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第10章:烈風の魔法使い

「さて。そろそろあのペテン師の鼻を明かしてやるとしようかのぉ」

サシャと人格を交代したトルティヤが、口元に不敵な笑みを浮かべながら呟いた。


「奴はこの先に…」

トルティヤは、迷うことなくトロッコの前車両へと進む。

そして、最前列にたどり着くと、そこにシルヴァは待ち構えていた。


「ほう。まさか、俺のお気に入りを突破してくるなんてね…」

シルヴァは、腕を組み、余裕の表情でこちらを振り向いた。


「おや、先程と雰囲気が違うようだが…?」

シルヴァは、サシャの髪の色が白色に、瞳の色が赤色に変わっていることにすぐに気づいた。


「さっきまでと一緒にせんほうがよいぞ。ワシはアイツ(サシャ)と比べて甘くないからのぉ」

トルティヤは、冷たい光を宿した瞳で、シルヴァを射抜きながら低い声で呟いた。


「ほう。大した自信だな。どんな魔法を使ったかは知らんが…今度こそお前は終わりだ…屍魔法-奈落よりの降臨(アビスオブアドベント)-!」

シルヴァが、手のひらを前に向け、再び魔法を唱える。

すると、先ほどよりも大きな魔法陣から強い光が溢れ出し、

中から一体のエルフ族のアンデッドが現れた。


「む!…こやつ、まさか…ドルパージャか!?」

トルティヤは、その特徴的な姿を見て、すぐにアンデッドの正体を理解した。


翠緑のドルパージャ。

かつて、大陸中にその名を知られた、エルフ族の女性魔法使いだ。

ボロボロになった深緑色のローブを身に纏い、顔には痛々しいツギハギの跡が見られるものの、その肉体は生きた人間と見紛うほど綺麗に保たれていた。

整った顔立ちには、生前の美貌が偲ばれるが、その瞳には生気がなく、どこか冷たい雰囲気を漂わせている。


「大当たり。いやぁ、こいつの死体を探すのは苦労したんだぞ?」

シルヴァは、薄気味悪い笑みを浮かべ、楽しそうに言った。


「…貴様。よくもぬけぬけと」

トルティヤは、静かに、しかし内には激しい怒りを滾らせていた。


「ふん。知ったことか。やれ!」

シルヴァが、ドルパージャに命令を下す。


「…烈風魔法-風龍の畝刃(ふうりゅうのぼうじん)-」

ドルパージャは、乾いた声で魔法を唱えた。

すると、彼女の右手に、深緑色の魔力が凝縮され、鋭い刃のような形を形成していく。


「(やはり烈風魔法か!)」

ドルパージャは、大陸でも稀有な烈風魔法の使い手として広く知られていた。

それは、普通の風魔法とは比較にならないほどの強大な力を持ち、

彼女はその力で数々の困難を乗り越え、偉業を成し遂げたと伝えられていた。


「…」

緑色の光が、まるで奔流のようにほとばしり、鋭い刃の形をした無数のカマイタチが、生き物のようにトルティヤに向かって飛んでくる。

カマイタチは、トルティヤの動きを予測するように、執拗に追い詰めてくる。


「(なんて高い魔力…さすがじゃ…)」

トルティヤは、ドルパージャの放つ魔力の奔流に内心で感嘆しつつも、冷静に魔法を唱えた。


「水魔法-断罪の礫(だんざいのつぶて)-」

トルティヤの周囲に、複数の巨大な水の塊が突如として生成され、高速で飛来するカマイタチにめがけてぶつけられた。


水の塊がカマイタチとぶつかると爆発し、激しい水しぶきが周囲に飛び散る。

そして、あたり一面は瞬く間に白い水蒸気に包まれた。


「無限魔法-羅刹の炎(らせつのほのお)-!」

漆黒の炎が、視界の晴れない中、ドルパージャに向かって放たれた。


「…烈風魔法-戦女神の鎧(ヴァルキリーアーマー)-」

水蒸気が晴れると同時に、ドルパージャの体が、エメラルドグリーンの強風で覆われているのが見えた。

風は、まるで生きているかのように彼女の体を包み込み、その風貌は、まさに戦女神のようだった。

漆黒の炎は、風の鎧に触れることなく霧散し、周囲に熱だけを残した。


「(これは厄介じゃのぉ…)」

