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特別番外「ルーベル家と異文化交流13」

 セレヌの茶道体験はお茶会の準備から。

 慣れているエイラの指示で準備をして、少し休んでサリとクリスタをお出迎え。

「せっかく習い始めたから」と言ってもらい、お点前は私がする。茶箱を使って、初心者ができるもの。

 セレヌは次客で、エイラにあれこれ教わっていく。

 お喋りしながら茶道を楽しもうという会なので、実に和やか。


 全員が一服したので、一旦、お喋り会に移行。

 サリとクリスタにはまだ言ってなかったけど、交互に、旅や異国の話と煌国話ということになっている。

 セレヌは鞄から本を取り出した。筆記帳と似たような作りだけど、煌国の紙や意匠ではなさそう。


「今日のことを聞いていたから、昨日、リルさんに言わなかったの。みんなで見てもらおうと思って」


 本は、セレヌが旅先で見かけた絵を沢山貼ったものだった。

 私やロイは異国に興味津々だけど、旅をする気が無いから、作ってくれたそうだ。


「これが初作品。二冊目はまた今度ね」


「ありがとうございます」


 みんなで最初の(ページ)から順番に眺めて、セレヌに解説をしてもらう。

 この国も問題ゼロではないように、他国も同じで闇はある。なんなら、大国で豊かな煌国よりも他国はもっと。

 これは、異国の綺麗なところだけを切り取って作った本だそうだ。

 私たちの暮らしているこの王都でも、地域によって違うけど、異国はもっと建物の造りが違う。どの絵をみてもうんと楽しい。


「この薔薇飾りを使っている美人は、もしかしてレティア様ですか?」


 複雑な髪型に、薔薇がたくさんの飾りを頭に乗せた、美しい女性の優しげな微笑み姿の絵。

 見覚えがある顔立ちだ。煌国とは全く違う服を着ている。


「そう。リルさんが話していたから、ヴィトニルが記憶を掘り起こして描いたの」


「ヴィトニルさんは、絵がすこぶる上手ですね」

 

「会った時に褒めるときっと喜ぶわ。ロイさんやリルさんのために、売ってないものは俺が描くって楽しそうだもの」


「うんと褒めて、色々描いてもらいます」


 セレヌは(ページ)を飛ばして、ヴィトニルが描いた他の絵を見せてくれた。

 義母が熱く語っていたという理由で、レティア姫と一緒にいたユース皇子の絵もある。

 ファズ様とコーディアル様の二人が笑い合う絵や、大蛇の国を統べる若き王様の立ち姿もあった。


「遠目で見た時の記憶で描いているから、似ているかは分からないって。私の目から見ると、そこそこ似ている気がするわ」


「これは家宝にするべき本です」


「うん。みんなで沢山楽しんでね」


 エイラたちが、絵が上手い人に複写してもらいたいと盛り上がる。

 順番に異文化交流のはずが、レティア姫の髪型話から、お姫様と皇子様の馴れ初め話へ。

 大蛇の国で暮らすセレヌの友人が聞いた噂だと、ユース王子は流星国への外交中、『ダンスぱーてぃー』で「結婚して欲しい」と求婚したそうだ。


「ダンスぱーてぃーは、前に教わった異国の踊りをする会ですか?」


「ええ、そうよ。パーティーはこの国で言う、お祭り……かしこまったお祭りよ」


 大勢の人がお祝いする中、二人は「星空の下で踊ってきます」と中庭へ去り、しばらくして戻ってきたららしい。


「きっと満天の星空の下で二人で踊って、少し抱きしめ合ったりしたんだわ。素敵……」


 セレヌがらぶゆ顔になった。私もあの綺麗で優しい二人が美しい空の下で寄り添う姿を想像してうっとり。


「次はもっと色々教わってくるわね」


「ぜひ、お願いします」


 サリが私に軽く教わった『ダンス』を実際にしてみたいと言い、みんなで踊ってみることになった。

 セレヌが男性役をしてくれて、順番に踊り、これを旦那様とするのは恥ずかしいと盛り上がる。

 

