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完全に帰宅

 実家からの帰り道、ロイに何もかもを感謝しながら帰宅。


「あはは。またネビーさんイビリします。自分が食べたいリルさんのお弁当にぶつくさ文句。部屋に飾りたくなる季節の飾りも庭にポイーだったので」

「ロイさん、本当にありがとうございました。最後、ルル達がうるさくてすみません」

「泣き出した時はどうしようと思いました。リルさん、自分は嬉しいけどそろそろ旦那様に戻さないと家でうっかりしますよ」

「はい。気をつけます」


 今風の手繋ぎももう間も無く終わり。


「ネビーさんは義理の兄弟で同じ剣術道場なのに気まずく会釈もなあと思っていたので、お互い少しずつ話せるようになれればよかです。リルさんの為だけではなくて自分の為です」


 また北区言葉使ってる。


「はい。ありがとうございます。イビッて悪させんようにして下さい」

「奉公人から独立。稼いで商家。そこから大商家。ネビーさんは大活躍すると豪家。そこから大豪家。今のうちから接待しておくと大金持ちの親戚がよくしてくれるかもしれません。下心です。リルさんの言う大宴会に繋がります」

「ずっと川歩き牛車や赤鹿車に乗れるくらい稼いでくれたらお義父さんやお義母さんも行けます」


 世の中そんなに甘くないと思うけど夢は膨らむ。絶対無理、ではないのも知識が増えたから分かる。

 今回の旅行でひょんなことが思いがけないことに繋がることも知った。


「卿家はそれがないですから、上手く根回しするとこちらの親戚達も少しずつ援助すると思います。特にネビーさん。兵官内での実力は知りませんけど評判よしで強いとなると父が私兵派遣しますね。ネビーさんはそのうち父にこき使われます。今夜のはイビりだけではなくて本当に練習です」

「私兵派遣ってルシーお嬢様に女性兵官さんが護衛についていたようなことですよね」

「そうです。ネビーさん。妹の父が煌護省勤務なのにそういう考えがサッパリなさそうなのはなぜかと思っていたらまさか知らなかったとは。練習なんて言いましたけど、あれより強く言うと思います」


 兄は兵官になるらしく勉強のためで毎日出掛けている。熱心に剣術道場に通っている。

 早いと12歳で奉公人になるのになぜ兄はまだ働かない。忙しいし両親が決めるからいいか、と考えていた。

 何かを知ると芋づる式に気になることが出てくる。

 今はよいと言われたけど、隙間時間なら聞いてもよいかもしれない。あとはルーベル家ではなくて両親に聞けばよい。


「強く言うはお義母さんがお義父さんに言って、ですか?」

「おっ。リルさん、我が家のことを少し理解してきましたね。ネビーさんは去年で半人前兵官卒業。リルさんを本格的に認めたようだし、様子見をやめて呼び出す気がします」


 ネビーは元服の年は試験に落ちて17歳で兵官になり3年間見習い扱い。

 凖兵官から第3等正兵官というものになったとロイが教えてくれた。


「父は面倒臭がりなので、お前の義兄だからお前が言えと言いそうな気がしています。なので今夜は先回り。もう言ったので父上からも言うとよかです、と父にネビーさんイビリをさせます」

「それもお弁当の恨みですか?」


 ロイは悪戯っぽく笑って首を横に振った。


「父にイビられたネビーさんは自分に相談すると思いません? 1人っ子でしたので義理でも兄弟はよかだなあと。ネビーさんは自分の1つ下。どっちが兄になるやら」

「どう考えてもロ……旦那様です」


 私達は自然と手を離した。そろそろそういうタイミング。寂しい。

 方法は分からないけど、ご近所に今風だと広めよう。

 根回しは大事だと学んでいるから色々根回しをする。実家のこともロイと相談しながら考える。

 ルーベル家へ帰宅して今度は義父母へご挨拶。帰宅の挨拶後に浴衣に着替えた。ロイがかめ屋でお風呂に入ったことを伝えたので浴衣。


 居間で上座に義父母。2人は好きに座った。私達は下座で正座。ロイが準備したお土産を包んだ風呂敷は私達の間。


「リルさんの実家に華やぎ屋さんの宣伝を頼む関係で遅くなりました。ただいま帰りました父上、母上。この度は大変素晴らしい旅行を贈っていただきありがとうございました」

「お義父さん、お義母さん、ありがとうございました」


 ロイと2人でお辞儀。ロイのようにピシッと背筋を伸ばすことを意識。


「2人とも無事で何より。疲れているだろうから楽にしなさい。跡取り息子を岩山へかあ、と悩んだけど可愛い子には旅をさせろと言うし、困ったら帰ってくるだろうと見送った」


 義父はにこにこしている。義母は顔をしかめている。この差はなんだろう。ロイが足を崩さないので私も筋肉痛我慢。


「元気そうですけど何か困ったことはなかったですか? 身分証明書で大抵のことは何とかなると思いましたけど心配で心配で。怪我はしてないですか?」


 義母の表情は心配だったのか。


「腹を決めて見送ったが、ソワソワするから自分達は日を改めてのんびりしようと休みを変えた。かめ屋宿泊は来月にする」


 そうなんだ。かめ屋ではそんな話は聞いていない。


「2人とも元気いっぱいです。かめ屋で何も言われなかったですけどそうですか。それはよかです。明日もかめ屋に呼び出されていて接待してくるので、色々贔屓(ひいき)してくれると思います」


