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デート編「リルとロイ その2— ②」

 脱出せよと言われても、薄暗い地下室に閉じ込められて、出入り口の扉は全く動かない。

 説明の時に、あちこちを探すと手がかりがあると言われていたので、どうしたものかと部屋を調べていく。

 すると、懐に入れられるような小さな光苔の灯りを人数分発見した。

 さらに、覆いをしていただけの光苔の灯りもあったので、覆いをどかすことで、部屋がかなり明るくなった。

 学生さんたちが筆記帳を発見したので、みんなで読んでみることに。


 筆記帳はボロボロであちこち読めないけど、ここは「僕の遊び場」らしくて、秘密の通路から祖父の部屋へ出て、「わっとおどかすと楽しい」らしい。

 僕が現れると祖父は、「よく来た、遊びはもう終わりか」と笑ってお菓子をくれるそうだ。

 この筆記帳はどうやら子供の日記のようで、この内容から、どこかに秘密の通路があるはずだと分かる。

 そこで、手分けして探してみることに。

 アジロ妻が「ここ、壁ではなくて絵です」と箱の後ろを手で示した。

 箱は軽くてすぐにどかせて、確認したら壁の絵が書いてある大きな掛け軸だったので、アジロ夫が近くにあった踏み台を使ってくるくる巻いた。


「おおー。通路がありました」


 謎を解いた、次に進めるとみんなで軽く拍手。怖い目に遭ったけど今は面白くなり始めている。

 ふと見たら、棚に串団子を発見。箱に入っていて、蓋が少し開いているから見えた。

 私たちにお茶菓子? と思いながらそれを手に取った時、ロイに呼ばれたのでついていった。


「リルさん、なんですかそれは」


「お団子が入っていました。私たちにお茶菓子でしょうか」


「うーん」とうなりながらロイが中身を確認したら偽物だった。

 必要なさそうだけど、いざとなったら斧男の足元に投げて足止めできるかもということで持っておくことに。

 これは遊びだから斧男に暴力は禁止だけど、床に壊れなそうな物を投げて足止めは問題無いという説明はあったので。


 学生さんたちが前を歩き、次はロイと私で、後ろにアジロ夫婦、女性が内側という順序になった。

 通路は人一人が通れるくらいの幅で、途中で階段があり、登ったところも少しだけ通路で、その先は書斎らしき部屋だった。

 ただ、本棚から沢山本が落ちていて、何冊かはズタズタに切り刻まれている。

 おまけに血の跡のようなものがついているので、面白さは引っ込んでまた怖くなってきた。

 これは遊びだと分かっているのに恐ろしい。


「ここに家の見取り図があります」


 学生さんたちが見つけたのだが、机の上に模様替え案という紙が置いてあった。

 複数の紙を繋げた大きなもので、これで自分達の位置が分かりそうだ。

 この家はおそらく平家で、部屋は全部で六つあり、どうやら廊下で離れと繋がっているようだ。

『書斎』と書いてあるところが私たちのいる場所だろう。

 この部屋は居間から遠くて、居間から近い玄関も同じく。

 居間や玄関へ行く途中に土間があるので、カエデを助けに行けそうだ。

 しかし、「料理をしろ」とあの怖い男がカエデを見張っているかもしれない。


 説明の時に、カエデは自由行動をしても一致団結しても構わないと言っていた。

 これは現実だと思って楽しんで下さいと。

 ロイとアジロ夫が主導して話をして、罠がありそうな玄関方面と、離れ方面を調べる二つの班に分かれるか、団体行動をするか相談を開始。

 すると、「他にも侵入者がいそうだなぁ!」という男の叫びが響き渡った。

 おまけに、ドンドンッと扉を叩く音までする。


「鍵、鍵。鍵はかかっていなかったか」


 扉がゆっくり開いていくので、私たちは慌てて通路まで戻ろうとした。

 しかし、全員が通路に戻る前に男に見つかって、学生さん二人が「お前ら! 二人だけ地下室から逃げやがったのか! 動かないと殺すぞ!」と呼び止められた。

 

「ついてこい。どうやって二人だけ逃げた。別の逃げられない部屋に入れてやる」


 斧——多分偽物で脅されて、学生さん二人が連れて行かれてしまった。

 すると、天井の方から声がした。


「仲間が連れて行かれた。助けても助けなくても自由だ」


 私たちはさっきみんなで脱出すると決めたので、ロイを先頭にして廊下の様子をうかがう。

 

