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第一印象

ユアン目線です。





晩餐から自室へ戻るなり、ユアンは大きな音を立ててシヴェルグランリー特製のソファに座った。晩餐を終え部屋から出てきたユアンの様子をしっかりと見ていたルイスは、笑顔でユアンへと話しかける。


「良かったじゃないですか、一緒に晩餐をして途中で帰ろうとしなかった令嬢は初めてですよ」

「なにが良いものか」


これまで一日と持たず――もっと言えば、晩餐すら終えることなく帰った令嬢の数はとうとう両手では数えられなくなってしまった。そんな中、初めて二人ともがデザートを食べ終えたのはこの屋敷の者達にとって殆ど奇跡である。そわそわと様子を見守っていた料理長や使用人たちがこっそりとハイタッチしているのを見て混ざりたくなる程度には、ルイスも浮かれているのだ。

正直なところ、この屋敷の者達は疲れていた。不定期に訪れる婚約前の令嬢たちは、屋敷に来ると決まってユアンの不遜な態度に腹を立て、もしくは泣き、逃げるように去って行く。

大事にならぬようそのフォローに回るのも、その前後で嵐のように荒れる主人を宥めるのも、次の婚約者候補を探すのも、そろそろ終えたい。

初めて見えた光にルイスを始めとした仕える者達が色めき立ってしまうのは、最早仕方のないことであった。


「上手く話ができなかったんですか?」

「…俺は相槌を打っていただけで、大体はあっちが話していた」

「ユアン様相手に気分を害さず話をしてくれた上、あのユアン様が相槌を打っていたんですか!?」


主人の信じられない発言に、ルイスは整った綺麗な顔を驚きに染めた。上手く話ができなかったのか、と聞いたルイスではあるが、そもそもルイスはユアンが貴族令嬢を相手にまともに話ができるとは思っていない。それほどまでに彼の貴族嫌いは強いものであるからだ。貴族相手に口を開けば、息をするように悪態付いてしまう。

ルイスはユアンに対し、今後も何度も見知らぬ貴族令嬢を迎えるのは嫌だろうと言い聞かせて、せめて猫を被り出来るだけ口を開かないようにと伝えておいたほどだ。だから、ルイスはてっきり最初の一言だけ交わしてあとはずっと無言の時間を過ごしたのだと思っていた。


「エミリー様はどんな話をなさっていたのです?」

「…家具、乗馬、料理、本、…他にも色々話していた」

「さようですか。貴族のご令嬢としては、なんというか…変わった話題のチョイスですね」


一般の貴族令嬢の好むものというのは、ユアンも度重なる顔合わせで嫌と言うほど分かっている。

流行りの衣装がどうでどこぞの家の者も御用達らしいとか、どこの子息と令嬢が密会してたとか、そういうくだらない噂話。自分の家はこんなに素晴らしい骨董品を持っているとか、こんなに素晴らしく贅沢な料理が出るとか、意味のない自慢話。

結局は噂でしかユアンを見ないし、嫁ぐのだってユアンにではなく公爵に嫁ぐだけ。

それはそれでユアンなりにお互い嫌いつつでも体裁を保とうとしているのに、結局は些細なことも耐えられず出ていく弱い貴族令嬢たち。それもユアンなりに、という大前提であって、ルイスから見ればまだまだ歩み寄れてはいないのだが。


「でも、ユアン様のお好きそうな話ではないですか。何が良くないんです?」

「……あいつは変だ」

「ユアン様から逃げ出さない大変貴重なご令嬢であることは確かですね」

「貴族令嬢だというのにドレスは目がちかちかするものではないしゴテゴテした宝石の装飾品もないし鼻が捻じれるような臭い香水もつけていないしそもそも普通の貴族が植物図鑑のページ数を言っただけで内容を思い出せるものか?怪しい。怪しすぎる。あいつはもしや貴族だと嘘を吐いているのではないか?それとも何者かの手先としてこの屋敷に侵入しようとしたのだろうか?」


息継ぎもなくエミリーの不審な点をつらつらと述べるユアンに、ルイスは大きな溜め息を吐いた。ユアンといると、ルイスの溜め息は尽きない。あんな風に横柄にページを指定しておいて、いざ答えるとこうして怪しむのだから、結局相手はどうするのがユアンにとって正解なのか。

以前読書を嗜むと言った侯爵家のご令嬢に件の質問を行った際は、当然令嬢は答えられず。植物の名を指定して問うたが、やはり答えられる筈もなかった。

そもそも読むイコール暗記ではないのだが、若干完璧主義のあるユアンからしてみると、諳んじることも説明することもできないのであればそれは読んだとは言えないのである。


「最低限調べた上で今回の顔合わせと相成っておりますから、あの方がれっきとした伯爵家のご令嬢であることは保証致します。望まれるようであれば、もっと細かくお調べ致しますが……」

「ああ、頼む」

「……いらっしゃったご令嬢をもっと知りたいと仰ったのも、初めてでございますね」


良いことでございます、と微笑んだルイスに、ユアンは小さく舌打ちした。ルイスの口ぶりではまるでエミリーに興味があるようではないか、と思ったユアンであったが、それでも真っ向から否定する程間違ってもいない。

確かに、ユアンはエミリーに対して関心がある。もしかしたら事前にユアンの好みを下調べしていたのかもしれないが、それでもこれ程までにユアンと言葉のキャッチボールが出来たのはエミリーが初だった。

いつものような令嬢であったなら、興味のない話を延々と持ち掛けられ、返事をしなかったり興味ないと吐き捨てたりするとヒステリックに怒り、どんどん会話が困難になる。または、この怪しげな風貌と冷たい言葉に泣かれ、嗚咽しか聞こえないようになる。


「エミリー様とは、良い関係を築けると良いですね」

「……ふん。貴族なんて、どいつも変わらない」

「だから、ユアン様も貴族なんですって……それもかなり上の方の」


呆れたように話すルイスの言葉は、当然のようにユアンに無視されるのであった。





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