実家にお土産3
ルル達登場。代わりになぜか泣き続ける父が向こうの部屋へ追い出された。
ルル達はロイ効果か母の事前教育か大人しめ。
ロイの「質問は1つ1つ、それで順番に質問したり話をしてくれないと返事が出来ない人もいますよ。自分です」という台詞が効果絶大だったのかも。
1人でこの長屋へ来た時にわーって話しかけられたりペラペラ喋られたら頑張ってこう頼もう。
浮絵を見ながら思い出話や宣伝話。
「姉ちゃん本当に私も行けるの?」
「ルルさんの元服祝いか結婚祝いに行けるとええですね。その頃にはあれこれ変わっているでしょう。まずはお義兄さんとお義姉さんが新婚旅行ですかね」
「ロイさん、うちは無理です。何もなければ来年から子育てです」
義兄ジンの発言に私は目を丸くした。姉は嬉しそうに微笑んでいる。
「えっ、あんた。ルカ。私はそんな話は聞いてないよ」
「うん。だって多分だから。違うのか、そうだけど流れるのか何も分からない。1ヶ月半以上月のものが来てないってだけ」
「それなら分からないね」
「うん」
「お義兄さん、お義姉さん。おめで……はまだ早いですね。数ヶ月後に改めてお祝いの言葉を贈ります」
「ありがとうございます」
嫁にいって縁切り状態になったけど、認められつつあるから逆に家族が増えるということ。父は頼りにならなそう。ぼんやりネビーも同様。
私は母と姉夫婦と根回しをする。かめ屋もだけどやること増えた。
レイが「赤ちゃん生まれるの⁈」と騒ぎ出してルルとロカが続き、いつもの小躍りが始まりそうになったので母が「来なさい」と父がいる部屋へ3人を連れて行った。
「姉ちゃん達は足腰を鍛えておいて子育て後だね。でも座り仕事で弱弱そう」
「あんたはちょいちょいそうやって悪口言うよね。牛とか赤鹿でも行けるならお父さんやジンさんうんと稼いでもらって……ネビー、あんただね。兵官ってなんか成り上がれるんでしょう? よく言ってるじゃん。俺はお嬢様と結婚するとか豪邸を建てるとか」
うんうん、と私は姉の言葉に同意した。戦争は危険だけど戦争以外で上手く出世して欲しい。そういう方法はあるのかな。
「それならネビーさんは一刻も早く父に頭を下げて、うんと仕事で使って下さい。教養も磨きますと土下座です土下座。あはは、リルさんと一緒にこっそり眺めます」
「何でロイさんは俺に厳し……弁当の件、本当に恨んでいます? 大体リルの弁当がなんなんですか。弁当を見て気になってリルを探してみたって。リルの弁当って食べにくいしいつも変なものが入っていましたけど。だから考えても分からなくて」
すっかりロイはネビーにはニコニコしている。他の人が話している時は無表情気味だけどネビーとは昔から顔見知りだからだろう。これまでほとんど話したことはなくても。
「リルさんの料理やお弁当は大好評で鼻が高いです。料理は見た目も、という価値観の人は多いです。特に特別な時は」
「私はリルの弁当好きだったけどネビーは嫌だったんだ。これだから食べられればええってガサツ男は」
「自分もです。ルカさんと結婚してからリルさんがお嫁にいくまで、今日はリルさんの当番かなって楽しみでした」
ルカや義兄ジンがそう思ってくれていたなんて知らなかった。やはり会話って大事。私は喋らなすぎだった。あと忙しかったから、こんな風にゆっくりお喋り日が珍しいのもある。
「姉ちゃんもしてたから真似した」
「へえ、そうなんですか。それは知りませんでした。たんぽぽ弁当はお義姉さんかもしれないってことですか。まあ自分はその後リルさんを見つけたので弁当だけではないです」
結婚お申し込みの日にそれを言わなかったのは「付きまといで気持ち悪いから嫌だ」と拒否されたくなかったらしい。
かなり格上の家から「家のために欲しいです」のほうが勝率が上がると思った、とロイから聞いた。
言ってくれていたら「私のことだから、私だからええとは嬉しい」で終了で同じ結果だったと伝えたらロイは嬉しそうに微笑んで……その後のことはいいや。
