第102話 This World And Times Past(現世と過去の時代) 23
その日の晩の食事後、いつもの団欒だ。
サンドラは魚獲りのレクチャー中。釣りをする事は姉妹には難しそうで、いよいよサンドラも経験がある話へと移っていった。
「釣りをするならブリード川の上流なんだがね、ここからは別の話さ。……ここからバリスタンの東側に沿って行くと、ブリード川下流の堰がある。そこに罠を仕掛けると小魚は獲れるんだ。だがね、大物は罠に気付いて掛からない。そこで、2人の魔術なら堰の周りの大物を仕留められるだろうと思ってるよ」
「そう簡単にいくかしら?」
「魚は私達初めてだし、大丈夫かなぁ……」
「なるべくなら生きたままの状態で市場まで運べるといいんだけどねぇ。魚を市場に卸す一番の手間だね。……ドンバスが魚屋のせがれを紹介するって言ってたろ?モルトって二代目なんだけど、ドンバスに頼んで紹介してもらったほうが話は早そうだ。荷車でも借りなきゃ運ぶのに困るかもしれないからねぇ」
翌日、既に陽が傾き始め、市場に下りてきた姉妹。
夕べのサンドラの話の通り、ドンバスに頼んでモルトを紹介してもらうこととなった。
「……というわけなんだモルト。この市場も食材が薄くならずに済んできたのは2人のおかげでもある。彼女達は魚は初めて。少し手助けしてやってくれないか」
「最近はブリード川には行ってないから獲物に関しては何とも言えないなぁ。でも荷車と保冷ボックスは貸してあげるよ。荷車は軽いものだから君達でも引いて歩ける。ボックスは川の水を張って獲物をそのまま運べるよ。ちょっと待ってて」
モルトは店の裏側に歩いて行った。
「漁業で生計を立ててる漁師は、ほとんどがパイル川で船を出してるんだ。だから魚もパイル川の魚なんだが、少しでもブリード川の魚が店に並んだら、客も喜ぶ」
腕組みしながらドンバスは言った。
「2人が来てから、肉屋は新鮮なラビンが並ぶようになった。感謝してるよ。寒い時期は山では狩りも大変だろう。ブリード川に出掛けるのもありだと思うがどうだい?」
「えぇ、日によって川に出掛けてもと考えてます」
「初めてだから、期待はしないでくださいね」
「魚が大物なら賃金は弾むよ。それに、最近は店先に並ばなくなったブリード川の魚なら客も珍しがる。久しぶりだしな。楽しみにしてるよレイラ。ライラ」
ドンバスが話している間に、モルトが荷車を引き、店先にやって来た。
「おまちどう。さぁ、これを使っていいよ。言ってみれば僕のお下がりなんだけどね。親父が軽い木材を使って作ってくれた。子供の頃に引いてブリード川まで行ったから、二人でも楽だよ。ボックスは今確認したけど水漏れはしてないから当分使える」
「ありがとうモルトさん」
姉妹は揃ってお礼と頭を下げた。