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特別番外「ルーベル家と異文化交流8」

 年が明けてしばらくしたある日の昼下がりに、呼び鐘の音を聞いて来客対応をしたら、なんと、セレヌとレージングだった。

 先月、届いた手紙には特に何も書いていなかったので、急に来られるようになったのだろう。

 そもそも、あの手紙を書いてくれたのもかなり前だろうし。

 レージングは前回のヴィトニルと同じ格好をしていて、頭巾を被っているから目元しか見えない。

 綺麗な二重の大きな目に黒い瞳が印象的。前はもっと目元が見えなかった。

 セレヌは初対面の時とほとんど同じ格好をしている。

 セレヌに「ただいま」と笑いかけられたので、「お帰りなさいませ」と笑い返す。

 

「少し落ち着いたから、今度こそお茶会とか、学校体験をしようと思って」


「今度は僕もお世話になります」


「ぜひ」


 さあ、どうぞと二人を居間へ案内して、お茶の準備と思ったけど遠慮された。

 

「それよりも、レージングにもこの家を観光してもらいたいわ」


「いえ、おかまいなく」


「遠慮しないほうがいいと言ったのはレージングで、自分も見たかったってすねていたじゃない」


「告げ口されたら仕方ない。リルさん、お願いできますか?」


「もちろんです」


 セレヌがまずこの家の教会に挨拶と言い、三人で神棚に手を合わせた。

 次は私の案内で家の中をあちこち移動して、その間に「着替え」と思ったのでセレヌに確認。


「庶民なら着物の裾を短くするのは何の問題もないって話を知ったのよ。そうして、ブーツを合わせたら私は転ばないと思うわ。浴衣で練習もしているし」


「それなら着物に挑戦ですね」


「セレヌならすぐ慣れるさ」


 レージングは庭の薬草が順調に育っていることが気になるそうなので、観察して待っているそうだ。

 外は寒いから心配だけど、旅慣れているし、着込んでいるから平気らしい。

 セレヌの着付け中に尋ねたら、ヴィトニルは行方不明らしい。


「たまにフラっていなくなるのよね。もう一ヶ月会ってないわ」


「年末に来てくれたんですが、すぐに帰ってしまいました。一瞬でした」


 また魔除けの実を貰ったのでお礼をしたい。でも、セレヌたちも会っていないとは。


「会いに行く人がいる、おかえりと言ってくれる人がいる。それってとても幸せなことなのよ。だからお礼は済んでいるわ」


「でも、一日くらい泊まって欲しいと伝えて下さい」


「もちろん」


 着付けが終わり、せっかくなので髪型も煌国風に。 この時に、セレヌの髪型を真似しようとしたけど失敗したと話したら、私の髪も結ってくれることに。

 でも、私の髪の毛は細くて量が多くないから、セレヌの髪型は難しいようだ。

 代わりに、「セレヌ前に見たコーディアル様」と同じ髪型にしてくれた。

 横流しの三つ編みで、飾り花の代わりに私が持っている紐で蝶結びを何ヶ所か。


「見たことがないし、かわゆいです!」


「ええ、似合っているわ。私もいつもと違っていい感じ。レージングは必ず褒めるから、あまり楽しくないのよね」


 こういう時にヴィトニルは役に立つらしい。セレヌと一緒に庭へレージングを迎えに行き、なんて褒められるのかとワクワクしたら、彼はサラッと「素敵だ、セレヌ」と優しい声を出した。


