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好きな子が魔法少女だった。  作者: チョコゴーレム
7/10

七話 静けさと嵐

 あー、よく寝た。

 昨夜はすぐ寝たおかげで、自然と目覚まし時計が鳴る前に起きれるくらいにはよく眠れた。


 今日は金曜日だ。一週間の中で三番目に好きな日。

 今日行けば明日は休みだからテンションが上がるけど、ビーストやら変な事件がなければもっと良いのに。

 なんて考えていたら、昨日までのドタバタが何だったのかと思うくらいに何事も無く、平和に一日が終わった。

 一つ、ヒヤッとした事があった。

 朝、久しぶりのような気分で余裕を持って学校に登校すると、変な噂が流れていた。


「おはよう、智弘」

「おっはー。今日は早いじゃん」

「いや、前が遅すぎただけ。これが普通」

「そりゃそうだな。てか、なんか変な噂が流れてるぞ」

「噂?」

「そ。昨日櫻井さんが男に押し倒されてたってさ」

「は?」


 なんだそれ。

 首をグリンッと回転させて、櫻井さんの方を見る。

 目が合う。

 櫻井さんもその噂を聞いたのだろう。すぐさま顔を俯かせてしまって赤く染まった可愛い顔はちょっとしか見れなかった。

 昨日も思ったけど、反応が初心すぎる。可愛すぎる。


「あー、ふーん? やるじゃん暮人」

「は? いや僕じゃないって。そんなことしてないって」


 そう、本当にしてない。

 昨日のゴミ捨ての時の話だと思うけど、なんでそういう事になったんだ。どっちかっていうと逆のほうが近いんだけど、真実が捻じ曲げられすぎている。


「ちなみに、まだその男が誰かわかってないから、ファンクラブ(自称)のやつらが血眼になって探してるらしい」


 怖いわ。

 でもまあ、バレてないんなら放っておこう。

 そんな噂があっただけで害は特になかった。


 他に話題に上げることがあるとしたら二つ。

 一つ目。ここ数日、あまり携帯を触れなかったから気づかなかったけど、某SNSを見ていたら数は少ないけど黒騎士の画像が出回っていた。これにはびっくり。

 一昨日の蜘蛛ビーストの時の画像ばっかりだった。

 多分遠目から撮ったんだと思う。画像が粗くて知っている人にしかこれが黒騎士だとわからないだろう。

 なんなら僕が車の上を走っている写真もあった。ブレッブレで誰が写っているのかはわからなかったけど、制服のせいで学校はバレてそう。

 そんなもの撮ってないで早く逃げろよ。ビーストの餌食にするぞ。


 二つ目は、少しだけだけど今日も櫻井さんと話せたこと。

 偶然一緒に廊下に出た時に昨日のことや噂のことについて謝ったり、櫻井さんのことについて色々尋ねてみたりして、とても楽しかった。

 けど、ぴっぴは相変わらずうるさかった。

 なんだったら授業中にも纏わり付かれていて、超絶ウザかった。


「おいおまえっぴ! ぴいのことみえてるんだろっぴ!? こっちみてみろよっぴ! ぴああん!?」


 魔法少女のペットのくせに柄悪すぎだろ。

 どうなってんだ。


「おまえがわるいやつじゃないってことはわかったっぴけど、ちょうあやしいっぴ!

