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接待(基本聞いているだけ)

 華やぎ屋へ到着。ジュリー達を左側の椅子へ促し、従業員に「本館宿泊のルーベルですが女将さんか旦那さんをお願いしたいです」と伝え、ロイから渡された紙を渡した。

 

「お母様。愛くるしい吊るし飾りです。小さな門で庭園もない代わりにこのようなおもてなし。騒がしい待合で待ちながら足湯とは、いきなり個室へ招かれるよりも楽しいです」

「まあまあ、そう言わないで。お父様が貴女のためになんとか特別室を取りました」

「ええ、ええ。ソアレ様も泊まられたお部屋とは大切な話題です。しかし共同手形で他のお宿も観光しておくのも話題が増える気がしてきました。名所を押さえておけばよいという考えは浅はかでした」


 ふむふむ、とジュリーの隣で話を聞く。ジュリーは最後の家族旅行だけど仕事でもあるのか。

 お出迎え広場はダメ。庶民向けのお風呂屋もおそらくダメ。お嬢様だから不自由。

 ソアレ様って大饅頭屋で聞いた皇女様の名前だ。ジュリーは皇女様と会えるんだ。すごい。

 女将だけではなく旦那もきた。夕食の時にご挨拶しますと聞いていたけどここで彼とご挨拶。


「騒がしい待合で待つのが楽しいと言っていました」と一応伝えておく。

 それでなのか2人はジュリー母とジュリーと挨拶をした後に本館の受付部屋、他の人達と同じところへ案内した。

 使用しているのか知らないけどかめ屋に応接室があったからここにもある気がする。


「特別本館個室風呂付きの赤牡丹の間、本館内、玄関右手側の別館、館内全ての大浴場、それから貸衣装をご用意致しました。夕食会場ではいつでもお茶やお菓子をご用意致します。それから従業員を2人付けますので何かございましたらお申し付け下さい」

「急な来訪ですのにありがとうございます」

「宿屋ユルルさんへの荷物のやり取りや伝言なども承ります。どうぞごゆっくりお楽しみ下さい」


 旦那はロイと同じく喋ってはいけないのかも。

 女将が全て対応。ジュリー母が「お代は全て宿屋ユルルの特別室花の間へ請求して下さい」と告げ、女将が「宿屋ユルルさんの共同手形でお越しのお客様からは本館大浴場入浴料のみいただいております」と返事。

 旦那、女将の2人ともほくほく顔。金よりツテ、次の客ということ。だからこの宿の全てを見せる。

 ジュリーが「こちらの貸衣装から楽しみたいです」と告げて従業員が案内を始めた時、女将が私に「ルーベル様も頼みます」と耳打ちされた。

 ロイと私は客だけど普通の客ではない。

 働くぞ!


 こうして私はジュリーの自由にお付き合い。まずは貸衣部屋。ジュリーはうきうきして見える。

 そうしてついにジュリーの名前と顔が判明。ルシーはフィズ様のお妃様のような天女のような美人ではなかった。あと私の中でもうジュリーで定着している。

 美人は美人で2重まぶたの細目で垂れ目で黒目が大きく色っぽくて、のっぺり顔の私とは雲泥の差。

 両親の特徴をあちこちもらったようなお顔。

 手足は長いし白い肌は全身艶々ぷるぷるもちもちして見えるし同じ生き物と思えない。

 気をつけないとだらしなく見える邪魔な私の胸と違って、おさまりのよい形の綺麗なお胸にも憧れる。


「お母様、庭園はないのかと思っていたらありましたね。噂の皇居内参拝道のベルル庭園の模倣かもしれません。朱色の渡り廊下に牡丹柄とは似ています。こぢんまりしていますが愛くるしかったです」


 ジュリーは浴衣をとっかえ引っ換え中。

 私と既に着替え終わったジュリー母は椅子に座って従業員が用意してくれた華やぎ饅頭を食べたりお茶を飲んでいる。

 なんとか式典とかなんとか祝祭とか頭から溢れたけど、ベルル庭園は覚えた。ロイや義父母に聞く。


「やはり梅にします。リルさんは冬なのに葡萄栗鼠文(ぶどうりすもん)とは何か理由はございますか?」

「義母が譲って下さった大切な着物の柄と似ているので選びました」


 夫がつつくからとか、リスリスからかって楽しくなる時があるからとは言えない。


「まあ。そのような選び方もあるのですね。そうですね。四季折々ですし、ここには季節がなんのと陰口を叩く方はいません。それならお母様と初めて繕った着物と同じ桜柄にしましょう。お母様、お揃いでどうでしょう?」


 それを聞いたジュリー母は「ええ。着替えます」とにこにこ。

 娘が機嫌良さそうだからずっと笑っているけどさらに素敵な笑顔になったように見える。

 こうしてジュリーのお着替えは終了。旦那や女将の手配か帯揚げや髪飾りも用意されていて、ジュリーは私の髪型を真似した。というか私がした。


 肩下くらいの私とは違って腰まである髪からはうっとりするような甘い匂いがした。

 ジュリーは鼻歌混じりで母親の髪も同じにした。お嬢様も髪を結えるし鼻歌するんだ。

 彼女は皇女様の髪を結うのかもしれない。動きが上品中の上品。義母の所作を美しいと真似して上手く出来なくて大変なのに、さらに上の上品があった。


「お母様、これで私は庶民の奥様風です。危ないから着物は着ない方がよいとなるのだから、いきなり旅装束になるのではなくこのような貸衣装もご用意しておいて欲しいものです」


