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好きな子が魔法少女だった。  作者: チョコゴーレム
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一話 好きな子が魔法少女だった。

 気だるい朝。小鳥がさえずる音さえも(わずら)わしく思う。

 今日から高校二年目の二学期が始まる。夏休みが終わったことに多少イラつくけど、登校初日が月曜日というのもそのイライラを加速させる。僕の歩みも加速させる。


「はあ……」


 夏休みはとある事情のせいでまともに遊べなかったし、誘われても断るしかなかった。しかもその問題はまだ解決していない。こんなんで学校行けんのか? 

 そういうこともあってすこぶる機嫌が悪い。このイライラは止まることを知らない。

 っと、危ない危ない。とりあえず音楽でも聴いて気を紛らわすか。そう思って何も悪くない青空を一睨みしてからイヤホンを取り出した。

 ちなみに、そのイヤホンのコードが絡まってたのにもちょっとキレた。


 電車で30分くらい揺られてバスに乗り換え、同じ学校の生徒たちと10分尻を押し付けあってやっと到着。道中、寝不足っぽいおっさんに肩枕したり、近くでしゃべってる野郎どもの唾がかかったりして怒鳴り散らしそうになったけど、ガンバって音楽に耳を傾けて過ごした。やはり音楽は偉大だ。


 てか、いつもこんなに時間かかってたっけ? てくらいに移動時間が長く感じた。帰りもこれかと思うと今からイライラが止められない。はいはい音楽音楽。


 気を取り直して下駄箱で靴を履き替えていると、右肩を叩かれる。


「よっ、暮人」


 後ろを振り返ると高校に入ってからできた友人、相沢智弘(あいざわともひろ)が立っていた。


「智弘か、おはよう」

「お? 何だ、まだ解決してないのか?」

「残念ながらな」


 さすがに気づくか。夏休み中に全然遊べなかったし、理由もろくに教えてなかったからなぁ。


「ところでよ、あれ見たか?」


 言いたくないことを察してか、深く追求してこないのはありがたい。いいやつだし、顔もまあまあ整っているのに女っ気がないのが不思議だし、(まれ)に怖い。


「あれって何だよ」

「魔法少女だよ。今日も出たらしいぜ」


 魔法少女。普通に考えたら頭がおかしいのか? とか、アニメの話? と思われるような話だけど実際にいるらしい。僕は見たことないけど、SNSで写真や動画が出回っているし、ニュースでも取り上げられていたりもした。

 でもなぜか魔法少女の顔はわからない。顔を映そうとしたらぼやけていたり、鳥とかゴミとか標識とか、何かしらの邪魔が確実に入るらしい。じゃあ、実際に見てみたらどうか? と思うが、これもダメで、可愛かったという印象は残るけど、顔はモヤがかかったように思い出せないらしい。


 ペチャクチャしゃべりながら教室のドアを開く。もう既に半分くらいの人が来ていて、中には夏休みデビューでもしたのか雰囲気が変わっているのが何人かいる。変な奴になってないといいけど。


 自分の席に着くと、智弘の話を聞き流しながら携帯を取り出す。さっき話してた魔法少女のことを調べるためだ。別にファンとかいうわけではない。単純にこんな非日常的なことに興味を持たないほうが難しいってだけ。けど最近は別の理由もあったりする。


 魔法少女が出没するようになってからもうすぐ半年になるけど、彼女や彼女が戦っている相手についてわかっていることは少ない。

 まず、魔法少女について。名前はまだない。いや、あるにはあるんだけど、色んな人がいろんな名前で呼んでるから名前というより愛称みたいな感じになってしまってる。見た目や目撃証言から中学生〜大学生くらいの女性だと思われてるけど、さっき言った通り誰も顔を知らないことから年齢不詳、性別不明で、もしかしたらブッサイクなおじさんかもしれないんだけど、それはまあ、置いといて。

 服装は白地に赤いアクセントが入ったフリフリのミニスカドレスと白タイツ。武器は先端に拳大の赤い宝石がついた40センチくらいの短い杖で、ピンク色のエネルギー弾みたいなのを魔法のように飛ばして攻撃する。ちなみに、髪は黒色で背中まで伸びたロングヘアを先の方でひとまとめにしている。


 次は敵についてだな、と思っていたら。


「おはよう、向日葵ちゃん」


 風鈴のような聞き心地の良い声が耳に届いた。

 ハッとして顔を上げる。視線の先にはとんでもなくかわいい女の子。櫻井深月さん。

 目鼻立ちは見惚れる程に整っている。可愛い系か? いや、キレイ系、いいや、どっちもだ! 太陽など知らなさそうな白い肌、シュッとした顎に柔らかな目元。目は吸い込まれそうな透明感のある黒色で、まっすぐに背中まで流れている艶やかな黒髪はサラサラと音が聞こえてきそう。


 急いで顔を携帯の画面に戻す。目が合った気がした。やばいやばい、顔から火が出そう。


 一目惚れだった。去年の入学式の時に、遠目でちらっと見えただけで彼女に釘付けになった。気が付いたら入学式は終わっていた。時が止まったようだった。

 残念ながら一年のときはクラスが違っていたから、偶然すれ違ったり遠くから見ることしかできなかった。まあ、それは同じクラスになった今もあんまり変わらないんだけど……。

