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第103章:工場潜入

漆黒の空が広がる夜。

冷たい夜風が吹き抜ける中、サシャたちは武器工場のある区画へと足を踏み入れていた。


夜の工場は昼間とは打って変わって、不気味な静寂に包まれている。

わずかに聞こえるのは、風に揺れる木々のざわめきと、遠くでかすかに響く機械の駆動音だけだった。

工場の高い塀の周りでは、龍心会のメンバーがランタンのぼんやりとした光を頼りに巡回している様子が見て取れる。


「あれ?工場から煙が出てる?」

精神世界から周囲の様子を見ていたサシャが、煙突から立ち上る黒煙に気がつき、疑問を口にした。


「む…溶鉱炉を稼働させているタイプか。それなら、夜も操業しているはずじゃな」

トルティヤは、その煙を見て工場の操業スタイルを即座に見抜いた。


「見える範囲では見張りが3人…さてどうする?」

リュウは近くの木の上から警備の巡回ルートを注意深く確認すると、音もなく地面に降り立った。


「簡単な話。バレなきゃいいのじゃ。お主ら、ワシの手を握れ」

トルティヤは不敵に笑みを浮かべ、サシャたちに手を握るよう促した。


「うん!」

アリアは迷うことなくトルティヤの手を握り締める。


「…」

リュウも何も言わずにトルティヤの手を握った。

そして、トルティヤが静かに魔法を唱え始めた。


「無限魔法-無人闊歩(むじんかっぽ)-!」

次の瞬間、サシャたちの姿がまるで蜃気楼のように揺らぎ、次の瞬間には完全に透明になった。


「わ!あの時の魔法だ!」

アリアが驚きと喜びの声を上げる。


「行くぞ。あまりもたもたしていると魔法の効果が切れてしまうのじゃ」

トルティヤはそう言って、正面門へと堂々と歩き出した。


「ふぁぁぁ…眠いなぁ…」

正面門では、警備をしていたドラゴニアの兵士があくびを噛み殺していた。


「お前、やる気あるのか。ここは龍心会にとっては大事な拠点なんだぞ」

隣にいた別のドラゴニア兵が、怠惰な同僚を厳しく叱責する。


「けどよぉ。こんな辺境の地にある工場に忍び込む奴なんているのか?」

あくびをしていた兵士は、目元をこすりながらぶつぶつと呟いた。


「それな!!こんなところに賊が来るわけないな!」

更に別の兵士が、その意見に強く同意する。


「お前ら…とにかく、見回りはしっかりするんだ。いいな」

隊長らしき兵士が呆れたようにそう言うと、3人の見張りはそれぞれ別々の方向に歩き出した。


「よし…今じゃ…!」

トルティヤは小声で囁くと、リュウとアリアと共に工場の内部の扉を押し開けて中へと入った。


「ガシャン!!」

工場内部に足を踏み入れると、外界の静けさとは打って変わって、けたたましい機械音が響き渡っていた。

内部は鉄の香りと熱気で溢れていた。


「型に鉄を注ぐぞ!気をつけろ!!」

溶鉱炉周辺では、赤々と燃える炉の光に照らされながら、数人の作業員が黙々と武器の製造を行っている。


「…姿は見えぬが音は聞こえる。物音をたてるでないぞ」

トルティヤはアリアとリュウに低い声で忠告した。

それに対し、二人は大きく頷き、慎重に足を進める。


「ガシャンガシャン!!」

巨大な鉄と歯車で組まれたプレス機が、轟音と蒸気を立てながら、熱く溶けた鉄が流し込まれた金型を押し固めていく。

プレスされた型枠は、別の作業員が水魔法で素早く冷却し、それを更に別の作業員が巧みに金型から取り出していた。


「わぁ…なんかすごいよぉ…あの金属で動いているのはなんなんだろう?」

アリアは目を輝かせ、巨大な機械の方を指さしながら呟いた。


「あれはプレス機じゃな。魔力と油を原動力にして鉄の塊を動かして、溶けた鉄を固めているのじゃ」

トルティヤが小声で、アリアにも分かりやすいように説明してやった。


