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好きな子が魔法少女だった。  作者: チョコゴーレム
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十話 あーあ

 どのくらい眠っていたのだろう。

 目を開けると、先程とそう変わらない位置で太陽が輝いていた。

 自分の体に視線を向ければ黒鎧はすっかり消えているのが分かった。着ている服も靴もボロボロで、ボロ雑巾を纏っているのと何ら変わりない見た目だ。

 眠る前よりマシだが、相変わらずの疲労と倦怠感で身が包まれている。体はなんとか動くが、コレでは壁に手をついて歩くのがやっとだろう。

 緩慢とした動きで体を起こす。

 眠る前に櫻井さんに何かを言われたような気がするけど、頭の中が疲労感とかなんやらでグチャグチャしていてあまり思い出せない。

 穴の空いたポケットから何かを落としたことに気づかないままその場を離れる。

 取り敢えず家に帰ろう。でも、その前に妹を迎えに行かないと……。

 歩くたびに首を揺らし、ぼんやりとした意識のまま遅々とした歩みを続ける。

 しばらく歩いていると、ふと思った。

 ここはどこだろう。

 その時丁度体に限界が来て、立つこともできずに壁に背を付けて座り込む。


「はあ……はあ……」


 ギリギリだった意識が目の奥に沈んでいき、瞼が少しずつ落ちてくる。


「……ぁ……ぃっ」


 瞼が閉じきる瞬間、何かが聞こえたような気がしてハッと目を開き、意識が戻ってくる。

 でもまたすぐに同じことを繰り返す。


「ぅ……、……ぉ……り!? そ……い……! ……いで!」


 さっきより強く聞こえて、その分ボーッとした意識が戻ってくる。

 何回か転けそうになりながらもゆっくりと立ち上がり、声がした方向に少しずつ向かう。

 近づくにつれ声が大きくなっていく。

 向かう先には嫌な気配も感じる。

 聞いたことがありそうなその声の主は、どうやらそれに抵抗しているようだった。


「いや! 放してよ! 誰かたすけて!!」

「aaaaaashiiiiiiiii……」


 疲れ切った脳に声が響き渡る。

 朦朧とした意識の中でその声とあの日の声が重なる。

 残り火のような怒りがまた黒く燃え盛る。

 いつもなら抑えることができるその怒気に、朧げな僕の意識はあっさりと呑まれた。


 次に意識が戻った時は、ビーストの首を掴んで壁がひび割れるほどに押し付けていた。

 なんでこんな状態になっているのかわからず、しばらくボーッとしているとなんとなく思い出した。

 