 まだ北区言葉がでてる。


「はい。私も行きます。旦那様と2人でかめ屋接待です」


 義父母は顔を見合わせた。


「いやあ、この旅は色々ありました。その関係です。まずはお土産を渡したいと思います」


 チラリと目配せされたので風呂敷を開く。事前に軽く打ち合わせしてある。


「まずは華やぎ屋にしか卸していない純米大吟醸牡丹光です」


 ロイが机の上に酒瓶を置いた。荷物の底にあって知らなかったもの。私の実家のお酒もそう。

 小さい酒瓶3本だと思っていたので驚きの重さ。

 川歩き牛車を降りた後、歩かないでまた牛車、もしくは馬屋を頼むべきだったと思うけど「無理ならそうしようと思ったけど意外にいけました」らしい。

 ロイって力持ち。毎日の鍛錬に仕事での鍛錬の結果だろう。


「一升瓶とは重かっただろう。懐かしいなあ。食前酒で飲んだ酒だ」

「ええ懐かしい。まだあったのですね。こんなに重たいお土産をありがとう」

「伝統看板酒なので飲んでいるかなあと思いました。それでこちらは頂き物です。いやあ、自分もリルさんも大変だったんですよ。華やぎ屋さんとかめ屋にまんまとはめられました」


 ロイはそう言うと足を崩した。私は様子見しておく。義母が「リルさんも」と言うまで我慢しておこう。

 嫁姑問題が勃発するとかめ屋関係で助けてもらえなくなる。私には義母の力が必要だ。


「はめられた?」

「リルさんも楽にしなさい。うんと歩いたでしょう」

「はい。ありがとうございます」


 義母はやはり優しい。内緒だと思う嫁姑事件を教わってさらに知った。私は嫁に甘々の義母をうんと大事にする。


「はめられた話は後程。次からが自分達からのお土産です」


 持っているものは古くなっていると思うので、と浮絵2枚。私が買ったものと同じなのは夫婦で考え方が似ているのかな? とこっそり嬉しくなる。

 エドゥ岩の根付けを家族全員分と神棚用で5つ。

 ロイが家族で飲もうと買ったお酒1本——小さい瓶雲山——に夫婦箸。こちらもエドゥ岩を使った縁起もの。柄違いで私達のもある。

 私とロイのお土産は何か1つお揃いのもので、後は思い出だと旅行前から話していた。

 2人で探す時間が無くなってロイが選んでくれたので贈り物みたいで嬉しい。

 残りのお酒、小さい瓶1本「郷の誉」はベイリーヨハネ達職場の同期と、もう1本「華やぎ」は剣術道場仲間と飲むと帰り道に聞いた。


 それから義父に偽餌のついた釣り針——南地区で見たことがなかったから——と義母に茶会で使って下さいとエドゥ山が描かれた薄茶用のお茶碗。

 ロイはベイリーとヨハネは特別な友人だからとベイリーに義父と同じ釣り針、ヨハネに義母と同じ薄茶碗を買ってきている。

 私はルリ、クララ、エイラへのお土産は片栗粉と片栗料理と思っていたけど、ロイは3人分のエドゥ岩の根付けを買ってくれていた。

 私にお土産を買う時間がないかもしれないし、被っていたら友人に渡せるから良いと思っていたらしい。片栗粉な気もした、と言ってくれた。


「最後は御三家宿屋ユルルで頂いた手土産です。接待の結果手に入れました。寒いから日持ちすると聞いたので持って帰ってきました。以上です」

「こんな形の釣り針は見たことがない。こんなに色々ありがとう」


 義父はずっと釣り針に夢中。


「嬉しいけどきっと友人達にも何か買ってきたんでしょう? なのに私達にこんなにあれこれ。二度と行けないかもしれなくても、散財してきましたねえ」


 茶碗を眺めてニコニコしていた義母の表情が変わり、軽く睨まれた。ロイ、私の順。


「いえ母上。堺宿場では夕食をご馳走になり、赤鹿車に無料で乗り、赤鹿に2回も無料で乗り、宿屋ユルルの入浴代も無料。地獄蒸し料理は他の観光客と協力して安くして、帰りの安宿では大部屋で雑魚寝と節約しました。この浮いた宿代は父上にお返しします」

「旦那様、怪力山歩き牛車代も3人で安くなりました。人力車も2店舗乗り放題の無敵です。昨日の昼食に夜食に朝食代も浮いています」

「そうでした。他にありましたっけ? この旅は色々ありすぎです。代わりに接待が降りかかっています」

「そりゃあどういうことだ」

「そんなに何があったんですか」


 ロイは「宿屋ユルルの手土産を肴に軽く酒盛りしましょう」と私に目配せ。


「準備します。雲山は冷ですか?」

「自分も手伝います。雲山はまた後日で今夜は純米大吟醸牡丹光を少し横領します。量が少ないので盃。薬缶で温めましょう。宿屋ユルルの料理に純米大吟醸牡丹光で父上、母上も旅行気分になれます」

「はい」


「さっきから接待、接待ってなんだ?」と義父から質問されて私とロイは顔を見合わせて肩を揺らした。

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