「どちらへ連れて行かれたのでしょうか」と、廊下へ顔を出していたロイが振り返った。


「お前らはガリガリだから太らないと美味くなさそうだ! 太るまで食べさせてやるから、大人しくここで待ってろ!」


 男の怖い大きな声がしたので、彼のいる方向が分かった。

 そちらへ進まないと仲間を助けられないので、おっかなびっくり進もうとしたら、「今なら台所にいるはずのカエデを助けられるのでは?」と学生さんが告げた。

 

「食べさせてやるだから、きっと戻ってきます」


「急いで助けに行って、どこかに隠れますか?」


 どの道、斧男はこの廊下を通るので、通り過ぎてから仲間を助けに行くか、今のうちに台所や居間の様子を見に行くかの二択。

 ここは無難に斧男が通り過ぎるのを……。


「うわぁっ!」


 ロイが突然叫んだので腰を抜かしそうになった。

 

「な、な、な、なんで……。居なかったのに……」


 ロイの仰天声がした時に私は誰かに引っ張られて、気がついたら床の間にいた。


「お前らも逃げたのか。さっきの奴らも逃げたってことだな。あの地下室の扉の鍵は壊れていたのか」


 アジロ妻に「ここなら斧男から見えないかもしれません」と囁かれる。

 

「お前らは女連れだった二人だな。女たちはどこに行った? 部屋には居ねぇようだな。お前、ついて来い」


 ロイとアジロ夫が連れて行かれて、斧男から見えなそうな壁にへばりついていた学生さんは見逃された。

 私たち三人だけになってしまって困惑。

 また天井から、「仲間が連れて行かれた。助けても助けなくても自由だ」という声がした。


「腹が減った、腹が減った、腹が減った! 食って寝るのが最高だ。あの女が作る飯が楽しみだなぁ」


 斧男が、飯、飯〜と歌いながら遠ざかっていく。


「あれは手がかりかもしれません。食事をさせたら寝る、その間に脱出できる的な」


 学生さんに言われて、そうかもしれないと考えた私たちは、斧男が去った方へ行く勇気がないこともあり、今の隙だと土間を目指した。

 大緊張しながら土間へ行ったらカエデを発見。

 彼女はメソメソしながら、棒——多分おたまで鍋の中の水を混ぜていた。

 彼女は足を鎖で繋がれていて、そこに大きな鍵がかけられている。


「お客様たちだけでも、今のうちに逃げて下さい。兵官さんを呼んで欲しいです」


「この鎖はどうにもできないので、玄関を見に行きましょう」


 学生さんに促されて三人で玄関へ向かったら、入った時はなかった箱が積み上げてあって、説明された触ってはいけない印、手にバツ印が描かれた紙が貼ってあった。

 

「これ、ここからは出られないって意味ですね」


「あの斧男に封鎖されてしまったということでしょう」


 と、なると脱出経路は離れかもしれない。

 とりあえずカエデのところに戻って、玄関からは逃げられないと報告。

 すると、土間と廊下を繋ぐ扉を強く叩く音が響き渡った。


「ああ! 腹が減ってイライラする!」

 

「お客様、隠れて下さい!」


 カエデに言われて私たちは慌てて隠れるところを探して、私とアジロ妻は棚と棚の間の隙間に入った。

 隠れて下さいと言わんばかりに布が垂れ下がっていた場所だ。

 学生さんが台の下に潜り込んだのが見えた。


「おい、なんで具材がないんだ。俺は腹が減っているのに」


 食べたら寝るならもしかしたらと思い、床にお団子入りの箱を置いて、近くにあった棒で押して、カエデたちの方へ押した。

 

「ん? おお、気が利かな。そこの棚から団子を出したのか。俺は団子が大好きなんだ」


 斧男は団子をむしゃむしゃ食べ始めて、カエデにまた「具の無い汁なんて飲めない」と文句を言い、少ししてあくびをすると眠ってしまった。

 大の字になって、ぐーぐー言っている。

 怖いけど今の隙に逃げられる。カエデを助かる鍵と出口を探さないと!

 ん?

