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好きな子が魔法少女だった。  作者: チョコゴーレム
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五話 やっぱり無理

 m1蕾さんと別れてビーストの気配がする方へ向かったのは良いけれど、車が渋滞した道路と狭い歩道にはビーストから逃げている人ですぐにいっぱいになり、前に進めなくなった。


「すみません! ちょっと通してください!」


 ダメだ。

 みんな逃げるので精一杯で聞く耳を持ってくれない。仕方がない。

 道路に飛び出し、ちょうど目の前にあったトラックの上によじ登る。

 高さがあるから周囲がよく見える。周りからも良く見えるのは嫌だけど。

 ……いた! この先の十字路にビーストがいる。でも、なんだか今までのやつとは違う気がする。

 気になるけど居場所はわかった。

 車の上を跳んで走って向かう。

 ちょっと凹んじゃう。ごめんなさい!

 人がいなくなったら地面に降りてダッシュ。逃げ遅れた人はいなさそう。


「なんだこれ?」


 十字路に着くと、不思議なことに色んな物が宙に浮いていた。

 鞄やお金、服やら装飾品、果てには車も浮いている。

 目を凝らして見てみると、極細の糸がクモの巣状に広がっているのが見えた。


「蜘蛛か……?」


 虫のビーストなんて聞いた事が無い。もうビーストじゃないじゃん。てか、蜘蛛って虫じゃなかった気がするけどもうわからないなこれ。


「んー! んー!」


 人の声だ。

 どこからしているのかと、キョロキョロと見回すがそれらしいものはない。

 ふと思って上を見てみると、人間くらいの大きさの繭のようなものが建物の三階くらいの高さでグネグネと動いている。


「んーーー!!」


 ちょっと気持ち悪いけど、多分あれだな。

 顔バレは嫌だし、ビーストがどこにいるかわからないし、変身しておくか。

 二回しか変身してないけど、大体やり方は分かった。

 取り敢えずメチャクチャ怒れば良い。


「フンッ」


 最近はイライラしっぱなしだからお安い御用だ。

 さっさと助けるか。

 思いっきりジャンプする。アスファルトが砕けた気がするが気にしない。

 もうすぐ届くというところで、腹になにかが巻き付いた。

 そのまま横にひっぱ、ひっぱら……、引っ張られないな。

 人繭は後回しにすることにして、重力に逆らわずに着地する。

 さっき跳んだ場所より足一つ分左にずれていた。

 すぐさま左に伸びている細い糸を掴み、一気に引っ張る。


「SQUEAK!?」


 どこに隠れていたのか、糸を引っ張って出てきたのは案の定、蜘蛛型のビースト(?)だ。

 ただ、見た目が、


「キモ」


 キモい。

 頭は蜘蛛だが、その目はまんま人間の目玉なのだ。数は四つ。不揃いのものが不規則に並び、ギョロギョロと忙しなく動いている。漆黒の体は病的なほどに痩せ細り、所々が虫のような甲殻で覆われている。また、蜘蛛らしく四本の副腕もある。背中から生えていて、先端は蜘蛛の足をそのまま五本指にしたような見た目をしている。それらがまるで別々の蜘蛛のように全身をカサカサと這いずり回っている。

 すこぶる気色悪い。


「SQUEEEEAAAAK!!!!」


 悪口を言われたのがわかったのか、顎をキシキシと鳴らしながら荒ぶっている。

 こっちが何もしないことに痺れを切らしたのか、バカ正直に両手を伸ばして突っ込んでくる。

 そのまま腹に一発入れてやろうと右手を動かすと、少しの抵抗感があった。

 どうやら、両手から糸を出して俺の体を縛ったつもりのようだった。

 気にせず右手を振り抜く。糸は容易に千切れた。


”プチプチッ”


