第101章:過去の夢
「お前がオーナーか?と聞いているんだ…」
レグルスはアガラをじっと見据え、低い声で問い詰めた。
「あっと、失礼しました。私がオーナーのアガラと申します」
ピンク髪の男は優雅に立ち上がると、片手を胸に当てて丁寧にお辞儀をした。
その顔には、不気味な笑みが浮かんでいた。
「…これは一体どういうことだ?人身売買がお前の生業ではなかったのか?」
アルタイルは鋭い視線をアガラに向ける。
「はい。ですが、当クラブでは購入した奴隷を、この場で「お楽しみ」いただけるサービスもしておりましてね…」
アガラはニタニタと不気味な笑みを深めた。
その視線は、背後の惨状を一瞥し、一切の悪びれがない。
「何がお楽しみだ!!この外道が…!」
ラジアンが怒りを抑えきれずに、獣のような咆哮を上げてアガラに向かって殴りかかる。
「気が早いですね…イグアス迎撃しなさい」
アガラはそれを見ると、傍らに控える銀髪の大男に冷静に指示を飛ばす。
「アガラ様の仰せのままに…」
すると、ラジアンの前にイグアスと呼ばれた大男が立ちふさがる。
その巨体は、まるで動かぬ岩壁のようだった。
「…」
イグアスは無言で両腕を構え、ラジアンを迎撃する姿勢を取る。
「邪魔をするな!!」
ラジアンはお構いなしに拳を振るう。
「アガラ様に暴力はダメだぞ」
だが、イグアスはその拳を片手で受け止める。
「なにっ!?」
ラジアンが力を込めるが、イグアスの腕はびくともしない。
彼の顔には、驚愕の色が浮かんだ。
「ほらっ。お返しだ」
イグアスが、もう片方の拳を繰り出す。
「ふざけんな!」
ラジアンは咄嗟にその拳を掴み取り、互いに力比べの状況になった。
二人の腕の筋肉が隆起し、緊張が走る。
「ラジアンの馬鹿が…」
その様子を見てレグルスは呆れたようにため息をつく。
「いい。奴はラジアンに任せる…そしてだ…」
アルタイルはその場にいた仮面をつけた客達に鋭い視線を送っていた。
「お前ら…死にたくないなら投降しろ…」
アルタイルは低い声で客達に投降するように伝える。
「誰が…」
「捕まってたまるかってんだ!」
「俺には財も権力もあるんだ…」
「やっちまおうぜ!」
だが、彼らは無謀にも、拷問に使うであろう槍や刀、鞭などを手に、狂気的な笑みを浮かべながらアルタイルに迫ってくる。
「…愚かな。もう一度だけ言う。投降しろ」
アルタイルは凍えるような視線を客たちに向けた。
「そっちはたった二人!こっちは十人以上いるんだぞ!」
「そうだ!そうだ!」
「嬢ちゃん。よく見たら可愛いじゃないか…」
客たちは下卑た言葉を投げかけ、殺気立っている。
アルタイルの忠告は、彼らの耳には届いていないようだった。
「…レグルス。息のある女性の解放と手当てを頼む」
するとアルタイルが低い声でレグルスに指示を出した。
「…あぁ」
レグルスは短く返事をすると、囚われている女性たちのほうへ足早に向かった。
「お前!待てよ!」
すると、客の一人であるオルカ族の男が、金棒を振り上げ、レグルスを追いかけようとした。
「…」
だが、アルタイルが男に向かって、一瞬の間に剣を閃かせた。
「へっ?」
次の瞬間、男の首と胴体が離れた。
首から血が噴き出し、男の体は音もなく地面に倒れ伏す。
「や、やりやがったな!」
「この女からぶっ殺せ!」
「なんなら、生け捕りにして奴隷にしちまおうぜ!!」
客たちは恐怖と怒りに顔を歪ませ、さらに下卑た表情をしながら、一斉にアルタイルに向かって攻撃を仕掛けてくる。
「空間魔法…」
アルタイルの剣は、紫色の不気味な光を纏い始めた。
それに合わせて周囲の空気がわずかに歪む。
「虚空聖剣!!」
そして、剣を鋭く振るう。
次の瞬間、放たれた魔力は巨大な「Z」の軌跡を描き、客たちに向かって猛烈な速さで放たれる。
それが客たちに炸裂する直前、空間が激しく震えた。
「え?」
「いぎっ…」
直撃した客たちは、声にならない悲鳴を上げながら、まるでサイコロステーキのようにバラバラになり、血肉を撒き散らして地面に転がった。
部屋には、生臭さと、血の匂いが充満した。
「ひぃっ…」
