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特別番外「ルーベル家と異文化交流10」

 エイラのところへ行って相談したら、明日、セレヌのために女性だけのお茶会をできることになった。

 急なお誘いなので、私たち以外で参加できるのはサリとクリスタだ。

 簡単な持ち寄り茶会にして、明日の午前中に準備をする。お昼は各自の家で、その後にお茶会。

 終わったら、異国の話を聞きたい各々の家族がお茶室に、セレヌに会いに来る。


 家に戻り、義母に報告すると、今日は実家へ行くのはどうかと言われた。

 私の実家家族もセレヌに会いたいだろうし、寺子屋にも行ける。

 セレヌが、「あの黒鹿なら匂いで私たちを探してくれるから、どこに行っても大丈夫」と言ったのもあり。


 そういうわけで、セレヌと二人で出発。

 彼女はかわゆいから、着物にブーツという姿は奇抜ではなく、ハイカラに見える。

 道行く人たちが、「ブーツ」とか「異国人だ」という台詞と共に、ちょこちょこ人が振り返る。

 旅で慣れているのか、セレヌはそんな人たちを気にせず、街をきょろきょろ見渡して、観察することに夢中。

「友達と歩くと違う世界に見えるわ」と、ニコニコ笑っている。

 

「気になるお店があったら見ましょう」


「ううん。寄り道しないわ。寺子屋に行けなくなったら困るもの」


「それなら真っ直ぐ行きましょう」


 実家へ着くと、母とジオしかいなかった。レイは祖母のところで裁縫をしていて、ルルは寺子屋、ロカは特別寺子屋だそうだ。

 母はセレヌに「よく帰ってきましたね」みたいに笑いかけた。

 前回の来訪の後に、私が母に「ルーベル家はセレヌたちの家の一つになった」と教えたからだろう。


「リルさんにもお帰りなさいって言われて嬉しかったです。ありがとうございます」


 母に、セレヌは寺子屋で勉強をしてみたいと伝える。セレヌが自分でもなぜ寺子屋へ行きたいのかを説明していく。


「それならお昼後にレイを連れて行くから一緒に行きましょう」


「うわぁ。ありがとうございます」


「毎日、あんまり行きたくないって言うから、二人が来てくれて助かります」


 母は、レイはあまり寺子屋を好んでおらず、自宅学習中心にしていると告げた。

 やる気を出している家事育児を教えることを優先して、勉学は寺子屋少しと親や兄姉が教えることに。

 

「今、寺子屋に行っているルルは勉強好きだから、レイの代わりに沢山通わせてあげようかと」


「ふふっ、いいお母さんですね。ロカちゃんが行っているっていう、特別寺子屋はなんですか?」


「個人や少人数の授業でビシバシ教えてくれるところです。リルがええ家に嫁いでくれたおかげで、末っ子は女学校ってところに入れるかもしれなくて」


 嫁仲間たちが通ったのは国立で、ロカが入れそうなのは区立だ。

 貧乏奉公人だと入学は難しいけど、ルーベル家のツテコネで入学試験の難易度が下がるらしい。

 両親の、リルはとにかく家守り、その能力で可能な限り良い家の嫁という方針は、私のことだけではなく、妹たちのためでもあった。

 そんな話は、今年に入ってから知って、色々考えてくれていたことも、妹たちの役に立てることも嬉しい。


 セレヌと共に、赤ちゃんのジオの頬をぷにぷに触って、レイの裁縫が終わるお昼まで時間があるので、父たちの作業場へ行ってみることに。

 セレヌは「竹細工」に興味津々だ。行くならお願いと頼まれて、ジオをおんぶして三人で出発。

 ご近所さんのお乳を借りるのはええけど、せっかく母親のところに行けるなら、母からご飯をということで。


 今の私は、ロカが赤ちゃんの時よりも大きいし、毎日の仕事ではないから、甥っ子のおんぶは楽しい。

 ジオとセレヌに、「あれは〇〇ですよ」と教えながら街を歩くのも愉快。

 父たちの作業場に着くと、セレヌは大人気。

 父が張り切って「竹細工を教えます」と言い、教え方が下手過ぎてルカと交代。

 ジオの授乳の時はジンが教えてくれた。私も一緒にカゴを作っていく。

 前に来た時もそうだけど、父の同僚たちに、「すっかり別嬪さんになって」と褒められてホクホク気分。

 ルカと私は美人姉妹、私は父似だけど綺麗なのは母の成分もあるからだと言われた。

 前は女の子のうち、私だけが父そっくりで可哀想なんて言っていたのに、見た目を整えたら話が変わって面白い。


「うわぁ、ちゃんと蓋つきのカゴになった。何の薬を入れようかしら」


「初めてなのに素晴らしい出来ですね」


 ジンに褒められたセレヌは鼻高々という様子。ジオを連れて戻ってきたルカに褒められてさらに。

 

