティヤが、ほとんど聞こえないほどの小さな声で魔法を詠唱した。
「え!?」
次の瞬間、ミモザの足元の地面が、眩い光を放つ。
「バチチチチチ!!」
そして、地面に激しい電撃が走り、ミモザの全身を襲った。
高圧の電流が彼女の体を駆け巡り、髪が逆立ち、焦げ付く匂いが漂う。
「ぐぁぁぁぁぁっつ!」
ミモザは苦悶の叫びを上げ、その場に倒れ伏した。
「ミモザ様!!」
その光景を見た斧を持った龍心会のメンバーが、思わずトルティヤの方を振り向いた。
「俺から目を離すとは余裕だな」
リュウは、その一瞬の隙を見逃さず、冷たく呟くと、素早い動きで男に肉薄した。
「え、はやっ」
龍心会のメンバーは、その想像を絶する速さに目を丸くする。
「荒覇吐流奥義・剛鬼!!」
リュウの刀身に、禍々しい鬼のオーラが纏わりつく。
それを勢いよく振り下ろした。
「ぐへっ!」
その一撃は、ドラゴニアの硬い鱗を容易く斬り裂いた。
男は血を吐き、そのまま地面に倒れ伏した。
その頃、アリアもまた、残る龍心会のメンバーを追い詰めていた。
「この野郎!ミモザ様になんてことを!」
激高した男が、怒り任せに槍を滅多やたらに振り回す。
「そんな怒り任せの攻撃は当たらないよぉ」
アリアは、軽やかにステップを踏みながら、男の攻撃を冷静に回避し続ける。
そして、後方に勢いよく飛び退くと、弓を構えた。
「これで終わりだよぉ!」
アリアが素早く、しかし正確に三本の矢を放つ。
それは、男の足と両腕の関節をめがけて一直線に飛んでいった。
「なにぃ?三本同時だと!?」
龍心会のメンバーは、一本の矢を咄嗟に弾くが、残りの二本の矢は回避できなかった。
「ザシュ」
腕の両関節に深々と矢が突き刺さる。
「ぐっ」
龍心会のメンバーは、激しい痛みで力が抜け、持っていた槍をガシャンと音を立てて手放した。
「これで!」
再びアリアは、自信に満ちた表情で両手に鎖を巻き付ける。
「終わりっ!!鎖魔法-チェーンナックル-!!」
アリアの鋭い右ストレートが、男の顔面に炸裂する。
その小さな拳には、鎖の重みが加わり、想像以上の威力を生み出した。
「アヴァッ…」
男は呻き声を上げ、そのままKOされて意識を失い、地面に倒れ込んだ。
一方で、トルティヤは黒焦げになり、痙攣しているミモザにゆっくりと近づいた。
「さて…色々と話を…聞かせてもらうかのぉ」
そして、血まみれになりながらも、再び魔法を唱え始めた。
「無限魔法-茨の呪縛-」
地面から無数の鋭い茨が瞬く間に伸び上がり、ミモザの体をきつく縛り上げた。
「ぐっ…」
ミモザの体は茨によって身動きが取れなくなり、苦悶の表情を浮かべる。
「さて、まずは極天のランプの在処を吐いてもらうかのぉ」
トルティヤは、茨に縛られているミモザを冷徹な眼差しで睨みつける。
「お…断り…します」
ミモザは、震える声で、しかし強い意志を込めて答えた。
「情報を吐いてくれたら生かしてやらんこともない。悪い話ではなかろう?」
トルティヤが、最後の交渉を持ちかける。
「あなたに情報を渡すくらいならここで…」
するとミモザが、わずかに動く袖口から何か小さなものを取り出し、震える指でそれを押した。
「(火薬の匂い)!!」
トルティヤがそれに気が付いた瞬間だった。
ミモザを、眩い閃光が包み込んだ。
「(アルタイル様。私に道を示してくれたこと。一生忘れません)」
光に包まれる中、ミモザの脳裏に浮かんだのは、アルタイルと出会った頃の回想だった。
半年前。
ミモザは退屈を持て余していた。
「(せっかく、爆発部隊に所属されたのに与えられた仕事は事務処理ばかり。大きな事件が起きないから戦果も得られない)」
書類の山を前に、ミモザは辟易としていた。
彼女は軍の中でも少数精鋭部隊である「爆発部隊」に配属されていたが、訓練以外は特に仕事はなく、「爆破部隊」は実質「事務部隊」と化していたのだ。
そんな退屈な毎日を過ごしている時、ミモザは偶然、街頭で演説をするアルタイルの姿を目にした。
「今こそ、この国を正さねばならない!!同志達よ、目を覚ますんだ!」
アルタイルの力強い言葉は、ミモザの心に深く響いた。
「(この人は国のことを本気で憂いてくれている)」
それから、ミモザはアルタイルの演説に何度も足を運んだ。
彼女の言葉に触れるたびに、ミモザの心は熱くなり、やがて龍心会の存在を知ることとなる。