 みつきのちかくにいるあいだだけでもかんししてやるっぴからな!」


 ペチャクチャペチャクチャと煩い。何回睨み殺してやろうと思ったことか。

 ギリギリ耐えれた僕はえらい。


 放課後も変なことはなく、後ろを付けてくる人もいないし、変な事件に巻き込まれることもなく。まっすぐ家に帰り、ご飯を食べてお風呂に入って、少し夜更かししてから就寝。

 なんて平和な一日だったんだ。

 相変わらずずっとイライラは感じてたけど、爆発はしない。

 この調子で毎日が続いて欲しいところだ。





 これが嵐の前の静けさと言うんだろうか、次の日は大変な嵐に見舞われた。





 ベッドの誘惑を少し受けながら起床する。

 カーテンを開けて、力強い日光を浴びながら伸びをする。


「ふう」


 今日は天気もいいし、良い日になりそうだ。

 外出せずに家でゲームでもして過ごすつもりだけども。

 待ちに待った休日だ。ウキウキ気分で部屋を出る。


 一階のリビングに行くと、仕事が休みの父さんと母さんはすでに起きていて、妹もそんなに経たずに降りてきた。

 家族揃ってご飯を食べていると、妹が突然言い出した。


「お兄ちゃん、映画見に行こー」

「え、いや」


 絶対に行かない。今日は家でゆっくりするんだ。


「じゃあ、父さんと行こう!」

「嫌」


 しょげる父さん。もっと優しくしてあげて。

 父離れはできてるのに、なんで兄離れができないのか。


「お兄ちゃん行こー!」

「友達と行って来い」

「いいじゃない。行ってきなさい。どうせゲームくらいしかしないんでしょ」


 母さんまで。

 いや、たしかにゲームするつもりだったけど。

 でも、


「絶対に行かない」





「人いっぱいだねー」


 結局来てしまった。

 外に出たら面倒事に巻き込まれる気しかしなかったんだけど、見る映画というのが僕も見たかった映画で、しかも母さんがお小遣いもくれるという。

 これは行くしかなかった。


「休みなんだから多いに決まってるだろ」

「そうだけどさー」


 来たのはここらで一番大きい映画館で、この前ライオンビーストが暴れた百貨店の近くだ。その百貨店以外にもこの近くには遊ぶところがいっぱいある。

 今のところは何も巻き込まれていない。

 今からそこらへんを少しブラブラしたり、お昼ご飯を食べたりしてから映画を見る。

 妹に連れられてあちこち回る。ファンシーな小物を売っている店に寄ったり、服を見たり。

 昼食は有名なハンバーガーのチェーン店でとった。


「楽しみだねー!」


 映画チケットを買って、ポップコーンと飲み物も完全装備して席に座る。


「そうだな」


 色んな意味でドキドキする。今から見る映画に対する好奇心とか、何も起こらないよな? という不安とか。

 

「もうっ。どうしたの? そんなにソワソワして」

「いや、なんでもないよ」


 そう、何でもない。

 あと、櫻井さんの声が聞こえた気がしたけど、多分気のせい。休日にも会いたくて幻聴が聞こえたんだ。

 映画が始まる。集中しよう。





「面白かったね、お兄ちゃん!」

「うん。僕の心はまだ映画館に囚われているよ」

「あっはは。何いってんの」


 迫力のある豪快なアクションが見応えがあって、とても満足してる。なんだったらもう一度見たいくらいだ。


「さ、帰ろー!」


 ちらっと携帯を見ると、m1蕾さんから連絡が入っていた。


”今あいてる?”


 あいてるけど、これ三十分前のメッセージだ。

 まあいっか。一応返信しておこう。


”ごめん。映画見てて気づかなかった。今からでも良いなら空いてるよ”


 返事はすぐに来た。集合場所はすぐ近くだ。


「ごめん。人と会う用事ができたから先に帰ってて」

「えー? 一人で帰るの? 別にいいけど……」


 誰と会うか教えたら、絶対来たがってちょっと面倒くさいから教えない。





「多分、ここらへんだと思うけど……」


 見つけた。

 綺麗な外装のカフェだ。

 中に入ってみるとビビった。女の人ばっかりだった。

 見た感じ弥來さんはまだ来ていないようだ。


「……? ……!?」


 先に席に着いておこうと思ったら、櫻井さんがいた。二度見してしまった。

 瑞木さんと来ているようで、楽しそうに会話している。

 二人はまだ気づいていないみたい。

 他の女の子と待ち合わせとか知られたくないし。そんなことはないんだけど、悪いことしている気分に陥ってしまう。

 ゆっくりとできるだけ気配を消して椅子に座る。

 しかもその場所があんまりよろしくない。空いているのが櫻井さんの左後ろの席で、頑張ったら瑞木さんに見えそう。


「あ!」

「あ」


 終わった。

 そんなことを思いながら、チラチラと気を払っていたら瑞木さんとバッチリ目があってしまった。

 ヤバい。


「大上くんだー!」


 声量抑えて。めっちゃ見られてる。


「え? ほんとだ」


 こっちを振り返った櫻井さんと目が合う。可愛い。

 注目を集めたことに気がついたのか、二人して周囲の人にペコペコ頭を下げる。

 こっち来た。


「こんなところで会うなんて偶然だね! 今日は一人?」


 瑞木さんはすっごく天真爛漫で良い子だけど、元気で好奇心旺盛なせいかめっちゃグイグイ来る。


「いや、友達と待ち合わせしてるんだ」

「それって女の子?」

「そうだけど、そんなんじゃないから! ただの友達だから!」


 焦ってしまって、思わず櫻井さんの方を見て言ってしまう。


「あ、そ、そうなんだ」


 必死過ぎたせいか、ちょっと引かれてる。瑞木さんもちょっと引いてる。

 そうだよね。櫻井さんにとってはどうでもいい情報だ。


 それから数分ほど、瑞木さんが中心になって一緒にお話した。

 彼女は、ずっと前から友達だったかのようなテンションと距離感で話してくるから驚いたけど、それは誰に対してもそうで、そのため学校での人気も高い。色んな男子が瑞木さんのことを好きになっているらしい。