トルティヤは、ドルパージャの纏う風の鎧を見て、状況が不利であることを冷静に分析していた。


「烈風魔法-戦巫女の聖槍(メイデンズスピア)-」

お返しと言わんばかりに、ドルパージャの周囲に強烈な風が集まり、激しい風が渦を巻き、巨大な槍の形へと変貌する。

風の槍は、まるで意思を持っているかのように、狙いを定めトルティヤ目掛けて一直線に飛んでくる。


「(早い!)」

トルティヤは、迫りくる風の槍を間一髪で後方へ跳躍して回避する。

槍が床に刺さった瞬間、まるで地面が爆発したかのように、強烈な風が吹き荒れる。


「くっ…」

トルティヤは、思わず両手で顔を覆い防ぐ。

風圧でマントが激しく揺らめき、銀色の髪が乱れる。

だが、その時、背後にはいつの間にかシルヴァが回り込んでいた。


「俺がいるのを忘れるなよ」

シルヴァは、冷酷な笑みを浮かべながら、剣を振り上げる。


「ふっ…ワシの背後を取るとは…だが」

トルティヤは、振り返ることなく魔法を唱える。


「氷魔法-氷天閣(アイスタワー)-!」

トルティヤの背後に、巨大な氷柱がいくつも瞬時に生成され、氷山のような巨大な氷の壁が形成される。


「ガキィィィン」

振り下ろされたシルヴァの剣は、巨大な氷の壁に激突した。

衝撃で氷の壁に大きな亀裂が走り、砕け散った氷の破片が周囲に鋭く飛び散る。


「ほう。やりおるのぉ」

シルヴァは、再び素早くドルパージャの後ろへと下がる。


「(あの剣術…中々の威力を誇るのぉ。まともに受けるのは危ないな)」

トルティヤは、シルヴァの繰り出す剣術を冷静に分析する。

それは、単なる力任せの攻撃ではなく、長年の鍛錬によって磨かれた、

洗練された技量を感じさせるものだった。


「(それに、さすがはドルパージャのアンデッドじゃ。攻撃に全くスキがないのぉ。それに引き換え、こっちの魔力量は多くない…さて、どうする?)」

トルティヤはあくまで精神体であり、サシャの肉体を借りているため、

サシャ自身の持つ魔力量にどうしても依存せざるを得ない。


そのサシャの魔力は、先程のアンデッドとの激戦で既にかなり消耗しており、長期戦は明らかに不利と判断せざるを得なかった。

そうこう思考を巡らせている間にも、敵の攻撃は容赦なく迫ってくる。


「烈風魔法-神の天網(ゴッドネット)-」

ドルパージャが両手を広げると、無数の鋭い風の刃が、まるで蜘蛛の巣のように網目状に形成された。

巨大な風の網は、トルティヤを完全に包み込むように迫ってくる。


「くっ…砂鉄魔法-砂宝刃(サンドサーベル)-!」

トルティヤは、咄嗟に二本の巨大な砂鉄の刀を生成した。

そして、生成された漆黒の砂鉄の刀で、迫りくる風の網を薙ぎ払い、吹き飛ばす。


「そのまま受けるが良い!」

トルティヤは、吹き飛ばした風の網の勢いを利用し、砂鉄の刀をドルパージャ目掛けて投擲する。

砂鉄の刀は、一直線にドルパージャの胴体を寸断した。

だが、次の瞬間には、何事もなかったかのように再生した。


「…やはり無駄か」

屍魔法によって蘇生されたアンデッドは、使用者の魔力が流れ込んでいる限り、肉体を損傷させても自動的に再生されるという、非常に厄介な能力を持っていた。


「…烈風魔法-鳳凰の翼フェニックスオブウィング-」

ドルパージャの背後に、鳳凰を象った巨大な風の塊が形成される。

それは咆哮をあげながら、信じられないほどの速さで、トルティヤ目掛けて放たれた。


「(これは…さすがに間に合わないのぉ!)」

トルティヤは、迫りくる鳳凰の形をした風の塊を見て、回避は不可能と判断し、両腕を前に突き出し防御の構えを取る。

しかし、鳳凰の形をした風の塊は、トルティヤの想像を遥かに超える威力だった。


「くぅっっ!」

轟音と共に、トルティヤは爆風に巻き込まれ、トロッコから激しく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「がはっ…」

