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好きな子が魔法少女だった。  作者: チョコゴーレム
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四話 再会

「ぶっ殺してやる」


 ジャンプすると同時に黒鎧を装着して、ライオンビーストの顔面を思いっきり殴り飛ばす。

 少しは耐えるかと思ったが、後方へ吹っ飛びそのまま壁にめり込んだ。


 急にキレてどうしたんだ? と思われるかもしれないが、そもそもエレベーターに乗っていた時からキレていたし、それに何よりさっき子供を庇った時に飛んできた破片がCDに当たって壊れた。

 ズタボロになった袋からは砕けたCDが顔を見せている。

 絶対に殺す!


「フーッ」


 ゆっくりとビーストに近づいていく。

 あと2mくらいのところでビーストが体を起こし、素早く距離を詰めてきて俺の顔に鋭い爪の一撃を食らわす。でもなんともない。逆にビーストの爪が折れている。


「ROAR!!」


 自分の爪を見て驚いたが、すぐさま咆哮を上げてその剛腕で握りつぶそうとしてきた。

 俺はその両手を掴み返し、怒りの限り力を込める。


「YELP! YELP!」


 痛みのあまり暴れるが気にせず握りつづけると、そのうち息も絶え絶えになり、膝をついてか細い声で鳴くだけになった。握っている感じでは手の骨は粉々に砕けている。

 その状態のまま無防備な腹に前蹴りを二発打ち込む。それから手を離して回し蹴りを一発。トラックが激突したかのような勢いで通路の方まで飛んでいった。


 ……。

 逃げているのか? 

 蹴った勢いのまま止まらずに、気配がドンドン遠くなっていく。


「逃がすか」


 急いで追いかける。

 相手は手負いだし、そもそもスピードも俺の方が速い。すぐに追いついた。

 走った勢いを載せて、ビーストの背中に思いっきりドロップキックをかます。

 ビーストは上半身から地面に突っ込んで、数メートルほど海老反りになって地面の上を滑った。

 フラつきながらゆっくりと立ち上がったビーストは先程よりも威圧感がなくなり、体も小さくなっているように見えた。


 逃げられないように瞬時に近づき、頭をつかんで地面に叩きつける。

 反撃してきたが、痛くも痒くもない。

 足を掴み、その巨体を振り回して地面に叩きつける。何回も何回も。


 息も絶え絶えになったビーストはこっちを見てくるが、動く力もないようで横たわったまま何もしない。

 そろそろ止めを刺してやろう。

 そう思って拳を振り上げた時、


「はあ、はあ、やっと着いた……

 そこまでです!」


 櫻井さんだ。

 事前に変身したんだろう。魔法少女の装いだ。

 ビーストのことなんて忘れて、呆然と見つめる。


「あ、あなたは昨日の……」


 今さっき何をしようとしていた? 昨日のことがあったのにすっかり忘れていた。楽しみにしていたCDが壊されたからといって腹いせに殺そうとした。

昨日とは違って我を忘れずに明確な意思を持っていたし、意識もはっきりしていた。

 自分の意志で殺そうとしたんだ。


「あの、昨日はごめんなさい! 私を助けようとしてくれたんですよね?

