エピローグ
本日のディナー営業が無事終わり、片付けを終えた3人だが、なぜか誰も2階へ上がろうとしない。
カラン
すると店の入り口が緩やかに開かれた。
「いらっしゃいませ」
「ああ、予約をしていた者ですが……」
「《てんじん》、お待ちしていましたよお」
「ようこそ『はるぶすと』へ」
なんとそこには《てんじん》が、また今日もスーツを粋に着こなして立っていた。
そしておもむろに後ろを振り返り、優雅に手を差し伸べて誰かを招き入れる。
「お邪魔しますわ」
入ってきたのは、そこにいるだけで目を引きつけられる、輝くばかりに美しくそして雄大な女性。
「お久しぶりです。《このはなさくやひめ》」
そう、彼女こそが富士山の化身と言われている《このはなさくやひめ》その人だ。
なぜ彼女が?
「今日は、お招きありがとうな」
「わたくしまで、良かったのかしら?」
美しくも意味ありげな微笑みを投げかける《このはなさくや》。
「なにを仰る。社員旅行の行き先を奪った言うて、使者を遣わしたのはどこのどなたさんや」
「あら、当たり前です。せっかく我が地へ来て下さろうとしていたのに。おもてなしも色々考えていたのですよ」
どうにも困ったように言う《てんじん》に、特に気にした様子もなく答える《このはなさくや》だ。
「あらこれはすんまへん」
またペチンと額を叩いて笑う《てんじん》。ここは素直に謝っておくのが得策、言い返そうものなら何倍にもなってあれこれ返ってくるものだ。
どこの世界でも女性が強いのは同じらしい。
「どうぞこちらへ!」
夏樹が元気よく2人をカウンターへ案内する。個室ではなくカウンターでよもやまばなしをしながら、と、《てんじん》がリクエストをしてくれたからだ。
いつからか始まった、変則ディナー。
今日は《てんじん》と《このはなさくやひめ》が、彼ら3人の繰り広げる心づくしの料理を楽しんだ。
今日も空には月が……
いや、なぜか《つくよみ》が羨ましそうに『はるぶすと』を見下ろしている。
《つくよみ》だけではない。《おおくに》や《えびす》や《こうじん》や、あ? ヤオヨロズもいる。そのほかにも言葉通り八百万の神々がわんさと集まっている。
神さま方は今日のディナーがとっても羨ましいようだ。
けれど《このはなさくや》のご機嫌を損ねてはいけないので、皆、おとなしく指をくわえて眺めているしかないのだ。
いろんな事がありますが、明日も『はるぶすと』は、通常通り営業致します。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
最初、今回の旅行記では、神戸の観光地の感想や印象を、彼らの言葉を借りて詳しくご紹介しようと思っていたのですが、それはやめることにしました。
筆者が見たものや聞いたものに対する印象は、あなたとはきっと違うと思うので。
今は世界がなんだかへんてこりんなことになっていますが、これは必ず変わって行きますので、いつか神戸でもどこでも、ご自分の足で訪れて、ご自分の目で見てご自分で触れてみて下さい。
それが難しい時もありますが、今はテレビで動画を楽しんだりも出来ますので、うんと予行演習をして。
パソコンで検索すれば出てくる事や、観光ガイドに載っているような説明はさせて頂きましたので、それもどうぞご参考にして下さいませ。