地面に叩きつけられた衝撃で、激しい痛みが全身を駆け巡る。


「はっ!」

シルヴァと、ドルパージャのアンデッドも、トロッコから飛び降りた。

無人のトロッコは、ガタゴトと音を立てながら坑道の奥へと走り去っていった。


「おやおや。もう終わりかい?」

倒れ伏しているトルティヤに、シルヴァがゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。

その表情には、勝利を確信した嘲笑が浮かんでいた。


「(くっ…体が動かぬ…人間の体はこんなにも脆いのか?)」

生前のトルティヤ自身の肉体であれば、この程度のダメージを受けても、すぐに立ち上がることができただろう。

だが、今は訓練を受けていない、ただの人間であるサシャの肉体なのだ。


トルティヤは、自身の力のなさに歯噛みしながらも、この絶望的な現状を打破する方法を必死に模索していた。


「…うっ」

その時、精神世界でサシャが意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けた。


「ここは…トルティヤ!?」

サシャは、ぼんやりとした意識の中で、今の状況を理解しようとする。

倒れ伏す自分の肉体、すぐそこまで迫るシルヴァ、そして、思うように動かない体。


「全く…お主の体、弱すぎじゃろ。まるでもやしじゃな…」

トルティヤは、呆れた表情でサシャを見つめた。


「悪いな。もやしみたいな奴で」

まるで、情けない姿を見透かされているようで、サシャは辛かった。


「さて…このまま奴に殺されれば、お主もワシも終了じゃ」

トルティヤの言葉が、サシャの心に重く突き刺さる。


「ごめん…俺が弱いばかりに」

サシャは、自身の無力さを痛感し、深く葛藤していた。

どうすればいいか?何か、できることはないか?必死に思考を巡らせる。

そして、一つの、しかし微かな希望が、彼の頭の中に浮かび上がった。


「ねぇ?トルティヤ。もし、俺から魔力がなくなったら、どうなるの?」

サシャは、藁にも縋る思いでトルティヤに尋ねた。


「ふむ…死にはせぬが、魔力切れで暫くは激しい疲労に襲われる。最悪、数日は意識を失う可能性もあるのぉ」

トルティヤは、サシャの質問の意図を測りかねていたが、丁寧に説明した。


「それって、魔力が切れた本人のみが起こる…ってことでいいんだよね?」

サシャは、念を押すように確認する。

トルティヤの答えが、サシャの考えを後押しした。


「ま、そういうことになるのぉ。それがどうかしたのか?」

トルティヤは、訝しげな表情で尋ねる。

サシャの真意が見えないことに、少しずつ苛立ちを覚え始めていた。


「それなら一つ考えがあるんだ」

そう言うと、サシャは精神世界でトルティヤの手を強く握った。

彼は、自分の考えを実行に移すために、トルティヤに触れた。


「お、お主何を!?」

突然手を握られ、トルティヤは困惑の色を隠せない。


「俺の魔力を…全てトルティヤに分け与えれば…」

そう言うと、サシャは自身の体内に残る全ての魔力を、トルティヤへと流れ込ませ始めた。


サシャは、自分が持てる全ての魔力を、トルティヤに託そうとしていた。

トルティヤは、自身の体に激しい魔力の奔流が流れ込んでくるのを感じた。


「この感覚は…」

その時、トルティヤの中に、眠っていた何かが目覚めたような、強烈な感覚が走った。

トルティヤの意識が、徐々に、しかし確実に覚醒していく。

そして、魔力の流れが止まる。


「…よし。これでいい…あとは…頼んだ…よ」

