三話 また放課後で
気付いたらブックマークが一つ付いててビックリ。ありがとうございます。
精進します。
朝目を覚ますと、すぐさま昨日の出来事を思い出した。
好きな子が魔法少女だったこと。
自分がビーストのような何かに変身したこと。
人を殺しそうになったこと。
櫻井さんを怖がらせた上に、敵だと思われたこと。
あと、鞄を公園に忘れたこと。
ヤバイ。
「いってきまーす!」
準備もそこそこに、扉が壊れそうな勢い(細心の注意を払ってなんとか壊さなかった)で家を飛び出す。
たどり着いたのは昨日の公園。なんか壊れたものとか全部直っていた。
昨日はどうやって帰ったか全然覚えていないから手当たり次第に探し回った。早めに見つけれたのは良かったけど、鞄がどこにも見当たらない。忘れたのは自分のせいだから仕方がないと思いつつも、理不尽に湧き出てくる怒りを抑えながら近くの交番に向かう。
結果はハズレ。昨夜から今日までの間にそういった落とし物は届けられていないそうだ。
「はぁ……」
鞄は気がかりだし、もしかしたら櫻井さんが見つけていて正体がバレてるかもしれない。考えれば考えるほどその可能性しかない気がしてきた。
けど、取り敢えずは学校に行くしかない。行きたくないけど。
遺失届を出してから交番を出る。
携帯はポケットに入れてたから手元にあるけど、充電してなかったからあんまり使えない。と思いつつ、時間を確認する。
「げ、あと十分」
いつの間にかすごく時間が経っていた。ここから学校までだったら確実に遅刻するだろう。夏休み前までの僕だったら。
実は朝起きたときからずーっとイライラしてたんだ。抑えていたそれをちょっと開放するだけ。すると身体能力が上昇して体は軽くなり、五感が鋭敏になり第六感のようなものも微かに感じるようになる。
プロの短距離走者も顔が真っ青になる勢いで走ったり、家の上を跳躍したりして学校の近くに到着。人とすれ違ったりもしたけど、顔を伏せて走ったから多分大丈夫だと思う。まあ、仮に見られたとしても速すぎて顔なんかすぐに忘れるだろうし。
っと、校門が閉められそうだ。今日の先生は数学のちっちゃい田所先生だ。校門を閉めるために踏ん張っていてこっちには気付いていない様子。周囲に登校している生徒もいないし、今だ。
スピードを上げて音もなく校門の上を飛び越える。ついでに門に手を添え、悪戦苦闘している先生を手伝ってあげる。
”ガチャンッ!”
「きゃっ!?」
やべ、力入れすぎた。
静かに着地して振り返ると、尻餅をついて驚いた顔で校門を見上げている先生。大丈夫、怪我はなさそう。先生、すみません。
そそくさとその場を離れ、下駄箱で他の生徒たちと合流する。
教室の前、深呼吸を1回する。
緊張する。櫻井さんとどんな顔で会えばいいのか分からない。もしかしたらバレてるかもしれないし。やべー、帰りたい。
「はあ……」
ええいままよ。バレてたら素直に話して倒されよう。
”ガラガラ”
「おっはー、暮人。珍しく遅いじゃん」
「あ、ああ智弘、おはよう。いや鞄なくしちゃってさ」
「はあ? どうやってなくすんだよそんなの」
話しながら櫻井さんを横目で見る。
……いつもと変わらないように見える。特に僕を気にしている様子はない。大丈夫なのか?
気にはなるけど、そろそろHRだ。
って、なんかHR終わったら職員室に行くように言われたんだけど、なんでだろう。
何も悪いことしてないはずなんだけど……。いや、昨日のとは関係がないはず。
そんなことを思いながら職員室についた。
「失礼します」
先生のところまで向かう。
「来たか、大上。はいこれ」
「え」
鞄を渡された。どうしてここに? と思ったけど、先生曰く、昨日拾った人が届けてくれたみたいだ。
ああ、良かった。鞄が戻ってきたのもそうだし、なにより桜井さんに見つからなかったのが良かった。
遊ぶのも程々にしろとか見当違いな説教をされてから職員室を出る。
それ以降は特に何もなく。いつも通りの学校生活を過ごした。いや、こう言うと語弊がある。正しくは問題なく、だ。
問題が起きたのは放課後、最近ハマっているアーティストのCDアルバムを買って帰ろうとした時だった。
今日が予約していたCDの発売日だというのを昨日のゴタゴタのせいですっかり忘れていた。気付いたのは昼、黒板に書いてある日付を見たとき。
放課後になって駅前のデパートに向かう。昨日の失敗があったのにも関わらず、今日も徒歩。失敗は成功のもととも言うし、反省してショートカットとかしないでいつもバスが通る道を進んだ。
今の手持ちはないけど、幸い予約したときに払っていたからあとは受け取るだけだ。引換券も鞄の中にある。
