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暴徒の波

「お前こそ何言ってんだ……?今朝のニュース見てないのか?」

「あー……今日寝坊したから時間が厳しくて見れてねーわ。詳しく頼む」

「寝坊癖は治ってないのかよ。道路はアレだ、ずーっとやってるデモのせい」


 その時、戦争反対のデモが国会議事堂前や都市中心部で行われている、としきりに報道されていたことを思い出した。

 後に続いた友人の話によると、そのデモ隊は現代日本においては類を見ないほどの過激さを持っていて警察との衝突を何度も起こしており、対処に困った警察が一部の道路を完全に封鎖した、ということらしかった。やられる前にやる、といったところだろうか。


 私が住んでいる地域にはまだそれらしき喧噪がなかった。それでも道路封鎖によって中枢の流通機能が麻痺し、徐々に食料品の買い付けが難しくなっていったこと、またそれよりも国家権力が道路を封鎖するというかなり強引な方法をとらざるをえないほどデモ隊に多くの人が参加していることが、理不尽なほどまでに現実を意識させてきた。

 普段は家でだらだらドラマでも見ているであろう近所の普通のおばさんが朝早くからデモに参加しに行っているという噂も聞いた。もう人々は『終末の倫理観』で動いていた。この辺りの時点から私は強烈な恐怖感に襲われた。


 どうしようもなく怖かったのだ。『終末の倫理観』が受け入れられてしまうような世界になってしまったことも、これから待っているであろう先の見えない非文化的な生活も。そしてそれだけに飽き足らず、この期に及んで多くの人と関わり合いを持つことが怖かった。


 もし難民のような生活を強いられることになったのだとしたら、見知らぬ人と積極的にコミュニケーションをとっていくことは絶対的に必要なことであるということは容易に想像がついた。が、私はそこで想像することをやめた。学校で碌に友人すら作れない私にそんなことができるはずがなかった。そのまま想像していたら不安と恐怖で押しつぶされていたかもしれない。でも私はいまだに学校に普段通りに登校できていることに縋り、現実から目を逸らしていた。退屈でも良いからいつも通りの日々が続けば良いのに、と本気で願っていた。




 それから僅かな日が経ち、普段通りに登校すると学校がもくもくと黒い煙をあげて燃えていた。自分の正気を疑ったのは初めてだった。

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