「薬と言えば、ねぇ、リル。イオ君がセレヌさんに会いたがってなかった?」


「あっ、そうだったね」


「イオ君? リルさんたちのお友達?」


「私たちの幼馴染の火消しです」


「火消しって……消火隊だったわよね」


 ルカがイオは薬を勉強している火消しだと話すと、セレヌは意見交換をしたいと言ったので出発。

 ハ組に行って居なかったら伝言を残す。そう決めて行ったら、見回り中で不在だった。

 そろそろお昼なので実家へ帰り、母とレイと一緒に寺子屋へ。

 レイはセレヌにくっついて、旅はどうだったか、楽しいものはあったかとはしゃいでいる。

 寺子屋に着いてルルをお迎えしたら、そこに彼女も増えてセレヌを完全に取られてしまった。

 三人を母に任せ、初めましての寺子屋の先生——中年男性と女性にご挨拶。

 事情を説明して、日払いで午後の授業に参加したいと伝えたら、「歓迎です」と笑顔で引き受けてくれた。

 

 母がルルに、「リルも昔、したからね」と言って、ジオをしばらくおんぶさせて、お店のある街中の方へ移動。

 ヴィトニル基金を使って、セレヌがまだ食べたことがないという蕎麦屋でお昼ご飯。

 我が家では匙とお箸でなんとかという、お箸を練習中のセレヌは、蕎麦は無理だと荷物から自分のフォークを出した。

 

「あちこち旅しているけど、煌国以外もお箸の国があったわ。中央はわりとそうみたい」


「中央? どこの国ですか?」


 最近、かなり知りたがりのルルがセレヌに問いかけた。レイはあまり食べたことのない天ぷらに夢中。

 

「そうね、この国の人なら……アルガ様と結婚されるお姫様の国もお箸よ。(フラァ)国は知ってる?」


「知らない。アルガ様って誰?」


「あらっ、アルガ様を知らないのね。ドルガ様は知ってる? アルガ様は彼の双子のお兄さんなんだけど」


「ドルガ様は知ってるよ! お兄さんが教えてくれた。強くて格好ええ皇子様で煌国を守る龍神王様の遣いなんだって」


 ルルが、ごく自然に「お兄さん」と言った。両親に、外面を覚えなさいって言われるから練習中と手紙に書いてあったけど、その成果だろう。

 ルルは文字もぐんぐん成長している。写師のミユが親切で教えてくれるのもあり。婚約者のイオが兄にお世話になっているからと。


「そのドルガ様のお兄さんと結婚するお姫様の国が(フラァ)国で、あそこもお箸なのよ」


「へぇ。なんでお箸の国とフォークの国があるのかな? セレヌさんは知ってる?」


「うんと大昔は他の集落と交流なんて難しかったから、それぞれが悩んで考えついた食べ方が違ったのよ。今はこうやって旅人がいるから違うって分かるけど。多分だけどね」


「ああ、そっか。ええなぁ。私も旅をしてみたい。その時はレイも行こうよ」


「ん? 旅? みんなでエドゥに行くんだから行くよ。だからレイはばぁちゃんに怒られても裁縫をしてるし、読み書きもしぶしぶ頑張ってる」


「レイ、私って使うって約束したでしょう?」


「はーい」


「はいは短く」


 ルルは本当に、前よりもぐっとお姉さんになっている。

 母が私に「最近のルカとリルはルルのええ見本よ」と耳打ちした。

 そうなの? と自然と目が大きくなる。母の優しげな眼差しが「ありがとう」に見えて、ガミガミ母が懐かしくなった。

 まだたまに注意されることもあるけど、嫁いだ私は「叱るべき、育てるべき娘」ではなく、「見守る、見送った存在」だとヒシヒシ感じる。

 

