俺と妹と義弟の話
ネビー視点という感想があり思いついたので全10話です。リルの知らない家族やロイのお話。
煌国。
16歳元服で成人。その半分の8歳は半元服。ここまで元気に育てば成人になれる可能性が高い。
なので祝われる。それで将来どういう仕事をするか親が考えるものらしい。
長男は基本的に父親の仕事を継ぐもので、年の近い友人のうち先に半元服した者は父親の職場で半見習いをしている。
なので俺も「竹細工とか俺には無理。荷運びとか売る方とか出来ることで励む」と思いながら明日から半見習いと言われる覚悟をしていた。
家は長屋の3間のところに住んでいる。夕食後、1番奥の部屋で親父と2人きり。
昼間は宴会で遊びまわって「おめでとう」を言われまくって楽しかったのに夜は正座。足が痺れるから早く終わって欲しい。
隣の部屋から「にいちゃあそたい」とか「お母さん兄ちゃんはまだ?」と妹ルカとリルの声。リルは相変わらず舌足らず。大丈夫か?
それから「今兄ちゃんが正座しているからあんた達も練習しなさい」という母の声もした。
今年寺子屋に通い始めた6歳のルカはともかくリルはまだ4歳。正座って早くないか?
「正座なんてイヤ。疲れるししびれる」
「あい。おかあさん」
「リルがするんだからあんたもしなさいルカ! 嫌なことから逃げると不幸になるよ!」
親父の話を聞き流して母や妹達の会話を聞いていたら「なのでお前は兵官か火消しになってもらう」と言われた。
「兵官? 火消し? 何で? 父ちゃんと同じ職人だろう? 火消しになりたい! 兵官でもええ! 俺がなれるの! イオみたいに俺も火消し半見習い⁈ 火消しの家の子が火消しになるんじゃないの⁈ 兵官もそうだよな!」
「人の話を聞け! まあええ。これから厳しくされるからええ。ネビー、お前は4月から別の寺子屋へ通う。それから剣術道場にも通う。残りはイオ君の親父さんの元で火消し半見習いだ」
「イオは特別寺子屋も剣術道場も行ってないけど。まだ勉強するの? 俺何とか皆と同じくらい読み書きとか数学とか色々覚えたけど。そもそも剣術道場って何?」
「剣術道場はちゃんばらを本格的にしっかり習うところだ。礼儀作法も覚える。親が違う職業でも兵官や火消しになれる。ただその場合はうんと難しい。でもお前の将来のためだ。沢山勉強しろ。体も鍛えろ。明日紹介された寺子屋と剣術道場へご挨拶へ行く」
「よく分からないけど分かった」
「はい、分かりましただ」
「はーい、分かりました」
わりといつもニコニコしている厳しくない父にキッと睨まれて喉がヒュッとなった。
「はい、分かりましただ」
「はい、分かりました」
よろしい、と言われて親父に寝る準備をしろと言われた。真ん中の部屋へ移動。
母にルカとリルを頼まれた。母が父のいる部屋へ移動。
「にいちゃあそぼう。リルちりといたい」
「ルカが兄ちゃんにグルグルしてもらうの! リルはしりとり出来ないからダメ!」
「どっちも嫌だ。リル、しりとりだ。言えるか? お前はバカみたいだから喋る練習をしろ」
「しりとい」
「兄ちゃんがリルをいじめた! リルはバカだけどバカにバカって言うたらバカになるんだから言っちゃダメ!」
「しりとり」
「ルカ、お前こそバカバカ言い過ぎ。リルくっつくな。暑い。しりとりって言えたのは偉いけど暑いから離れろ。寝るぞ」
布団を出して敷く。ルカとリルにも手伝わせる。特にリル。他の年の近い子よりもたもただから心を鬼にしてやらせないと成長しない。
「ねえちゃ。まがてる。おかあさんおこる」
「リルはうるさいなあ。曲がってたって寝れるんだからいいんだよ!」
「ルカ、妹がしてるんだから母ちゃんの言う通りにしろ。でもその母ちゃんが雑だからいいか。口先だけオババめ」
「オババ! オババ! オババ!」
ルカが歌みたいにオババを連呼。それで盆踊りみたいに踊り始める。
「リルもおどる」
布団を一生懸命真っ直ぐにしたリルがルカの真似を始めた。
「リル、踊ってもいいけどオババ言うな。ルカもやめろ。母ちゃんに俺がゲンコツされる」
「はーい! よよよ! よよよ! よいよいよい!」
「よよよ」
寝るどころか騒ぎ出しやがった。寝かしつけないと怒られる。
「いよっしゃあルカ、リル、外で遊ぶぞ! 川に行くか。ザリガニ釣ろうぜ。リルは兄ちゃんが少しおんぶする。ルカは歩け」
「ルカもおんぶ! いつもいつもリルばっかり! いっつもリル! お父さんもお母さんもリル!」
「それもそうだな。よしルカ行くぞ。リルは留守番だ。踊ってしりとりの練習をしろ。最初はホタルのホだ! 帰ってきたら出来てるか聞いてやるからな」