「え? え? え?」


 後ろから声がした。

 振り返ると瑞木さんだった。

 なんでこんなところにいるんだろう? と一瞬思ったけど、さっきの疲労がドッとぶり返してきてそれどころではなかった。

 黒鎧も消えていく、というかもともと殆どなかった。左手と右足、頭と体の一部分と、所々にしか黒鎧は装着されていなかった。あとはボロボロの服が丸見えだ。

 ビーストの首を掴んでいる左腕に力を込めたまま、ビーストを引きずってその場をゆっくりと去る。


「……えっと?」


 瑞木さんのことはすっかり忘れて櫻井さんを探し回る。

 しばらく探し回ったがなかなか見つからない。

 やっと気配を見つけた。

 と思ったら一気に体中の力が抜け、ギリギリ捕まえていたビーストが脱兎の如く走り去った。

 ビーストに引っ張られるようにして後ろ向きに倒れる。瞼が閉じきる瞬間、櫻井さんがビーストを追いかけるようにして上空を飛んでいった気がした。





 ゆっくりと目を開ける。

 見えるのは白い天井と、僕を囲むようにして伸びているカーテンレール。

 独特のあまり好きではない匂いを嗅ぎながら視線を下に向けると、これまた白い布団が僕の体を包み込んでいる。

 見た感じここは病院のようだ。

 意識ははっきりしている。多少の疲れは残っているがよく寝れたのだろう、体も多少は元気になった。


「っ……」


 体を起こそうとしたが、痛みを感じて動きを止める。体中が痛い。特に節々が痛い。

 首をゆっくりと回して辺りを見るが特に何もない。人もいない。

 暇なので襲いかかってきた睡魔に抵抗せずに身を任せた。

 次に目を覚ましたのは丁度お昼時だった。

 その時は体の痛みや諸々が落ち着いていたので看護師さんに声をかけて、その後色々あって無事退院した。

 どうやら今日は日曜日のようで、つまりは昨日から大体十八時間は寝ていたことになる。

 昨日のあの後、事件が無事に終着してから住民が街に戻ると、僕が倒れていたので救急車が呼ばれてそのまま入院ということになったらしい。

 家族には泣かれた。特に妹の泣き様は凄まじかったので、若干両親に引かれてた。

 昨日僕に助けられたので、他の人を助けたりして無茶したんでしょ! って怒られたりもした。その通りだけど。

 検査とか手続きとか色々やって、家に帰れたのは夕方頃になった。

 検査してくれたお医者さんとかには、え? 君、もう大丈夫なの? みたいな顔をされた。まだ多少は体に痛いところはあるし、疲労感もある。大丈夫だけど。

 あと、服を着替える時に気づいたけど、体が凄くなっていた。レジットが入って来た日から何か筋肉がちょっと付いた? って感じだったんだけど、今日はその比じゃなかった。バッキバキだった。多少付いていた脂肪は減り、貧相だった体は俗に言う細マッチョくらいの体型になっていた。筋繊維の超回復とかいう次元ではなくて少々ビビっている。

 ついでに筋トレとかしたことないけど、この筋肉の密度というか何かが普通とは違うような気がする。良くわからないけど。

 家についたので少しゆっくりしようと思っていたら、妹が四六時中引っ付いてきた。

 曰く、このまま目を覚まさないのかも、死んじゃうのかもしれないと思ったと。

 可愛いやつめ。そんなことを言われたら離れろとか言えない。

 いつぶりだろうか、今日は同じ布団で一緒に寝た。

 ちなみに今日の夕飯は僕の大好物のハンバーグが大量だった。美味しかった。





 朝日に瞼を叩かれ目を覚ます。

 瞼を開けると目の前に妹の顔があって驚いた。

 いつの間にか腕枕もしていてそれにも驚いた。

 そういえば昨日は離れたがらない妹と一緒に寝たんだっけか。

 そんなことを思い出しながらどうやって腕を抜こうかと四苦八苦していると、


「ん……、……え?」


 妹が起きて寝ぼけ眼で僕を見てきた。

 寝起きだからか、いつもの目付きが若干マシだ。

 次第に意識がはっきりしてきたのかドンドン目を開いていく。


「な、ななな、なんで一緒に寝てるの!? お兄ちゃんの変態!!!」


 耳が割れるかと思った。

 ついでに何回か頭を叩かれた。

 前の僕ならともかく、今の僕には痛くも痒くもなかった。

 事情を話すと思い出したのか顔が真っ赤になって、


「忘れろーーー!!!」


 と言ってパカスカ暴行を加えられたがなんともなかったので、気が済むまでサンドバッグになってやった。

 今日は月曜日か、なんて少しテンションを下げながら身だしなみを整え、学校に行く準備をする。

 一階に降りて朝食を摂り始めて少しすると妹も降りてきた。

 まだちょっと赤い顔をしたまま、キッと僕を少し睨みつけてから席に座りご飯を食べ始めた。

 僕は少し困ったように頬を掻いた。





 学校に到着。

 今朝はちゃんと起きれたし携帯も充電していたから余裕をもって登校することができた。

 今日の天気が良いのもあって、少々憂鬱だった気分はすっかり良くなった。

 いい気分で靴箱を開けると、中になにか入っていた。

 四つ折りに畳まれた紙だ。

 ラブレターというやつか! なんて思いながらコソコソと靴を履き替え、辺りを無意味にキョロキョロしてソワソワしながらトイレに向かい、ガチャガチャと慌ただしく個室の鍵を締める。