余計なことを思い出してしまった。
「ずっと気になっていたんですけど、ロイさんはわざわざリルを選んで嫁に望んだということですか?」
「そうなんだルカ。信じられるか? ぼんやり無口でこの顔のリルをだぜ? ルルなら分かるけど。いや、喋ってるか。それに垢抜けたしな。相変わらず親父みたいな顔だけど、まあ悪くないくらいにはなっている。髪型や化粧だ。いつもボサボサ頭だったからなあ。まあ何もない家だったし」
「ネビーさん。そういえば質実剛健の意味は分かりますか?」
会話の流れを切る質問。ネビーは目を泳がせている。
「お義姉さんの体調もありますからそろそろ帰ります。長居しました。楽しかったです。ありがとうございます」
これを言うためにネビーに質問したんだ。延々と続きそうな会話を終わらせて言いたいことを言う方法。私も真似しよう。
全員でお別れの挨拶。義兄が襖を開けて隣の部屋の皆とも挨拶。見送りのために全員家の外に出てくれた。
ロカが「姉ちゃんと兄ちゃんと行く」とぐずりだして母に抱っこされて家の中に連れていかれた。
「姉ちゃん、いつ出戻りしてくるの? 皆言ってるよ。リルちゃんはどうせすぐ出戻りだって。姉ちゃんが帰ってこないとレイ達寂しいから早く出戻りしてきて」
私はレイの発言に驚いてしまった。
「そうだよ姉ちゃん。レイが言う通りだから待ってるのにいつ帰ってくるの? 兄ちゃんも来るんだよね? 結婚したからルカ姉ちゃんみたいに近くに住むんでしょう? どこにいるの? お父さんもお母さんも教えてくれないの」
「姉ちゃんに会いたいから教えてって言うと、行ったらダメってゲンコツされる。ルカ姉ちゃんも姉ちゃんはそのうち会いに来るから黙って大人しくしてなさいって。姉ちゃんと遊びたい時に遊びたい。ロイ兄ちゃんとも遊びたい」
何か色々誤解されている気がする。学がない、言葉の意味を正しく知らないとこういうことになるのか。私も何かで誤解をしてそう。
ルルとレイは私にしがみついて泣き出してしまった。
「ルルさん、レイさん。リルさんは出戻りしません。させません。リルさんが自分のお嫁さんではなくなってしまうからです。いつでもは会えないけど落ち着けばもっと会えます。そのうち我が家へ遊びに来て下さい」
少しためらう様子を見せてから、ロイはそうっとルル、レイの頭を撫でた。恐る恐るという様子。
「これはお母さんや私が悪いわ。すみませんロイさん、リル。ルル、レイ、そんなに分かってなかったんだね。出戻りは悪口だよ。忙しいからって姉ちゃんが悪かった。悪い手本見せたのも悪かった。リルは家に帰るからおいで。年末に会えてもう会えたからまたすぐ会えるよ」
「お母さんがお行儀よくしたら姉ちゃんといっぱい遊べるって言ったのに嘘つきで追い出した! ルカ姉ちゃんもお母さんを叱らないなんてバーカ!」
「レイ、うんとお行儀よくしたのに怒った! 姉ちゃんと全然遊んでない! 少ししかお話してない! 温泉まだ聞きたい! あの街のこと知りたい! ジン兄ちゃんもルカ姉ちゃんも嘘つき! 嫌い嫌い!」
うええええん、と泣きながらルルとレイが逃亡。誰も追いかけない。ロイがえっ? えっ? とおろおろしだす。
「姉ちゃん、今のうちに帰る」
「そうだね。何で追いかけてこないのってすぐ戻ってくるから今のうちだ」
「そうなんですか」
うんうん、と義兄、姉、私は頷いた。ネビーが「まあ一応探すかなあ」と頭をかく。
ロイを促して帰ろうと歩き出したら背中に「リル姉ちゃんまだ寝る時間じゃないから遊ぼう!」とか「ロイ兄ちゃん花札して!」と大声がぶつかったので早歩き。
ネビーの「俺が遊んでやるよ」の声と「兄ちゃんは明日! 足くさ兄ちゃんは明日で今日はリル姉ちゃん! ロイ兄ちゃんとも遊ぶの!」という声。
チラッと振り返るとルルとレイはネビーの腕に抱えられてジタバタしていた。