「それを、水魔法で冷却して固まった鉄を取り出す…という訳か。なるほど」

リュウも感心したように、その製造工程を理解した様子で頷いた。


サシャたちはそんな工場の様子を観察しながら、さらに奥へと進んだ。

奥の部屋では、金型から取り出されたばかりの武器が、熟練の作業員によって一つずつ丁寧に研磨されていた。


「なるほど…そうやって武器を作っているのか」

精神世界からその様子を見ていたサシャは、納得したように頷いた。


「それにしても、結構な数だ…」

リュウが研磨された武器が置かれている先のエリアを見つめる。

そこには、完成されたばかりの武器が、所狭しと整然と並べられていた。


「それだけ、龍心会は武力の強化に必死なんじゃな…」

トルティヤは腕を組み、その光景を眺めながら呟いた。


「ねぇ!あれなんだろう?」

その時、アリアが工場の最も奥にある、ひときわ巨大な扉を発見した。

鉄製のその扉はわずかに開かれており、中の様子がかすかに覗けるようだった。


「…怪しい匂いがプンプンするのじゃ」

トルティヤは興味津々といった様子で、その扉に近づいていく。


「…」

そして、じっと中を覗き込む。

トルティヤの後に続いてリュウとアリアも、好奇心に駆られて中を覗き込んだ。


「これは…なんだ?」

リュウが困惑したような声を漏らす。


「大きな風船?」

アリアも目を丸くして、そこに広がっていた光景に首を傾げた。


「まさか…飛行船か!?」

トルティヤはその見慣れない巨大な建造物の姿に、思わず声を上げた。

扉の奥にあったのは、まさに建造している最中と思われる巨大な飛行船だったのだ。


「飛行船ってなに?」

アリアがトルティヤに尋ねる。


「簡単に言うとガスを貯めこんで空を飛行する乗り物じゃ…構想自体はワシが生きていた頃から存在していたが、まさか実現しているとはのぉ」

トルティヤは飛行船の存在に、驚きを隠せない様子で説明した。


「その飛行船…やらは何が目的なんだ?」

リュウが、その潜在的な危険性を感じ取り、トルティヤに尋ねた。


「恐らく兵士の輸送といったところじゃろう」

トルティヤは、その規模と構造から、飛行船の使用目的を即座に推測した。


「けど、ドラゴニアって空を飛べるんじゃないの?」

精神世界からサシャが疑問を投げかける。


「全員が全員飛べるとは限らぬ。武器や魔法を扱うのと同様、飛行するのにも技術がいるからのぉ。1か月かそこらでは満足にコントロールもできん」

トルティヤは丁寧に説明を加えた。


「確か、龍心会は徴兵を掲げていた。つまり、飛行訓練を受けていない兵士であっても直ぐに移動できるように飛行船を作ったという訳か…」

リュウは、龍心会が飛行船を製造した理由を論理的に導き出した。


「詳しく見てみるのじゃ」

トルティヤがそう言うと、サシャたちは開いた扉から慎重に中へと入っていった。


「すごい大きいよぉ…」

飛行船の想像を絶する大きさに、アリアはただ目を丸くするばかりだ。


「想像以上じゃ…それに大砲もついておる。敵陣を攻撃するのにも向いているのぉ」

トルティヤは飛行船に据え付けられた巨大な大砲を見つめ、唸るように呟いた。


「龍心会は随分なものを作ったな」

リュウが、その脅威を前にして呟いた。


「うむ…」

その時、トルティヤの頭に一つの作戦が閃いた。


「そうじゃ!小僧、飛行船の風船部分に切り傷をつけることはできるか?」

トルティヤが、隣に立つリュウに尋ねた。


「できるが…何か作戦でもあるのか?」

リュウは問い返しながらも、トルティヤの意図を測ろうとする。


「明日、幹部が来るとかなんとか言っておったじゃろ?ならば、飛行船も視察するはずじゃ。そこで、傷をつけてズタボロにしておけば、奴らは動揺するじゃろう。要するに精神攻撃をするのじゃ」