このCDのアーティストさんはm1蕾さんという人で、なんと僕と同じ高校2年生らしい。美人でスタイルもいいけど、何よりその声、歌がいい。優しい声色で、スローテンポの曲が多い。
夏休みに怒りを抑えるために色々な音楽を聞いたりもしたけど、この人の曲が一番落ち着くから毎日聞いてる。逆に聴いていなかったら怒りやすくなるということだから、携帯を使えない今日はちょっとやばい。
無事、駅前のデパートに到着した。平日なのに相変わらずの人の量だ。
五階にある大きめのCDショップでCDを手に入れて、ニヤニヤしながら帰ろうとエレベーターに乗った時だった。身が竦みそうな嫌な感覚に襲われてからすぐに、何かが壊れるような音、それに続いて人の悲鳴のようなものが聞こえてきた。
もしかして……、と思い当たるよりも先に、降下していたエレベーターが急停止した。
僕より先に乗り込んでいた女の人も驚いている。
「え、なにこれ?」
その声を聞いた瞬間、僕は首が取れそうな勢いでその女性の方に顔を向けた。
聞いたことがある、と言うか確実にm1蕾さんの声だった。実際にその人は変装のお手本のような見た目をしている。デカデカサングラスとマスクで顔の大部分を隠しているけど、髪の毛は変えていないのかいつもの茶髪セミロングだ。
急に振り向いたからか、m1蕾さんは僕を変な目で見ている。気まずい。
「あ、すみません」
思わず謝った。
m1蕾さんは多分お忍びで来てるんだろう。気づかなかったことにしよう。
「あ、いえ、こちらこそ。それよりエレベーター、どうしちゃったんでしょう」
「故障ですかね?」
十中八九ビーストの仕業だろうけど、それを言ったら何で分かったんだということになるから、いらない疑念を与えないためにも話を合わせておく。
「こういうときは非常用のインターホンをつかったらいいと聞いたことが」
と言いながらインターホンを押す。
「「……」」
「反応がないですね」
他のボタンもポチポチ押してみたけど、何の反応もしなかった。
でも、取り敢えずはここから出ないと。多分下ではビーストが暴れているから、この建物がいつ壊れるかわからない。そう考えたせいなのか、突然建物全体が大きく揺れた。
「きゃあっ」
思わず転びそうになったm1蕾さんを抱きとめる。
「あ、ありがとうございます」
「い、いえ」
どことは言わないけど、柔らかい。
「取り敢えず早くここから出ましょう」
「でも、どうやって」
どれくらいの力がいるかわからないけど、多分開くだろう。
扉に手をかける。
「え、そこ開けるんですか? 私も手伝いますっ」
「大丈夫です。多分開けれます」
腕に力を込める。
……ん? ちょっと硬い。重たいというよりも硬い。
2日連続でビーストに遭遇した理不尽や諸々の怒りをちょっとだけ腕に込める。
”バキッ”
”バゴンッ”
何かが壊れるような音がすると同時に、扉が凄い勢いで開いた。
「きゃっ、……す、すごい」
開いたのは良かったけど、このエレベーターの位置がとても微妙。下の階の扉のちょうど真ん中で止まっている。
階の扉をさっきと同じように開ける。
「さあ、先に降りてください。レディーファーストということで」
「わかりました。ありがとうございます!」
さり気なく手を持って、ゆっくりと降りてもらう。
足が着いた。手も離す。
その時、さっきよりも大きな揺れが起きた。
「きゃあ!」
彼女が悲鳴を上げたのと同じタイミングで、
”バチン”
という音が聞こえた。
「あ、やべ」
ケーブルが切れたのだろう、エレベーターが落下し始めた。
ヤバイヤバイヤバイ! このままじゃ諸共だ!
どうしよう!? どうすればいい!?!?
足を床につけておくのが難しくなってきた。
そういえば、映画とかでは天井に出口があってそこから出たりしていた覚えがある。
それだ! と思って脱出用のハッチを探す。
「あった!」
すぐさまそこに飛びついて上に押す。
”バキッ”
硬かったので、これも壊して脱出する。
天井裏にしがみついて、このあとどうしようかと少し考える。
下を見ると地面まですぐのところまで来ているのが分かる。
意を決する。
右手でエレベーターを掴み、中腰になる。
目をつぶり、深呼吸を一つ。
地面まで3、2、1、ジャンプ。
接地する瞬間、怒りの脚力で落下速度を超えた勢いで上に跳ぶ。
跳びすぎてバク宙みたいな感じになってしまった。
ぐしゃっとなったエレベーターの天井にストンと着地。
「ふぅ」
なんとかなった。なってしまった。
それよりもCDは......無事だ。良かった。
m1蕾さんは無事だろうか?