 妙な感触と共に、ビーストが出てきた時の逆再生のように吹き飛ぶ。

 ベチャッとした右手を見ると、虫の体液のようなものがこびり付いている。


「うぇ」


 よく見ると小さい蜘蛛の足やら頭やらもある。

 要は、あの体の黒さは無数の小さな蜘蛛が這いずり回っていたということになる。


「キモすぎ」


 キモすぎてムカつく。

 ……。

 反応がない。

 というか、気配も感じない。

 ここに着いたときも気配を感じなかったし、まあいっか。

 大して強くもないし、今は頭上の繭の中にいる人を助けよう。

 ジャンプして繭を取る。


「ん!? んーー! んーー!!」


 メチャクチャ暴れだした。

 声の高さ的に女の子っぽいな。


「あーもうっ。動くな! 怪我するぞ」


 そう言うと、動きが落ち着いた。

 繭を無造作に掴んで両手で破くと、中から糸まみれの顔が出てきた。

 目と口のところに糸がまとわりついていて、見えないし喋れないようだ。

 それは放っておいて、先ずは全身を取り出す。

 やっぱり女の子のようで、俺と同じ高校の制服を着ている。

 あと糸が液状化しているのか、なんかヌメヌメしてる。

 次に口を塞いでいる糸を剥がしてやる。


「ゲホッ、ゲホッ。あ、ありがとうござい……」


 最後に目を覆っている糸を剥がす。

 蜘蛛の糸が絡まった髪は栗色のショートヘアで、可愛げのある小さな顔には粘性のある白い液体でベトベトしている。


「……っ!?」


 助けてくれたのが全身鎧の変なやつで驚いたのかと思ったが、どうやら違ったらしい。

 俺に怯えているみたいだ。


「きったな」

「……ぅ……ぁ」


 アンモニア臭が鋭敏になった俺の鼻を襲う。

 助けてやった恩人になんて仕打ちだ。

 このまま放っておいてとっととビーストをブチのめしたいが、このまま放置は流石に可哀想。

 そこら辺に引っかかってる服を取って適当に投げてやる。


「ヒッ!……ぇ?」

「早くどっか行け」

「ヒエッ」


 めっちゃビビりながらコクコクと何回もうなずいた。

 もう良いだろう。

 ビーストのクソはどこに行ったのか。

 こんなに隙を見せても出てこなかったわけだし、どっか別のところに移動したのだろう。

 気配も感じないしどうしたものかと思っていると、視界の端にピンク色の光が映った。

 どうやら魔法少女が到着したらしい。

 じゃあ、あとは任せても良い気がするが、腹の虫がおさまらないし、もしも櫻井さんに何かあったら辺り一帯を破壊しそうだからそっちに向かう。


「ぁ……、あのあの、ありがとうございました!」

「フンッ」


 ビーストを叩きのめしに行こうと体を向けると、背中越しに感謝された。

 女の子は言い終わると投げてやった服を握りしめて走り去っていった。


 助走をつけて両足で踏み込み、思いきり高くジャンプする。魔法少女のところまでひとっ飛びだ。道路には小さなクレーターができたけど、ビーストのせいということで。

 高所からだと状況が確認しやすくて良い。

 

 魔法少女とビーストは闘技場のように車で囲まれた道路の上で対峙している。

 魔法少女の右手と髪の毛は糸に引っ付いてしまったのか、不自然に宙に浮いている。

 片やビースト、子供を人質にとっている。

 見た感じ魔法少女が劣勢のようだ。


「その子を放してください!」


 魔法少女が左手で持った杖を落として言う。

 