 ポケットに入れた紙を取り出し、深呼吸を一回してから一息に広げる。


「ヴェッ!?」


 送り主は櫻井さん。

 内容は簡潔、放課後になったら屋上に来てください。

 流石にラブレターではないだろう。ここ数日にちょろっと話しただけだし、脳内お花畑ではないつもりだ。

 十中八九黒騎士のことだろう。

 好きな人からの呼び出しだ。普通は嬉しいはずなんだけどな。ああ、行きたくないなぁ……。

 いややっぱり告白だったらどうしよう。なんて、あり得ないことだと分かっているはずだけど、少し想像してしまう。


「あ゛ーーー」


 ほんとどうしよう。

 トイレで唸っていても仕方がないので教室に行くことにした。帰りたい。

 深呼吸を一回してから扉を開ける。

 中に入ると、瑞木さんや友達と談笑していた櫻井さんが僕をチラッと見てすぐに視線をそらした。


『やっときたっぴ!』


 ぴっぴもすぐに出てきた。


『ぜったいにほうかごくるっぴよ!』


 うるさいわ。

 その後は終礼が終わるまでずーっとソワソワしてて、全く授業に身が入らなかった。

 智弘にも心配された。

 放課後になった今は余計に緊張して心臓がバクバク。でも指先は冷たい。

 教室には何人か残っていて、櫻井さんは終わったらすぐに教室を出ていった。


「……行くか」


 重い腰を上げ、体を引きずって渋々屋上に向かう。

 お昼は屋上でご飯を食べている人が沢山いるけど、今は櫻井さんと一匹以外の気配がしない。

 今日何回目だろうか、深呼吸してから若干錆びついている鉄扉を開く。

 思わず呼吸を忘れた。

 こちらに姿勢の良い背中を向けた櫻井さんは、風で靡く綺麗な黒髪を手で抑えながら空を見つめていた。

 陽の光に照らされたその横顔にあまりにも綺麗すぎて見惚れていた。

 あとは、立ち姿も素敵だな、とか白いうなじも良いな、とか溶けた脳で無意識に考えて……、


『やっときたっぴ!』


 ああもう台無し。あっちいけよ。


「よかった。来てくれたんだね」


 振り返った櫻井さんがホッとした表情で言う。


「あ、うん。遅くなってごめん」

「…………」

「…………」


 沈黙が僕らを襲う。

 櫻井さんがじっと僕の目を見つめてくる。

 かわいいやら恥ずかしいやらで頭に血が集まってくるのが分かる。


『さあ! はやくしょうたいをあらわすっぴ!』


 雰囲気を壊すな。


「そ、それで、何かヨウ?」


 変なイントネーションになってしまった。

 恥ずかしいいいいい。


「えっと、ね……」


 また沈黙がやってきた。


「あっ、そうだ……これ」


 と思ったら、足元に置いてあった鞄から何かを取り出してきた。


「これ、大上くんの……だよね?」


 手にとって見せてきたのはパッケージに入ったままのキーホルダー。

 土曜日に妹と見た映画のグッズだ。僕がその時買ったのと同じやつだ。

 えっ? と思い返すと、そういえば騒動のあとに見た覚えがないのに気付いた。

 ということはあれは僕が買ったものなのだろう。パッケージも開けた覚えはないし。


「あの日、ビーストを退治し終わって広場に戻ると黒騎士さんはいなくて、でも代わりにコレが落ちてたの」

『そうだっぴ! はくじょうするっぴ!』


 もう自分が魔法少女だって隠す気がないじゃないか。


「……少し汚れているけど、大上くんが見せてくれた物だよね?」


 言われてみれば、カフェで話してた時に一回見せたっけ。

 ああ、これは万事休すかもしれない。


『それににおいがくろきしといっしょだっぴ!』


 この感じ、逃げようが言い訳しようが無駄っぽい。

 櫻井さんも確信しているような顔で見てくるし。

 いや、待てよ? このキーホルダーが僕のか聞かれてるだけで、黒騎士かどうかは聞かれてないな。ほとんど同じ意味だけど、これだったらなんとか……。


「大上くんがっ、黒騎士さんなんだよね……?」


 あーあ、もう無理だ。

 多分、今日最後になる深呼吸をする。


「……うん。そうだよ。僕が黒騎士だ」


 何だよ黒騎士って、途轍もなく中二病みたいで恥ずかしいんだけど。


お読みいただきありがとうございます。

ありがたいことにブックマークが一つ増えておりました。ブヒブヒ

良ければ評価や感想などもしてくださると僕はより豚のようにブヒブヒと喜びます。

9月は今作をOVL大賞に出したくて大学に一切行かなかったのですが、後期が合ったんですねぇ。うーんこの。

まだ続きますが、今回の話で一回区切りをつけて今までの話を手直ししたいと思いますが、すぐに終わらせて次の話を投稿する予定でございます。それまでお待ちいただければと思います。

ではまた。

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