上を見ると、開いている扉から下を見ているのが見えた。右手を大きく振ってみると、手を振り返してくれた。
取り敢えずここから出ようと思って、壊れたエレベーターの中に入り一階の扉をこじ開ける。
エレベーターから出ると、耳が割れそうなほどの悲鳴があちこちからあがり、人々が押し合いながら我先にと走っている。
辺りは酷い有様で、壁とか色んなところが崩れていて、ガラスも割れて、さっき入って来たときとは完全に様子が違っていた。
人の流れに逆らって騒ぎの中心地に向かって行く。途中、瓦礫の下敷きになっている人を助けたり、逃げられなくなっている人を助けたりしていく中、流れに逆らっているせいか人を押し倒してしまった。
我に返る。この惨状を見て怒りが湧き、原因であるだろうビーストを無意識に排除しようとしていた事に気づいた。
ダメだ。昨日は無人の公園だったから人に危害を加えることはなかったけど、今はたくさんの人がいる。それにビーストになった人もどうなるかわからない。待っていたら櫻井さんが来て、退治してくれるだろう。そっちのほうが賢明だ。僕はm1蕾さんを探しながら困っている人を助けていよう。そうしよう。
さっきm1蕾さんと別れたところの近くまで来たけど、誰もいなさそうだ。流石に上の階にはだれもいないようだった。一応、来た道とは別の道を通っていたら見つけた。不安そうに周囲を見回しながら少しずつ歩いている。
「あの!」
声をかけると、ビクッと肩を震わせたm1蕾さんはゆっくりとこっちを振り返った。
「あ、さっきの。でも、どうしてここに?」
「探してたんです。早くここから逃げましょう」
そう言ってから二人で二階まで降りてきた時に、子供の泣き声が微かに聞こえた。他の人達は僕がm1蕾さんを探している間に避難したようだった。その子供にビーストの嫌な気配が少しずつ近づいているのにも気付いた。
僕は思わず駆け出した。
「m1蕾さん! そのまま真っ直ぐに行ったら出れます!」
「え? あの! あ……」
m1蕾さんは何かを言おうとしていたけど、僕には気にしている余裕がなかった。申し訳ない気持ちもあったけど、そのまま速度を上げて彼女を置き去りにした。
子供がいたのはそこからそう遠くない場所だった。
髪をおさげにした五歳くらいの女の子が一階の床に座り込んで、大声で泣いていた。転んだのだろうか、足に怪我があってそれで動けないのだろう。おまけに親とはぐれたみたいで、周囲には誰もいない。
ただ一人ビーストだけがいた。女の子は泣いていて気がついていないのだろう。ビーストが後ろから巨大なコンクリートの塊を両手で持ち上げながら近づいている。僕から見たら真正面の位置になる。
ソイツは筋骨隆々で、いかにもパワータイプといった感じのライオンのようなビーストだった。しかも、威圧感が凄い。思わず足が竦みそうになるくらいだ。
目が合った。ソイツは僕を見て、ニヤッと笑ったような気がした。
嫌な予感。
僕はすぐに二階の手すりを思いっきり蹴って女の子のところまで一直線に飛んでいき、両手で抱きかかえてすぐさまその場を離脱。一瞬遅れてコンクリートがそこに叩き込まれ、砕けた床やコンクリートの破片が僕らに降りかかる。
咄嗟に背を向けて女の子を庇う。
かなり痛い。ムカつく。
「大丈夫? すぐにお母さんのところに連れてってあげるからね」
女の子には心配をかけないように笑顔で話しかけたけど、急なことに驚いたのか涙も引っ込んで、目を大きく開いて固まっていた。
すぐさま体の向きを変えて、ビーストに対峙する。
やっぱり凄まじい威圧感だ。昨日のクラゲビーストとは比べものにならない。実際に上から押さえつけられているように体が重たく感じる。
ビーストは3m近くありそうな巨躯で、余裕ぶった表情で見下ろしてくる。こっちを観察しているようにも見える。
どうしよう。この子だけでも逃さないと。
「はあ、はあ、やっと追いついた。
もうっ、探しましたよ! どうして急に……はし……って…………えっ? ビースト?」
ギョッとして後ろを振り向く。
m1蕾さん!? 追ってきていたのか!
でも丁度よかった。この子を頼もう。
「ちょっとこの子頼みます!」
そう言って目線をビーストに戻してから、m1蕾さんに向かって女の子を柔らかく放り投げる。
「え、あ、ちょっと!? ……痛いっ」
尻もちついたっぽい。ごめんなさい。
「その子連れて逃げてください!」
「じゃあ、あなたも!」
「コイツが逃がしてくれると思います?」
「……それはっ」
「大丈夫です。ちょっとお仕置きするだけですから。
……速く!」
「……絶対助けを連れてくるので、死なないでください!」
迷ったみたいだけど、ちゃんと頼まれてくれたみたい。足音がどんどん遠ざかっていく。
この間ビーストは身じろぎもせずに待っていてくれたみたい。
足音も聞こえなくなったし、それじゃあ、
「ぶっ殺してやる」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
良ければブクマや評価お願いします。しなくてもいいですけど、その代わりまた読んでください。
↑より指摘とかしてくださると嬉しいです。自分でも確認してますが、いまいちどこがダメがわからなかったりするので。
ではまた。