トルティヤは、不敵な笑みを浮かべながら、その企みを明かした 。


「なるほど…そういうことなら…」

リュウはトルティヤの考えを理解すると、迷うことなく刀を抜いた。

そして、素早い動きで飛行船の骨組みを登ると、その巨大な風船部分に刃を走らせた。


「スパァァァン」

空気を引き裂くような音と共に、風船部分が大きく切られた。


「これでいいな?」

リュウはその様子を見ると、音もなくトルティヤのもとに戻ってきた。


「よしよし…これでいい。奴らの戦力も削ぎ落せて一石二鳥じゃ」

トルティヤは満足げに、不敵な笑みを深くした。


「あとはどうするの?」

アリアがトルティヤに尋ねる。


「あとは明日を待つだけじゃ。情報も手に入ったし退散するぞ?ワシの手を握れ」

トルティヤが再び、手を握るように促す。

それに対してリュウとアリアは、慣れた様子でトルティヤの手を握った。


「転送魔法-韋駄天の長靴(いだてんのながぐつ)-」

次の瞬間、サシャ達は瞬時に空間を移動した。

彼らが再び目を開けた時、そこは工場の近くに生える一本の木の下だった。


「…ふぅ。クタクタじゃ」

トルティヤが疲れたように呟くと、魔法を解除した。

すると、透明だったサシャたちの姿が再び露わになる。


「わ!もとに戻った!」

透明化が解除されたことにアリアは驚き、目を瞬かせた。


「…さて、ワシは休むぞ。後は任せるのじゃ」

トルティヤはそう呟くと、精神世界のサシャの肩を軽く叩いた。


「お疲れ様!」

サシャはトルティヤに感謝の言葉を呟く。

そして、サシャとトルティヤの意識が入れ替わった。


「…僕らも宿に戻ろう。夜も遅いし」

サシャは顔を上げ、リュウとアリアに提案した。


「うん!僕も眠くなってきたよぉ」

アリアがあくびを漏らし、瞳をこすった。


「一旦、休息だな…」

リュウも静かに頷いた。


そして、しばらく夜の道を歩き、サシャたちは宿へと戻ってきた。

宿の外にある木製の階段を軋ませながら上がり、トルティヤが持っていた鍵で部屋の扉を開ける。


「ギィィィ」

古びた扉が、重々しい音を立てて開いた。


「ふぅ…何事もなく着いた…」

サシャは安堵からか、深く息を吐き出した。


部屋の中は質素な作りで、中央には小さな木製のテーブルと丸椅子が一つ。

壁際にはベッドが4つ並び、天井からはランプがぼんやりと部屋を照らしているだけだった。


「もうラメらぁ…おやすみぃ…」

宿に着くやいなや、アリアは疲れた様子で一番手前のベッドに飛び込み、あっという間にすやすやと寝息をたて始めた。


「相当、眠たかったんだな」

その無邪気な様子に、サシャはくすっと笑みをこぼす。


「あぁ、寝かせてやろう…」

リュウはそう呟くと、アリアの隣のベッドに静かに腰を掛けた。


「それにしても飛行船とはね…」

サシャは武器工場で見た巨大な飛行船の姿を思い出し、改めてその脅威に思いを馳せる。


「あの工場で龍心会の連中が戦力を拡大しようとしているのは間違いないだろうな…」

リュウが静かに呟いた。


「飛行船は壊してやった。あとは明日、視察に来たミモザがどんなリアクションをするかだね」

サシャは、トルティヤの奇策がどう影響するか、少しばかり楽しみにしているようだった。


「あぁ…どちらにせよ、賽は投げられた。間違いなく何かしらのリアクションは起こるだろう」

リュウはそう言って、ゆっくりとベッドに横になった。


「トルティヤも眠っちゃったし、どうするかは明日トルティヤと相談しよう」

サシャは精神世界で幸せそうな寝息をたてているトルティヤの姿を見つめ、そっと微笑んだ。


「そうだな。とりあえず、今日のところは休もう…」


「うん。お休み!」