 あっという間にお昼になり、オーウェンとテツが顔を出してくれた。

 今日はありがたいことに、二人がお弁当を頼んでくれていて、それを持ってきてくれたので皆でわいわい食事をしていく。

 少し遅れてロイが顔を出して、ちょうどまたお茶会をするところだったのでお客様係を依頼。

 エイラの指導を受けながら、セレヌが私たちお客にお茶を振る舞ってくれた。


 お茶を飲みながら、オーウェンとテツが「旅人さんと話す機会があるなんて」みたいに言い、やがて異国話や明日の小祭りの話題になった。

 楽しく過ごしていたら、兄が顔を出した。見回りついでに、お知らせをしに来たそうだ。

 明日はハ組の小祭りで、組内だけではなく闘技場で小さな剣術武術大会も行う。

 その前夜祭なのか、ハ組の施設を使って将棋大会が行われることになった。

 兄はそんな風に説明して、ロイたちを男性を誘った。

 火消しの施設に行けるなんてと喜びながら、オーウェンもテツも、ロイと一緒にお出掛け。

 兄は仕事の後で合流すると去っていった。


「楽しそうで嬉しいけど、せっかく皆とダンスしてもらおうと思っていたのに」


「旦那様となんて恥ずかしいですよ。ねぇ、リルさん」


 エイラに話を振られたので、大きく、うんと大きく首を縦に振る。


「でも、あれはすとてときです」


「えっ、ロイさんとダンスしたことがあるんですか?」


「我が家は全員、ぐるぐるとみんなで順番にしました」


 ちょっと違う気もするけど、まぁ、いいか。


「私、明日のお祭りが、ダンスパーティー風になるように頑張ってみるわ。レージングにもお願いしてみます」


 エイラもサリも恥ずかしいけど、皆がするなら、そうなったら嬉しいとニコニコしている。


「そろそろ片付けて夕食の買い物に行かないと」


 鐘が刻を告げて、エイラのこの一言で片付け開始。

 綺麗に片付けをして、今度返す弁当箱も洗って拭いて、それぞれの荷物を家へ運んで再び集合。

 荷物の多いエイラを手伝ったセレヌは、すっかり彼女と打ち解けて見える。

 サリやクリスタとも楽しげで、まだまだ大勢が苦手な私はちょっと口を挟めない。

 でも、誰かがたまに、「リルさん」と話題を振ってくれるから、一緒に楽しい時間を過ごせている。


「リルさん、朝から疲れさせちゃった?」


 不意に、セレヌに顔を覗き込まれた。


「元気です」


「そう? 口数が減ったから疲れているのかなって」


「聞くのが好きで、喋るのを忘れがちです」


「顔色はいいし、その笑顔なら本当ね。良かった」


 気にかけられて嬉しい。サリが、「リルさんはたまに、聞き役番長ですよね」と肩を揺らす。


「色々聞いてくれるからつい愚痴っちゃって、助かってます」


「私もです。家だと自分が喋る機会って少ないですから」


「そうそう。義両親の話を聞いたりで」


 未婚のクリスタが、「そうなるんですね」と興味を示す。

 エイラとサリについていく形で歩いていて、話に夢中になっていたら、いつもの買い物地域ではないことに気づいた。今さらだ。

 クリスタも同じようで、「あれっ、随分と遠くまで来ましたね」と首を傾げた。


「セレヌさんが新しい小刀が欲しいって言ったから、(みがき)に行きましょうて言いませんでしたっけ」


「ほら、そうしたらメルさんもセレヌさんに会えますし」


「ああ、そうでしたね。そんな話をしていましたね」


 そうだっけ?

 クリスタは薄っすら把握していたようだけど、サッパリの私はぼ者。気をつけないと義母に怒られる。

 

(……メルさん?)


 最近、私が気になる、ロイと親しかったらしい幼馴染。

 お茶会で会って、綺麗でかわゆい女性だったので、ロイと仲良しだったらしいという事が胸をモヤモヤさせる。

 ロイは私が初恋だと教えてくれたので、「親しい」は「恋人だった」ではないと分かっているけど、なんとなくロイにメルのことを聞けない。


(みがき)」は前に義母が連れてきてくれた、特注品を作ってくれた刃物屋だった。

 人見知りをせず、良く、あれこれ先導してくれるエイラがお店の人に「セイ・フルゲン」という人について尋ねた。

 エイラと店員の会話的に、デオン先生と同じ名前の男性が、どうやらメルの婚約者のようだ。

 この間も「セイ」という名前を聞いたような。記憶力を高める訓練ってないのかな。

 エイラに頼まれた店員は、小刀はこれだといくつか並べてくれた。


「料理用だからこだわりはないけど、へぇ。料理用には勿体無い気がします。特にこれ。私は刃物に詳しくないけど、とても綺麗な波紋」


 小刀の一つを鞘から抜いたセレヌが、刃を窓の外の日差しに掲げる。確かにとても綺麗な模様だ。

『聖』という文字で「ん?」となり、私は自分の懐刀を出して刃を確認してみた。

 怖くて使えないだろうけど、誰かに襲われて殺されそうになったりしたら使わないといけないもの。

 ロイが私に用意してくれた花嫁道具の一つ。そこに、同じ文字が刻まれている。


「あっ、デオン先生の贔屓(ひいき)店は『磨』さんです。セレヌさん、同じです」


 私はセレヌに小刀の刃、文字が刻まれている部分を見せた。


「本当だぁ。この文字はなんて意味?」


「神聖の聖なのでお守り、龍神王様の加護がありますようにという意味です」


「ええ、お客様。そちらの文字は作者のセイが、自分の名前に因んで、皆様に加護があるようにと願って刻んでいます」


「私、こちらにします。加護がある刀で作った料理は健康に良さそうです」


 料理用なら別の物があるけど、セレヌは旅人なので鞘つきの小刀を希望している。

 

