1 神々
「月を殺せ」
重圧感のあるその言葉は嫌というほど鮮明に私の耳に響いた。
◇
この世界は、神々が存在する。水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星、とそれぞれ神がいる。私は、少しはみ出し者として存在する月の神だ。
そして、絶対的な権力を持っているのが太陽である。私たちの親のような存在である。……ボス、という言い方の方が正しいのかもしれない。
地球には神がいない。
人間という面白い生き物がいる世界に私たちは興味を示した。そこで、太陽が私たち八人に地球の神になるという役割を与えた。
全員で地球を見守るというのだ。なんとも揉めそうな話である。
幼い頃から天上界で私たちは修行を積んできた。
◇
神々が八歳の頃。
太陽の姿を誰も見たことがない。いつも声だけがどこからともなく聞こえてくるのだ。
年老いてはいるけれど、透明感のある男性の声だ。私たちは、彼のことを「サン様」と呼んでいた。
太陽だけが立場が違う存在だった。それ以外の神々は同等であり、特に隔たりもなかった。
ただ、私だけが少し浮いていた。惑星の仲間ではないからだ。
水星の神の名はマリー。柔らかく少し癖のある水色の髪がいつも美しく靡いていた。クリッとした瞳は可愛らしく、背はそんなに高くない女の子。
金星の神の名はヴィンス。私たちの中で最も体が大きい。金色の短髪で少し恐い顔つきだが、根はやさしい男の子だ。
火星の髪の名はマーズ。賢いクールな女の子だ。ストレートの真っ赤なサラサラの髪は誰をも魅了した。
木星はジル。クルクルと巻かれた緑色の髪に童顔の男の子。彼の人懐っこさは誰からも愛されていた。
土星はサトゥル。肩にかかる茶髪を三つ編みで一つに括っており、眼鏡をかけている。何が起こってもいつも冷静な男の子だ。
天王星はウラヌ。淡い緑色の髪をハーフツインテールにしており、少し我儘な女の子だ。彼女が一番神々の中で裏表があると思う。
海王星はネトゥス。端整な顔立ちとは彼のことを言うのだろう。神々の中で最も色気がある。八歳に色気なんて必要ないと思うけど……。胸元ぐらいまである透明感のある青い髪をポニーテールで括っている。
そして私が月の神のルナである。髪はプラチナブロンド、瞳は黒色。神々の名で私の瞳が最も平凡なのだ。他の皆は髪の色と瞳の色が一緒なのに……。
私たち神は人間から見たら、この世の者とは思えないぐらい美しいと言われている。
人間の者たちと関わることがないから、彼らの顔と比較することは出来ないが、確かに私たちは美しいと自覚はしている。
八歳にして私たちは太陽に代わり下界を統治する準備を始めていた。