こうして、波乱に満ちた夜は終わりを告げ、サシャとリュウも深い眠りについた。


翌日。

太陽の光が差し込む中、サシャたちは再び工場の正門近くに姿を現した。

そこには、サシャと入れ替わったトルティヤ、リュウ、そしてアリアの姿があった。


「ミモザが来るまで見張りというわけだね…」

精神世界で様子を見ていたサシャが、正門の方をじっと見つめながら呟いた。


「そうじゃ。奴が工場に入って、出てきて少し歩いたあたりを奇襲する。そして、ワシの魔法で捕縛する…」

トルティヤは、自信に満ちた表情で計画を語る。


「して、今回、小僧とワシが表に出る。小娘は後方で援護射撃じゃ」

トルティヤが指示を出す。


「うん!分かったよぉ!」

アリアは元気よくトルティヤの指示に頷いた。

その時、リュウの鋭い視線が、遠くの道を行く龍心会の一団を捉えた。


「おい…!来たぞ!」

リュウが低い声でトルティヤとアリアに告げる。


トルティヤが視線を向けると、「ズイ」の方から、手に武器を持った龍心会のメンバーが4人。

そして、おさげ髪と眼鏡が特徴的な、いかにも知的な雰囲気のドラゴニアの女性が、堂々と道を歩いてくるのが見えた。


「間違いないのぉ。奴がミモザじゃな」

トルティヤは、その特徴から彼女が龍心会の幹部「ミモザ」であると即座に推測した。


そして、その一団は武器工場へと入っていく。

武器工場の正面に立っていた門番が、ミモザに深く敬礼した。


「ミモザ殿!お疲れ様であります!」

門番が緊張した面持ちでミモザに告げる。


「出迎え、ありがとうございます」

ミモザは淡々と応え、部下たちと共に工場の中へと足を踏み入れた。


工場では相変わらず武器の製造が続けられていたが、いつもより少し慌ただしい雰囲気が漂っていた。

しかし、作業員たちの顔には、どこか焦りの色が見える。


「ふむ…順調のようですね」

ミモザは製造の状況を軽く確認し、満足したように頷いた。

すると、工場の責任者らしき筋骨隆々のドラゴニアの男が、慌てた様子でミモザの前にやってくる。


「ミモザ殿!視察、ご苦労様であります!」

責任者の男は、額に汗を浮かべながらミモザに敬礼する。


「そちらこそ、ご苦労様です。して、例のモノの進捗はどうですか?」

ミモザが、飛行船について尋ねる。


「はぁ…実は一つ問題が発生しまして…実際に見ていただければと」

責任者は、恐る恐る耳打ちするようにミモザに告げた。

その声には、明らかに動揺が混じっている。


「…問題…ですか?」

ミモザの表情が一気に険しくなり、責任者の後をついていく。

そして、飛行船が格納されているエリアに到着した。


「あそこをご覧ください」

責任者が震える指で飛行船の風船部分を指し示す。

そこには、昨夜リュウがつけた、鮮やかな一文字の傷跡が刻まれていた。


「…作業中のミスとかではありませんよね?」

ミモザの声が、一段と低くなる。


「とんでもない。今朝の点検で確認したらついていたのです。明らかに鋭い刃物で斬られたものです」

責任者は、必死に状況を説明する。


「ということは、何者かがここに潜入して飛行船を傷つけた…と?」

ミモザが、冷たい声で厳しく指摘する。


「はい…恐らくその可能性が高いかと…」

責任者は、申し訳なさそうに肩を落とし、呟いた。


「警備がサボっていたのではないのですか?」

ミモザの厳しい追及は続く。


「いいえ。昨日の報告書には異常なしと…」

責任者は困り果てた表情で、言葉に詰まる。


「…分かりました。とりあえず、武器の生産ラインは一度ストップして飛行船の修繕を急ピッチで進めなさい。この飛行船が完成次第、徴兵を開始するので。最優先事項でお願いしますね」