「リルさんとお揃いの作者さんね。気に入ったものが偶然それって嬉しい」


「こちらこそです」


 小刀を購入してお店を出て、エイラとサリに着いて行って、セイ・フルゲンのお屋敷へ。

 そこには婚約者のメルももう住んでいて、私たちの来訪に驚きつつ、少し前にオーウェンたちがセイを誘いにきてくれたと笑った。

 メルはやっぱりスラッとした背の高い美人で、またしてもモヤッてしてしまった。

 メルは私たちの来訪を喜び、家に招いてくれたけど、夕食作りがあるので断るしかない。

 エイラが中心になって、明日の小祭りに一緒に行かないかと誘うと、メルは「義母の調子が良ければ家族で」というような返事をした。


「セレヌさんはリルさんとご友人ということは、定期的にこの国へいらっしゃるんですよね。次は私も一緒にお茶会をしたいです」


「ぜひ。明日の小祭りで話せるのを楽しみにしています」


「私もです。リルさんも。まだ全然、話せていないから。ロイさんとの馴れ初めとか、聞かせてくださいね」


 メルにニコリと笑いかけられて、「仲良し幼馴染」でも男女の何かは全く無かった気がして、ホッと胸を撫で下ろした。

 美人だからモヤモヤはするけど、エイラやサリ、他のロイの幼馴染にもモヤッとすることがあるので同じようなもの。すっかりロイ好きの私はヤキモチ妬きなので心が狭い。


「私もメルさんとセイさんとの馴れ初めを聞きたいです。護身刀を大事にします」


「護身刀?」


「あのね、メルさん。リルさんの護身刀はセイさん製だったんですよ。ロイさんとセイさんに接点は無いから多分、たまたま」


「お店の人が指名が無かったり、店頭販売品に家紋追加とかだろうって。ロイさんのお師匠さんの贔屓(ひいき)店だって聞きました」


「そうなんですか。そういう偶然ってあるんですね」


 玄関でこのような立ち話をしてお別れ。この後は夕食の材料を買い、それぞれの家へ帰宅。

 昨日、セレヌはアミたちと天ぷらに挑戦して、下手っぴだったので今日も我が家は天ぷら。

 うどんを踏んだことがないというので、天ぷらうどん。つゆも作ったことがないのでそれもあり。

 義父もロイも居ないので、義母と三人で台所で楽しいお料理会。


 まずは楽しいうどん踏み。足が悪い義母はしない。

 

「この袋があれば旅の間も出来そう」


「それなら袋をあげるので使ってください」


「またどこかから荷物を送るわ。煌国に行く人と出会えたら」


「ありがとうございます」


 お喋りしながらうどんを踏んで、実家でルルたちと歌っていた、うどんの歌を教える。義母が、セレヌは歌が上手いと手拍子を始めた。

 うどんが完成したので、次は天ぷらの準備。

 それからつゆを作り、うどんを茹でられるようにお湯の準備を始め、いざ、天ぷら!

 一回目、塊にならなかった干し小海老のかき揚げと、衣のいなくなった野菜天にセレヌは涙目。

 私が食べると言ったけど、義母が三人で分けましょうと言い、二回目はもっと手取り足取り。今度はきちんと成功した。

 三回目は、セレヌがもう一回一人で頑張ると言うので義母と見守り、まぁまぁの出来で三人で喜んだ。


 夕食後は順番にお風呂に入り、義母と二人きりの時にセレヌたちが作ってくれた画集を眺めた。

 義母はまたしてもユース王子様にうっとり。そして、レティア姫の絵ももう一回眺めて、「優しかったですね」とニコニコ笑った。


「偉い人が何時間も座って、民の声を聞くなんて、そんな国もあるんですね」


「この国は手続きをすれば、上に声が届きますから、ある意味途上国なんでしょうけど、素晴らしい心掛けですね」


「セレヌさんが、うんと小さい国だって言うていました」


 話していたらセレヌがお風呂からあがったので、次は義母の番。今度はセレヌと二人きりで楽しいお喋りだ。

 家にいるのに、まるで旅行しているように楽しくて幸せ。

 義母の後にお風呂に入り、三人で刺繍会。家事や他のことで忙しくて、中々できていない刺繍を、今夜はできて楽しい。

 そろそろ寝よう。そんな時間に、義父が帰宅した。予想外の人物を連れて。


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