そう言うと、サシャは意識を失い、精神世界で力なく倒れた。


「…全く。馬鹿な奴じゃ。お主が寝ている間にワシが肉体を乗っ取っても知らぬからな」

トルティヤは、意識を失ったサシャを見下ろしながら小さく呟いた。

サシャの無謀とも言える行動に呆れながらも、その奥底にある勇気と優しさに、どこか感心しているようだった。

その時、トルティヤの肉体が、内側から眩い光を放ち始めた。


「これは…ワシの力が戻りつつある?」

トルティヤは、生前に持っていた強大な力の一部が、確かに戻りつつあるのを感じた。

体中に、熱く、そして懐かしい力がみなぎってくる。

そして、ゆっくりと目を開ける。


「これで終いだ…!」

目を開けると、まさにシルヴァが剣をトルティヤに突き刺そうとしていた。


「まだじゃ!」

トルティヤは、咄嗟に体をよじらせ、シルヴァの突きを紙一重で回避する。

シルヴァの剣は、トルティヤの体を捉えることなく、深々と地面に突き刺さった。


「むっ…まだそんな気力が…」

シルヴァは、地面に突き刺さった剣を力任せに引き抜いた。


「さぁ、まだまだ踊ろうぞ。第二ラウンド開始じゃ」

トルティヤは、自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、シルヴァを挑発するように見つめた。


「大した気力だ。だが、状況が不利なのには変わりないぞ?」

トルティヤの目の前には、無傷のシルヴァ。

そして、先程までの攻撃で多少ダメージを負ってはいるものの、依然として戦闘能力の高いドルパージャのアンデッドが立っていた。


「言っておれ…」

そう言うと、トルティヤは静かに、しかし確信に満ちた声で魔法を唱え始めた。


「(今の魔力量なら…いける!)」

すると、トルティヤの両手が、眩い青い光を放ち始めた。


「無限魔法-海竜の慟哭(かいりゅうのどうこく)-」

トルティヤの周囲に、巨大な海竜の形を象った、強大な水魔法が現れた。

それは、咆哮を上げながらシルヴァたちに突進し、周囲の空気を激しく震わせ、大量の水しぶきを撒き散らす。


「ふん。無駄なことを…やれ」

シルヴァは、迫りくる海竜を冷静に見据え、ドルパージャに命令を下す。


「烈風魔法-翠緑の雷光(グリーンボルテックス)-」

ドルパージャの周囲に、エメラルドグリーンの強風が激しく渦巻き始めた。

そして、その風の中から、無数の風を纏った細かな緑色の稲妻が、まるで雨のように放たれた。


しかし、海竜の形をした水魔法は、無数の翠緑の稲妻をものともせず、ドルパージャに容赦なく襲いかかる。

「グシャァ!!」という鈍い音と共に、魔法は獲物を貪るようにドルパージャの右上半身を抉り取った。


「…」

ドルパージャは、その勢いのまま大きく吹き飛び、背後の坑道の壁に激しく叩きつけられた。


「なにっ!?」

シルヴァは、予想外の事態に焦りの表情を露わにした。


「ようやく表情を変えてくれたのぉ」

トルティヤは、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら呟いた。


「だが、すぐに再生して…」

シルヴァは、壁に叩きつけられ倒れているドルパージャの方を見つめる。

だが、先程までならすぐに再生していたはずの肉体は、なぜか再生しない。


「どういう…どういうことだ!?」

シルヴァは、目の前で起こっている信じられない事態に狼狽する。


「お主のアンデッドは皆、お主の魔力で動いているのは知っておる。だから、その魔力を「奪ってやった」までよ」