「SQUE、SQUE、SQUEAK!」


 ビーストは笑ったように顎を鳴らし、子供を糸でぐるぐる巻きにして宙吊りにする。


「んんーー!」


 ナイスタイミングだ。

 ビーストは両手を前に突き出し、魔法少女の方へ近づいてくる。副腕も体から離れ、ワシャワシャ動いている。

 そうそう、その辺だ。


「死ね!」


 響いた声に驚いたのか、一番ちょうどいい場所で歩みを止めるビースト。

 四つの目玉を動かして俺を見つける。

 でももう遅い。


「SQue?」


 二十メートルくらいの落下速度を載せた両膝蹴りがビーストの顔面に炸裂する。

 ほぼ垂直に落ちてきたためビーストは吹き飛ばず、俺の膝と道路に頭をサンドイッチされる形になった。

 ピクリとも動かないビーストの体から降りて確認してみると、頭は完全に陥没しており中身まで出ている始末。

 もしかして殺してしまったのか? と思うと同時に、数は減ったがそれでも多い小さくて黒い蜘蛛がビーストのグチャグチャになった頭にカサカサカサッと集まった。キモい。

 なんか死ななさそうだな。

 それから特に何もなさそうだったので、櫻井さんを糸から剥がしてやることにした。

「あ、あの……、その人大丈夫なんですか? すごい音でしたけど……」


 さあ? とばかりに首を傾げておく。

 弱くてもビーストだし、なんとかなるだろう。


「え、えぇ……」


 糸から無理やり引き剥がすと痛そうだったので、糸を切るだけにした。


「ありがとうございます……。また、助けられてしまいましたね……」


 そう言って何かを誤魔化すように微笑む。

 気にはなったが、こんな至近距離で話すのは初めてだ。しばし見惚れる。

 いかんいかん。鎧も少し崩れてきた。


「あ、危ない!」


 櫻井さんの警告とともに後ろに振り向くと、頭部が元に戻ったビーストが飛びかかってきていた。

 気にせず首根っこを片手で引っ掴み、魔法少女に向ける。

 副腕が魔法少女に攻撃しようとするが、ギリギリ届かない。


「早く」

「は、はい!」


 自分が今から何をされるのかわかったのか、ビーストが子供の駄々のように激しく体を動かす。


「SQWEAK!? SQUEAK!!」

「……ポリフィケーティオ・アモーリス」


 杖から出た淡い光がビーストを包み込む。ついでに俺も。

 光が消える頃には暴れていたビーストも力が抜け、気を失った小綺麗なおじさんに戻っていた。

 やはり俺には何の作用もなかった。


「じゃあな」

「!? はい! ありがとうございました!」


 なんだか今日はよく感謝されるな。

 別に悪く無い気分だ。ビーストを殺すことと人に危害を加える懸念はあるけど。

 それで家に帰っている途中で気づいた。また鞄忘れた。


「どこやったっけ?」


 さっきの喫茶店あたりまでUターンして、学生鞄を見つけた頃にはすっかり変身も解けていた。m1蕾さんにもらったCDも無事だった。良かった。

 仕方がないので今日は徒歩で帰ることにした。

 着いたのは七時頃。


「ただいま」

「おかえりーって、お兄ちゃん遅すぎ。帰宅部なのに何してたの」

「いや、まあ、ちょっと人とお茶してた」


 そう。お茶してた。嘘ではない。


「お茶ー? お兄ちゃんが?」

「それぐらい僕もするよ」


 初めてしたけど。


「変なの」


 なにがだ。


「変なのは夏休みからだけど、ここ数日は特に変。

 帰ってくるの遅いし帰ってきてもすぐ部屋行っちゃうし、何隠してるの」

「えーっと……」


 鋭い目付きで睨まれる。いや、目付きはいつもちょっと悪いけど、今はより鋭い。逃してくれなさそうだ。


「実は……」


 お兄ちゃん、巷で噂のビーストみたいなやつになっちゃった! なんて、言いたくても言えない。


「実は?」

「m1蕾さんと知り合っちゃった」

「……は? 何いってんの。嘘つくにしてももっとマシなのがあるでしょ。お兄ちゃん」


 やっぱり信じない。

 妹もm1蕾さんの大ファンだからマジギレしてる。けど事実だ。

 この話題で誤魔化してやる。


「ほら、これ証拠」


 今日もらったサイン入りのCDを鞄から取り出して見せる。


「え? うそでしょ……、本物だ!」

「凄いだろ?」

「すごいすごい!! どうやって手に入れたの!?」


 斯く斯く然々。詳細はボカしたり嘘をついたりして教えてやる。

 少し詰めの甘いところがある妹はこれで話を信じた。


「あとで一緒に聴くか?」

「うん! 聴く聴く!」


 よしよし。これでもう大丈夫だろう。

 ご飯を食べてお風呂も終わって、部屋で二人で歌を聴く。

 たまに二人で歌ったりして、飽きずに何回も何回も聴いた。

 楽しすぎてすっかり忘れていた。明日もまだ学校があるということに。今日はまだ水曜日だということに。

 もう完全に明日が休みの気分で、随分と夜更かししてしまった。

 二人して寝落ちして、起きた時はちょうど家を出る時間だった。

 またこの時間だよ。

 妹を叩き起こして急いで登校する。両親は今日、朝早くから出勤していない。

 僕は一昨日のようにギリギリ間に合った。

 妹は普通に遅刻したようだ。


 ここで問題が一つ。

 寝不足の状態はいつも以上に怒りやすくなる。

 どうか何もありませんように。

 と言うか、今日は日直だった。しかも櫻井さんと。

 本当にどうしよう。


 今回も読んで下さり、ありがとうございます。

 m1蕾さんとかそもそも主人公と関わらせるつもり無かったんですけど、なんか出てきちゃいましたね。ヒロインの座が奪われそう。

 流石に次は櫻井さん出てきますが、そもそも普通の共学の学校がどんな感じなのかわからないんで非常に困っております。時間割とかお昼ごはんとか諸々。

 それでは、また次回もよろしくお願いします。

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