第51話 Pieces Of Memory(記憶のカケラ) 1
一月程の時が過ぎたが、サンドラ邸にはいつもと変わらぬ朝がおとずれていた。
姉妹のランチバスケットをテーブルに置くとサンドラが言った。
「2人共、今日は天気が悪くなりそうよ。グアムスタンの雲の色が変わってきたらすぐ山を降りなさいね」
そう言ってサンドラはキッチンに戻った。
姉妹はランチの入ったバスケットを手に山へ出掛ける。グアムスタン山の雲の色がくすんでいた。
陽が高くなり、ランチを済ませた頃、グアムスタン山のくすんでいた雲の色が色濃く変わり始めた。姉妹はその事には気付かず、ラビンを追っていた。
「ロー、挟み撃ちよ!」
「オッケー、こっちは任せて」
姉妹はサンダーやバーストでラビンを挟み撃ち。
久しぶりに大きなラビンを仕留めた、とその時だった。
雷鳴が轟き、稲光で目が眩むほどだ。
うわっ、あー。と姉妹はかがみ込んでしまう。
その瞬間。姉妹の脳裏には両親と魔術の鍛練にやってきた時の事がフラッシュバックされた。
再び雷鳴。
「……マタスタシス=テクーーーッ!クルスオブメモリーローーース!」
グランダの声だった。長い雄叫びの後に叫ぶ術式が、姉妹の耳には聞こえていた。
「ローっ!」
「アマー!大丈夫―?」
仕留めたラビンを抱えてアマに近寄るロー。
「アマ、グアムスタンの雲に気が付かなかった。急いで山を降りましょう。雨が降るわ」
足早に山を降りていく2人。
小走りになりながらアマが話しかける。
「ロー、空が光ってる中で何か見なかった?」
「うん、私達と他に2人の姿。何かやっていたわ」
「私達と一緒にいた2人ね、きっと私達の両親よ。その後にすごい雄叫び。何か聞こえたわ」
「マタスタシス=テク、クルスオブメモリーロス。アマも同じものを見聞きしたのね。よかった、気のせいじゃなかったみたい。いったい何の呪文かしら?」
姉妹は心の中で話していた。
「私達のこの会話も何かあるんだわ。段々そう感じてきた」
「同感よ、ロー。でも何か思い出せそうで思い出せない」
グアムスタン山は雨が降り始め霞んできていた。
そうこうするうち、姉妹はサンドラ邸まで戻ってきたのだった。
「おかえり2人共。お茶の支度をするわね。獲物のラビンは明日にしなさいな」
小走りに降りてきたからか、少し息が上がっている姉妹。
部屋に短剣やバッグを置いてテーブルに座る。
そこへサンドラがティーセットを持って戻ってきた。
「走って戻ってきたのかい。雲は見ていただろうに」
「サンドラさん。それが私達、ラビンに夢中で雲の色が変わってきたのに気が付かなかったの」
「珍しく大物だったからアマと挟み撃ち、って。私達夢中になってたみたい」
「バリスタン山で雷に打たれる事はないそうだけど、雨でずぶ濡れになるからねぇ。早く降りてきてよかったよ」
サンドラは窓を指差しながら話した。
窓ガラスには叩きつける様な雨が降っている。一時的な大雨らしいが外の様子は察する事ができた姉妹であった。