トルティヤは、涼しい顔で、まるで当然のことを言うかのように呟いた。


「(ドルパージャの右上半身を破壊し、魔力を奪い取ることに成功した。だが、こちらの残りの魔力を考えると、長期戦は避けたいのぉ。早めにケリをつけねば…)」

トルティヤは、自身の魔力が限界に近づいていることを、肌で感じていた。


「どういう…?」

シルヴァは、何が起きたのか理解が追いつかず、混乱していた。


「ま、お主が知る必要はないのぉ。無限魔法-羅刹の炎(らせつのほのお)-」

トルティヤは、立て続けに漆黒の炎を、倒れているドルパージャと、その背後にいるシルヴァに向けて放った。


「まだ終わらない!!やれ!ドルパージャ!」

シルヴァは、迫りくる漆黒の炎を辛うじて回避しながら、ドルパージャに命令を下す。


「…烈風魔法-神の天網(ゴッドネット)-」

右上半身を失ったドルパージャは、それでもなお、網目状の風の刃を再び放った。

しかし、片腕を失った影響か、その威力は先程までと比べて明らかに弱まっていた。

漆黒の炎は、弱体化した風の刃を容易く打ち消し、そのままドルパージャに向けて放たれる。


「…!」

回避する間もなく、漆黒の炎はドルパージャに直撃し、彼女の体を完全に包み込んだ。

ドルパージャは、抵抗する術もなく、そのまま黒い炎に焼かれていった。


「…まさか!」

シルヴァは、信じられない光景を目の当たりにし、驚愕の表情を浮かべる。

彼が持ちうる最強のしもべが、いとも容易く撃破されたことが、信じられずにいた。


「ええい!まだだ!屍魔法-奈落よりの蘇生(アビスオブリボーン)-!」

追い詰められたシルヴァは、最後の手段として、魔法陣から無数のアンデッドを召喚した。

トルティヤは、あっという間に大量のアンデッドに取り囲まれてしまう。


「ふん…そんなもの、いないものと同じじゃ…火魔法-神聖なる煌鳥セイントスパーキングバード-」

トルティヤは、冷静に魔法を唱える。

すると、鳥を象った複数の炎が、まるで生きているかのようにアンデッド達を襲う。

炎は、着弾した瞬間、強烈な爆発を引き起こし、周囲のアンデッド達を一網打尽にした。


「くそっ!屍魔法-奈落よりの降臨(アビスオブアドベント)-」

さらに追い詰められたシルヴァは、魔法陣から3体の強力なアンデッドを召喚した。

民族衣装とお面をつけ、鋭い槍を持ったアンデッド。

全身を黒い甲冑で覆い、刀を携えた鎧武者のアンデッド。

そして、巨大なハルバードを携えた、筋肉質な半裸のアンデッド。

いずれも、並のアンデッドとは明らかに異なる、猛者の風格を漂わせていた。


「今度こそ終わりだ!!お前たち!やれ!」

シルヴァは、最後の命令を下す。3体の強力なアンデッドは、トルティヤに向かって突撃を開始した。


「ふん…往生際の悪いやつじゃ」

トルティヤは、迫りくる強敵を前にしても、微塵も動じることなく、冷静に魔法を唱える。


「無限魔法-太陽の裁き-」

トルティヤの頭上に、眩いばかりの光が集まり始め、みるみるうちに巨大な光球へと姿を変える。

それは、まるで小さな太陽のように、強烈な光を放っていた。

光球は、一瞬にして収束し、鋭い光線へと変わり、暗い坑道を昼間のように明るく照らし出す。

そして、その光線は、突撃してきた三体のアンデッドの胴体を、まるで熱いナイフでバターを切るかのように、容易く貫いた。


「…」

光線が触れた瞬間、アンデッドの体は内部から発火し、たちまち激しい炎に包まれた。


「ほれ。もう終わりかの?」

トルティヤは、冷たい眼差しを、震えるシルヴァに向ける。