ミモザは、怒りを抑え込むように責任者に告げた。


「承知しました。可能な限り急いで修繕を進めます!」

責任者は大きく頷き、安堵と焦りが入り混じった表情で答えた。


「して、武器の方は…」

その後、ミモザは工場内を軽く視察した。

武器の製造過程、研磨過程、納品過程。

特に問題はないようだった。


「武器の製造は問題ないようですね」

ミモザは責任者にそう告げた。


「ありがとうございます…!」

責任者は、ようやく安堵の表情を見せる。


「では、今月の視察は以上で終了とします。飛行船の修繕を第一にお願いします」

ミモザは責任者にそう告げると、部下と共に工場を出た。

彼女の足取りは、先ほどよりも明らかに苛立っている。


「…出てきたわい。相当イライラしているようじゃ」

トルティヤは、ミモザの険しい表情や、荒々しい足取りから、彼女が激しく苛立っていることを見抜いた。


「して、どのタイミングで奇襲をしかけるの?」

精神世界にいるサシャが、トルティヤに尋ねる。


「奴らが工場から少し離れたあたりでじゃ…ほれ、ワシらも気が付かれぬように後を追うぞ」

トルティヤがそう言うと、リュウとアリアを先導し、ミモザたちの後を追った。


そして、ミモザたちがズイの村と工場の間に差し掛かった頃だった。


「今じゃ…」

トルティヤが、狙い定めたかのように魔法を唱え始めた。


「粉塵魔法-現夢酔狂(げんむすいきょう)-」

次の瞬間、ミモザと部下たちの周囲に、きらめく水色の粉がふわりと漂い始めた。


「(この甘い香りは!?)」

だが、ミモザは即座に反応する。


「!!…魔法です!吸い込まないでください!!」

ミモザはもの凄い剣幕で部下に叫んだ。

その声には、焦りと危機感がにじむ。

だが、四人の部下のうち二人は、既に粉塵を吸い込んでしまっていた。


「あれ?なんだか眠く…」


「ふぁぁぁ…」

部下二人は、そのまま地面に倒れ込むようにして、あっという間に熟睡してしまった。


「間抜けめ…!!倒れている二人を引きずって後ろに下がりなさい!」

ミモザがそう吐き捨てると、懐から素早く炸裂弾を取り出した。


「チュドーン!!」

炸裂弾が爆発し、轟音と共に爆風が巻き起こる。

その爆風によって、トルティヤが使用した粉塵魔法の粉が、瞬く間に打ち消されてしまった。


「そこにいるのでしょう…出てきなさい」

ミモザは、爆発の煙が晴れると同時に、トルティヤたちが隠れている方向へと、躊躇なく次の炸裂弾を投げつけた。


「ちっ!」

それを見たサシャ達は草陰から飛び出る。


「チュドーン!!」

サシャたちがいた場所が、派手な爆発音と共に大きく抉られた。


「物騒な奴じゃ…」

トルティヤが、ミモザの容赦ない攻撃に眉をひそめて呟く。


「む?その特徴…遺跡でユーとリンチーが遭遇したと言っていた冒険者一行に似ていますね」

ミモザは眼鏡をくいっと上げ、サシャたちをじっと見つめた。


「さてな。人違いじゃろう」

トルティヤは不敵な笑みを見せ、しらを切る。


「貴様ら…この方を龍心会のミモザ様と知っての狼藉か?」


「だとしたら許すわけにはいかん」

槍と斧を構えた龍心会のメンバーが、ミモザを守るように前に出る。

彼らの表情は、怒りに満ちていた。


「小僧、小娘。あの爆弾魔はワシがやる。お主らはそこの雑魚を頼む」

トルティヤはミモザを睨みつけながら、リュウとアリアに指示を出した。


「任せろ」

リュウは短く応じ、刀を構える。


「うん!分かったよぉ!」

アリアも元気よく返事をし、弓を構える。


「やるつもりですか。何者かは知りませんが、私を狙ったことを後悔してください…」

ミモザは冷徹な眼差しでサシャたちを見据え、言い放った。


こうして、白昼のズイの片隅で、サシャたちと龍心会の幹部ミモザとの激しい戦いが幕を開けた。

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