素直なリルは「ほっ、ほっ、ほたるのほ」と踊り続けている。
ホがつく他の単語だと言おうとしてやめた。踊り続けて疲れたら勝手に寝そう。
「行くぞルカ! 川まで走ってやる!」
「やったあ!」
ルカをおんぶして家を出た。リルはいつもなぜか「わたしも」と言わない。なので楽。
リルへのお土産はザリガニ。見せたら大興奮だろう。いや帰る頃には寝てそう。それなら花でいいか。親父の作った作品に花を飾って遊ぶだろう。リルの最近の流行り。
翌朝、親父に連れられて昨日まで通っていた寺子屋の先生に「お世話になりました」と挨拶。
次は新しく通う寺子屋で「よろしくお願いします」と挨拶予定。
少し遠い。同じ長屋に住む2個上のハルイがいるというので楽しそう。
勉強は好きで嫌い。難しいから嫌いだけど出来ると褒められる。家で親父の手伝いをすると怒られてばかりで1度も褒められた記憶がない。
今朝、もう親父の仕事は手伝わなくて良いと言われたのでせいせいした。
新しい寺子屋で色々説明されて疲れた。人数は少ない代わりに若い人しかいないという。新しい友達が出来そうでワクワク。
それから持ってきたおにぎりを食べながらテオの親父の職場へ向かった。到着して挨拶。
火消しはやっぱり格好良い!
明日から通うので色々説明された。憧れの6番隊隊長とも挨拶。副隊長とも挨拶。他の火消しや火消し見習いとも挨拶。
俺は半見習い。火消しの家の子ではなくて毎日数時間しかこないから。かなり珍しいらしいし特別だって。俺すげえ。
根性なしは追い出す、必ずテオの親父の言うことを聞けと言われた。勤務中の火消しの言葉は絶対だから当たり前。
朝から昼まで新しい寺子屋。寺子屋でお弁当を食べて次はテオの親父のところ。火曜と水曜は18時までお世話になる。
月、水、金は剣術道場の稽古開始時間の16時に間に合うようにする。その日は19時まで稽古。帰ったら寺子屋の宿題。
いつ遊ぶの? と聞いたら日曜日は休みと言われた。サボったら遊ばせないと言われた。
「ネビー。格好ええ男になりたいんだろう?」
「父ちゃんみたいなチマチマより火消しや兵官だよ! 皆目指さないのは根性なし? 俺は頑張れるぜ!」
「そうか。期待しているし応援するからな」
にっこり笑う親父に頭を撫でられてうんと嬉しかった。
最後は剣術道場。来月から通う。約2週間先からだ。
歩いて行くとどんどん大きな家が増えて「何かすごそう」と思った。
大きな家は街中にある。父のお店もそうだ。でも違う。人があまりいなくて静か。家も塀に囲われている。
剣術道場はうんと広い場所だった。剣術——ちゃんばら——をする道場に案内された。祖母より若いくらいの綺麗な人で緊張。
俺に剣術を教えてくれるデオンという先生の奥さん。街でたまに見かける立派な着物姿。金持ちだ。
この剣術道場は未成年と成人の道場と分かれているそうだ。
「こちらが未成年用の稽古道場です。少々お待ち下さい」
「すげえ。父ちゃんすげえ!」
俺より小さい子も大人みたいな人もいる。全員兵官に似た服。でも上が黒い。格好良い!
正座して並んでいる。10人が3列と2人。32人だ。
「ネビー大きくて広いからかすごいのか?」
「父ちゃん。皆兵官になるの? あの服格好ええよ! あれなら俺も正座する!」
「皆はならない。静かにしなさい。稽古中だ」
「はーい」
「はいは短く」
「はい」
デオンが親父と俺のところへ来てくれたので挨拶。タカみたいな顔で怖い。背筋がピンっとしていて怖いのに格好ええ。
「稽古前の挨拶時間が終わったところです。もう少し早く到着するように調整して下さい」
「はい。すみません」
「話は聞いています。自分は普通に稽古をします。事前に説明しましたように私や兄弟子達がしっかり教えます。気が変わるかもしれませんので本日は見学をどうぞ」
「よろしくお願いします」
親父の真似をして頭を下げて案内された道場の隅へ行く。
何をするのか見ていたら道場内をまず掃除。次は体を動かして走る。
それから竹製に見える剣を振る。俺が遊びで振るのと全然違う。すこぶる格好ええ。
「ネビー。父ちゃんがあの竹刀を作るからな。全部は無理だけど手伝って作る。立派になれよ」
親父はまた俺の頭を撫でてくれた。俺は剣術道場の稽古に夢中で返事をしなかった。多分。頭を撫でられて嬉しかったのは覚えている。
翌日、俺達家族は同じ長屋の端の方へ引っ越した。部屋は2間になってかまどもなし。
まあ家族は皆いるから何も変わらないだろう。