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観光

 髭の生えてない灰色の毛がもふもふした牛を見た。明日乗る山を登れる牛なら山歩き牛だ。川歩き牛より大きい。正式名称はカドルナルガ牛らしい。

 ナルガの森から神ヶ峰にある霊峰カドル山の頂上まで登ったなんて逸話のある屈強な牛。

 肉は固くてまずい。霊峰に登った牛なら神聖な生き物かもしれないので誰も食べない。

 神聖な生き物でも美味しかったら食べるんですね、とロイと笑い合った。


 活気の良い男の子が物売りを始めて警兵に怒られた。川魚を干した物とまだ生きている川海老売り。

「ここは中央6区じゃないの⁈」などとお喋りして父親に「そろそろ教えようと連れてきたらお前は気が早いんだ!」とペシっと軽く頭を殴られて、笑う警兵に関所の方へ連れて行かれた。

 父親が荷車を引くのを押して手伝いながら「父ちゃんあれ何!」と叫んで跳んでいた。あれはうるさくした私だ。


 駕籠(かご)が通り過ぎたし、小さめの黒い牛が引く車も見た。高牛車は華族でも名家の証らしい。

 馬屋の馬に乗っている人達を見て、私達の明日はあれだとワクワクした。

 馬屋は馬に乗せてくれる人達。街中を馬に乗って歩いたり駆け足するのは許可証と馬の登録が必要とか色々あるらしい。全力疾走は危ないので禁止。

 破って捕まる人がいるとロイの仕事が増える。増やさないで欲しい。


 関所近くで「世にも楽しい芸を披露してますよ!」という呼び込みをしている人がいて、ロイと2人でチラッと道芸を観に行った。

 お金を払わなくても許される道芸は好き。しかも今日はお小遣いを持っているからお礼のお金を箱に投げられる!

 人形、ぬいぐるみが糸で吊るされていて動かしてお芝居。子どもが沢山集まっていた。珍しいので私達のような大人ももちろん集まる。

 その後ろできれいな異国の鞠を3つも4つもお手玉したり音楽を奏でる人がいた。

 その音楽は弦楽器。座って奏でる子どもくらい大きいひょうたんみたいな形の弦楽器と、それを小さくして肩に乗せて奏でる弦楽器。ロイも知らないそれは謎のまま。


 半信半疑だったけど、空が本当に暗くなってきたので行交(ぎょうこう)道を歩く速度を上げた。

 雨が降らないか少ないうちに宿へ着くのが優先。夕食は買いたい。

 握り飯はもう食べ歩きしてしまった。天ぷらおむすびの味付けはそば、うどんつゆ風だった。濃いめ。

 ご飯の上に天ぷらを色々のせてこの味付けをしたら良さそう。

 

 道芸を観ていたらサンドイッチ屋が売りに来て買ってそれも食べ歩きしてしまってもうない。

 だって白身魚フライのタルタルサンドイッチという気になるものだったから。

 1つ買ってロイと2人で食べてみて美味しくて2つ追加で買った。ロイは1つ半をペロリと食べた。好みだしお腹が減っていたらしい。おむすびも2個分食べたのに。

 普段のお弁当は足りているというけど確認。足りているみたい。今日は沢山歩いているからかな。

 3つもサンドイッチを買ったから聞けるぞ、と質問したらフライは西風の天ぷらで、粉とたまごとパン粉をつけて揚げるらしい。

 海釣り後に作れるかもしれない。また燃える料理を発見してしまった。


 タルタルソースはマヨネーズと玉ねぎと卵。

 西風料理ってたまご料理多いな。東にもたまごあんかけがあるし、たまごは国関係なくらぶゆされているっぽい。

 醤油でも美味しいですよ、ソースもええですと言われた。ソースとは何か今度パンを買うときにパン粉と共にミーティアで聞いてみよう。

 持ってる本に載っていたかな?


 ロイと「フライってもしかしたら他の魚や野菜でも作れるかも」と具材は何がええかという話で盛り上がった。

 たまに少し休み、歩きに歩いて目的地の関所まできた。空はすっかり曇り空。今にも雨が降りそう。

 先程カンカン、と14時の鐘の音が上から聞こえた。


 義父がかめ屋の旦那さんから教わった値段の割にはええという宿を目指し中。

 「そら宿」は高台にあって階段を登るのは大変。

 偉い人は階段ではなく上り坂を馬や山歩き牛や川歩き牛や駕籠(かご)で登っていく。

 ロイに聞かれたけど登れそうだったので頑張ることにした。


「リルさんは想像よりも健脚ですね」

「そうですか?」

「2人で芸道に夢中になったから遅くなるかもと思ったけどまだ15時です」

「はい。雨がザーザー降る前で良かったです」

「そうですね」

「高台なら宿が浸水する心配はないですね」


 4年くらい前に大雨が降り続けて長屋近くの川が溢れて長屋にまできて玄関の半分まで水が来たことがある。


「あの大豪雨。あそこの川は低いところにあって長屋までもそこそこあるのにそうですか」

「ルーベル家は平気でした?」

「地下水路へ流れるようになってるはずなのに、足の甲まで沈みました。秋の寒い日で立ち乗り馬車も動かんし凍えそうになりながら南1区まで歩きましたよ」

「それは大変でしたね」


 私は洗濯物も煮炊きも出来ないから姉やルル達と石をぶつける遊びとか、歌ったり踊ったりなんやかんや遊んでた。確かそうだ。竹細工もしていたような、してないような。

 父の友人の大工達が定期的に直してくれるから雨漏りはしなかった記憶がある。


「夜中に止むなら大丈夫でしょう。中央区は治水に力を入れていますし。早め止んで朝には乾くとええんですけど。凍ったりぬかるんで滑って転んで怪我すると困ります」

「川歩き牛か山歩き牛の牛車なら滑らんですかね?」

「ああ。そうかもしれません。明日要確認ですね」


 こうして私達は階段を登り続けた。

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