 えっと、あなたのやり方は正直やり過ぎだと思います。でも……」

「なにしてるっぴ! こいつはいびっとのひとりだっぴ! きのうみのがしてくれたのはぐうぜんだっぴ!」


 やっぱりコイツ、ぴっぴぴっぴうるさいな。ちょっと睨みつけてやろう。


「ぴい!?」


 櫻井さんの後ろに隠れやがった。


「いまのみたっぴか!? こんなにこわいのはてきだからっぴ!!」

「で、でも……。

 あなたも皆を守りたいって思うなら、一緒に……」


 ビーストを櫻井さんの目の前に放り投げる。


「……っ、そう……ですか。残念です」


 魔法少女の杖に淡い色の光が少しずつ集まっていく。


 ん? ビーストの体がちょっと動いたような……。

 そう思って駆け出したときと、ビーストが櫻井さんに襲いかかったのは同時だった。

 落ち着いていた怒りが再燃し、瞬時にトップスピードまで加速する。

 ビーストの折れた爪が櫻井さんに届く寸前に、2mくらいまでに縮んだビーストの体を羽交い絞めすることに成功する。

 でも櫻井さんがいると怒りが霧散してしまって長く続かなくなる。力も出にくくなるから、抑えるので手一杯だ。

 櫻井さんをじっと見つめる。


「やれ」


 驚いたのか櫻井さんは目を見張る。

 この力を得てから一月くらいしか経ってないけど、もううんざりだ。碌なことがない。

 確かに役に立つ時も合ったけど、その時もそもそもこの力がなかったら起きなかったことだ。


 櫻井さんが力強く頷く。


 あ、でも、一つだけ。昨日は違った。

 人を殺しそうになったのは良くないけど、櫻井さんを救えたことだけは良かった。


「ポリフィケーティオ・アモーリス!」


 杖から放出された薄いピンク色の光がビースト諸共俺の全身を包み込む。

 ビーストから力が抜け、体も一回り小さくなり、人に戻った。

 数秒経つと光は消えた。


「あれっ?」


 どうしたんだろう。不可解そうな顔でこっちを見てくる。


「やっぱりだっぴ! ちからのさがありすぎてじょうかできてないっぴ!」


 なに? 手元のビーストは若い男に戻っている。

 ということは……、俺か!


 体に視線を落とすと、案の定黒い鎧を纏ったままだ。多少崩れてきているけど、心のざわめきはそのままだ。

 無理だったのだ。魔法少女でも俺を治すことはできなかった。

 目の前が真っ暗になるような感覚になる。

 俺は一生コレと向き合っていかないといけないのか……。


 「あの、黒騎士さんっ?」


 失意の底に落ちた俺はゆっくりとその場を離れた。





 気づくと俺は黒鎧を纏ったまま、街から離れた人気のない廃工場に来ていた。


「何なんだよこれ……。いい加減にしてくれよ! ふざけんなよ!」


 積もりに積もった苛立ちを手当たり次第にぶつけまくる。


「俺が何したっていうんだよ!! クソがよ……、なんでこんな……」


 しばらく当たり散らすと地面はひび割れ隆起し、木々はなぎ倒され、建物は倒壊していた。

 それでも尚、湧き出る怒りに俺はどうすればいいかわからず、そのまま周囲を壊しまくった。


 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」






「あー」


 朝だ。いつの間にか眠っていたみたい。正面には見覚えのある、というか僕の部屋の天井がある。

 昨日、あの後どうしたのか覚えていないけど、なんとか家に帰ってきてたみたいだ。

 チラッと時計を確認する。


「げっ」


 見なければよかった。今家を出ないと遅刻する時間だった。

 行きたくない。行ったらまた昨日や一昨日みたいに怒りに振り回されるのがわかっている。行きたくない。






 結局来てしまった。

 あの変な力は使いたくなかったから電車とバスを乗り継いで来た。

 この時間は空いてたから良かったけど、完全に遅刻だ。上等。

 今日からは何が何でもあの力は使わない。

 でも……、いや弱気はダメだ。なんとかなる。


 で、今日は二学期に入ってから初めての体育がある。今月いっぱいは水泳の授業になるらしい。

 男女別々でやるけど使うプールは同じだ。因みにこの学校には水泳部があるから、プールは屋内にある。

 ……。

 見学しようと思ったけど無理でした。

 

 開始早々視線は櫻井さんに釘付け。櫻井さんはスタイルもいい。綺麗だ。あと可愛い。

 ずっと見ていたいけど、それが許されないのが授業。イライラする。でも力を使いたくないから真剣に力を入れずに泳ぐ。


「大上!」


 うるさっ。

 この熱血先生は声がでかすぎる。イライラする。

 

