3 本
「ありがとうございます、ネトゥス様」
カケルは地面に着地するなり、ネトゥスに頭を下げていた。
別に死ぬわけじゃないし、これぐらいからかってもいいじゃん。
私たち神には一つのルールがある。「人間を殺してはならない」という掟。
人間を守る側の我々が決して彼らの命を奪ってはならないのだ。
「ほどほどにしとけよ」
「……は~い」
私は口を尖らせながら返事した。
私たちの中でもリーダー的な存在であるのがネトゥスだった。なぜなら、彼が一番強いから。
やっぱりどこの世界でも強い者が上に立つ。
私もそれなりに実力はあると思いたい……。実際、私には飛び抜けた才能はない。
月だからしょうがない、というマインドで生きている。
同じ神だけれど、他の皆と「仲間」ではないのかもしれない。なんたって、他の神々は飛び抜けた才能を各々持っているからだ。
月~~! もうちょい頑張ってくれッ!
自分で自分を応援する。
「お腹減った、月餅食べたいな~~」
私はお腹をさすりながら歩き始めた。
きっと、二人とも「何もしてないのに何故腹が減ってるんだ」とか思っているんだろうな。
背中からそんな二人の視線を感じていたが、気にせず私は月餅のことを考えた。月餅も私に想われて嬉しいはずだ。
「ルナ様って……天真爛漫ですよね」
「気を遣うな。あいつは自由奔放なガキだ」
後ろからカケルとネトゥスの会話が聞こえた。
おいおいネトゥス、私と同い年!
「ガキじゃないし!」
私は振り返ってネトゥスを睨んだ。透き通った青い瞳と目が合う。
確かに八歳にしては彼はあまりにも聡明な目をしていると思う。……って、それとこれとは別。
「聞かれてたか」
「聞かれてましたね」
聞かれたくないなら、もっと小さい声で話をして。
私はネトゥスの隣でギュッと私の本を抱きしめているカケルへと視線を移した。
彼が手にしている本は人間には読めない。……いや、人間だけでなく神々も読めない。つまり、私も読めないということだ。
私の目線が本へと向かっていることに気付いたネトゥスはカケルから本を取り、中身を見つめた。
ネトゥスは目を一瞬見開き、パラパラとページを捲った。どんどん眉間に皺が寄っていく。
「……白紙?」
そう、中身は全部白紙。
そんな馬鹿げた本があるわけないと思い、私は必死に何かしらの方法で文字を起そうと試みた。
水に濡らしたり、火にあぶったり……。色々試したが、結局文字は現れなかった。
唯一分かったのは、この本の紙は特別であるということだ。水浸しにしても、燃やしても、切り刻んでも、すぐに元通りになる。
「返して」
「どこで手に入れたんだ?」
ネトゥスの質問に私は「さあ」と首を傾げた。
カケルがネトゥスの隣から本を覗き込み目を丸くしていた。授業をサボってまで読んでいた本に文字一つないなんて拍子抜けする。
「……これは預かっておく」
「え、なんで!?」
私はネトゥスの言葉に声を上げた。