休み時間
「正直、魔女の魔力源確保に学校を利用するやり方は、反対だったのよね」
フランが両手を軽く振ってパペットを消した。
「だってそれって詐欺みたいじゃない? 本当の魂胆を言ってしまえば人が集まらないって後ろめたさがあるから、尤もらしい言葉で飾ろうとするのよ」
「反対なら何で今の学校がこうなってるんだ?」
「単純な多数決。『実際に魔女の側で働かせるんだから、護衛というのは間違っていない』ってリデルのお馬鹿さんの意見に、殆どが納得しちゃったって感じ」
「リデル……『七人の魔女』の一人ですね」
「ああ~、そういや昔母さんに読んでもらった絵本にそんな魔女が出てきたような……。心優しい魔女じゃなかったっけ」
フッとフランが鼻で笑った。いつもは包容力全開の微笑を湛える彼女が、珍しく侮蔑の情を口元に滲ませている。
俺をバカにした訳ではないだろう。暗い感情の矛先は別の対象に向いている。
「心優しい……ね。あの子がそう呼ばれていた時期もあったかしら」
「今は違うみたいな言い方だな」
「人は変わるものよ。私と本気の殺し合いをしてからは特にね」
「殺し合いって……」
授業終了の鐘が鳴ったのはその時だ。
フランは話を切り上げるように指を鳴らし、分身魔法を解除した。
「ふむ。みんなのノートと授業態度を見る限りだと、魔法への熱意はまちまちね。落第必至な子は後でマージェス先生に教えてあげないと」
どうやら分身で見聞きした情報は本体へと還元されるらしい。
最後にマージェス先生が課題を言い渡し、生徒達が呻きを上げた。
十分程度の休み時間。本来なら次の授業の準備や学友との雑談で消費されるはずだが、今だけは大半のクラスメイトがフランのもとに颯爽と押し寄せていた。
「フラン先生、お話聞かせてください!」
「サイン貰えませんか!?」
「『風神雷神の伝説』についてどう思います? 三百年前に天変地異を起こしたと言われる風神が、魔女フランだって都市伝説に心当たりは?」
「アレン、お前リリアという嫁がいながら伝説の魔女に手出したのか!」
「ちょっ、誰よ今言ったの!?」
教室の隅っこが祭りの行列みたいになっている。ただでさえ目立ちたくないのに、こんなに大量の視線に囲まれるなんて心臓が張り裂けそうだ。
リリアはどこからともなく飛んできた野次を真に受けて何か叫んでいるし、フランは困ったように両手でみんなを宥めている。
「困ったわね。元気な赤ちゃんがこんなにいっぱい……。でもごめんなさいね、私はアレンくんだけのベビーシッターだから」
「彼女みたいなノリで言わないでくれ」
こうなりゃ時間が過ぎるのを待つだけだ。机に突っ伏し、いつの間にか別れた睡魔との再会に思いを馳せる。
「あっ。みんな静かにして? ほら、しーっ!」
フランの一声で、興奮状態だったクラスメイトが静まった。何事かと耳を澄ます。
「アレンくん、おねむの時間が来ちゃったみたい。しばらく静かにしてあげて?」
「「「ああ~~」」」
納得してんじゃねえよ。