「夏休み中に練習でもしたのか? 前より早くなっているぞ!」


 嘘だろ。だから見学したかったんだ。


「先生は嬉しいぞ!」


 ついでに背中をバシバシ叩かれる。

 前は痛かったけど、今はなんともない。嘘、ちょっとムカつく。


 逃避気味に泳いでいる櫻井さんを横目に見る。

 去年はとてつもない運動音痴だって噂があったけど、そんな風にはとても見えないくらい上手く速く泳いでいる。


「みっちゃんっ、本当に運動できるようになったよね!」

「え? そ、そうかなー?」

「そうだよ! わたしは去年までの運動音痴でワタワタしてたみっちゃんが恋しいよ~」

「もうっ、やめてよー」


 可愛い。じゃなくて、幼馴染みの瑞木向日葵さんが言ってるんだ。本当に運動音痴だったらしい。

 櫻井さんが運動できるようになったのは今年からみたいだし、魔法少女が目撃されるようになった時期と重なる。僕と似たような感じで、魔法少女になった影響だろうか。


 で、締めの数学。

 できれば体育を最後にして欲しい。ご覧の通りクラスの半分以上は眠そうだ。船を漕いでいる人もいる。斯く言う僕も眠たい。

 最近気付いたんだけど、教科書を睨みつけているだけで内容がスラスラと頭の中に入ってくるから、授業に集中してない時に当てられてもすぐに答えがわかる。何なら寝ててもできそう。でも注目集めそうだからやらないし、力に頼ってることになるからちゃんと起きて授業受けるけど。

 世の学生が知ったら羨ましがられそうだけど、欲しいなら喜んであげるんだけどな。





 HRも終わり、今日は掃除当番じゃないし、とっとと家に帰る。帰ろうと思って下駄箱まで行くと、なにやら生徒たちがざわついていた。


「なあなあ、なんか校門前に女の人が立ってるらしいぜ。しかもすっげー美人らしい」

「まじで? ちょ、おまえ話しかけてこいよー!」


 なるほど。知らん人がいるのか。ま、僕には関係ないでしょ。

 気にせずに一人でスタスタ歩き、校門をくぐった時にチラっと噂の人を探す。

 いた。

 デカデカサングラス越しに目が合った気がした。


「あ」

「あ」

「……いた!」


 てか昨日会ったm1蕾さんだった。同じようにマスクもつけていて、顔なんかほとんど隠れている。

 噂に尾ひれがつくのは普通だけど、いくらなんでも早すぎ。でも実際、素顔は整ってるし、オーラもある。というかそのオーラが変装で隠れてないから仕方ない……のか?


「良かったぁ。生きてたんですね! それであのー、今からお時間ありますか?」


 もう面倒事はごめんなんだ。僕は今日なにがなんでも直帰するぞ。






「うん。美味しいですね。ここのコーヒー」

「……」


 結局、喫茶店まで付いて来てしまった。

 流石にm1蕾さんの頼みは断れなかった。


「……それで何の用でしょうか?」

「用って、そんなの決まってます。昨日の事ですよ!」


 それはそうか。いらない質問だった。


「というか、なんで学校がわかったんですか?」

「制服でっ」


 確かに着てたな。そりゃ分かるか。


「あなたに聞きたいことは色々ありますが、一先ず、昨日は助けていただきありがとうございました!」


 そう言って勢いよく頭を下ろすm1蕾さん。机に頭がぶつかりそうだ。


「いたいっ!?」


 いや、ちゃんとおでこをぶつけたみたいだ。痛そう。

 m1蕾さんって、こんな人だったのか。昨日とは全然違うな。


「あー、痛かったー。

 はっ、…………」


自分の醜態に気づいて恥ずかしがっている。かわいい。


「コホンッ。それで! ですね。なぜ私が誰かわかったんですか?」

「えーっと、何のことですか?」 

 

 あなたm1蕾さんですよね? なんて尋ねた覚えはないぞ。

 よく分からないけど、しらばっくれておこう。


「昨日落ち着いてから気づいたんですけど、私の名前を呼びましたよね?」

「……?」

「女の子と一緒に逃してくれたときです!」


 いや、本当にわからない。

 あの時はそんなことを考えている余裕がなかったから、もしかしたら言ったかもしれない。でも覚えてない。

 m1蕾さんは鼻息荒く僕に睨みつけてくる。言うまで帰さないぞ! ふんす! といった感じだ。

 てか声デカ。


「あーまあ、言ったかも知れませんね」

「いいえ、言いました!」


 めんどくさっ。

 声デカ。


「それで、なんでわかったんですか!」


 体とか筋肉の動きで、とか言ったら意味わからんし気持ち悪いし、どうしようか。

 てか声がデカい。

 ……あ、声ということにしよう。間違ってないし。


「声で」

「え、声? うそ……。

 私、外出る時は声変えてるんです。昨日もそうでした」


 めっちゃ疑わしそうにじっと見てくる。


「い、いや、まあ、わかりますよ?