 斧男の着物の帯に何かついている。


 ☆★


 その頃のロイはというと——……。


 背中を斧の先か何かでグリグリされて、これは遊びだと分かっているのに、えらく恐ろしかった。

 迫真の演技で、お前らは殺す、食べる、殺すと言われ続けたのもあり。

 見つかった三人で入れと言われた部屋の中は石造りで、ひやっとしていて、牢屋があった。


「あなたたちも、あの鬼に捕まってしまったのですね」


 牢屋から女性の声がして、格子の向こう、薄暗い室内にうっすら人肌が見えている。

 

「女の人が閉じ込められていて、筆記帳をもらいました!」


 先に捕まっていた学生のうちの一人が俺たちに説明して、その筆記帳を見せてくれた。

 このお屋敷はそこの牢屋に閉じ込められている女性の家族が暮らしている場所で、最近、家族みんなが恐ろしい悪夢を見るようになり、お屋敷のあちこちで変な音がするようになったそうだ。

 オケアヌス大神宮で相談をすると決まったのだが、いきなり夢の中に現れる鬼が現実に出現して、斧男の姿に変化。

 気がついたら女性は牢屋に閉じ込められていて、筆記帳を持っていたという。

 彼女は暗闇の中にいたので、筆記帳の内容はまだ知らなかった。

 学生たちが確認するところだったということで、自分とアジロ夫も加わり、みんなで読んでみることに。


 (ページ)を開こうとしたまさにその時、扉がガラガラと音を立てて横開きしたのでドクンッと心臓が跳ねた。


「旦那様〜。恐ろしかったです」とアジロ妻が最初に部屋へ入ってきて、夫へ近寄ってヘナヘナと座り込んだ。

 

「あの、すみません。自分の妻とは一緒ではないんですか?」


 リルは?

 リルはどこにいる⁈

 この遊びが始まってから、表情には出ていなくても、態度がかなりビクビクしていたのできっと怖くてどこかで震えている。


「旦那様、私はここにいます」


 声がした方向へ視線を向けたら、出入り口から顔だけを出しているリルがいた。


「リルさん! 大丈夫でした?」


「アジロさんが隠してくれました。カエデさんも助けることが出来ました」


 リルへ近づいてから、もう部屋が狭くて人がさらに入るのは厳しそうだと気がつく。

 なので、俺も部屋の外に出てリルの隣に並んだ。

 するとリルは、「怖かったです」と俺の袖をギュッと掴んだ。

 特に怖くなさそうなすまし顔だけど、手は少し震えている。


「探しにきてくれてありがとうございます」


「みんなでカエデさんを助けました」


 リルに言われて、不動産屋の奉公人カエデもいると気がついた。

 カエデは「お客様のおかげで逃げられました」と涙声。あの斧男といい、迫真の演技だ。

 この会話の間に他の者たちが、筆記帳を読み始めていて、悪夢の鬼に関する書籍だと教えられた。

 「自分」という誰かは、鬼を倒すことができず、石に封印した。

 この鬼は封じられてもなお強く、悪夢の中に引きずり込み、生者の精気を吸い取ることで力をつけて現世に蘇ろうとする。

 なので、封印石を使って(ほこら)を造り、さらに精気を欲しないように、毎日、供物を捧げることにした。


「私たち家族は最近、ここへ引っ越してきたのです。(ほこら)なんてあったかしら」と牢屋の中にいる女性が告げた。


「あっ。鬼の悪夢の中から脱出する方法が書いてあります」


 まず、鬼を眠らせること。


「それなら今、鬼は寝ています」


「鬼が食べて寝るのが最高と独り言を口にしていて、奥様がお団子を食べるように仕向けたら寝ました」


 俺は「ああ、あのお団子に使い道があったのか」と驚き、他の者たちはそもそもお団子のことを知らないのでリルと話し始めた。

 彼女は少し得意げな声を出していて、なんか可愛い。

 鬼を眠らせたら、黄泉と現世を結ぶと言われている合わせ鏡、もしくは井戸を覗くという行為をする。


「黄泉へ引きずられる、連れていかれるという井戸覗きは夜中、特に新月の日の話ですよね?」


 龍神王様がそう教えてくれているので、そう話したら、そうですねと賛同された。

 リルはまだ龍神王説法をあまり読み進められていないようで、俺に「そうなの?」と言いたげな表情を向けた。

 

「つまり……鏡を二つ探しましょう」


「あの、灯りがあればこちらが何か確認していただきたいです」


 牢屋にいる女性が格子の隙間から差し出したのは、少しヒビが入っている、暗くても分かるくらい意匠が美しい手鏡だった。

 これで一枚目ということになる。

 鬼は寝ているそうなので今が探索の好機。

 カエデは恐ろしくてもう無理ということで部屋に残ることになった。

 

