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宿屋無限塔と宿屋エドゥロン

 宿屋無限塔はルーベル家に外見内装が少し似ていた。受付部屋には入れず、(うち)のような門から大きな広場に出て、右側へ案内されてそこに宿見本。

 他の見物客何名かと一緒に見学。従業員がくっついて説明してくれた。

 2階建て。2階には水車でお湯を汲み上げて部屋風呂。そこから階段で続く庭園の露天風呂にも行ける。見本なのでお湯はなし。水車も回っていない。


 台所があって煙突がついていて地獄蒸し体験をいつでも従業員が対応する。ここも見本なので温泉蒸気はない。

 庭からは岩山エドゥを見上げられ、見本部屋からは見えないけど無限塔のお客しか見られない崖景色や滝などを見られるという。景色は部屋ごとに違うそうだ。


 調度品は立派。囲炉裏付き。御帳台(みちょうだい)という華やぎ屋のお部屋にあったような布で囲まれた寝る場所と台があった。

 平家気分を味わいつつもこの宿としてのそれなりのおもてなし——つまりうんと贅沢って意味だな——がこの宿の売りとのこと。


 宿を出て、徒歩でも近いらしいけど宿屋エドゥロンまで再び人力車。

 乗り放題だし、御三家前には常に人力車が待機しているから沢山お世話になる。

 2店舗の乗り放題札を手に入れた私達は無敵な気がする。


「無限塔は観るならどうぞ、くらいですね。大浴場は勧められましたけど。御三家だから客引きなんて必要ないということです」

「宿屋ユルルにも地獄蒸し体験小屋があるとルシーお嬢様に聞きました。きっと宿屋エドゥロンにもありますね。でないと負けます」

「無限塔の名前はあの6つもある大きい塔と、街の入り口の門の柱みたいな太さの黒い塔のことでしょう。何の説明もありませんでしたね」

「はい。是非ご宿泊してご確認下さいって教えてくれませんでした。怪力山歩き牛車から見えた塔のいくつかは絶対にあの塔なんですけど何も分からずですね」


 華やぎ屋みたいに「いつか出世するお客様」みたいには扱ってくれない宿。

 友人知人に自分達の宿を広めて欲しいという感じもない。御三家だから必死にならない?

 私は貧乏育ちだしそういう家に生まれたから「家族皆で工夫して我慢してたまに贅沢するぞ」が好き。

 学のない私に何でも教えてくれるルーベル家や嫁友達も好き。

 調度品などは無視するとして卿家に似た部屋。

 なので私は無限塔にあまり興味を持てず。ロイも「庶民だから華やぎ屋みたいに誰にでも華やかさを、の方が惹かれます」と口にした。

 卿家と貧乏長屋住まいも同じ庶民に少し納得。


 その次、宿屋エドゥロンは無限塔とは真逆でド派手だった。

 入り口は宿屋ユルルと似たように地味でちんまりして木々で隠れていたのに、門をくぐった先に赤系の物で作られた大きな2階建ての建物と塀。

 これだけが宿とは勘違いしない。それなら華やぎ屋は負けない。なんとこれで門、玄関。

 池が間にあって白い橋で渡れるようになっている。橋は3箇所。

 橋の手摺りには龍神王様らしき彫刻が並んでいる。


「ロイさん、噂の他国のお城ですか? これで門か玄関ですよね?」

「城は知らないですし、絵で見たことのある建物の中にこのような形や色の建物はないです」

「ここを歩いていいんですよね」

「先程門の前で共同手形を見せましたし、入浴希望者は中で従業員に声を掛けて下さいと言われました。リルさん、自分の空耳でした?」

「いえ、私も聞きました。でもここを歩いていいのかなと」


 周りの見学客らしき人達か宿泊客は皆橋の上から池を眺めているので私達も移動。

 

「旦那様、水が澄んでいます。浅そうです」


 ロイさんはやめておく。今風の手繋ぎもしない。そういう雰囲気。


「リルさん、色のついた魚が泳いでいます。大きいというか長いです。これ、高級コイではないです」

「コイって高級コイがいるんですか?」


 私は黒っぽいコイしか知らない。川で釣れる。少し臭いけど工夫すれば食べられる。ごちそう。

 兄は釣るのが上手くて私は下手。なかなか引っかからない。

 食いついてやったと思っても、よろよろして川に落ちそうになったり、ルルとレイとおりゃあと釣るから大変。

 ロカは邪魔。

 大変な分釣れた時の喜びはすごい。

 皆で歌って小躍り楽しかったな。海釣りにルル達もと言ったら義父はどう反応するかな。

 ええと言われたらお小遣いで2人の立ち乗り馬車代を払う。うるさかったらあさり堀りとかイソカニ集めをさせておこう。ロカはまだ小さくて邪魔だから大きくなるまでお預け。

 よく考えたら釣りは前から趣味かも。疲れるし釣れないといじけて嫌いだったけど、何度も挑戦していたし釣れたらウキウキして楽しかった。


「中央区で見かけたことがあります。高級コイは白と赤のまだらです。あと金色というか黄色も見ました」

「この魚は白いけど点々が青に赤に黄色に緑に色々混じっていますね」

「何て魚でしょう。それにしてもこの池、まるで水の中に庭があるようです。海藻の仲間ですかね?」

「ロイさん、あの浮いている緑色の紅葉みたいな植物は何ですか?」

「いやあ、分かりません」


 2人でため息。人は感激するとため息を吐くと今回の旅で学んだ。私は連々々滝の時より今の方が衝撃的かもしれない。

 ここは明らかに人が作り出した場所だからだ。これも庭っていうのかな?

 でも庭だ。澄んだ池の中の庭。それで不思議で綺麗な魚が泳いでいる。あれはなんか食べてはいけない気がする。特別な魚に見える。飢え死にしかけた時にだけ食べる。

 よく見たら建物の入り口に若い男性従業員が立っていた。

 黒い着物に白い帯で羽織は朱色。目立つのに目立っていなかったのは庭のすごさだ。


「旦那様、お風呂を覗いてみたいですね。というかお城の中」

「温泉に入り過ぎると温泉疲れする言いますけど、宿屋ユルルの入浴料代が浮きましたからね」

「夕食の時間に間に合います?」

「無理ですよね」

「明日帰る前に来ますか?」

「はい。そうしましょうか。夕食後はユルル、自分は寝る前に華やぎ屋の大浴場。明日の朝はここで、帰る前に華やぎ屋。あの接待後なので退宿後でも使ってええと言ってくれるでしょう。ここの分節約しましょう」

「そうですね。太客接待しましたから遠慮なく。私も寝る前に華やぎ屋の他のお風呂を覗きます」

「一応、どのようなお風呂が外客用なのか聞きますか。宿屋無限塔は滝見崖風呂と言っていましたね」

「それも少し気になりますよね」


 少し。やはり私と同じ意見そう。

 代々続く名家はきっと宿屋無限塔を気にする。

 兄が成り上がって大金持ちになったらこの宿屋エドゥロンに張り切って泊まるだろう。そういう雰囲気。

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