 二年になって話したのは二回だけ。しかもどっちも事務的な話。連絡先の交換どころか挨拶すらできてない。

 眺めているだけで満足しているというのもあるし、仲良くなっても付き合えないだろうという諦めに似たものもある。と言うのも、僕が一目惚れするくらいだ、ほかの男子も惚れていないほうが可笑しい。数えるのも億劫な程に告白されていたけど、ことごとくを振っていた。小さいのからでっかいの、不細工からイケメンまで誰もOKをもらえなかったのだ。大して親しくもなく特筆すべき魅力もない僕に、可能性など微塵もない。


 顔の熱を必死に冷ましている内にいつの間にかHRが始まっていた。




 始業式も終わり、僕は帰宅部だからあとは帰るだけ。智弘は部活があるとかで今は一人。

 いつもと同じようにバス停まで行くと、目の前には下校する生徒でぎゅうぎゅう詰めのバスと長蛇の列。しかもまだ増えてるし。下校時はこうなるのをすっかり忘れていた。

 乗るのは絶対に嫌だし、人が減るのを待つのもいつになるのか分からなくて嫌だ。幸い今日はこの後特に予定はないし時間もある。駅まで歩いていくことにしよう。


 そういうことで駅に向かっていたんだけど、


「どこだここ」


 いつの間にか道に迷っていた。……なんで?

 バスがいつも通る道を歩いていたはずだった。いやまあ、ショートカットしようとしたけど、携帯でマップもちょくちょく見てたし……、なんで? しかもなんか、住宅街なのに人気を全く感じない。

 少し変に感じながら携帯をよく確認してみる。はあ……、とため息をつく。どうやら目的地が別の場所に設定されていただけだった。

 バカみたいだな。そんな自分にムカつく。手に力が入り、携帯からミシミシと音が聞こえたところで正気に戻る。あっぶねー。

 一回、二回と深呼吸をする。気を取り直して駅まで向かう。

 向かうのだが、数分歩くと妙な音が聞こえてくるのに気付いた。ちょうどすぐそこの曲がり角のむこうからだ。そっと近づき頭を角から出す。


「はっ?」


 数瞬呆けた後、すぐに頭をひっこめた。

 小さい公園で魔法少女が戦っていた。妙な音は戦闘音だった。

 ゆっくりと頭を出してもう一度見てみる。魔法少女はこっちに背を向けて怪人の攻撃を魔法で弾いている。


 敵はビーストって言われてて、見た目は個体によって違うんだけど、どれも何かしらの動物を模している。

 今いるそいつは細長くて白い触手をうねうねさせてる。しかもなんか妙にテラテラしてて数も多いから気持ち悪い。あと、頭部が傘状になっているから多分クラゲのビーストだろう。

 ビーストが触手を一つにまとめて、思いっきり魔法少女を殴る。魔法少女は魔法を撃つけど焼け石に水で全然効いていない。


「きゃあああ!」


 魔法少女がビーストに吹き飛ばされて、土煙がもうも……ん? 何か聞き覚えのある声だったような……。


 誰の声だったか考えていると、土煙が晴れた先にはぐったりとしたまほう、しょうじょ?


「えっ?」


 その顔はどこからどう見ても櫻井深月さん。え、いやそんなはず、何がどうなって、ええ? わかめ。

 そんな風に混乱していると。


「だれかいるっぴ?」


 あ、やべ。

 とっさに顔を隠したが、何だあの声、みょうに甲高くて耳に障る。いや、そんなことより櫻井さんだ。


「きのせいだっぴ」


 また聞こえたよ。あんな声する奴いなかっただろ。ビーストはしゃべらないし、もしかして、と思いつつまた覗くと何かいる。手のひらサイズの白いぬいぐるみみたいなのが倒れている櫻井さんの周りをぐるぐる飛んでいる。


「あいのまほうしょうじょ! はやくおきるっぴ!」


 あいのまほうしょうじょ? 愛の魔法少女か、え、愛? 櫻井さんだれか好きな人がいるのか? いやそうじゃない。

 どうやら、櫻井さんは気絶しているようでピクリとも動かない。

 正直、助けに行きたいけれど、折れた木々や壊れた遊具、散らかった花壇を見るとなかなか体が動かない。

 何をするつもりだろうか、ビーストが近づき触手で櫻井さんの体を縛り上げる。


 心拍数が上がっていく。


 ビーストが櫻井さんを宙吊りにする。


 呼吸が浅くなっていく。


 ビーストが触手を震わせて液体を分泌する。


 彼女以外の全てが色褪せていく。


 目が開く。状況に気付いたのか、櫻井さんは体を動かそうとするが揺らすだけに留まり、ステッキは地面で土を被っている。


 心臓の音が体中に響く。


 白いのが吹き飛ばされ、綺麗な目に涙が浮かぶ。


 頭が、体中が何かに支配されそうになる。

 何だこの感情は?


「い、嫌っ」


 理解()かった。これは怒りだ。


 頭の中を黒く激しいものに支配される。

 オレの意識はそこで堕ちた。


批評批判、感想等お待ちしております。


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