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昼食

 足湯をしながら皆で地獄蒸し料理。何もつけなくても少し塩っぽい味がする。

 貝や海老の匂いがうつっている。道を歩いている時は別に美味しそうとは感じなかった温泉の香りも、こうなるとなんだか美味しそうに感じるのはなんでかな。


 白菜はとろとろでとても甘くなっている。芯まで柔らかい。

 冬キノコはぷりぷりしているし、タルタ芋はホクホクに加えてとろっと崩れる。

 固い人参やれんこんもしっかり柔らかくて、元々の素材の味とは違っている。

 アサリを大きく平べったくしたナージ貝の身はまるっとしていて大きくて食べごたえがある。出汁がとっても出た。そこでお醤油ぽたり。

 握り飯もいつもと違う味で、さらにお醤油ナージ貝と相性ばっちり。


 ティエンがナージ貝のだし醤油に握り飯を突っ込んでお米がポロポロ崩れて、食べるのが大変になった。

 ロイはお箸でナージ貝の身にだし醤油をつけて握り飯につけるという技を披露。

 ティエンは3個をペロリと食べたように見えた。兄もそうだったけど、やはり男の子は食べるな。

 もしも男の子を産むことが出来たら、今後も食費を節約して採ってきたもので嵩増し必須ということ。

 エドゥ海老にはお塩を少々。少しボソボソしているけど噛めば噛むほど味が出る。


 ユアン一家はお喋りしながら食べるけど、私達は基本無言。先に言っておいた。

 ロイはこれまでの教育の結果だろう。私は単に食事に集中するから喋れないだけ。


「リルさんも最後はたまごですか」

「はい。お義母さんが黄身がとろとろ。家で作る半熟たまごはこうならないって言っていました」

「父もたまごは買え。他のものを節約してたまごだ、と言うてました」


 ユアン達も私達を待っていたのか、まだたまごを食べていない。

 よし、と全員でたまごの殻をむく。その時だった。ティエンが立ち上がり、たたたっと夫婦に声を掛けた。

 ユアン達と似たような旅装束で少し年配。地獄蒸し料理小屋を見上げている。


「あのう手拭い落ちました。地獄蒸し料理は誰かに声をかけた方が安くなるって。同じ値段で5、6人分蒸せるから。向こうのこう、あっちの、あの赤い屋根の奥の通りのお店で食材が色々売ってて安いです」


 ティエンはピューっと戻ってきた。恥ずかしそうな顔をしている。両親がティエンを褒め称え、私達も続いた。


「そういうええ子には饅頭をあげよう。おまけで2つもらったけど自分は甘いものは苦手で。妻はもうお腹いっぱいでしょう。ねえ、リルさん」

「はい。お腹はち切れそうです。握り飯少し食べてもらってよかったです」


 全くもって嘘ではない。お腹いっぱいで幸せ。

 お饅頭2個は最初からこのためな気がするけど、この流れなら遠慮しないだろう。

 3個ではないのはおまけ獲得争いに負けたから。それか私に1つ、ユアン達に1つの予定だったかだな。


「えーっ! お饅頭食べてよかなの? ロイさん甘いものが嫌だなんて変わってる」

「ティエン君。ロイさんは甘いものは栗の甘露煮しか食べません」

「甘露煮以外もたまに。時と場合によっては食べますよ」


 ロイが私に向かって悪戯っぽい笑顔を向けた。

 しかもユアン家族に見えないように、膝の上のリス柄をツンツン触る。

 恥ずかしいことを言わない! しない! と軽く足を蹴っておいた。

 そうしたら素知らぬ顔で足を足ですりすりされた。見えない悪戯やめなさい。子どもみたい。


「栗ですか! 栗なら妹が大きな栗農家に嫁いでツテがあります。妹は栗をたくさん食べたいと言うて奉公に出て、あまり食べられないから山盛り食べるには農家の息子をたぶらかすしかない。そういう剛気な妹で。南地区は分かりませんが中央区へは卸していたと思うので、そこからロイさん家にも届けられるか妹夫婦に頼んでみます。次の秋になってしまいますが大粒の美味い栗です」


「それがよか。卸し途中からなら郵送代が減るし贈れます。親戚の家なので安く買えるか、話をしたら売るには傷がとか、我が家にくるような食べるのに何の問題もないものを無料でくれると思うので贈れます。いやあ、よかったです。お礼ができそうで」


 ランの発言にびっくり。なんか繋がった。ロイと私は顔を見合わせて目を丸くして、肩を揺らして笑った。

 そういう風に嫁になる方法もあるんだ。自分から誰かの嫁になろうとする、なんて発想は私には無かった。なぜ?


「それはありがたいです。秋に父と妻が張り切って鮭を釣りに行って栗拾いにもいそしみました。負担にならない範囲ならありがたく受け取ります」

「ロイさん、また甘露煮を作って栗の殻もお弁当の飾りにします」

「ええですね。午後の仕事のやる気がうんと出ます」


 それで私達は住所を交換。南地区と北地区だと郵送料は高いけど、卸の途中からなら安く済むだろうと改めて言われた。

 彼等が華やぎ屋に泊まって宿泊代が浮くと知ったら、きっと1度は栗を贈ってくれる。北西農村区の大粒栗!

 皆でたまごを食べた。黄身が全部とろとろってしていて溢れそうになり慌てる。

 お塩少しもお醤油ぽたりも絶品。家で作ったゆで卵と全然違う。地獄蒸し料理の温泉の湯気は高熱だから?

 家でも似たものを食べたい。義母と議論と研究せねば。砂時計は役に立ちそう。


「ロイさん、どうにか鶏小屋を建てましょう。ゆでたまご研究が必要です」

「是非お願いしたいです。帰ったらどう安くするか。それからルルさん達がお世話出来るかなど色々確認します」

「はい。ランさん、栗料理で何かええものはありますか? 栗の甘露煮と栗ご飯しか作っていません。家族は皆甘露煮が大好きで」

「それなら栗きんとんはどうですか? さつまいもでかさましするんです。あとは好き嫌いがありますけどお酒の渋皮煮。卿家の方なら料理でお酒を多めに使えますか? うちは日頃の礼だと酒屋から酒をもらえまして」


 新料理!

 私はロイの矢立を借りてランから作り方を教わって書いた。

 その間、ロイはティエンに笠売り男と地蔵の話を始めた。龍神王様の説法の流れで話して、ティエンが知らないと言ったから。

 その間ランに少し愚痴られた。

「うちは貧乏ではないけど火消しはいつ怪我するか分からないから貯金に力を入れています。あと食費がかかってかかって」らしい

 あと火消し仲間とちょこちょこ宴会をするからその出費。それで節約料理をいくつか教わった。

 きゃべつの時期なら千切りきゃべつを塩と昆布で少し味付けしてたくさん食べさせてから夕食とかも聞いた。男の子が産まれてたくさん食べる子なら使う。

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