第33話 Hint(ヒント) 3
某月某日、ヤツが初めて言った。
マタスタシス=テク、クルスオブメモリーロスの事を。
ヤツは完全習得を目的にしている。
某月某日、数名の最上級魔道士が一瞬にして殺られた。
遠くからヤツにリンクして監視していた魔道士の話だ。
ヤツはクルスオブメモリーロスを習得し、対峙した魔道士に術式を使い記憶を失わせ、命を奪ったのだろうか。いや早すぎる。今後はヤツにリンクするのも警戒が必要になった。
「……とガイラ様が記しています。この時点ではマタスタシス=テクはまだ完成されていないのだと思います。パワーを使うなら、マタスタシス=テクで魔道士を転移させてしまうか、自らが転移すれば良い訳ですから。しかしそのグランダは全く術式を使おうとしていません。クルスオブメモリーロスにしても同様です。術式を駆使すれば、我々魔道士など赤子の手をひねる様なもの。どちらも使っていないのは、まだ未完成だったからだと考えるのが妥当かと」
「あの子達が別世界でも記憶は残っていて無事ならいいけど」
その時。
「はっ!ブレインラードに数体の妖魔。魔道士達が戦っている様です」
「私も意識を捉えた。5体の妖魔よ。グランダ亡き後になっても尚、妖魔が現れるなんて」
「グランダの意識を感じます。身体を失っても意識だけで存在しているのでしょうか?」
「そうとしか思えない。この現世世界を征服する為、今まで多くの妖魔を送り出してきたのだから。もしくは左腕の復讐心から意識だけが残っているんだわ」
「となれば、ミランダ様の意識を探っているに違いありません。くれぐれも意識を掴まれぬ様用心ください」
「……最悪は私が誘き寄せて囮になる」
ガムの耳に届いたか届かぬか、ミランダは独り言の様に呟いた。
ブレインラードの妖魔は退治され、その後グランダの意識も感じず、妖魔も現れなくなった。