 ☆


 昼食後、セレヌと共にルルとレイと寺子屋へ戻った。

 すると、火消しのイオが応急処置を教えていた。私たち——というかセレヌに会いに来て、待っていたら来ると聞いたので寺子屋のお手伝いをしていたそうだ。

 ここへ、レージングが現れた。セレヌの言う通り、黒鹿が探してくれた。

 私以外はレージングと初対面なので挨拶会。ルルとレイは人見知りしないと思っていたけど、私の後ろに少し隠れて恥ずかしそうに「こんにちは」だから驚いた。

 レージングは気遣って、しゃがんでくれた。


「顔が見えないから怖かったかな? ごめんね。怪我で、人に見せられる顔じゃなくて」


「怪我なの? 痛くない? 仕事が終わったばかりの火消しさんだと思いました」


「古傷だから痛くないよ。優しい子だね。僕は医者で、この頭巾は火消しさんに貰ったんだ」


 顔全体が見えなくても、レージングの優しい笑顔の目や声は分かる。ルルは少し、私の後ろから出てきた。


「セレヌさんは寺子屋体験だから、医者のレージングさんに色々聞こうかな。ええですか?」


「異国のことですか? もちろんです」


「異国の医学とか薬とか気になるんで教えて下さい!」


「火消しなのに……ああ、医学班なんですね」


「いや、俺は現場班です。生粋なんで。医学班なんて化石、いつの時代の話ですか? 軟弱部隊はとっくの昔に消えましたけど」


「……えっ?」


 レージングとイオは近くで二人で話すと去り、私たちは授業を受けることに。

 寺子屋は学校と同じように、講義をすることもあるし、個別指導で進むこともある。

 この時間は読み書きを習う人が集まるので、基本は個人学習で、先生が回ってくれる。

 レイはもうやる事が分かっているので、ルルと並んで座って練習を開始。

 セレヌと私は初参加なので、先生が説明してくれるところから。

 

 セレヌは簡単な漢字を覚えたいと要望を出したので、「これをしましょう」と指示された。

 それで、同じことをする人たちと集まって座ることになった。セレヌは事前に、私と別々になっても良いと行っていたので一時お別れ。

 私は「龍歌百取り」をまだ暗記できないと相談してみたので、今日はちょうど、商家の奉公人たちが商売に関係のある勉学をする日だから、その仲間に入ることに。

 ちょうど、講義内容が龍歌関係なので、面白いかもしれないと。コツを教わりながら、一人で暗記に勤しんでも良いけど、今日は講義もある。


「講義に混ざりたいです」


「では、そうしましょう」


 嫁仲間たちからあれこれ聞くので、憧れ始めた「学校」についに——。


「邪魔しないでよ! あんたなんて大嫌い!」


「うっせぇ! 俺だって嫌いだこのブース! ミミズ字で字も汚ねぇ!」


 レイの叫びがしたので振り返ったら、男の子に蛙を投げられていた。

 すかさず先生が向かい、男の子を叱責。レイは殴りかかろうとして、ルルに取り押さえられた。同年代の子たちがわらわら集まっていく。


「落ち着いてレイ。兄ちゃんに怒ってもええけど殴るのはダメって言われたでしょう! 逮捕されるよ!」


「嘘だよ! レイは兄ちゃんの友達の兵官さんに、女の子は男の子にいびられたら殴っても合法って教わったもん!」


 憧れの学校……とは違うだろうけど、知らない世界で楽しい。ただ、あれは止めないといけないし、男の子のことは怒らないと。

 

「合法なんだ。じゃあルルの妹に何すんのよ! このバカヤロウ! 皇女様みたいにかわゆい女の子に構って欲しかったら火消しか兵官になれ!」


 あっと思ったらルルのビンタが男の子の頬に直撃。男の子は逆上すると思ったけど泣いた。

 で、先生がルルを叱り、女の子対男の子の口喧嘩みたいになった。

 寺子屋は私には合わない、親もネビーもルカもいるから、一般的なことは自宅学習と判断したと聞いたけど、その通りかも。こんな感じだと、昔の私は一日で寺子屋に行かなくなったに違いない。


 ルルとレイのところへ行き、男の子に謝り、ルルを怒ろうとして、私は褒め係だったと思い出す。


「よくレイを守ったね。お説教はお母さんとかにされるから、私は褒める」


「私が来るとルルは勉強できなくなるんだよ。あんなのがいるから。ルルはかわゆいの極みだから、ルルだけだと話しかけられないの。あの小心者たちは。べーっ!」


 レイは男の子たちにあっかんべーをした。これは礼儀正しくないから叱らないといけないけど、私は褒め係……。


「レイ、セレヌさんのところに混ざろうよ。ルルは漢字を教えてあげられるもん。レイも覚えたらええよ」


「えー。漢字? あんな訳の分からない難しいことをするの? 仕方ないからええか。お姉さん、邪魔してごめんね」


 邪魔してごめんね……。レイもお姉さんの階段を登っている!

 二人は、チラチラ心配げな眼差しを向けてくれていたセレヌのところへ行った。

 もしや、これが噂の保護者見学会?

 子持ちになる前に事前学習できるとは。私の子供は女の子かな、男の子かな。ルルやレイはその時、もっとお姉さんで、きっとお世話してくれる。そう思ったら、視界が少しぼやけた。

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