「とても似合っているよ」


 レージングはとても眩しいというような目をしている。私なら嬉しいけど、セレヌは困り笑いを浮かべた。


「ありがとう」


 夫へのお礼の後に、セレヌは私に耳打ちして、「ほらね、いつも同じなのよ」と言った。

 どんなにお洒落をしても、いつも今の感じだと楽しくないかも。


「手紙を読んで驚いていましたけど、実際に見たらさらに。こんなに育っているなんて」


 レージングはセレヌが植えてくれた薬草を手のひらで示した。


「お医者さまにお裾分けしたけど枯れるそうです」


 土の違いかと思って、土も一緒に渡したけど枯れてしまったそうだ。

 役人が何人か来たし、彼らにもお裾分けしたけど、返事は「いつもの通り枯れました」という感じ。

 栽培したい薬草の一つなのに、育成方法が不明みたい。

 我が家みたいに、たまになぜか育つ場所があるという。


「良い空気の家だから、神のご加護かもしれません」


 レージングは目をつむり、ゆっくりと深呼吸をした。それから目を開いて「こういう家は、後々、薬草園や病院になって栄えたりすることもあるんですよ」とニッコリ笑った。


「既にそうです。お義母さんの薬にしてもらうために、病院に納品しているので、お礼代を貰っています。植えてくれて、ありがとうございます」


 セレヌとレージングにお辞儀をすると、他の薬草の種も育つか実験したいと頼まれた。

 義母の病気の治療薬とは関係ないものだけど、火傷に効果があるものらしい。


「幼馴染が火消しさんなので育ったら渡せます」


 セレヌはせっかく綺麗になったから、レージングが一人で庭いじりをすることに。

 迷ったけど、妻のセレヌが「趣味の一つだから」というので、彼を一人、庭に残した。

 頼まれたので二人で台所へ行き、お茶の淹れ方を教えようとしていたら、ご近所さんのところへ遊びに行っていた義母が帰宅。

 お出迎えする途中、廊下で会ったので、そこでセレヌとの挨拶会が始まる。

「靴でもしやと思った」と言った義母は、セレヌに向かって「お帰りなさいませ」と微笑みかけた。


「それにしても、とてもお似合いです。リルさんの髪型はセレヌさんがしてくれたの?」


「ええ、お互いに結っこしました。あの。今回は夫も一緒なので紹介します」


 彼は今、庭で新しい薬草の種を植えてくれているので後ほど。

 私たちは煌国のお茶淹れ体験をしているので、義母には居間で待っていてもらい、お客様役をしてもらうことに。

 再び台所へ戻り、お茶淹れ体験の時に、セレヌが「あの缶はこの国でいう異国風よね?」と質問された。

 友人の婚約者から貰ったハイカラ品だと教えたら、「ハーブティーも喜ばれるのね」と言われた。


「紅茶とはまた違った美味しさです」


「リルさん、私は薬師だからハーブティーの専門よ。色々持っているから、そうね、夜にでもおもてなしするわ」


「……そうなんですか?」


 紅茶は嗜好品だけど、「ハーブティ」は嗜好品かつ薬だなんて知らなかった。それに、種類があることも。

 

「あっ、ハーブティは異国薬草茶だから薬草茶です。繋がっていませんでした」


 笑いながら緑茶を淹れ、運びたいというのでセレナに任せたけど、「こ、転びそうだわ」と言うので交代。

 前回同様、異国人で旅ばかりのセレヌはなんでも楽しいみたい。

 レージングは玄関から勝手に入ってきて良いとなっているので、彼が来るまでは三人でまったりお茶を飲みながら雑談。

 セレヌが最初に義母に編み物の進捗を聞いて、そこから話に花が咲く。

 お客様用に作った茶托、それから花瓶の下に敷いている敷物を披露(私が机の上に運んだ)

 義母はさらにこんな自慢話をした。私の父が編み物を進化させ、姪たちに——多分ルルたちのことも含まれている——三角の羽織りを作った。ハイカラだし、暖かくて風邪をひきにくいだろうと。


「今、リルさんの分も作っているんですよ。息子がついに毛糸の売っているお店を見つけたと」


「うわぁ。沢山楽しんでくれて嬉しいです。私も煌国刺繍を楽しんでいます」


 セレヌは鞄の一つから紙の束を出して義母へ差し出した。色々な国で見かけた刺繍の絵だそうだ。


「まあ、ありがとうございます」


「テルルさんは私と違って縫い方を色々知っているから出来るか相談しようと思って書きためてきました」


 さっそく刺繍会を始めようとなり、義母は私に、「手袋を教わるとええですよ」と促した。

 父がついに手袋の編み方を考えついたし実際に作れて教わったけど、複雑怪奇で理解できなくて困っている。

 そうセレヌに言いながら、編み途中になっている手袋を待ってきた。

 しばらくワイワイしていたら、レージングの「お邪魔します」という声がして、セレヌが「私が」と対応。

 こうして、義母とレージングは初めましてのご挨拶。セレヌが刺繍を教わって、編み物を教えていると自慢げに笑う。


「妻にご親切にありがとうございます。ああ、代わりに夕食をご馳走します」


「ダメよ、レージング。リルさんに煌国料理作り体験をさせてもらうんだから」


「そういえばそうだったな。うーん、それならどうしようかな」


「我が家の庭に新しい薬草の種を植えてくれたそうでありがとうございます。それで十分です。くつろいでください。夫や息子が帰るまで男性一人であれですけれど」


「女性だけで話したいこともあるでしょう。街散策をしてきます」


 せっかく居間へ来てようやく座ったのに、レージングは立ち上がった。


「明日の朝は異国風にするから使えそうな材料を買ってきてくれる?」とセレヌは何も気にしていない様子。むしろ出掛けてきてという感じ。


「異国風? どこの国だい?」


「それはもちろん西の国よ。煌国は今、大蛇の国と仲良くしているから大人気なの。大蛇の国で煌国風が流行っているみたいに」


 異国材料店を知っているから一緒に買い物へ行こうと言ったら、旅慣れているので買い出しは得意だと断られた。

 手に入ったもので作れるものを作ると言ってくれたのと、セレヌは女性とのお喋り会をしたいからと言われてお見送り。


「レージングは世界で一番の夫です。たまに変だけど」


 セレヌがそう惚気て、幸せいっぱいという笑顔を浮かべた。

 彼が旅生活を望むなら、どこへでもついて行くと言っていた時と同じ顔をしている。


「世界で一番はうちの人ですよ。ねえ、リルさん」


「……えっ? あっ、はい」


 なぜか義母も惚気た!

 義母はそこからセレヌにレージングとの馴れ初めや、どんなところが一番なのか質問を開始。

 彼女の惚気話を聞くために惚気てみせたようだけど……私はしばらく義母が見せた新しい一面にドキドキしていた。

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