その凄惨な様子を目の当たりにした残りの客たちは、恐れおののき尻餅をついたり、悲鳴を上げながら逃げようと足掻いたりする者がいた。
「…お前らは生きる価値も何もない」
アルタイルは絶対零度のような視線を彼らに向け、再び剣に魔力を込める。
彼女の瞳には、一切の慈悲がなかった。
「空間魔法-虚空連斬-」
アルタイルは素早く、しかし流れるような動作で連続して斬撃を放った。
紫色の軌跡が空間に幾筋も刻まれ、逃げ惑う客たちを容赦なく切り裂く。
「ぐえっ…」
「あぶぁ…」
「ひぎっ…」
斬撃に巻き込まれた客たちは、次々と肉塊へと変わり、床に崩れ落ちていった。
辺りは血の海と化し、元の形を保っている者は誰もいなくなった。
そして、剣を何度か振るうと、客たちは全員、無残な肉の塊となっていた。
「…さて」
アルタイルは血まみれになった剣を下げ、冷徹な表情でアガラの方へ向き直った。
「…おやおや。私の顧客に何をするんですか?」
アガラは、目の前の惨劇にも関わらず、意外なほど冷静だった。
その口元には、まだ余裕の笑みが浮かんでいる。
「当初はお前を逮捕する予定だった…」
アルタイルはアガラをじっと見据える。
「私を逮捕?…やれるものなら…」
次の瞬間、アガラが懐から数本の投げナイフを取り出す。
「やってみなさいよ!!」
アガラは声を張り上げながら、ナイフをアルタイルに向けて一斉に投擲する。
「くだらん…」
アガラにとって奇襲のつもりであったのだろうが、アルタイルには全く通じず、彼女は投げナイフを剣で全て弾き飛ばした。
「まだ終わりません!雷魔法-羅々羅雷-!!」
アガラが素早く魔法を唱えると、頭上から複数の雷の槍がアルタイルに向かって降り注ぐ。
「空間魔法…」
だが、アルタイルは表情を微動だにせず、冷静に魔法を唱える。
「虚空の聖域!」
アルタイルに雷が直撃する寸前、彼女の周囲の空間自体がグネグネと歪み、雷そのものを空間のうねりが吸い込んでしまった。
「なにっ!?私の魔法が…」
アガラが目を見開き、驚愕の声を上げた。
彼の顔からは、余裕の笑みが消え失せていた。
「無駄だ。小手先の魔法など私には通じない!」
そして、仕返しといわんばかりにアルタイルが剣を構え、アガラに向かって猛然と突進する。
「くっ!お前のような小娘に負けるほど、私は弱くない!」
アガラは懐から今度は巨大な狩猟用のナイフを取り出した。
その刃は鈍く光り、並の剣よりもはるかに大きい。
「これはどうですかね?」
巨大なナイフが、アルタイルに向かって振り下ろされる。
「なんだそれは?」
だが、アルタイルは瞬き一つせず、魔法を詠唱する。
「空間魔法-虚空からの手招き-」
すると、アルタイルの頭上に紫色の穴が開き、その中から青白い手が現れた。
その手はナイフを掴み、信じられないほどの力でナイフを力ずくでへし折る。
「え?」
その魔法にアガラは目を見開いた。
「もういいな?さ、地獄へ行くといい」
その瞬間、アルタイルは既に剣を構え、アガラの首元へと迫っていた。
「ま、待て!話くらい…」
アガラが必死に何かを言おうとする。
その声は震え、恐怖の色を帯びていた。
「興味ないな…」
アルタイルは容赦なく剣を振り下ろした。
その一撃は、一切の迷いなくアガラを斬り裂いた。
「ぐはっ…」
アガラは呻き声を上げ、大の字になり床に倒れた。
彼は臓腑を大きく引き裂かれ、ほぼ即死だった。
「ア、アガラ様っ!?」
その様子にラジアンと戦闘していたイグアスがようやく気が付く。
「よそ見してんじゃねぇ!!」
その隙をついてラジアンが渾身の拳による一撃をイグアスの顔面に叩きこむ。
「ぐほぉぉぉっ!」
そのまま、イグアスの顔面がめり込み、巨体が激しく壁に向かって吹き飛ばされる。
「クソ野郎が…お前は逮捕だ。詳しく話を聞かせて…」
ラジアンは息を切らしながら、倒れたイグアスを見つめ、おぼつかない足でイグアスの方へ向かおうとする。
「ラジアン…よくやった…」
アルタイルはそう評すると、倒れたイグアスに向かって歩み寄る。
そして、その胸を剣で一突きし、息の根を止めた。
「お、おい、アルタイル…なにを?逮捕するんじゃないのか?」