 おかげで櫻井さんのことを少しは知れたので感謝している。


「お待たせ!」


 とうとう弥來さんがお馴染みのデカデカサングラスと一緒に来ちゃった。どうしようか。


「って、あれ? その人達は?」

「こんにちは! 大上くんのクラスメートの瑞木向日葵と!」

「えっと、櫻井深月です」

「あ、はい。明里未來です。どうぞ宜しく?」

「よろしくね! 未来ちゃん!」


 瑞木さんの勢いに押された弥來さん。

 気を取り直して二人をじっと見る。


「それで? 暮人、どっちの子が彼女なの?」

「え?」

「え?」

「ェ゛?」


 櫻井さん、瑞木さん、僕の順。

 てか、初っ端で何言ってんの!?


「ん? 二人とも違うの?」

「違うよ! そもそも僕に彼女なんていないし」


 好きな人はいるけど……。


「なーんだ。てっきり彼女がいるのに、この前私を口説いてきたのかと思っちゃった」

「くっ……!?」

「どっ……!?」

「いやいやいや、口説いてないって! そんな事しないよ」


 なんということを言うんだ。櫻井さんの前で。

 心臓が縮む。


「まあ、冗談なんだけど」


 ほ、本当にやめてくれ。


「でも、好きとか大事な人だ、とか言ったのは本当だけどね」

「そ、そういう意味で言ったんじゃ……!」


 なんで怒ってるの?

 レジットが体の中に入ってから、他人が怒っているかどうかが分かるようになったけど、なんで怒っているのかわからない。


「からかうのはこれくらいにして……」


 終わった、と思ったけどまだ若干怒ってる。


「なんで私と会うのに他の子がいるの?」


 口元はニコッとしているけど、威圧感のあるサングラス越しにうっすら見える目は笑っていない。怖い。


「えっと、たまたま、偶然、ここで合って……」


 いや、なんか僕が悪いみたいになってる。誰も悪くないでしょ?


「ふふふ。からかうのはこれで本当におしまい」


 いや怖すぎ。寿命が縮んだよ。


「それで結局なんの用なの?」

「ただの暇つぶし」


 曰く、さっきまで仕事があったらしくて、終わったから帰ろうと思ったけど家に帰っても暇だから僕を呼び出したらしい。

 いや、良いんだけどね。

 その後は飲み物も注文して、四人で和気藹々とおしゃべりに興じた。

 女の子三人に囲まれて、天国かと思った。櫻井さんがいる時点で天国なのは変わりないけど。

 でも女の子が三人もいたら僕は大概蚊帳の外になってしまった。なので、僕は気づいたら櫻井さんを見てた。三人とも話に夢中で僕の反応には気づいた様子がなかった。

 今更思ったけど、いつもぴっぴうるさいアイツがいない。少し疑問に思ったけど、すぐに忘れた。

 一時間くらい話し込んでいたのだろうか、時計の針は四時前を指している。


『ぴいいいいい!』


 いきなり出てきて、僕は飲んでいたカフェオレで盛大にむせた。


「ゲホッ、ゴホッゴホッ」

「ちょっと、大丈夫?」


 そして、すぐに嫌な気配が出現したのを感じた。

 ギョッとして口からカフェオレを垂らしたまま窓の外を見る。


『みつき! びーすとがあらわれたっぴ! でもなにかへんだっぴ』


 たしかに変だ。いつもより気配が薄いし、なにより数が多い。いつもは一人しか出てこないのに、複数の気配を感じる。でも、ちょっと距離があるせいか固まっているせいなのかわからないけど、イマイチ数がわからない。


「えっ?」

「どうしたの? みっちゃん」

「えーっと、ゴメンネ! ちょっと用事できちゃったから先に帰るね」


 流石にその言い訳は厳しいと思うよ。


”ガシャン!”