その視線に、シルヴァは全身の毛が逆立つような戦慄を覚えた。


「お…お前は…一体何者なんだ!」

シルヴァは、慌てて腰の剣を抜き、身構える。

それに対して、トルティヤは氷のような冷たい視線を送る。


「ワシの名は…トルティヤ。貴様が今、対峙しているのは、史上最強の魔導師じゃ」

トルティヤは、右手に再び強大な魔力を凝縮させる。


「うわぁぁぁ!こんなところで…終わってなるものか!イナリ流奥義・瞬春(しゅんしゅん)!」

追い詰められたシルヴァは、最後の力を振り絞り、まるで残像を残すほどの驚異的な速度でトルティヤに突撃してきた。

それは、常人には捉えられないほどの、恐るべき太刀筋だろう。

だが、トルティヤの研ぎ澄まされた眼には、その全てが見えていた。


「そんな、やぶれかぶれの攻撃…今のワシには当たらぬ」

トルティヤは、シルヴァの繰り出す必殺の剣撃を、寸分の狂いもなく紙一重で回避する。


「っ…!」

シルヴァの剣は、虚しく空を斬る。


「ほれ…お返しじゃ」

トルティヤの右手に集められた魔力が、一瞬にして解き放たれる。


「無限魔法-茨の呪縛-!」

地面から無数の茨の鎖が伸び出し、瞬く間にシルヴァの全身をぐるぐると巻き付けていく。


「くっ…離せ!」

シルヴァは、必死に抵抗しようとするが、茨の呪縛は彼の動きを完全に封じ込めてしまう。


「くそっ!おのれ!おのれ!おのれぇぇぇ!」

茨に全身を拘束されたシルヴァは、最後まで狂ったように叫びながら、

地面に開いた亜空間の裂け目に飲み込まれ、跡形もなく消えていった。


「ふぅ…これで報酬を貰いそこねることはなかろう…」

トルティヤは、小さくため息をついた。

今回の依頼の目的は、あくまで毛皮強盗の確保であり、殺害ではない。

そのため、トルティヤは、シルヴァを殺さずに、封印という形で捕らえたのだ。


「…」

そして、トルティヤは、精神世界で意識を失い、倒れているサシャの元へゆっくりと歩み寄る。


「ふむ…意識を失ってるだけじゃな。放っておけば、そのうち魔力が戻って回復するじゃろう」

サシャの様子を軽く確認したトルティヤは、どこか安心したように小さく微笑んだ。


「さて…あの小僧と胡散臭い傭兵のもとへ戻るかの」

トルティヤは、とぼとぼと来た道を引き返し始めた。

そして、200メートルほど進んだところだった。


「あれ…力が…」

突然、足元がふらつき、体が宙に浮くような感覚に襲われた。

そのまま、トルティヤは地面に力なく倒れてしまった。


「…少しはしゃぎすぎたかのぉ」

トルティヤ自身の魔力も、サシャから分け与えられた魔力も、既に限界に近づいていた。それに加えて、長時間の肉体の行使は、トルティヤの精神にも大きな負担をかけていたのだ。


「少し休んで…」

トルティヤが、意識を手放すように目を閉じようとした、その時だった。


「おい!いたぞ!!」

坑道内に、複数の男性の声が響き渡った。


「…なんじゃ」

声のした方を見ると、数人の帝国兵士たちが、こちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。


「無事だ!無事だぞ!」

兵士たちの様子から、どうやら自分たちが探していた援軍のようだった。


「…なんとか…なったようじゃのぉ」

トルティヤは、安堵感とも諦めともつかない感情を抱きながら、そのまま意識を手放し、静かに目を閉じた。

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