その行動にラジアンが目を見開き、驚きの声を上げた。
彼の顔には、困惑の色が浮かんでいる。
「…ラジアン。ここには逮捕すべき奴らはいなかった。いたのは「生き物の形をした悪鬼」だけだった」
そう語ったアルタイルの目は、どこか黒い影を宿していた。
「アルタイル…」
その言葉にラジアンは何も言えず、ただ、アルタイルの背中を静かに見つめることしかできなかった。
そこにレグルスがやってくる。
「できることはした。が、急いで衛生兵に見せた方がいい。大半が感染症や出血性ショックで命が危ない」
レグルスは状況を説明する。
「ありがとう。衛生兵を急いで手配する。とりあえず、ここを出よう…」
アルタイルはそう答えた。
そして、アルタイルたちが拷問部屋を後にしようとした時だった。
「すみません!店の奥でこんなものを見つけました!」
上の階から部下たちが数人、アルタイルの下へ駆け寄ってきた。
彼らは手に、分厚い紙の束を抱えている。
「…」
アルタイルはそれを受け取り、無言で目を通した。
すると、その表情が険しいものへと変わる。
「なんだこれは…」
そこには、彼らの想像を絶するような驚くべきことが記載されていた。
「…なんてことだ」
「そんなバカな…!」
その内容にラジアンとレグルスも眉をひそめた。
その紙に書かれていたのは、囚われていたドラゴニア族の女性の名前一覧。
そして、奴隷を購入した者の名前一覧だった。
「…聞いたことがある名がちらほらある。グランバンはカベルタウンの宿屋の店主。タイシャンはシュリツァの武器屋の主、サイヴォンはギンシャサの副領主。それと…サージャス公国のアイアンヴォルト家に、レスタ王国のバルサミコ家…国内だけではなく国外にまで販路を広げていたとは」
アルタイルは聞いたことのある名前が載っていることに目を丸くする。
そして、人身売買組織が国内のみならず、国外にまで販路を広げていたことに驚く。
「アルタイル。とりあえず、証拠としてこれを持って帰ろう」
レグルスがリストを証拠として持っていくことを提案する。
「これがあれば、リストに載っている連中を逮捕できるはずだ…」
ラジアンが頷く。
「そうだな…これは重要な証拠だ」
こうして、人身売買組織の騒動はアルタイルが壊滅させるという結末で幕を閉じた。
だが、顧客リストが手に入ったことで関与していた者らの逮捕は時間の問題かと思われた。
1か月後。
軍の本部にいるアルタイルのもとに衝撃的な情報が持ち込まれた。
「なんだと?全員無罪放免!?」
アルタイルは声を荒げ、苛立ちを隠せないように机を強く叩いた。
その表情には、信じられないという怒りが浮かんでいる。
「あぁ。リストだけでは証拠にならない上に、彼らは一斉に口をそろえて「身に覚えがない」「でっちあげ」と証言した。それに、彼らは人間とはいえ、街の有力者だ。うかつに刑に処せば、街が混乱する可能性もあるのだろう。裁判長官と国王が合意の下、無罪放免…となったわけだ」
レグルスはやりきれないといった表情で報告した。
その声には、諦めと、わずかな憤りが混じっていた。
「国王が…けど、奴らは人間だ。間違いなく奴らと繋がっている…リストにだって名前が記載されていた…なのになぜ?」
アルタイルが声を振り絞る。
「ちなみに、リストにあった他国の貴族についてはノータッチだ。国王はよほど穏便に事を済ませたいらしいな」
レグルスは呆れたように吐き捨てた。
「そこは調査をしたり、相手方からの弁明を聞いたりするところではないのか…」
アルタイルは深い溜息を交じらせながら、やり場のない怒りを噛み殺すように呟いた。
その時、ラジアンが慌てた様子で二人の下へ駆け寄ってくる。その顔は、焦燥に駆られている。
「大変だ!!資料室が火事になった!!」
「なに!?(あそこには例のリストが…)」
アルタイルとレグルスは顔色を変え、慌てて資料室へと向かった。
「急いで消せ!!」
「どうして火事が…」
「誰かが寝ぼけて火を吹いたのか?」
アルタイルたちが資料室の前に着くと、そこはすでに猛烈な炎に包まれていた。
黒煙が立ち上り、熱気が肌を焼く。