「(この国を変えるのはアルタイル様しかいない)」
すっかりアルタイルに心酔したミモザは、迷うことなく軍部を除隊した。
そして、アルタイルの理想を実現するため、彼女の活動に身を投じた。
「この国を変えるために、ご助力お願いします!」
ビラ配りをしたり、時に街頭演説をしたりと、表立った活動にも積極的に参加した。
「チュドーン!!」
「黎英のスパイ組織はこれで壊滅だ」
「おめでとうございます」
そして、時折、ミモザはアルタイルの裏の仕事にも手を貸した。
彼女の爆発部隊での経験は、龍心会で生かされたのだ。
「(私はあなたに仕えることができて幸せでした)」
ミモザの脳裏に、アルタイルへの感謝と、自らの信念が鮮明に浮かび上がる。
「くっ…無限魔法」
トルティヤは、ミモザの自爆を察知し、咄嗟に魔法を唱え始めた。
「え!ちょっと!」
「嘘だろう…」
その閃光と、ミモザの行動を目の当たりにしたアリアとリュウは、驚愕に目を見開いた。
「(目的を果たしてください…アルタイル様)」
ミモザの最後の願いが、空に消えていく。
「チュドーン!!」
次の瞬間、ミモザを中心に凄まじい大爆発が起きる。
爆風は近くの草を揺らし、木々を根元から吹き飛ばし、周囲の地面を大きく抉った。
「なんだあれは?」
「工場の方からだ!」
ズイの村の人々や工場の作業員らは、突然の爆発を目の当たりにし、騒然となった。
「シュウウウウ…」
爆発の後、周囲は焦土と化していた。
ミモザの姿はすっかり跡形もなく吹き飛んでおり、彼女がいた場所には、ただ黒焦げの地面が残るのみだった。
その焦土の中に、白い糸で紡がれた繭が3つ、静かに横たわっていた。
「間に合ったのぉ…糸魔法-信奉者の聖域- 」
爆発の後、トルティヤは繭をほどいた。
その中には、無傷のアリアとリュウの姿があった。
「ふぅ…何事かと思ったよぉ」
アリアは安堵のため息をつき、ほっと胸を撫で下ろす。
「また助けられたな」
リュウも安堵の表情を見せ、トルティヤに感謝の視線を送った。
「どいつもこいつも…自爆ばかりしおって…」
トルティヤは、全身がミモザの攻撃で傷だらけになりながらも、不満げに呟いた。
「わぁ!トルティヤが傷だらけだよぉ」
アリアが駆け寄ると、ポーチから回復薬を取り出し、それをトルティヤの傷口に優しくかけた。
「ダメだ…死んでるな」
護衛のドラゴニアたちも、爆発に巻き込まれて息絶えているようだった。
しかし…
「うっ…」
辛うじて一人だけ、意識を取り戻し、呻き声を上げた。
「ふっ…ついておるわい。無限魔法-茨の呪縛- 」
トルティヤはすぐさま魔法を唱え、その瀕死の護衛を茨で巻き付けた。
そして、そのまま亜空間へと引きずり込んだ。
「あとで尋問じゃ…」
回復薬の効能で、トルティヤの傷が少しずつ塞がっていく。
その時、騒ぎを聞きつけたのか、ズイの村の住民と工場の方から作業員らが、こちらに向かってくるのが見えた。
「…時間がない。逃げるぞ。ワシの手を握れ」
トルティヤは、状況を察し、リュウとアリアに手をつなぐように促す。
「わかった!」
アリアとリュウは、迷うことなくトルティヤの手を握った。
そして、トルティヤは魔法を唱える。
「転送魔法-韋駄天の長靴- 」
そして、サシャたちは瞬間移動し、その場を去った。
「…到着じゃ」
サシャ達の姿は、ズイの宿屋の前にあった。
「とはいえ、ここに長居するのもまずいよ!一旦、カベルタウンに戻ろう」
精神世界にいるサシャが、冷静に提案する。
「あぁ…サシャの言う通りだ。この村でできることはもうない」
「うん!幹部も倒したし武器工場の中身も見れたし!」
リュウとアリアも、サシャの意見に賛同した。
「そうじゃな…小僧。後は頼んだぞ。少し体が痛むじゃろうが、そこは気合いでふんばるのじゃ」
そう呟くと、トルティヤはサシャの肩を軽く叩いた。
「あいたた!」
トルティヤとサシャが交代した途端、サシャに激しい痛みが襲う。
先ほどトルティヤが受けた傷は、まだ完全に塞がっていなかったのだ。
「サシャ、大丈夫?」
アリアが心配そうに駆け寄り、ポーチから再び回復薬を取り出そうとした、その時だった。
「あらあら、痛そうね。大丈夫?」
サシャたちの目の前に、青い髪と黒い翼が特徴的な、美しいドラゴニアの女性が現れた。