「リルさんはどうしますか?」


「怖いけど遊びます」


「それなら行きましょうか」


 制限時間があるので、二手に分かれて鏡探索を開始。

 夫婦組と学生組で別れて、俺たちは離れへ行ってみることに。

 部屋に入ると天井から「姉さん! 姉さん聞こえる? 起きて姉さん! 起きないと鬼に食い殺される!」と男性の声が聞こえてきた。

 

「ここはお姉さんという女性の夢の中という意味なんですかね?」とアジロ夫に話しかけられたので、「そのようですね」と返答。

 離れは小さな茶室になっていて、何もなくて殺風景。

 ただ、躙口(にじりくち)から外へ出られそうなので出てみることに。

 外に出ると庭だったのだが、空は見えなくて屋根があり、黒染めの布がかけられていた。

 

「おお、これだと新月の夜中かもしれません」


「旦那様、あそこに井戸があります」とリルが俺の袖を軽く引っ張った。


「ということは、みんなで井戸覗きをしたら鬼の悪夢から脱出できるのでしょうか」とアジロ夫が唸る。


「一旦戻って、作戦会議をしましょうか」


 そういうことで牢屋のある部屋へ戻ることに。

 茶室へ入るとまた男性の声がして、こんな台詞を耳にした。

 

「来るな! 姉さん! 今のうちに逃げろ!」


 この屋敷は二階建てのようだが、階段が見当たらず、二階から俺たちの様子を見ていたり、声を出している人間が動いていたりするのだろうか。

 さっきの夜のような庭といい、すごい仕掛けだ。

 

「旦那様」


「リルさん、どうしました?」


「お団子のように何かあるかもしれないから調べますか?」


「調べる? この部屋には何もなさそうですけど」


「掛け軸と花入れと炉は怪しいです」


 アジロ夫婦は先に行ってしまったが、リルがそう言うならと二人で三箇所を順番に確認してみた。

 掛け軸の裏には、なぜか「壱」という文字が書いてあった。

 次は花入れで、振ったらカラカラ音がしたのでひっくり返したらカギが出てきた。

 これは何かで使える気がするのでリルはお手柄だ。

 何気なしに軽く褒めたら、リルがこれまで見たことのないくらい得意げな表情で胸を張ったので吹き出しそうになった。

 炉畳が開くのか確認したら、むしろ開けて下さいというように幅のある紐がついていた。これもリルのお手柄な気がしてならない。

 開いてみると、炉の中には紙が入っていた。


【月の無い夜に井戸を覗くと黄泉へ連れていかれる】


 まだ文字をすらすら読むのは難しいリルのために声に出しながら、次の文章へ目を通した。

 

【黄泉と現世を繋ぐ時は壊れたものを使ってはならない】


「旦那様、あのひび割れた手鏡ではいけないということでしょうか」


「おそらくそうでしょう。つまり、あの井戸は覗いてはいけません。鏡は二枚必要ってことです」


 よし、この手土産を持ってみんなと合流だと離れを出たら、目の前に斧男がいて思考も体も停止。

 斧男がニタァと笑ったので、ぞわぞわぞわっと全身に鳥肌が立った。


「お前はまぁた逃げたのかぁ。今度は女も一緒だなぁ」


 近づいてくるので思わず後退したら、斧男はぴったりくっついてきて、恐怖でさらに後ろに下がる。

 気がついたら二人で部屋の隅に追いやられていて、首に斧をつきつけられた。


「俺はもう逃げるなって言ったよなぁ?」


「は、はい……」と小さな声しか出ず。


「それなら、なんで逃げた!!!」


 演技が凄いし、いきなり怒鳴られたので身がすくんだ。


「い……え……。死にたくないので……」


「死にたくない? 死にたくない! 死にたくないなぁ! あのクソ野郎のせいで俺はこんなに小さくなっちまった!!! 食事係がいなくなっていたから、お前らが作れ!」


 だから怖い……。

 来いと言われてリルと共に斧男の前を歩き、土間へ入ると俺の足は鎖で繋がれて鍵をかけられた。

 で、リルは両手を出さされて、布をぐるぐる巻かれて、その布の端は俺の腕と結ばれた。

 混ぜ続けないと不味くなると言われて、片手でおたまを持って鍋の中の水——多分を混ぜることに。

 せっかく解決の糸口を見つけたのに、二人とも捕まってしまった。


 リルとロイが変わった遊びを楽しむ。二話のはずが、思ったよりも長くなってしまいました。

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