他の隊員らが水魔法を用いて必死に消火を試みているが、火の勢いは衰えない。
「お前たち!なんでこんなことに…」
アルタイルが近くの隊員に詰め寄る。
「俺にもよく分からないんですよ…」
隊員も困惑した表情を見せていた。
火の粉が舞い、熱風が吹き荒れる中、誰もが混乱していた。
「おのれ…!どうしてこうも…」
アルタイルは燃え盛る資料室の壁に、悔しさに震える拳を叩きつけた。
その衝撃で、壁がわずかに揺れる。
「アルタイル、落ち着けって。火事になってしまったものは仕方ないだろう…」
ラジアンがアルタイルの肩に手を置き、宥めるように言った。
「…だが…もういい分かった」
アルタイルは静かにそう呟くと、ふらふらとどこかへ向かって歩き出した。
「…俺、何か悪いこと言ったかな?」
ラジアンは首をかしげ、困惑した表情でレグルスを見上げた。
「気にするな。少し放っておけばいい…」
レグルスはラジアンにそう囁いた。
二人の視線は、遠ざかるアルタイルの背中を追っていた。
アルタイルは建物から広場に出ていた。
ここには訓練用のフィールドや休憩用のテラスがあり、訓練に勤しむ隊員やテラスで食事をしている隊員らがいた。
彼らは火事の騒ぎに気づき、ざわめいている。
「ちくしょう…絶対何かがある…何かが…ある!!!!」
アルタイルはそう叫ぶと、近くに生えていた木を思いっきり殴りつけた。
「メキメキ…」
その威力に木にはヒビが入り、軋むような音を立てて折れた。
倒れた木が轟音を響かせ、広場に横たわった。
「うお!?今度はなんだ?」
「アルタイルさんだ…」
「なんて馬鹿力だよ。こえぇ…」
近くにいた隊員らは一斉にアルタイルを見る。
彼らの顔には、驚きと、畏怖の色が浮かんでいた。
こうして、その日からアルタイルは一人で色々と行動するようになった。
彼女の心には、軍という組織への不信感と、自らの手で正義を貫くという強い決意が芽生えていた。
「あぁ、サイヴォンね。彼は一見すると優秀な副領主だけど、裏では奴隷を買い漁っているらしい。彼の別荘がサージャス公国の国境沿いの避暑地にある。そこで、定期的にパーティーをしているらしいよ」
「虫唾が走る…ありがとう。また頼らせてくれ…」
アルタイルは闇の情報屋に接触し、情報を得る。
その声は冷たく、すでに獲物を狙う狩人のようだった。
そして、彼女は得た情報をもとに、すぐに行動に移した。
「ひぃ…わ、私を誰だと…副領主である私を襲うなど…」
別荘内にいるサイヴォンを、アルタイルは冷静に補足していた。
彼の顔は、恐怖に引きつっている。
「大丈夫。私の魔法で行方不明ということにできるから…」
アルタイルが魔法を唱えると、空間が裂け、紫色の裂け目から青白い手が現れる。
そして、サイヴォンをがしっと掴む。
「やめ…やめてくれ…!!」
サイヴォンは悲鳴を上げるが、その声は虚しく響くだけだった。
そのまま、彼は亜空間の中へと引きずり込まれていった。
裂け目は音もなく閉じ、サイヴォンは跡形もなく消え去る。
「まずは一人…」
アルタイルはその様子を見て、満足げに頷いた。
それからは、スムーズだった。
「ま、待ってくれ!金ならいくらでも…」
「見逃してくれ!出頭するから!」
リストに掲載されていた人物を、アルタイルは次々と秘密裏に抹消していった。
当然、証拠が残ることがなく、国内ではいずれも行方不明という形で処理された。
だが、さすがの彼女も国外の貴族には手を出せなかった。
下手したら外交問題、最悪戦争になる可能性もあるからだ。
「…くそ。軍部にいるだけでは限界なのか」
アルタイルは苛立ちを隠せず、机に手を叩きつけていた。
その手には、血の滲んだような跡が残る。
「王女様がサージャス公国の公爵様と婚姻を結んだらしいね!」
「ベクティアル国王の外交手腕は大したものだよ」
「なんか、人間やドワーフ族の技術者達を誘致して国を発展させていきたいとか言ってたよ」
「ドラゴニア王国は平和一直線だな!」
他国との不可侵条約、他種族への資金援助、自国民の平和ボケ。
その光景は、アルタイルにとって、腐敗と堕落の象徴にしか見えなかった。
