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計画話

感想いただいて旅行編です

だらだら話数増えて何話終了か分かりません

食べたり寄り道したり他人と交流したり温泉入ったりするだけです

誤字脱字やそもそもの使い方の間違いなど皆さん訂正してくださりありがとうございます

(気をつけていますがこの先もきっとあります)

 私は旦那様の書斎で生まれて初めて自分が暮らす国の地図を見た。2人で座り、ロイに後ろから抱きしめられて机の上の地図を眺める。


 中央区は丸い。コマみたいに区切られていて、真ん中が皇居で1区。それから順番に6区まである。

 そこに花びら4枚みたいに東西南北の6区がくっついている。6かける5で30もの区がある。

 嫁いでから3やその倍数は縁起の良い数字と知った。だから30らしい。東西南北の間は農村。


 海があるのは南区、中央区、それから西区。

 本物の海はどこまでも広いけど、煌国の海は大陸中央には海がなくて哀れと龍神王様が掘ってくれたもの。

 煌国の西側にあるのはコウガ河という大きな恵の川。これも龍王神さまが創られたという。

 海とコウガ河に人が集まり、あっちでこっちで街作りをしていた始祖皇帝様を慕う人達が始祖皇帝様を取り合ったから、それなら大きな国にすると始祖皇帝様は煌国を作ったらしい。

 コウガ河から水を引いて水路を作り、どんどん国を広くした。今は昔とは逆で周りの国を飲み込んでいるという。

 他の国もコウガ河やそこから分かれた川に人が集まって出来たらしい。


「南西には近寄るだけで殺される古い古い大きく恐ろしく強い国。なので誰も見たことがない。何であるって知ってるんですかね? 北西には大蛇連合国、北や東は仲が悪くていがみ合い。周りの国とは結束しつつも荒れて、この大陸中央付近の国とも親しくしたり喧嘩したり。各地に大きな死の森があるそうです」


 ロイは私の筆記帳に丸を書いて今話してくれたことを書いてくれた。世界は丸くないと思いますけど、と言いながら。

 世界地図はロイも見たことがないと言う。死の森の知識も私と同程度。行ったら死ぬ。化物がいる。そんなとこ誰も行かないから知らないのだろう。


「誰も世界の端から端まで測量したことがないのでしょう」

「飛行船が沢山ないですからね。皇帝様達は国を守らんといけませんし」


 飛行船はどんな乗り心地だろう。今私がどてらの下に着ているワンピースは飛行船に乗ってきた。

 つまり、私も飛行船に乗ったようなもの。すごい。


「ええ、そうですね。この煌国は龍神王様が始祖皇帝様と民にここへ住むと良いと与えて下さった場所です。だから海も川も死の森から守ってくれる神ヶ峰とユルルングル山脈があります。とても豊かな地です」

「煌国ってこんなに広いんですね」

「この地図は王都と近くの農村区のみで、区外には小さな街や属国があるそうです」

「これよりもっと広いんですか?」

「はい」


 属国は煌国に戦争で負けて皇帝陛下の配下になった国。

 献上品やら何やらで許されその国の皇帝や王様が煌国皇帝陛下の命令を聞きながら暮らしているという。


「煌国はしょっ中戦争をしているそうですけど王都ではあまり話を聞きません。自分は父からや職場でたまに聞きます。でも基本的には女、子どもを不安にさせないように話しません。リルさんのお兄さんは王都の兵官なので志願しなければ戦場へは行かんでしょう」


