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東風料理発見

 そら宿の隣のお食事処は「はれ屋」でけっこう大きなお店。4階建てで地下から料理が運ばれてくる。2階は個室で宴会など大人数客用。3、4階は不明。住居かな?

 ここはきっと何でも屋。うどん、丼もの、握り飯にお茶漬けに漬物に煮物、川魚や海の魚の焼物にお刺身。そしてお酒もある。

 たまご料理に明太子やたらこも発見。ただ仕入れ次第という品が多い。

 新作おすすめ東風料理! も気になる。それでなんか安い気がする。

 すぐ下は北区と中央区に北西農村区の行商が集まる市場。晴れていたら観に行きたかったところ。帰りに見られるかな?

 ロイは色狂いを私に止められて不機嫌気味。お品書きが楽しいお店なのに残念な気分になる。


「旦那様、そのですね。何にします?」

「リルさん」


 不機嫌気味ではなく明らかに不機嫌だこの人。無表情に近いけど唇とがらせてぶすくれている。こんなロイを見たことがない。

 人がいるのにこの会話は恥。それを気にしてなさそうなのも不機嫌だからだろう。


「それはその、きれいにしたらですね……」

「リルさんはいつもきれいです」


 えっ?

 私は周りを見渡した。暗くなりはじめてもまだ16時くらい。でもわいわい酒盛りしている人が多い。誰もロイの言葉を気にしていない。


「美味しそうなものが多いですけど安いですし、仕入れの酒も値段からして安物そう。どう見ても大衆酒処です。客層からして誰も気にせんです。もっと淫らな話をしても」


 不機嫌ロイは机に頬杖までついた。背中も丸まる。


「み、み、みだ……」

「何がええですか? ゆっくり決めてください。自分はとりあえず酒を頼みます。寝坊しない程度に飲みます。すみません。この冷酒飲み比べ5種をお願いします」

「かしこまりました」


 ロイの不機嫌は継続。そういえば朝寝坊事件の時にお酒を飲み過ぎたと言っていた。


「朝寝坊した時もこういう酒処で飲んでいたんです?」


 気になるけどわざわざほじくり返す話ではなかったから今まで質問してこなかった。でもタイミングが来た。


「甘いものを克服したらリルさんとヨハネさんみたいに話せるかと思ってぷらぷらしていたら剣術道場仲間に偶然会って。酔っ払ってきてリルさんが帰りが遅くて寂しいと言うかなあ、なんて思ったらどんどん気が大きくなって飲みすぎました」


 そうなんだ。ロイは私とお菓子の話で盛り上がりたいと思ったことがあったんだ。知らなかった。

 寂しいと言って欲しかった、か。

 確かに「リルさん今日は帰りが遅くて中々会えんかったですね。寂しかったです」と言われたら嬉しいかも。

 その時のロイはきっと私を抱きしめたりキスしてくれそう。

 うーん、でも寂しいのは嫌だからわざと遅く帰るのは……でも気が大きくなってか。酒狂いってことだろう。


 店員が来て「冷酒5種飲み比べです」とロイの前、少し机の奥側に瓶を並べた。


「ありがとうございます」


 私からは瓶の色の違いしか分からない。

「少ししたらこちらの空き瓶は回収します」と言いながら店員はお盆に乗せていた、お酒の入った小さい枡5つを瓶の前に置いた。


「他にご注文はございますか?」

「リルさんどうです?」


 ロイはもう頬杖をやめて背を伸ばしている。店員の前だからだろう。でも不機嫌顔。それなら私も不機嫌をしてみる。それで不機嫌な時のお酒を経験してみたい。

 もしも朝寝坊しても華やぎ屋には確実に到着出来る距離。何か事件が起こらなければ。

 まだかなり早い時間で早寝をするからそんなに大寝坊はしないだろう。遅くても10時には宿を追い出される。

 

「私もお酒を飲みます。飲みやすくて甘いものはありますか?」

「それでしたら、女性の方に今1番人気のはちみつ梅酒はいかがですか?」


 はちみつ!!

 梅酒。梅のお酒。そもそもお酒って何で出来ているの?


「はい。そうします。お願いします」

「何かおすすめの……」


 ロイは私の手からひょいっとお品書きを取った。


「とりあえず少し頼みます。本日の刺身おまかせ、明太子……はやめてたらこ、それから……茶碗蒸し? リルさん、たまごの蒸し料理だそうです。すみません、茶碗蒸しはたまごふわふわの仲間ですか?」

「はい。たまごふわふわを小分けにして野菜や海鮮を入れたものです。先月開発しましたがとても人気です」

「リルさん、あんかけも売っていますよ。それにあんかけのところに並ぶ東風料理。知らない名前の料理です。ああ、すみません。梅酒以外は注文全部なしで。妻と一緒に考えて決めます」

