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事務長の業務日誌  作者: 川口大介
第二章 事務長、劇的な悲恋に出くわす
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 深く感動し感涙していたリネットと、術で心の中をかき回されていたクラウディオと、探し求めていた希望の光を無残に失ったミレイアと。

 三人が落ち着きを取り戻すのに、しばしの時を要した。

「……で」

 まず、クラウディオがリネットに言った。

「お前はこれからどうするんだ。約束通り、全ての男への復讐とやらは、やめるんだな?」

「もちろん」

 リネットは大きく頷いた。もう泣いてはいない。むしろ楽しそうだ。

「アタシは、自分で言うのもなんだけど、根こそぎ改心したの。もう、オトコに対しては復讐心どころか、憧れの気持ちで一杯よ。アンタのおかげで」

「?」

「だからこれからは、アンタにくっついて行きたいんだけど」

「なんでそうなる。俺の何がどうなって、お前が男に憧れたってんだ?」

 首を傾げるクラウディオに、リネットは全身をくねくねさせながら言った。

「あん、もう。そんなの決まってるでしょ。アンタの、あまりにもあまりにも美しすぎる悲恋の物語に感動したからよ。だからその結末を見届けたいし、あるいはこれから紡がれる新たな物語も、間近でじっくりと見ていきたい」

「何を言ってるんだか、さっぱりわからん」

「ふふっ、照れちゃって。ほら、あの子のことよ。幼馴染みで教会育ちの……」

「わああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 クラウディオは絶叫してリネットを抱え上げ、ダッシュでミレイアから離れた。

 充分に距離をとってから、リネットに耳打ちする。

「な、何かと思えば、ニコロのことか。あれが悲恋だと?」

「それ以外の何だって言うの? アンタにとっては恋であり、そして悲しいことでしょ?」

「うぐっ。と、とにかく、その件は絶対に誰にも言うな。事務長にもだぞ」

「事務長って、あのお嬢ちゃんよね。アタシとしては、女同士でこの感動を分かち合いたいところなんだけど。ま、アンタがそう言うならいいわ。その代わり、」

 ぼそぼそとリネットから耳打ちされ、それに頷いてから、クラウディオはリネットと一緒にミレイアのところへ戻ってきた。

「どうしたの、クラウディオ?」

「あー、その、事務長。こいつのことだが、ウチの小隊で雇ってやってはもらえんか?」

 ごほん、と咳払いをしてクラウディオはミレイアに説いた。

「まず、さっき見て解ったと思うが、こいつは強い。戦力としては充分だ。また、正体不明では決してなく、出自は明確に判明している。利害や忠誠などで他国と関わってることはない」

「それは、まあ」

「給金なども最低限度でいいそうだ。人間同様に食事はするが、それができる程度で良いと」

「そーそー。クラちゃんと、その周りを見ていられれば充分よ」

 異様にニコニコしているリネットに、ミレイアはうさん臭そうな目を向ける。

「クラちゃん、って。ねえクラウディオ、何があったの?」

「すまんが、言えん。言えんが約束する。もしこいつが事務長に、ウチの小隊に、何らかの形で害を為すようであれば。その時には、俺が責任をもってこいつを殺す」

 ギロリと睨み付けてくるクラウディオにも、リネットはあくまで笑顔を崩さない。

「ん、それでいいわ。どう、お嬢ちゃん?」

「どうって言われても」

 ミレイアは中指で眼鏡の位置を直しつつ答えた。

「この場ですぐには決められないわよ。わたしにそこまでの権限はないわ。そもそも、まだ大した予算を貰えないからってことで、今は二人っきりなんだし。この初任務で、予想外の大きな手柄でも立てられれば、交渉の余地もあるだろうけど」

 しかし、その為の希望の星であったエルージアの研究所跡がパアになった。いくらクラウディオが怪力とはいえ、崩落した岩山をどうこうはできない。どうこうできたとしても、何もかも岩で潰れているだろうし。

 しかし、他にアテもない。

「ねえリネット。こういう事故に備えて、エルージアがここ以外の場所に、予備の書庫とか倉庫とかを構えてたりはしない?」

 ミレイアは万一の望みに賭けてみたが、

「それはないと思う」

 バッサリ斬り捨てられた。

「ただ、母さんがここに研究所を構えた理由なんだけど。ずっとずっと大昔、世界中を相手に大戦争を起こした、何とかいう奴の拠点の一つがこの山中にあったそうよ」

「世界中を相手に、っていかにも大魔王的な話ね。そいつの名は?」

「そこまでは覚えてない。母さんは、そいつの遺した何かを見つけられれば儲けもの、見つからなくても、世界中のオトコを相手にした復讐戦を始めるのにふさわしい土地、って言ってたわね。結局、何も見つからなかったみたいだけど」

「う~ん……それが本当なら、この山の中に、まだ何かあるのかもしれないけど」

 しかし、この山にまつわるそんな話は、ミレイアの知識にもない。エルージアのこと以外は、何もないただの山のはずだ。

 エルージアは熱心に山中の探索をしたわけではないだろうが、どうあれ何も見つからなかったようだし。となるとその伝説? 自体が誰かの創作したウソ話かもしれない。そうでなくても、この山中だということ以外は手がかりがないのだ。探しようがない。

 エルージアの研究所跡が見つかったのも、ヨルゴスたちとの戦いを経てのアクシデント。そんな偶然が、そうそうあるはずがない。

「はあぁ。ま、とりあえずは、本来の仕事にかかるしかないかな」

「仕事? って何?」

 きょとんとしているリネットに、クラウディオは巨大動物の目撃談を説明した。

「俺らはその調査に来たんだ。お前は……知らないよな」

「もちろん。今さっきまでずっと寝てたからね。失恋怨念の吸い集めで、世界中のオンナたちの記憶のカケラも多少は流れ込んできてるけど、とりあえずそんな動物のことは知らないわ」

 となると、地道に山中を巡っていくしかない。

「しょうがないわね。行きましょう」

「おう」

「はーい」

 三人は、山中の調査を開始した。


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