”キキーッ!”

”ドカンッ!”


 すぐに異変が伝わるから。


「わっ、何今の音? 事故?」


 瑞木さんが不安そうに言ったあと、すぐに悲鳴が聞こえてきた。


「きゃああああ」


 最悪。せめて明日まで待っててくれよ。


「ああ、嫌な予感」


 弥來さん。嫌だけどそれ、合ってる。


「ビーストだ。ビーストがでたぞおおお」


 外からそんな声が聞こえて、店内がざわざわしだした。


「とりあえずここを出よう」


 他の客より一足先に会計をしてお店を出る。

 なんか既視感があるな。


『なにかにおうっぴねぇ。 おまえのにおいがこくなっているっぴ! やりやがったっぴか!?』


 やってねえわ。ブチ殺すぞタコが。


「騒ぎの中心はあっちの方みたいだ」

「それじゃあ、コッチに逃げたら良いかな?」

「暮人は今日も人助けに行くの?」


 ビーストの数もわからないから皆を放ってはおけないけど、被害が大きくなる前に早く片付けたいし、どうしようか。


「なんか、皆慣れてる?」


 瑞木さんが聞いてくる。


「まあ……」


 弥來さんと目が合う。


「二回もビーストに遭遇すると流石にね」

「二回も!?」


 こんなことを話している場合じゃないんだ。

 どっかのタイミングで一人になりたいけど、いいや。取り敢えず避難が先。

 なんてまごまごしていたら、逃げている人が増えてきた。

 僕たちもそれに習って走る。

 ポケットの中に入れていた携帯が振動したから走りながら確認してみると、妹から着信があった。


「もしもし?」

『お兄ちゃん!?』


 なんだ、どうしたんだ。


『バスの中に閉じ込められちゃったよ!』


 は? 帰ったんじゃなかったのか?


「どこの?」

『ターミナルんところ!』


 すぐそこじゃん。

 やばいじゃん。


「わかった! すぐ行く!」

「大上くん! どうしたの!?」

「妹が騒ぎの近くにいるらしいから、探してくる」

「え……」

「後で合流する! 先行ってて!」

「あ、ちょっと……!?」


 瞬時に向きを変え、逆方向に走り出す。

 この前の時より道が広いから、車に飛び移らなくても人の隙間を縫って行ける。

 中心地に近づいていくと、ビーストを見つけた。

 そいつは全身タイツみたいな見た目で、頭のてっぺんから足の先まで真っ黒で、唯一半開きになって涎が垂れている口だけがあった。

 目を背けたくなるキモさのそいつは、押し倒した女性の足を必死に愛でていた。多分。

 舐めたり頬ずりしたりしていたので、そんなふうに見える。


 そっちに近づいていくが、ビースト(?)は気づいていないのか一心不乱に足を味わっている。

 本当に近くまで来ると、ちょっと確認するように頭を持ち上げたので、その頭を真上に蹴り上げる。宙に浮いた胴体に回し蹴りを叩き込んで、俺の進行方向に蹴り飛ばす。

 女性はポカンとしていたが、妹が危ないので放っておく。

 ビーストに逃げられてまた被害が出たら困るので、サッカーボールのように蹴って運ぶ。


 駅前は悲惨な状態で、人の声があちこちから聞こえるがどこにも見当たらない。ビーストも見当たらない。来るのが遅かったみたい。


 そこに着いたときには運んでいた変態ビーストはボロボロで、動く気力もないようだった。

 死にそうなくらいに気配は薄まっているけど、ここまで蹴られ続けたにしてはある程度頑丈そうな感じで、腕が変な方向に曲がったりはしていない。

 今までで一番弱いのは確実だけど。

 このままにしても大丈夫そうなくらいだけど、念のため車の下敷きにして逃げられないようにしておく。


「aaaaashiiiii……」


 なんか言っていたが、気にせずターミナルの方に向かうとビーストが二体いた。

 見た目はさっきのヤツとほとんど同じ、違うのは体型だけで、片方が肥満、片方がヒョロガリだった。

 ビーストが現れたことでパニックになったのだろう。デブが襲っているバスは出入り口のあるところが壁に面してしまっていて、ヒョロガリのいるバスはフロント部分から壁に突っ込み運転手が気絶している様子。

 妹がいるのは……今さっき扉を破壊したヒョロガリのいる方だな。

 ぶっ飛ばしてやる。


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