 これ、後で女将に伝えておこう。


「そうですね。しかしそれを伝えたらこの宿のお客様が減るかもしれませんから秘密にしておきましょうか」

「ええ、そうですね。それではまず平家の方々が泊まられる別館を見学致します。用意して下さったお部屋も気になりますし、あの橋の上でお茶もしなくては。このお宿の雰囲気ですとお風呂も見学ではなく確実に入浴です。門構えと玄関に騙されました」


 接待簡単かも。何も言わずに全部見てくれそう。

 ジュリー母とジュリーが楽しそうに話す後ろについていき、うんうん頷いて、話を振られたら一緒懸命話す。

 楽しさに水をささないように注意だな。私は喋るより黙る方が得意。大丈夫なはず。


 別館の受付部屋は賑やかだった。簡易宿所の客も使えるからだ。本館受付と全然違う。

 牡丹の吊るし飾りや壁に色とりどりの風車。赤い布が敷いてある長椅子があちこちにあり、そこに私が持つ日傘と同じ色、黒い縁に赤の大きな傘。

 花瓶に生けられた牡丹が3つ。ご自由にどうぞと水飲み場と湯呑みがある。

 水飲み場は水路の途中にあり、小さな水車で水を汲み上げて、また水路に水が落ちて建物の外へと続いている。水路の上にも牡丹が並んでいる。

 お土産屋もある。握り飯と漬物も売っている。

 さらにひっつみ予約販売中ののぼりが立っている。簡易宿所の客に夕食朝食を買わせようということだろう。

 橋の上の渡り廊下はなくて、右側へ進むと全館共同大浴場。その向こう側は別館。入り口脇に従業員が座っていて、にこやかに挨拶をされたけど見張りだろう。


 別館は本館の庭と同じ造りだけど単なる四角い廊下。その中央に3階建ての本館より少し大きい建物。

 灯籠(とうろう)はなくて提灯だけ。その数も少なめ。

 庭には白い石が敷き詰められていて、牡丹の花壇が沢山ある。そこに木が少しと背の低い垣根などに石。

 ここの庭には川が流れている。湯気が出てるから温泉だ。足湯出来るみたいで池みたいになっているところに椅子と屋根が造られている。

 本館と違って別館の庭は散策してよいみたい。


「平家の方々にも美しい庭をと工夫されていますねえ。こちらにだけ足湯がございます。先程通った受付部屋は賑やかで楽しかったです」

「そうですね。華やぎ屋という名前らしい内装ですね。格上のお客様には宿として精一杯用意出来る庭や個室を用意。手広く商売出来るのは土地を広く持っているからこそ。老舗でしょう」

「それでお母様。こちらの館内案内本には簡易宿所なる大部屋がありまして、1人たった3大銅貨です。これが噂の川の字寝です。梅民の方々も泊まれるようです。あの見張り手前のお風呂に入れると」


 ジュリー母娘は館内案内本を見ながら興味津々という様子。私も聞いていて楽しい。

 彼女達の中で下流華族層は庶民、私達中流層は平家、その下は梅民みたい。新しい知識だ。

 梅って松竹梅の梅?

 松民、竹民、梅民ではない不思議。


「こちらの別館のお客様は着物に半幅帯に帯揚げ。羽織は短い。どうしましょう。お母様、どちらで観光致します?」


 そう。別館のお客用の貸衣装は義母に聞いていた通りだった。別館全員ではない。別館の一部のお客が対象。洗濯もそう。

 小紋は3種類。半幅帯と帯揚げは古着らしく色々選べる。牡丹柄の半襟を使える。それで朱色の短い羽織。この羽織には華やぎ屋の文字はない。

 それでタビと下駄も貸してくれる。下駄は木そのもので鼻緒は黒。

 私はこっちの格好も出来る。つまりジュリーも。


 寒かったら洗濯を頼めない分の肌着を重ね着して風邪をひかないようにと言われていた。

 夜寝る時の浴衣は家の浴衣と同じようなもので紺色に赤か青か黄色の牡丹が1つ染められているらしい。

 私は新しい本館の浴衣と交換。暑いかもしれないから寒くない時期用の浴衣とも交換可能。もちろん係台で頼むと別館の浴衣も使わせてくれる。


「使いたくなるような半幅帯と帯揚げはこちらのみ。それから別館の大浴場には洞窟風呂なるもの。別館へのお誘いですねえ」

「部下などに紹介して下さいと言わんばかり。この旅館はやり手。端から上流しか相手をしない御三家とはまた違った趣で楽しいですね」


 大浴場はまだきちんと見ていなかった。洞窟風呂なんてあるんだ。今夜と明日の朝で本館別館両方行けますね、とロイと話していた。

 簡易宿所用の大浴場も覗いてみてサッと入るのもあり、なんて話もしていた。

 ユアン達が宿泊を決めていたら、ランとまた会えるかもしれないし。


「お父様とのお約束の時間や他にも観光したいところがありますから衣装替えや全てのお風呂を堪能は諦めます。洞窟風呂はハオラも入りたいと言いそうですし、まずは本館の大浴場に致します」


 という訳で私達は本館に戻った。別館の受付部屋から繋がっていて、また橋を渡って川の向こう。

 私はロイ達が華やぎ屋へ来たらジュリー達とお別れの予定。

 

 いざ、ジュリーと本館大浴場!

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