「かしこまりました。気になる料理名がございましたら遠慮なくご質問下さい。新作料理は絵と説明書きのお品書きもございますがお持ちしますか?」

「はい。お願いします」


 ロイの機嫌が急に直った。食事の力すごい。ロイが笑えば私も不機嫌顔をしてみる理由はない。良かった。楽しくなりそう。

 2人でソワソワ待って、店員から新作料理の特別お品書きを受け取った。ロイは冷酒を机の奥に並べ、お品書きを2人で見られるように開いた。

 お品書きの絵には色がついてる。分かりやすい。きれい。


「最初は茶碗蒸しですね。たまごと特製出汁を合わせて蒸したもの。その日の野菜、海鮮入り」

「茶碗か湯呑みを使って蒸し器で作れるんですね。提示されてみれば確かに。銀杏とか野菜とか入れてみようとは思っていました」


 これは頼みたい候補にあがった。梅酒がきたけど一旦放置。水で割っても良いとお水と大きい枡も置いていってくれた。


「次は…… あんかけです。スイックと書いてあります。うどんにもご飯にも合う東のとろとろした野菜炒め。有料でその日に仕入れがあれば肉、海鮮も致します」

「旦那様。うどんにもご飯にも合うとはええこと知りました。ああ、黄色があったらええと思っていましたけど時期ならちびもろこし入り。それに食べた大饅頭と違ってキノコが入ってます」


 これも食べたい候補になる。


「マーバフ。豆腐を主とした唐辛子を使った炒めもの。これは辛いみたいですね。これも、とろとろと書いてあります。片栗粉を使っているかもしれませんね」

「辛くない味付けも出来ますとも書いてあります。刻んだ野菜とキノコのみだと安くて、肉入りは高くなりますね。東風料理は炒め物なんですね」

「自分が行ったことのあるお店にはなかったです。違う東の国なんでしょう」


 これも食べたい候補。片栗料理の本を買ったので味を知っている方が作りやすい。


「ミーティアで聞いたら炒め物は平鍋で作るそうです。こう、柄がついていて熱くないように手拭いで持つそうです」

「晴れていたら市場で見つけられたかもしれませんね。帰りに期待しましょう。重すぎなくて予算内なら買いましょう。あんかけは絶対父も好みです。龍煌料理と大きくかけはなれていませんから」

「はい。色々作ります。味付けも材料もお義母さんに相談しながらあれこれ工夫します。このお品書きを見る限り結構自由です」


 燃えてきた。部屋に戻ったら片栗粉料理の本を読もう。


「エグスイック。エグがたまごですかね? たまごあんかけもありましたね。幻のカニ入り、仕入れ海鮮入り、普通のたまごあんかけ。これも工夫していますね」

「海釣りしたら豪華になります。お義父さんと海老を狙っています。イーゼル海老です」

「ああ、そういえばそんな話を2人でしてましたね。詰将棋でリルさんがうんうんうなっているのに、父がペラペラ機嫌良く喋って」

「はい。お父さんの同僚のギルデロイさんにベイリーさんも調べ中で皆で狙います。かめ屋の旦那さんも行きたいそうで休めるか女将さんと相談すると」


 ロイが猛勉強中に私は義父と詰将棋を猛勉強したり、義母と茶菓子の勉強をしたり、数学や漢字や何やら励んだ。

 それを最近話せるようになって嬉しい。


「それにしても全部うどんやご飯に合うんですね。困りましたね。どれも食べてみたいものばかりで」

「旦那様、次が最後です。ミディエドルマ。貝ご飯。たまねぎとニンニクで炒めた味付けご飯を貝に挟んだもの。貝の煮汁で炒め炊きしたご飯は絶品」


 ニンニク!


「炒め煮炊きって確か西風料理のリゾットがそんな説明をしていたような。母がお店で聞いていた気がします。父が不在の日に時折2人で食べていました」


 それは義母に教わらねば。買った本には載ってなかったか今は思い出せない。


「この貝はムルル貝です。海の崖の下の方に沢山いてたまに兄がとってきて貝ご飯や味噌汁にしていました。身は小さいからお腹にたまらないけど出汁は多く出ます」


 つまりこれも海で採れる! 

 でも私には無理だ。お前は無理だからやめろと兄に言われて意地を張って挑戦して海に落ちそうになり、兄が宙吊りにして助けてくれた。

 うーん……あっ、ベイリーなら採れそう。色々料理するから採れたら採って欲しいと頼んでみよう。ますます次の海釣り燃えてきた。


「へえ。ムルル貝なんて初めて知りました」

「旦那様が知らなくて私が知ってるなんて鼻が高いです」

「ふふっ。料理や素材はリルさんに完敗ですよ。パプリカやニンニクもリルさんと一緒に知りましたし、たまごふわふわにマヨネーズに色々。食べるの好きなので幸せです」

「そのための嫁です。お義父さん好みの新しい料理を探していきます。ロイさんは苦手なもの少ないですから」


 あっ、ついロイさんって呼んでしまった。でも……誰も気にしてない。

 ん?

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