 義父の勤める煌護省は正式には煌護省南地区本庁。そのすごく下っ端に兄がいる。

 兄は自ら進んで戦場に行って手柄を立て続ければ皇居守護兵にもなれるという。

 私は危ないところに行って欲しいとは思わないけど、そういえば兄は「この腕で成り上がって家族全員で住める豪邸を建ててやるぜ!」と言っていた。

 何を言っているのか分からなかったけど今なら理解出来る。


「ロイさん、兄は剣術道場で強いです? 弱いです?」

「ここ数年は上から数えた方がええくらい強いです。それでその頃から手習代無しだそうです。ネビーさんは自分と違って師範達と本気で試合を出来ますよ」

「それは知らなかったです。まあ旦那様にはうんと勉強がありますからね」

「いや、あれはもう才能かと。兵官合格も筆記試験を無視したくなるほど腕っぷしが秀でていたかららしいです」


 そうなんだ。確かに兄の腕っぷしは長屋1だった。だから兄の妹を本気でいじめる者はいなかった。兄がやり返してくれるから。

 ルルが帰ってこなくて探しに行ったら、ルルは人攫いにあっていて兄が何人もボコボコにして取り返してきたこともある。両親から聞いた話だけど。

 私は人を起こすために蹴飛ばすことすら嫌いだけど、暴力が必要な時があることも知っている。

 皆悪いことなんてしなければええのに、人はそれぞれ考え方が違う。狡い人もいる。難しい話だ。


 平均並に出世した義父は中央区の煌護省本部へ行くこともあるし、無事に退職すればその際に皇居に招かれ褒美を授かるという。

 ロイも同じ。平均並に出世して長生きして定年退職すると皇居へ招かれる。その時は私も一緒。

 すごくめまいがする話。


「志願して戦いに行くかもしれないけど、強いなら少し安心です。それにしても今も戦っている方がいるかもしれないと言うことですよね」

「そうですね。自分達の平和な生活や、月末の旅行はその方々のおかげです。それから米や野菜をうんと沢山作ってくれる農民の方々も」

「感謝しなければなりませんね」

「自分はこの国を秩序を守る礎。父も国防の一端を担っています。その自分達がしかと働けるようにしてくれているのは母やリルさんです。全部続いています」

「はい」


 何にも知らなかった国の話。それでその大きな国はもっと大きな世界の1部。これもめまいがしそう。

 知識は得る程面白いけど、不安や謎も増えていく。


「つまり、私はええところに生まれたんですね」


 私はしげしげと地図を眺めた。事件は色々あるけど王都は戦争と無縁で平和。それで南3区は中央区から遠くない。

 これを知ると貧乏腹減りくらいで済んでいたと思える。

 家族は仲良し。家もある。飢え死なし。健康。服もあった。たまに外食したり天ぷらしたり贅沢したこともある。

 ただ長屋生活は嫌いというか周りあの地域の人達や価値観と私の性格が合っていない。

 今見てる地図の外、この国の端っこ生まれだったら戦争で死んでいたかも。


「それで自分はさらにええ家に生まれました」

「そうですね。それで私はこの家の嫁にしていただきました。きっと誰かに皇女様みたいと呼ばれます」


 最近、花街にいるのは親に売られたか花街生まれの子と知った。

「もたもたして働かないとどこかの米屋やら何やらの大店に行かせるよ! 大店は朝から晩まで働き続ける。滅多に帰れないから家族とは遊べないからね!」とたまに母に怒られた。

 でも思い出せば「その子はいまいち顔だけど、そのもう少し小さい子はええ顔をしてる。こんな家なら売らないか? この子ならこんなボロボロの着物じゃなくてええべべ着て、いっそ太夫にだって……ぶへっあ!」と母に殴られた男がいた。

 あれはきっと花街へ子を売らないか? だ。

 私はのっぺり顔でいまいち。ルルは母似で中々美人。たゆう、を今度調べてみよう。


 結婚して知ったけど、父はそこそこ人気の店の職人だった。

 子は多いけど売りたくない。

 男は手に職だけではなくて学がないといけないし力がないと馬鹿にされる。それで兄の寺子屋代や剣術道場の手習代を捻出。兄は竹細工が壊滅的に下手だったから。

 女は家事と育児が出来ればどこの家の嫁でも奉公先でも貧乏根性もあればそこそこ幸せになれる。

 私達娘に家事育児をさせたのはそのため。代わりに母は稼ぐ方に回った。家事はほぼしていないけど子育てはしていた。よく怒られた。


 (うち)は貧乏腹減り一家でもきちんとした理由があった。

 義父母はそういう両親の娘だから、兄が凡民には難しい試験を突破した兵官だからロイの嫁として渋々許した。

 兄は家業も継げずに米屋で奉公中。姉や妹は花街の遊女。そうだったら絶対に許さなかった。まあそうなると駆け落ちというか、ロイの家出なんだけど。

 ロイはそういう事は調べなかったみたい。とにかく私が嫁にいく前にと急いだらしい。

 そういうことも年末年始の酒の席や親戚への挨拶回りで知った。私の両親は知らない話。


「それでここ、北2区の端にあるのが温泉街のエドゥアールだそうです」

「はい」

「まず中央区の1番外を進みます」


 立ち乗り馬車で中央6区。ぐるっと回って北1区を目指す。途中で農村区へ行って田園風景も見る。

 中央6区観光も兼ねているのでここは基本徒歩。

 予定より遅かったり疲れたら馬屋に頼る。

 それで中央6区の安宿に泊まる。寝るだけのところ。お風呂は大衆浴場で食事は外食。中央区——正確には境宿場というらしい——の大衆浴場やお店とはとても贅沢な話。

 今回の旅行の宿代は義父、その他はロイ持ち。私はロイに任せるだけ。私のお小遣いは旅行では使わないものらしい。


「次は早朝に宿を出て北1区から2区。それで2区の端にあるエドゥアールを目指します。歩かないといけないところもありますけど、馬屋に頼んで早く到着。目標はお昼前後。温泉街を楽しみましょう。途中までは馬屋ですけど、最後は岩山を登るために牛車に乗ります」

「牛が車を引くんですね」

「牛は遅いので座りです」


 私は牛を見たことがない。ぬいぐるみ屋で見た。白と黒の体で4本足。かわゆかった。楽しみ。

 南3区からでも見えるそこそこ立派な岩山の下にあるのがエドゥアール温泉街。

 森になってる小高い山ではない山。とってもワクワクする。雲がかかる山だから雲を掴めるかも。雲って食べられるのかな?