 m1蕾さんのこと好きなんで」


 なんか普段言わないことを口走った気がする。


「わ、私いつも外出するときはこの声なんですけど、一度もバレたことないんですよ……?」


 うっそだー。


「……」

「……」


 めっちゃ見てくる。

 目をそらす。

 気まずい。


「あ! それで、あのこれ」


 鞄から何かを取り出すm1蕾さん。

 テーブルの上に置いたのは、昨日僕が楽しみにしていたm1蕾さんのCDアルバムだった。しかもサインが書いてある。

 ……!?


「実は昨日、あそこのCDショップで私のアルバムを買ってくれているのを見ていたんです」


 そんな時からいたんだ。全然気づかなかった。


「でも、ビーストのせいであなたのCDが壊れていたのを見たので……。

 こんな物では命を救って頂いたことには釣り合いませんが、せめてもの感謝の気持ちです。どうか受け取ってください!」

「え、こちらこそありがとうございます! 十分です。めっちゃ嬉しいです!」


 やったね!


「他にも私にできることがあったら何でも言ってくださいね!」

「いやいや、そこまでしなくてもこれで十分ですよ」

「いやいや」

「いやいやいや」

「いやいやいやいや」


 めんどくさいなこの人。

 歌ってる時は綺麗でかっこいいのに、何このギャップ。

 これが残念美少女ということか?


「あ! 今更なんですけど、お名前なんて言うんですか?」


 本当に今更だ。


「改めまして、私はm1蕾こと明里弥來(あかりみらい)と申します」

「僕は大上暮人といいます」

「暮人さん……。ちなみに何年生なんですか?」

「二年です」

「同級生! じゃあじゃあ敬語やめましょうよ!」


 とかいいながら本人が使ってるし。


「いやいや」

「いやいや」

「いやいやいや」

「いやいやいやいや」


 結局押し切られてタメ口になった。

 ついでに連絡先も交換させられた。

 どうしてだよ。


 m1蕾さんはこの後仕事があるとかで、帰ろうということになった。


「ここは私が払うので!」

「いや、流石にそこまでしてもらうわけには。

 自分の分は払うよ」

「ダメっ」

「いや……」


 ……ん? 

 昨日感じたのと似た、嫌な予感がした。

 もうやめてくれよ。三日連続ってなんだよ。


「もらった、今だ!」

「あ」


 ビーストの出現に気を取られていたら、いつの間にかお会計が済んでいた。


「フフンッ」

「はあ」


 しかたないな。

 面倒に巻き込まれないように早く帰ろう。

 そう思って喫茶店を出ると、待っていたとばかりに悲鳴が響き、爆発音も聞こえてきた。


「え、なに?」

「なんか、昨日と似てる気がするけど」

「うそでしょ? 二日連続だなんて!」


 僕は三日連続だけど。


「取り敢えず早くここから離れようか」

「うん。そうだね」


 本当に嫌なんだけどな。


「どうしたの? 早く逃げよう」


 そうしたいんだけど、足が動かない。

 こうしている間にも叫び声や泣き声なんかが増えていて、それが全部頭の中に響いてくる。


「やっぱり先に行ってて。

 僕は後から行くよ」


 変身するより見て見ぬふり、見殺しにするほうが辛い。


「……クス。昨日も女の子助けてたもんね。

 いいよ。私も手伝ってあげる」

「それはダメだ!」

「なんでっ?」

「あ、いや、えっと……」


 変身するところを見られたくないわけだけど、そんなこと正直に言えないし。


「そう! 君は僕の大事な人だから、何かあったら困るんだ!」


 もしこの先君が歌えなくなってしまったら、僕はどうやって怒りを押さえれば良いんだ。


「ェ゛ッ!?」


 何だ急に、首を絞められた鶏みたいな声を出して。


「じゃあ、そういうことだから!」

「ェ゛ッ、ちょっと……」


 僕は弥來さんに背を向けて、ビーストの気配がする方へ走った。





どうも、読んでくださりありがとうございます。

戦闘シーンに迫力がないと思いますが、初めてなので仕方ないですね。

なんか書こうと思っていたのですが、忘れたのでいいです。

ではまた次回。

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