「どいつもこいつも…」
アルタイルの心には、怒りが募り、やがてそれは燃え盛る炎へと変わっていった。
そしてついに…
「ちょっと待って!急にやめるって…困るよ!」
アルタイルは軍事総監に辞表を提出した。
総監は驚きと困惑の表情を浮かべている。
「…少し疲れたので。申し訳ないですがご理解ください」
アルタイルはそう呟くと、一瞥もせずに総監室を去った。
その足取りには、迷いがなかった。
「私は…私のやり方で、ドラゴニアを正しい方向に導く」
そして、自身の父が残した古い洋館を拠点として「龍心会」を設立した
最初は数人のほんの小さな組織だった。
表向きは演説活動やビラ配りが主な活動だった。
それでも、アルタイルは個人で動き続けていた。
「どこの手の者だ!?」
「…名乗る必要はない」
アルタイルは単身で、サージャス公国のアイアンヴォルト家やレスタ王国のバルサミコ家に襲撃を仕掛け、リストに載っていた人物を抹消していった。
だが、空間魔法で証拠を隠滅し、軍を抜けていた身のため、彼女の素性を探れる者はいなかった。
そんなある日…
「やっほー!」
「アルタイル…久々だな」
龍心会の本部に、明るい声と共にレグルス、そしてスピカがやってきた。
「レグルス!!それにスピカまで…!?」
突然の来訪にアルタイルは驚きを隠せない。
その顔には、久しぶりの再会への喜びと、戸惑いが入り混じっていた。
「えへへ…実はさ…」
スピカが屈託のない笑顔で、色々と話し始めた。
レグルスと共に軍を辞めてきたこと、ラジアンも勧誘したが彼は断ったこと、そして、ベクティアル国王が近い将来、人間や他種族にも参政権を与え、税金を下げようとしていることなど。
その情報にアルタイルは、再び深い怒りを覚えた。
「あの国王はドラゴニア王国をなんだと思っている…1年前の人身売買組織の騒動の時もそうだ…。絶対全てを知っている…なのに、なぜ…」
アルタイルの声は震え、その瞳には、国王への強い不信感が宿っていた。
「俺もベクティアル国王のやり方にはこれ以上ついていけなくなった。それに、お前を一人にさせておくのは心配だ。だから、俺も今日から龍心会に参加させてもらう」
レグルスは静かに、しかし強い意志を込めて言った。
「私も参加するよ!!そっちの方が面白そうだし!」
スピカも満面の笑みで、龍心会への参加の意思を見せた。
「二人とも…ありがとう」
アルタイルは、込み上げる感情を抑えきれないように、小さく感謝の言葉を漏らした。
こうしてレグルスとスピカが参加した。
そして、参加者も少しずつ増え、今の龍心会が出来上がった。
それが今、国を乗っ取り、正しき方向へと導こうとしている。
「私には…やることがある!!」
夢の中のアルタイルがそう叫んだ瞬間、アルタイルははっと目を覚ます。
部屋の中はランプの柔らかな灯りと静寂が包み込んでいた。
「随分とリアルな夢を見た。水でも飲みに行くか…」
そして、部屋を出る。
扉の前には、ベガが立っていた。
「アルタイル様、おやすみになられましたか?」
ベガがアルタイルに尋ねる。
「あぁ…十分休んだ…」
アルタイルはベガに、わずかな笑みを見せた。
「そういえば、ユーとリンチーがアルタイル様に報告があると…」
「分かった。散歩がてら私の方から出向く。彼らがいるところは想像ができるのでな…」
アルタイルはそう言うと、長い廊下を歩き始める。
その足取りは、夢から覚めたばかりとは思えないほどしっかりとしている。
「アルタイル様…私もお供させてもらいます」
すると、ベガが背後からアルタイルを追いかけるように、静かに付いてきた。
「一人で大丈夫だといつも言っておろう…」
ベガの誠実さに、アルタイルは少し苦笑を浮かべた。
「いいえ。アルタイル様をお守りし、この国を正しき方へ導く。これが私の使命ですから…」
ベガは真面目な口調で答える。
「ふっ…そこまで言うなら好きにするといい」
そして、アルタイルは議事堂の外へ歩みを進めた。
外は強めの風が吹いていた。
「涼しい風だ…」
アルタイルの金髪が風になびく。
それは、まるでこれからの戦いを予知するようなものであった。