「エドゥアールは中央区から近いので高級店には皇族華族の方も泊まるそうです。自分達は庶民向けのお店です」

「はい」


 庶民。すごく違和感。卿家も長屋娘も華族未満は同じ庶民。俗語で凡民、農民などと分けたりする。

 平家は良い言い方。苗字無しを平家と呼ぶ。上流華族は自分達未満を庶民と呼ぶらしい。そうなると皇族は自分達未満を庶民と呼ぶだろう。

 ルーベルさん家のお嫁さんは凡民だから学がない、みたいに使う。その通りなので気にしていない。

 家族の誰もそれで怒らない。

 他の家に「何だとこのやろう!」とか「喧嘩を売ってるのか!」なんて文句は言わない。ましてや殴り込みには行かない。両親兄姉は行ってた。

 でも我が家の恥になるからもっと勉強しろとも言わない。勉強している、少しずつ学んでいると認められているみたい。ロイは単に私に甘いだけ。


 義母は「そうです。(うち)の嫁は凡民で学がなくて困ったもので。どこかの嫁は祓い屋の襖を拭いてかなり汚したとか。拭くのに汚すとはなぜでしょう? 埃も減ってなかったそうで。凡民でも綺麗に出来るのに不思議です」みたいにその相手に言う。

 庇われたけど怖い。あれはやめるべき。でも先に言ったのは向こう。難しい話。

 どこにいたって悪口嫌味は言われる。貧乏子沢山ボロボロ着物娘やモタモタして喋らない変な子から凡民や学がない。悪口嫌味が短くなった。


「リルさんは海に徒歩で行くくらいだから健脚そうですし、自分は日々走り込みしています。だからエドゥアール温泉街にしてくれたそうです。あと華やぎ屋はかめ屋の旦那さんの実家です」

「そうなんですか」

「海の幸を好んで海釣りに憧れて跡継ぎなのに実家を飛び出してかめ屋で出自を言わずに奉公。食らいついて南区のどこかに分店を出してもらうつもりだったと」

「かめ屋の料理は確かに海のものが沢山でした」

「跡取り娘のセイラさんと密かに恋仲になって結婚嘆願。どこぞの馬の骨と言われて殴られ蹴られて、実は……と実家の話をして、それなら許すしかない、むしろ格上の家と結婚だ! だそうです」


 それを手のひら返しと呼ぶ。最近覚えた。

 そのセイラと義母は女学校時代からの友人。セイラは昔駆け落ちするか本気で悩んだことがある、と聞いたことがある。

 

「そんなに実家の事を言いたくなかったんですね。あの旦那様がそのような激しい方とは」

「んー、まあ自分の力だけで何もかもを得るというのは男の浪漫です。跡取り息子だから嫁と別れて帰ってこいとか色々あったらしいですけど、次男が無事に跡を継いだので丸くおさまったそうです」


 男の浪漫。兄もそれかも。ロイにはない?

 出世したロイは新しい事を色々覚えるためにまたそこそこ勉強をしているので、最近はなるべく自分で調べて分からない時だけ聞くようにしている。

 そうするとロイは今回の地図や国のこととか別の事を教えてくれる。


「今度お義母さんに少し聞いてみます。気になります」


 義母との新しい話題にどうぞ、というロイの気遣いな気がする。


「話が逸れました。帰りは同じ道なので行きに買いたいものを探して帰りに買う。行きに帰りに寄りたい店を予約する。そんな感じです。まあ天気とか気分でコロコロ変えましょう。大事なのは無事なのと宿に泊まること、楽しむことです」

「すでにすごく楽しいです。元気いっぱいでないといけませんね」

「そうですね」


 ロイと何回かキスをして地図に再び視線を落とした。


「こんなに広い世界で旦那様に見つけていただけて果報者です」

「リルさんを見つけられて幸せ者です」


 それからまた何回かキス。抱きしめたくて振り返る。いや、振り返ったのか振り返らされたのか分からない。

 ロイは私とキスをしながら器用に地図を畳んだ。最近この書斎や衣装部屋でも始まるのは多分私達2人共色恋狂いだと思う。

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[気になる点] 息子が見合い結婚しました、の回で幼馴染みのセイラさんが嫁いだかめ屋となっていました? 今回の話と設定が違ってしまったのでは
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